情報センサー2023年4月号

2023年3月期 決算上の留意事項

2023年3月31日 PDF
カテゴリー 会計情報レポート

情報センサー2023年4月号 会計情報レポート

EY新日本有限責任監査法人 品質管理本部 会計監理部
公認会計士 宮﨑 徹
公認会計士 平川 浩光
公認会計士 久保 慎悟
公認会計士 廣瀬 由美子
公認会計士 松川 由紀子
公認会計士 石川 仁

品質管理本部 会計監理部において、会計処理及び開示に関して相談を受ける業務、並びに研修・セミナー講師を含む会計に関する当法人内外への情報提供等の業務に従事している。

Ⅰ はじめに

23年3月期より、原則適用となる会計基準及び早期適用可能となる会計基準(執筆時点で公開草案であるものを含む)は<表1>のとおりです。

本稿ではこれらを中心に23年3月期決算にあたっての留意事項を解説します。

また、本文中で使用する会計基準の略称及び適用開始時期は同じく<表1>のとおりです。

表1 会計基準略称及び適用時期の一覧

なお、文中の意見にわたる部分は筆者らの私見であることをあらかじめお断りします。

Ⅱ 為替、金利、相場変動に係る会計上の留意事項

23年3月期においては、コロナ禍やロシア・ウクライナ情勢を背景としたビジネス環境の大きな変化がありました。具体的には、<表2>のような事象が生じています。

表2 ビジネス環境の大きな変化

このようなビジネス環境の大きな変化が企業にどのような影響を与えるのか、今一度確認することが必要と考えられます。<表3>は影響が生じ得る会計処理・開示の具体例です。

表3 影響する会計処理・開示の具体例

なお、為替相場変動時の会計上の留意事項については本誌22年12月号で解説していますので、併せてご参照ください。

Ⅲ 会計上の見積りのポイント

1. 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響

新型コロナウイルス感染症(以下、本感染症)の会計上の見積りへの影響については、20年4月10日に企業会計基準委員会(以下、ASBJ)より議事概要「会計上の見積りを行う上での新型コロナウイルス感染症の考え方」が公表(21年2月10日に更新)され、<表4>の考え方が周知されました。

また、20年4月10日には、日本公認会計士協会から「新型コロナウイルス感染症に関連する監査上の留意事項(その2)」が公表され、<表5>のような考え方が示されました。

表4 「会計上の見積りを行う上での新型コロナウイルス感染症の考え方」における考え方
表5 「新型コロナウイルス感染症に関連する監査上の留意事項(その2)」における考え方

本感染症が発生してから数年が経過していることに鑑みれば、企業の状況によっては、本感染症の発生から間もない時期と比べて、見積りの不確実性の程度が相対的に低くなっており、以前に比べて仮定の合理性を判断しやすい状況になっていることも考えられます。このため、企業自ら一定の仮定を置くにあたっては、それぞれの企業が置かれている現時点の状況に照らして、当該仮定が最善の見積りといえるかどうかを検討することが求められると考えられます。

この点も踏まえますと、前年度決算で企業が置いた仮定について見直しの要否を検討するなど、今年度決算の状況に照らして改めて仮定の合理性を検討する必要があると考えられます。

2. ウクライナ情勢の影響

22年2月24日以降にロシアとウクライナの緊張が激化したことを受け、その後日本を含む米国・欧州などが国際決済網である国際銀行間通信協会(SWIFT)からロシアの銀行を排除するなど、ロシアに対する複数の経済制裁が課せられ、今もなお続いています。

このようなウクライナ情勢の影響は、ロシア・ウクライナに拠点や関係会社を有している企業だけでなく、両国との間で取引がある企業や両国が原材料の調達先となっている企業においても重要な影響を及ぼす可能性があります。また、エネルギー価格の高騰などの間接的な影響は幅広い企業に及ぶものと考えられます。

したがって、ウクライナ情勢は、会計上の見積りの前提となる様々な仮定に影響を及ぼす可能性があります。

22年4月7日には、日本公認会計士協会より「2022年3月期監査上の留意事項(ウクライナをめぐる現下の国際情勢を踏まえた監査上の対応について)」が公表され、<表6>のような考え方が示されました。

