通信タワーセクターは欧州の経済にどのような貢献をしているのか

通信タワーセクターは欧州の経済にどのような貢献をしているのか


独⽴系通信タワー事業者は、今後も長期にわたり欧州のデジタル経済を支える重要な役割を担い続けるでしょう。


2つの問い

  • 欧州の独立系通信タワー事業者の市場シェアは、世界の他地域と比べてどうか。
  • 独⽴系通信タワー事業者は、投資と通信インフラの効率的利用の面でどんなメリットをもたらし得るか。


EY Japanの視点

欧州では、通信タワー事業者が、成長を続けており、MNOは通信タワー事業者を活用してシェアリングを進める事で、コスト削減やサービスエリアの拡⼤、通信品質の向上につなげており、それにより通信料引き下げに活用しています。日本では、MNOが通信鉄塔(タワー)をそれぞれで保有する事で、各社通信ネットワークの競争を進めてきました。一方で、エンドユーザーに対する通信料の価格競争が進んだ事で各MNOはARPUの伸び悩みに直面し、足元では非通信サービスの拡大により回復傾向にありますが、もはやエリア競争は競争力の源泉ではなくなってきています。実際に通信鉄塔を自社のアセットから切り離す事例も増えてきています。日本では今までは通信タワー事業者も少ない存在でしたが、今後は通信タワー事業そのものの拡大や事業者数の増加も見込まれます。新規参入を検討する事業者にとっては事業参入の機会が拡大しており、投資家にとっては投資機会が拡大する魅力のある市場となってきています。


EY Japanの窓口

岩本 昌悟

EY Japan テクノロジー・メディア & エンターテインメント・テレコム・ストラテジー・アンド・トランザクションリーダー EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社 パートナー

欧州で無線インフラの独⽴系通信タワー事業者への外部委託が増加しています。こうした外部委託は、世界的に主流になっており、移動体通信事業者(MNO)だけでなく、無線通信業界全体、そして最終的に消費者にも多くのメリットをもたらします。

独⽴系通信タワー事業者がMNO、無線セクター、消費者にもたらすメリット

  • 独⽴系通信タワー事業者は、移動体通信⽤鉄塔など「パッシブな」無線ネットワークインフラ、いわゆるニュートラルホストの運営に特化している。通信タワーのシェアリングは、MNOのコスト全体を削減でき、サービスエリアの拡⼤と通話/通信料の引き下げに役⽴つ。
  • 欧州のインフラに⻑期投資する域外投資家は、通信タワー事業者というビジネスモデルのメリットを⾼く評価しており、2019年以降、タワー関連のM&A市場で510億ユーロを超える取引が⾏われている。
  • 独立したタワーをシェアリングしている無線ネットワーク事業者の数は、独立系通信タワーでは平均2.4社であるのに対し、MNOが経営支配権を持つ通信タワーでは1.3社となっている。独立系通信タワー事業者により、新たなネットワークの導入がこれまでより簡単かつ安価で実現する。
  • 通信タワー事業者が管理運営する無線ネットワーク事業者の拠点(ポイント・オブ・プレゼンス、POP)は一般的に、MNOが管理運営するPOPより約40%効率が良く、2019年から2029年にかけて欧州全体で310億ユーロのコスト削減が可能になる。
  • 独⽴系通信タワー事業者への外部委託を増やすことで、推計280 億ユーロの資本が解放される可能性がある。MNOは、この資本をサービスエリアの拡⼤や5G導⼊の加速など、⾃社の通信網に再投資することができる。独⽴系通信タワー事業者は2019年以来、MNOが保有するさまざまな通信タワーを取得し、約260億ユーロの資本解放に貢献しており、今後もさらなる増加が⾒込まれる。
  • 独⽴系通信タワー事業者は、5G導⼊と携帯電話のサービスエリアの継続的拡⼤において重要な役割を担っている。通信タワーの取得に加えて、European Wireless Infrastructure Association(EWIA)のメンバーだけでも、2021年以降、新規展開、サイト強化、メンテナンスに年間20億ユーロの設備投資を⾏っている。
  • 欧州では独⽴系通信タワー事業者のシェアがここ数年伸びており(2014年の13%から2018年には17%、2021年には35%、2023年には39%)、今後もこのような傾向が続き、世界水準である54%近くにまでシェアが拡大することが見込まれる。
  • 独⽴系通信タワー事業者は、ギガビットインフラ法(Gigabit Infrastructure Act)の主要原則であるインフラの共有と効率的な展開を実現している。

欧州の独⽴系通信タワー事業者は、2018年以降、市場シェアを17%から39%に伸ばしました。その過程でMNOが所有する通信タワーを取得し、約260億ユーロの資本解放にも貢献しています。

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本レポートについて

本レポートは、European Wireless Infrastructure Association(EWIA)の加盟企業、アナリストのレポート、Towerxchangeのウェブサイト、EYパルテノンの分析(2024年5月)から得た情報を参考にまとめたものです。本レポートで紹介した傾向は、今後も続くことが予想されます。それは本レポート発表時の市場の動きからも明らかですが、今回のレポートの数字にその市場の動きは反映されていません。

本記事は、EYパルテノンのUlrich LoewerとJames Langlandsが執筆しました。


サマリー

EYパルテノンは、European Wireless Infrastructure Association(EWIA)と共同で、欧州の移動体通信タワーセクターの経済的貢献に関する調査を実施しました。独⽴系ホールセール無線インフラ事業者(独⽴系通信タワー事業者)は、今後も長期にわたりデジタル経済を支え続けると予想されます。こうした予測を踏まえ、EYの研究チームは、その重要な役割を掘り下げて調べました。本調査は、独⽴系通信タワー事業者が投資の創出や通信インフラの効率的利用の促進を通じてもたらし得るメリットについて理解を深めること、さらにはEUが2025 年までに目指すギガビット社会の実現や、各国政府の⽬標(携帯電話のサービスエリアの拡大、5G導⼊など)の達成における独立系通信タワー事業者の役割を明らかにすることを目的としています。



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