サステナビリティ情報開示のグローバル動向 2025年6月号

EYではサステナビリティ開示・保証やカーボンプライシング等に関連したグローバル動向の最新情報を毎月お届けしています。

 

サステナビリティ開示・保証

【Global】

グローバル・レポーティング・イニシアティブ(GRI)

5月15日、グローバル・レポーティング・イニシアティブ(GRI)は、生物多様性(GRI101)、気候変動(GRI102)、エネルギー(GRI103)に関する改訂された項目別スタンダード(*1)と整合させるためのセクター別スタンダードに関する修正案についての意見募集を開始しました。この意見募集は、石油・ガス、石炭、農業、鉱業のセクター別スタンダードの更新を含み、自然生態系の転換、温室効果ガス(GHG)排出、気候変動へのレジリエンスなど、進化する環境リスクをより適切に反映することを目的としています。意見募集は7月13日まで行われます。

中央銀行総裁・銀行監督当局長官グループ(GHOS)

5月12日、バーゼル銀行監督委員会の監督機関である中央銀行総裁・銀行監督当局長官グループ(GHOS)は、バーゼルIII基準の実施に関する期待事項を再確認(*2)し、昨今の市場の混乱の中で金融の安定性を維持する上での重要性を強調しました。GHOSはまた、極端な気象事象から生じる金融リスクのさらなる分析を優先し、気候関連金融リスクをグローバルな監督フレームワークに統合する取り組みを強化することに合意しました。このイニシアティブの一環として、バーゼル委員会は、法域が気候関連金融リスクに関する透明性を向上させることを支援するため、自主的な開示フレームワーク(第3の柱)を公表(*3)する予定です。
 

国際会計士連盟(IFAC)

5月12日、国際会計士連盟(IFAC)はサステナビリティ情報開示および保証の現状に関する調査結果「The State of Play: Sustainability Disclosure and Assurance (Five-Year Trends and Analysis, 2019-2023)」(*4)公表(*5)しました。国際公認職業会計士協会(Association of International Certified Professional Accountants)および英国勅許管理会計士協会(CIMA)と共同で実施された本調査では、22の法域にまたがる1,400社の開示を分析し、2019年以降のサステナビリティ保証が大幅に増加していることが明らかになりました。他の調査結果の中でも、”企業が開示する情報に対するサステナビリティ保証を取得する割合は大幅に増加しており、その割合は75%に近づいている“としています。しかし同時に、報告および保証に使用される基準の断片化が依然として存在し、90%以上の企業が複数の基準やフレームワークを使用していると報告していることがわかりました。
 

国際監査・保証基準審議会(IAASB)

5月8日、国際監査・保証基準審議会(IAASB)は、2024年11月に国際サステナビリティ保証基準(ISSA)5000(*6)が承認されたことを受け温室効果ガス(GHG)報告に対する保証業務(ISAE 3410)(*7)廃止することを確認(*8)しました。ISAE 3410は、ISSA 5000が2026年12月15日に適用開始されると同時に正式に廃止されます。
 

【EMEIA(欧州・中東・インド・アフリカ)】

英国

5月29日、英国財務報告評議会(FRC)は、ISSA 5000を英国に導入する案に関する意見募集を開始(*9)しました。この基準草案は、保証提供者による自主的な利用を意図したもので、複数の法域にまたがって保証業務を行う事業者の負担を軽減するために、国際基準に整合しています。意見募集は7月31日まで行われます。
 

欧州銀行監督機構(EBA)

5月22日、欧州銀行監督機構(EBA)は自己資本要求規則(CRR3)に基づく開示要件(第3の柱)の改訂を提案(*10)しました。この意見募集は、CRR3の開示要件の実施を最終化することを目的としており、環境・社会・ガバナンス(ESG)リスクに関連する開示をすべての銀行に拡大し、シャドーバンキングや株式エクスポージャーに関する情報を含んでいます。提案された措置は、大手銀行の既存の開示要件を明確にし、グリーン資産比率とEUタクソノミー規則との整合性を確保するものです。EBAの提案は、サステナビリティ報告義務を合理化するオムニバス簡素化パッケージなど、欧州委員会(EC)の広範な取り組みに沿ったものです。EBAはこの改訂案に関する意見募集を開始し、8月22日まで受け付けています。
 

ドイツ

5月8日、ドイツのフリードリヒ・メルツ首相は、企業に対するコンプライアンスや規制の圧力を軽減するための広範なイニシアティブの一環として、ECに対し、企業サステナビリティ・デューディリジェンス指令(CS3D)を廃止(*11)するよう求めました。この発表は、ドイツ独自の人権および環境に関するサプライチェーン・デューディリジェンス法(LkSG)の廃止を含む連立合意に続くものです。5月20日、フランスのエマニュエル・マクロン大統領も、メルツ首相に公に賛同し、CS3Dの廃止(*12)を求め、規制負担を軽減することで欧州の競争力を高める必要性を強調しました。これらの発言は政治的な性質を持っていますが、CS3Dが廃止されることを保証するものではありません。現在もこの議論は進行中であり、EU理事会の公式見解を反映しているわけではありません。
 

欧州中央銀行(ECB)

5月8日、欧州中央銀行(ECB)はECのオムニバス簡素化パッケージに関する正式な見解(*13)を発表しました。ECBは、報告の簡素化に対するECの野心を支持する一方で、企業サステナビリティ報告指令(CSRD)に基づくサステナビリティ報告の義務から80%の企業を除外するというECの提案に懸念を示しました。ECBは、このような大幅な削減は、特にGHG排出に関する重要なサステナビリティ情報へのアクセスを制限する可能性があると考えています。ECBは、中規模企業(従業員数500~1,000人)に対しては、義務的な報告を維持することを推奨し、基準がその規模や事業の複雑さに対して適切であることを確保するよう求めました。また、EU域外企業については、現行のしきい値を維持し、重要な気候および生物多様性に関するデータポイントが保持されることを確保するよう助言しました。
 