表6 「2022年3月期監査上の留意事項(ウクライナをめぐる現下の国際情勢を踏まえた監査上の対応について)」における考え方

現時点においてもウクライナ情勢は収束しておらず、上記の留意事項の考え方は参考になると考えられます。また、会計上の見積りに対する影響を検討する際には、「新型コロナウイルス感染症に関連する監査上の留意事項(その2)」(<表5>参照)が参考になると考えられます。

3. 税効果会計

税効果会計についても、重要な会計上の見積項目が複数あります。このうち、特に重要と考えられます繰延税金資産の回収可能性の判断手順及び連結子会社等の留保利益に係る税効果については、本誌23年2月号で解説していますので、併せてご参照ください。

Ⅳ グループ通算制度を適用する場合の会計処理及び開示

1. グループ通算制度の概要

税務上、22年4月1日以後に開始する事業年度より、従前の連結納税制度はグループ通算制度に移行しています。従前の連結納税制度は、企業グループ全体を1つの納税主体とする制度であり、各法人の所得金額と欠損金額を合算(損益通算)して計算した連結所得金額に、親法人の適用税率を乗じ、各種税額控除等を行って連結法人税が計算されていました。一方、グループ通算制度では、損益通算等のメリットを残しつつ、通算グループ内の各法人が法人税の申告納付を行う個別申告方式となっている点が、連結納税制度とは異なります。

2. 会計処理

(1) 実務対応報告42号の基本的な方針

グループ通算制度を適用する場合の会計処理及び開示の取扱いを定めた実務対応報告42号※1が、22年4月1日以後に開始する連結会計年度及び事業年度の期首から原則適用されています。

連結納税制度とグループ通算制度では、全体を合算した所得を基に納税申告を親法人が行うか、各法人の所得を基にそれらを通算した上で納税申告を各法人が行うかなどの申告手続は異なりますが、企業グループの一体性に着目し、完全支配関係にある企業グループ内における損益通算を可能とする基本的な枠組みは同じであるとされています。このため、実務対応報告42号は、基本的な方針として、連結納税制度とグループ通算制度の相違点に起因する会計処理及び開示を除き、実務対応報告第5号「連結納税制度を適用する場合の税効果会計に関する当面の取扱い(その1)」等の会計処理及び開示に関する取扱いを踏襲するとされています。

(2) 通算税効果額

グループ通算制度においては、損益通算等による税額の減少額を通算税効果額として、通算会社間で金銭等の授受を行うことが想定されていますが、通算税効果額の授受を行うか否かは任意となっています。

実務対応報告42号は、通算税効果額の授受を行うことを前提としており、通算税効果額の授受を行わない場合の会計処理及び開示については、連結納税制度における取扱いを踏襲するか否かも含めて取り扱わないこととされています(実務対応報告42号3項なお書き)。このため、通算税効果額の授受を行わない場合の会計処理及び開示について、具体的な定めは存在しないことから、企業会計基準第24号「会計方針の開示、会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」4-3項に定める「関連する会計基準等の定めが明らかでない場合」に該当することになり(実務対応報告42号38項)、採用した会計方針の注記を検討する必要があると考えられます。

(3)  法人税及び地方法人税に関する会計処理

通算税効果額は、グループ通算制度を適用したことによる税額の減少額であり、連結納税制度における個別帰属額と同様に法人税に相当する金額であるとされています。このため、通算税効果額についても、連結納税制度における個別帰属額の取扱いを踏襲し、個別財務諸表における損益計算書において、当事業年度の所得に対する法人税及び地方法人税に準ずるものとして取り扱うこととされています(実務対応報告42号25項、44項)。

(4) 税効果会計に関する会計処理

① 税金の種類を区別する必要性

グループ通算制度の対象となるのは法人税及び地方法人税であり、住民税及び事業税はグループ通算制度の対象ではありません。このため、これらを区別して税金の種類ごとに繰延税金資産の回収可能性の判断を行う必要があり、繰延税金資産及び繰延税金負債の計算に用いる税率についても、税金の種類ごとに算定する必要があります(実務対応報告42号8項、9項)。

② 個別財務諸表における繰延税金資産の回収可能性

(i) 将来減算一時差異に係る繰延税金資産

グループ通算制度においては、課税所得の計算において、まず通算前所得が計算され、その後、損益通算や欠損金の通算を行って課税所得が計算されます。このため、連結納税制度における取扱いを踏襲し、個別財務諸表における繰延税金資産の回収可能性の判断に関する手順について、通算税効果額の影響を考慮し、期末における将来減算一時差異の解消見込額(将来加算一時差異の解消見込額との相殺後)について、まず、一時差異等加減算前通算前所得の見積額と相殺し、その後に、損益通算による益金算入見積額(当該年度の一時差異等加減算前通算前所得の見積額がマイナスの場合には、マイナスの見積額に充当後)と相殺することとされています(実務対応報告42号11項(1))。

