IBOR改革:IASBの提案パート2

重要ポイント

  • IASBは、2019年3月の会合にて、IBORからRFRへの移行に伴う不確実性にかかわらず、ヘッジ会計を継続して適用することを容認するため、IAS第39号及びIFRS第9号を改訂し、救済措置を定めるための作業を進めた。

  • IASBは、2019年4月もしくは5月に2段階のうちの第1段階にかかる公開草案を公表する予定である。コメント期間は45日間である。

  • 最終改訂基準は、2019年末までに公表される予定である。

     

はじめに

2018年12月に、国際会計基準審議会(以下、IASB又は審議会)は、銀行間調達金利指標(IBOR)改革が財務報告に及ぼす影響を評価するためのプロジェクトを追加した。本プロジェクトは2段階に分けて実施される。第1段階では、IBOR改革までに生じる論点が焦点となる。IASBは2019年4月もしくは5月に公開草案を公表し、最終改訂基準を2019年後半に公表する予定である。第2段階では、ヘッジ指定の修正の影響など、IBOR改革が実施された後に生じる論点が焦点となる。

2019年2月の会合でIASBは、IBORからリスク・フリー・レート(RFR)に移行することで生じる不確実性にもかかわらず、ヘッジ会計を継続して適用することを容認する救済措置を定めるため、IAS第39号「金融商品:認識及び測定」及びIFRS第9号「金融商品」を改訂することに暫定的に合意した。IFRS Developments第144号にて、2月の会合でなされた決定の内容及びIBOR改革の背景、並びに我々の考えを要約している
 

IASBの決定

2019年3月の会合で、IASBは、IAS第39号及びIFRS第9号に以下の改訂を行うことを暫定的に決定した。

  • 本救済措置を、IBOR改革により不確実性が生じるすべてのヘッジ関係に強制適用すること。本救済措置は、IBOR改革によりヘッジ手段及び(又は)ヘッジ対象のキャッシュ・フローに不確実性が生じるヘッジ関係に対してのみ適用可能となる。

  • 以下のいずれか早い時点で救済措置の適用を終了する必要がある。
    • キャッシュ・フローの発生時期及び金額に関する不確実性がもはや存在しなくなる時点
      もしくは、

    • ヘッジ関係が終了する時点

本改訂には、上述の時点を例示する設例が盛り込まれる。これには、不確実性を解消するため、IBORに関連した金融商品の契約条件を通常どのように変更すべきかの説明も含まれる。

  • 契約の条件を変更しても不確実性が解消されない下記の2つの状況については、個別に改訂を行う。
    • 指定したヘッジ対象が個別に識別可能なリスク要素となる場合、救済措置の適用は、ヘッジ関係が終了した時点でのみ終了する(例えば、固定利付債のIBORリスクに係る公正価値ヘッジ)。

    • 貸借対照表に未認識の予定取引については、IBOR改革に関する不確実性がもはや存在しなくなる時点で救済措置の適用を終了する。
  • 事後的な有効性テスト及びヘッジ会計の測定に係るその他の観点に関する改訂は予定されていない。IASBは、既存の契約上のキャッシュ・フローと市場で入手可能な公正価値に関する情報に基づいて引き続き判断されることから、当該事項に関連して救済措置が必要ないことを明確化した(すなわち、ヘッジ対象が修正されるまで、ヘッジ対象のキャッシュ・フローはIBORに基づくと仮定して、継続して有効性を評価及び測定する)。

  • 公開草案のコメント募集期間は45日である。IASBスタッフは、改訂の草案作成に着手する。

  • IASBは、IBORを入替えるRFRの内容を規制当局が決定するまでプロジェクトの第2段階を開始することはできないと考えている。移行の内容が明確になって初めて、 IASBは財務報告に及ぼす潜在的な影響及び救済措置の必要性について評価することができると考えている。

     

背景

2019年2月の会合で、IASBは以下を暫定的に決定した ※1。

  • 「可能性が非常に高い」という要件に関し、IBORの潜在的な入替えの一般条件(時期及び取引の詳細)に関する不確実性の影響に対して救済措置を設けるため、IFRS第9号及びIAS第39号を改訂する。特に、予定取引の発生可能性を評価するにあたり、IBORベースの契約条件をそのまま維持できると仮定することが容認される。

  • 経済的関係の存在(IFRS第9号の要件)及び相殺するにあたりヘッジは非常に有効であるとする期待(IAS第39号の要件)に関し、IBORの潜在的な入替えの一般条件(時期及び取引の詳細)に関する不確実性の影響に対して救済措置を設けるため、IFRS第9号とIAS第39号を改訂する。特に、当該評価は、ヘッジ手段及びヘッジ対象から生じる既存の契約上のキャッシュ・フローに基づいて行う必要がある。

  • ヘッジ関係の開始時点で、IBORリスク要素が個別に識別可能という要件を充たす場合、ヘッジ会計を継続することが容認されるべきである(ただし、当該識別は将来のIBOR改革の影響を受ける可能性がある)。さらに、IASBは、ヘッジ関係の開始時点で個別に識別可能でないリスク要素については救済措置を設けるべきではないと暫定的に決定した。

  • ヘッジ指定した将来のキャッシュ・フローの性質及び発生時期が確実になった時点で、救済措置の適用を終了する。

  • 救済措置の適用がヘッジ会計に及ぼす影響について特定の開示を要求する。

  • 改訂を遡及適用する。改訂の発効日は2020年1月1日であり、早期適用も容認される。

※1: IASBアップデート(2019年2月)に記載される決定に基づく

 

弊社のコメント

3月の会合における暫定決定をもって、IASBによる第1段階の論点に関する当初の審議は完了した。最終改訂基準が発効された時点で、IBOR改革により生じる不確実性が解消されるまで、ヘッジ会計を継続して適用することが(その他のヘッジ会計の要件を充たした上で)容認される。

第1段階が進展したため、IASBは第2段階を開始し、IBOR改革から生じる契約上の変更が財務報告に及ぼす影響に対して救済措置が必要か検討すべきだと我々は考える。しかし、IASBは、(3ヵ月物金利など、「ターム」物RFRの有無をはじめ)RFRについて規制当局が合意する前に第2段階を開始することに慎重な姿勢を示している。残念ながら、規制当局によって改革の進捗状況は異なり、ターム物RFRの導入の有無が判明する前に、ヘッジ対象を修正して「オーバーナイト」RFRを契約条件に反映することを考える企業が存在する可能性もある。従って、第2段階の論点に関連して生じる不確実性が解消されるまで、引き続き財務報告に不確実性が存在することから、IBOR改革活動に取り組むことを企業が躊躇するリスクがある。

IASBは、キャッシュ・フローの発生時期及び金額に関する不確実性が解消する時点、もしくはヘッジ関係が終了する時点のいずれか早い時点で救済措置の適用を終了すると暫定決定している。この場合、ポートフォリオ・ヘッジのように、ヘッジ対象がいくつかの項目からなるグループであり、(キャッシュ・フローに関する不確実性が解消されるよう)一部項目は修正され、他は修正されない場合、どのように取り扱うかという論点が生じる。


「IFRS Developments 第145号 2019年3月」をダウンロード



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