また、個別財務諸表における繰延税金資産の回収可能性を判断するにあたっての企業の分類についても、連結納税制度における取扱いを踏襲し、次のとおり取り扱うこととされています(実務対応報告42号13項(1)、(2))。

  • 通算グループ内のすべての納税申告書の作成主体を1つに束ねた単位(以下、通算グループ全体)の分類と通算会社の分類をそれぞれ判定します。
  • 将来減算一時差異に係る繰延税金資産の回収可能性については、通算グループ全体の分類が、通算会社の分類と同じか上位にあるときは、通算グループ全体の分類に応じた判断を行い、通算グループ全体の分類が、通算会社の分類の下位にあるときは、通算会社の分類に応じた判断を行います。

(ii) 税務上の繰越欠損金に係る繰延税金資産

グループ通算制度には、「特定繰越欠損金」と「特定繰越欠損金以外の繰越欠損金」の2種類の繰越欠損金があり、それぞれの繰越欠損金ごとに、その繰越期間にわたって損金算入のスケジューリングを行い、回収が見込まれる金額を繰延税金資産として計上することとされています(実務対応報告第42号12項)※2

③ 連結財務諸表における繰延税金資産の回収可能性

グループ通算制度においては、各通算会社が納税申告を行うことから、「納税申告書の作成主体」は各通算会社となりますが、企業グループの一体性に着目し完全支配関係にある企業グループ内における損益通算を可能とする基本的な枠組みは連結納税制度と同様であるとされており、グループ通算制度を適用する通算グループ全体が「課税される単位」となると考えられるとされています。

このため、実務対応報告42号では、連結財務諸表上は、通算グループ全体に対して税効果会計を適用することとされています。すなわち、連結財務諸表における将来減算一時差異及び税務上の繰越欠損金に係る繰延税金資産の回収可能性については、通算グループ全体について、回収可能性適用指針に従った判断を行い、個別財務諸表において計上した繰延税金資産の合計額との差額は、連結財務諸表上修正することとされています(実務対応報告42号14項)。

Ⅴ 改正時価算定適用指針

改正時価算定適用指針は22年4月1日以後開始する事業年度から原則適用となっていますが、ここでは注記事項について解説します。なお、改正時価算定適用指針については、本誌21年10月号で詳細に解説していますので、併せてご参照ください。

1. 投資信託財産が金融商品である投資信託及び投資信託財産が不動産である投資信託

投資信託財産が金融商品である投資信託と不動産である投資信託のいずれにおいても、市場における取引価格が存在せず、かつ、解約等に関して市場参加者からリスクの対価を求められるほどの重要な制限がある場合に、基準価額を時価とみなす取扱い(改正時価算定適用指針24-3項(金融商品)、24-9項(不動産))が定められています。この取扱いを適用した場合と、それ以外の方法により算定した時価では、企業会計基準適用指針第19号「金融商品の時価等の開示に関する適用指針」(以下、時価開示適用指針)4項「金融商品の時価等に関する事項」及び時価開示適用指針5-2項「時価のレベルごとの内訳等に関する事項」の注記方法が異なります。それをまとめたものが<表7>です。

表7 投資信託財産が金融商品である投資信託及び投資信託財産が不動産である投資信託の注記事項

2. 貸借対照表に持分相当額を純額で計上する組合等への出資

貸借対照表に持分相当額を純額で計上する組合等への出資については、時価の注記を要しませんが(改正時価算定適用指針24-16項)、時価開示適用指針4項(1)の注記に併せて<表8>の内容の注記が必要となります。

表8 組合等への出資の時価の注記事項

Ⅵ 電子記録移転有価証券表示権利等の発行及び保有の会計処理及び開示に関する取扱い

1. 範囲

実務対応報告43号は、株式会社が電子記録移転有価証券表示権利等を発行又は保有する場合の会計処理及び開示を対象としています。電子記録移転有価証券表示権利等とは、「金融商品取引業等に関する内閣府令」(平成19年内閣府令52号)1条4項17号に規定される権利をいい、金融商品取引法(昭和23年法律25号)2条2項に規定される有価証券とみなされるもの(以下、みなし有価証券)のうち、電子情報処理組織を用いて移転することができる財産的価値に表示される場合に該当するものをいいます。

なお、一部の論点については実務対応報告43号では取り扱わず、22年3月15日にASBJより公表された「資金決済法上の暗号資産又は金融商品取引法上の電子記録移転権利に該当するICOトークンの発行及び保有に係る会計処理に関する論点の整理」において今後の方向性に関する予備的な分析がされています。こちらについては、本誌22年6月号をご参照ください。

2. 発行及び保有の会計処理

電子記録移転有価証券表示権利等は、その発行及び保有がいわゆるブロックチェーン技術等を用いてなされる点を除けば、従来のみなし有価証券と権利の内容は同一であると考えられるため、電子記録移転有価証券表示権利等の発行及び保有の会計処理は、基本的に従来のみなし有価証券の発行及び保有の会計処理と同様に取り扱います。

ただし、一部については別途の定めが置かれています。会計処理の概要をまとめたものが<表9>です。金融商品取引法に定義する有価証券に該当しても、信託受益権については、優先劣後等のように質的に分割されており、信託受益権の保有者が複数である場合などを除いて、企業会計基準第10号「金融商品に関する会計基準」(以下、金融商品会計基準)や会計制度委員会報告第14号「金融商品会計に関する実務指針」(以下、金融商品実務指針、また、金融商品会計基準及び金融商品実務指針を合わせて、以下、金融商品会計基準等)上の有価証券として取り扱わないものとされていますが、金融商品会計基準等上の有価証券に該当する場合と該当しない場合とに分けて整理しています。

表9 発行及び保有の会計処理の概要

3. 開示

電子記録移転有価証券表示権利等を発行又は保有する場合の表示方法及び注記事項は、みなし有価証券が電子記録移転有価証券表示権利等に該当しない場合に求められる表示方法及び注記事項と同様とされています。

Ⅶ 令和5年度税制改正と税効果会計

1. グローバル・ミニマム課税制度の税効果会計への影響

令和5年度税制改正において、グローバル・ミニマム課税に対応する法人税が創設され、それに係る規定(以下、グローバル・ミニマム課税制度)を含めた改正法人税法(案)が国会に提出されています。

この点、繰延税金資産及び繰延税金負債の額は、決算日において国会で成立している税法に規定されている方法に基づいて将来の会計期間における減額税金又は増額税金の見積額を計算することとされています(企業会計基準適用指針第28号「税効果会計に係る会計基準の適用指針」(以下、税効果適用指針)44項)。このため、本来、23年3月31日までに改正法人税法(案)が成立した場合には、グローバル・ミニマム課税制度の適用(24年4月1日以後開始する事業年度から適用)が見込まれる3月決算企業は、年度末決算においてグローバル・ミニマム課税制度を前提として、当該制度が税効果会計へ与える影響を検討する必要があります。

これを受けて、ASBJより、23年2月8日に実務対応報告(案)が公表されました。当該実務対応報告(案)では、グローバル・ミニマム課税制度の影響を反映しないことが提案されています。当該実務対応報告(案)は23年3月3日を期限としてコメント募集が行われ、改正法人税法(案)の成立後、23年3月31日までに公表され、同日から適用される見込みです。

2. グローバル・ミニマム課税制度の概要

グローバル・ミニマム課税における所得合算ルールとは、国際的に最低限の実効税率(15%)を定めた上で、それを下回る国(=軽課税国)における最低税率での課税を確保するべく、親会社所在地国が、親会社に対して、子会社の最低税率に至るまで課税(トップアップ課税)する仕組みです。具体的には、改正法人税法(案)では、基本的に、年間総収入金額が7.5億ユーロ以上の多国籍企業を対象として、一定の適用除外を除く所得について最低税率15%の課税が確保されるように制度化されています。

グローバル・ミニマム課税制度を含む令和5年度税制改正の詳細については、EY税理士法人がウェブサイトにて公表しているJapan tax newsletter23年1月13日号「令和5年度税制改正大綱(詳細版)」をご参照ください。

3. 実務対応報告(案)の概要

(1) 公表の経緯

税効果会計は利益に関連する金額を課税標準とする税金を対象として認識するものですが、グローバル・ミニマム課税制度に基づいた基準税率(15%)までの上乗せ税額(以下、上乗せ税額)は、親会社等がその所在地国の税務当局に支払うものであるため、課税の源泉となる純所得(利益)が生じる企業と納税義務が生じる企業とが相違することとなり、税効果会計を適用すべきかが明らかではないと考えられます。

仮に税効果会計を適用するとした場合、グローバル・ミニマム課税制度に基づく税効果会計の会計処理に関して、<表10>に示した点が明らかではないと考えられます。さらに、これらに加え、実務上の負担も想定されています。

以上より、改正法人税法の成立日以後に終了する事業年度の決算(四半期決算を含む)において、改正法人税法の適用を前提とした税効果会計を適用することは困難と考えられます。このため、当面の間、必要と考えられる取扱いを示すために、実務対応報告(案)が公表されました(実務対応報告(案)8項から12項)。

表10 グローバル・ミニマム課税制度に基づく税効果会計の会計処理に関して明らかでない点

(2) 範囲

本実務対応報告は、企業会計審議会が98年10月に公表した「税効果会計に係る会計基準」(以下、税効果会計基準)が適用される連結財務諸表及び個別財務諸表に適用することが提案されています(実務対応報告(案)2項)。

改正法人税法(案)において、グローバル・ミニマム課税制度の適用は、企業グループ等の総収入金額等により対象が限定されているため、特例的な取扱いの対象は、決算日において、グローバル・ミニマム課税制度の施行日以後その適用が見込まれる企業とすることも考えられました。しかしながら、企業がグローバル・ミニマム課税制度の施行日以後その適用が見込まれるか否かの判断について、適時にかつ適切に行えるか懸念があるとの意見も踏まえ、適用する範囲については税効果会計基準が適用される連結財務諸表及び個別財務諸表に適用することとし、グローバル・ミニマム課税制度の適用が見込まれるか否かについての判断を企業に求めないことが提案されています(実務対応報告(案)7項)。

(3) 会計処理

ASBJが適用を終了するまでの間、改正法人税法(案)の成立日以後に終了する事業年度の決算(四半期決算を含む)における税効果会計の適用にあたっては、税効果適用指針にかかわらず、グローバル・ミニマム課税制度の影響を反映しないことが提案されています(実務対応報告(案)3項)。

なお、このような特例的な取扱いは、原則的な適用が困難であると考えられることを踏まえて定めたものであり、原則的な適用を妨げるものではないこととし、特例的な取扱いを選択適用とすることも考えられました。しかしながら、(1)公表の経緯にも記載のとおりグローバル・ミニマム課税制度を前提とした税効果会計については、現行の枠組みにおいて適用すべきか否かが明らかではないと考えられること、また、仮に税効果会計を適用する場合、グローバル・ミニマム課税制度に基づく税効果会計の会計処理については明らかではないと考えられる点があることを踏まえると、比較可能性等の観点から、原則的な適用を認めることについて懸念があるとの意見があり、このような意見を踏まえ、グローバル・ミニマム課税制度を前提とした税効果会計については、税効果適用指針にかかわらず、特例的な取扱いを一律に適用することが提案されています。また、当該特例的な取扱いは、グローバル・ミニマム課税制度の具体的な内容やグローバル・ミニマム課税制度の適用を前提として税効果会計を適用すべきかどうかが今後明らかになるまでの当面の取扱いであるため、その適用する期間は、ASBJが適用を終了するまでの間とすることが提案されています(実務対応報告(案)13項、14項)。

Ⅷ 改正法人税等会計基準

22年10月28日にASBJより<表11>の企業会計基準及び企業会計基準適用指針の改正が公表されています。これらの適用時期は<表12>のとおりであり、23年3月期決算には影響しないものの、未適用の会計基準等に関する注記の対象となるために、改正内容の理解は重要であることから、本章では改正の概要について解説します。

表11 改正された会計基準等
表12 適用時期

1. 主な改正内容

主な改正内容は<表13>のとおり2点あり、それぞれについて解説していきます。

表13 主な改正内容

なお、それぞれの改正内容について設例も踏まえて解説している本誌22年8月・9月合併号も併せてご確認ください。

2. 税金費用の計上区分に関する改正

(1) 改正前の会計処理と問題点

その他の包括利益に計上された取引又は事象(以下、取引等)が課税所得計算上の益金又は損金に算入され、法人税、住民税及び事業税等(以下、法人税等)が課される場合があります。

改正前の法人税等会計基準では、当事業年度の所得等に対する法人税等は、法令に従い算定した額を損益に計上することとしていたため、取引等についてはその他の包括利益に計上される一方で、これに対して課される法人税等は損益に計上されていました。

したがって、税引前当期純利益と税金費用の対応関係が図られていないのではないかという問題点が指摘されていました。

(2) 改正後の会計処理

改正後の法人税等会計基準では、当事業年度の所得に対する法人税等を、その発生源泉となる取引等に応じて、損益、株主資本及びその他の包括利益に区分して計上することとされました。

3. グループ法人税制が適用される場合の子会社株式等の売却に係る税効果に関する改正

(1) 税務上の取扱い

税務上、内国法人が有する譲渡調整資産(有価証券等)を他の完全支配関係がある内国法人に譲渡した場合には、グループ法人税制が適用され、課税所得計算上、譲渡時点において売却損益を計上せず、繰り延べられることとされています。そして、当該繰り延べられた売却損益については、譲受法人において、当該資産の譲渡等の事由が生じたときに、譲渡法人の課税所得計算上、売却損益を益金の額又は損金の額に算入することとされています(法人税法61条の11)。

(2) 改正前の会計処理

グループ法人税制が適用される場合の子会社株式等の売却に係る税効果の取扱いについて、改正前の税効果適用指針39項では、当該子会社株式等を売却した企業の個別財務諸表において、当該売却損益に係る一時差異に対して繰延税金資産又は繰延税金負債が計上されているときは、連結決算手続上、当該一時差異に係る繰延税金資産又は繰延税金負債の額は修正しないこととされていました。

(3) 改正後の会計処理

① 連結財務諸表の取扱い

連結会社間における子会社株式等の売却に伴い生じた売却損益について、税務上の要件を満たし課税所得計算において当該売却損益を繰り延べる場合、当該売却に係る連結財務諸表上の税引前当期純利益と税金費用との対応関係の改善を図る観点から、連結財務諸表において以下の処理を行うこととされました。

  • 売却側の企業の個別財務諸表において、売却損益に係る一時差異に対して繰延税金資産又は繰延税金負債が計上されているときは、連結決算手続上、当該繰延税金資産又は繰延税金負債を消去する。
  • 購入側の企業による当該子会社株式等の再売却等、法人税法61条の11に規定されている、課税所得計算上、繰り延べられた損益を計上することとなる事由についての意思決定がなされた時点において、当該消去額を戻し入れる。
  • 子会社に対する投資に係る連結財務諸表固有の一時差異について、予測可能な将来の期間にグループ法人税制が適用され、売却損益を繰り延べる場合に該当する子会社株式の売却を行う意思決定又は実施計画が存在しても、当該一時差異に係る繰延税金資産又は繰延税金負債を計上しない。
② 個別財務諸表の取扱い

個別財務諸表においては、連結財務諸表とは異なり、売却損益が消去されないことから、税金費用を計上しないこととした場合には税引前当期純利益と税金費用との対応関係が図られないこととなると考えられます。したがって、改正前の取扱いを見直さないこととされています。

Ⅸ 企業内容等の開示に関する内閣府令等の改正(サステナビリティ情報等)

23年1月31日に、22年11月7日に改正案が公表されていた「企業内容等の開示に関する内閣府令」等が公布・施行されました(23年3月31日以後に終了する事業年度に係る有価証券報告書等から強制適用)。

本改正は、22年6月に公表された金融審議会ディスクロージャーワーキング・グループ報告における「サステナビリティに関する企業の取組みの開示」や「コーポレートガバナンスに関する開示」等の制度整備を行うべきとの提言に基づいたものです。改正内容については本誌23年3月号にて解説していますので、ご参照ください。

※1 22年10月28日に法人税等会計基準が改正されており、これにあわせて実務対応報告42号も一部改正されているが、本稿は改正前の実務対応報告42号に基づいて作成している。

※2 回収可能性の判断に際して、特定繰越欠損金以外の繰越欠損金については通算グループ全体の分類に応じた判断を行うこととされており、特定繰越欠損金については、損金算入限度額計算における課税所得ごとに、通算グループ全体の課税所得は通算グループ全体の分類に応じた判断を行い、通算会社の課税所得は通算会社の分類に応じた判断を行うこととされています(実務対応報告42号13項(3))。

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