グローバル・レポーティング・イニシアティブ(GRI)

5月7日、グローバル・レポーティング・イニシアティブ(GRI)とグローバル・サステナビリティ基準審議会(GSSB)は、欧州財務報告諮問グループ(EFRAG)に対し、欧州サステナビリティ報告基準(ESRS)の基本的な強みを維持しながら簡素化を進めるよう要請(*14)しました。書簡(*15)では、開示要求事項の削減が定性的な報告に不均衡な影響を及ぼすべきではないことを強調し、ダブルマテリアリティ原則の適用に関するより明確なガイダンスを推奨しました。また、簡素化されたESRSをGRIの報告構造と整合させ、中核となるインパクトの開示が維持されることを求めました。
 

【Asia-Pacific】

シンガポール

5月19日、シンガポール会計企業規制庁(ACRA)は、サステナビリティ報告の専門家向けの研修を支援するため、サステナビリティ報告知識体系(SR BOK)(*16)を立ち上げました。この取り組みは、シンガポールグリーンプラン2030に沿ったもので、気候変動およびサステナビリティ報告に関するサービスに対する需要の高まりに対応できる人材のパイプラインを構築することを目的としています。SR BOKは、50以上の業界関係者の意見を取り入れて開発され、国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)基準S1号およびS2号GHGプロトコルなどの国際基準を網羅しています。



カーボンプライシング・炭素市場

【Global】

Verra

5月12日、炭素クレジットの十全性(質)を定める基準設定機関であり、検証済み炭素基準(VCS)を管理するVerraは、「持続可能な開発における検証済みインパクト基準プログラム(SD VISta)」(*17)の資産評価手法である「自然フレームワーク(Nature Framework)」(*18)パイロット・プロジェクトが、正式な登録手続を開始できるようになったと発表(*19)しました。これは、このフレームワークの運用開始における重要なマイルストーンとなります。2024年10月に立ち上げられた自然フレームワークにより、プロジェクトの生物多様性の成果を定量化し、自然クレジットを発行して保全活動を促進することが可能になります。パイロット・プロジェクトは5月からVerraプロジェクトハブを通じて書類の提出を開始しますが、フレームワークは2025年第4四半期までにすべてのプロジェクトに公開される見込みです。
 

【Americas】

米国

5月5日、ホワイトハウスは、法律で明示的に義務付けられている場合を除き、連邦政府機関が規制の意思決定に炭素の社会的費用を使用することを禁止するガイダンスを発表(*20)しました。大統領令「アメリカのエネルギーの解放」(大統領令第14154号)(*21)を通じて発表されたこの指令は、気候変動による損害を金銭的に評価することは、科学的および法的に欠陥があると主張し、温室効果ガス排出の指標を連邦政府の許認可および規制策定に組み込んだ前政権の政策を覆すものです。

5月1日、米国司法省は、4月8日に発令された「州の過剰介入から米国エネルギーを保護する」大統領令(大統領令第14260号)(*22)に基づき、ニューヨーク州とバーモント州に対し、気候変動スーパーファンド法に関する提訴(*23)を行いました。この大統領令は、州レベルの気候変動イニシアティブを後退させることを目的としています。気候変動スーパーファンド法は、化石燃料生産者に過去の炭素排出量に応じ賦課金を課すもので、22の共和党所属の州司法長官および業界団体から法的な異議申し立てを受けています。一方、新たに11州が2025年に独自の気候変動スーパーファンド法案を提出しています。
 

【EMEIA(欧州・中東・インド・アフリカ)】

EU

6月3日、ECは、炭素除去、カーボンファーミング(農地による炭素貯留)、製品への炭素貯留に関する規則(EU規則2024/3012)(*24)実施に関する意見募集を開始(*25)しました。2024年11月に採択されたこの自主的な枠組みは、2050年までの気候中立というECのコミットメントおよびパリ協定に基づく義務に沿って、EU内の炭素除去イニシアティブの信頼性と透明性を高めることを目的としています。この実施規則は、ECが認定する認証制度、認証機関、認証監査、認証登録機関に関する基準を定義することにより、同規則に基づく調和のとれた第三者認証の確立を目的としています。意見募集期間は7月1日までです。

5月22日、欧州議会は、EUの輸入炭素税である炭素国境調整メカニズム(CBAM)の改訂案を564対20の圧倒的多数で可決(*26)しました。ECのオムニバス簡素化パッケージで導入されたこの変更は、50トンという基準値を設定することで、輸入業者の90%(主に中小企業)をCBAMの適用から免除すると同時に、鉄、鉄鋼、アルミニウム、セメントの輸入による排出の99%以上をカバーし続けることを定めています。欧州議会の投票結果は、オムニバス簡素化パッケージに含まれるECのCBAM提案を、技術的な明確化のみを加えてほぼ承認したものです。この決定は、欧州議会がEU加盟国との今後の立法最終化に向けた交渉における立場を明確にしました。



その他の主なサステナビリティ政策の動向

【Global】

証券監督者国際機構(IOSCO)

5月21日、証券監督者国際機構(IOSCO)は、サステナブル・ボンド市場における主な動向と規制上の課題について概要をまとめた「サステナブル・ボンド報告書」(*27)発表(*28)しました。この報告書は、グリーンボンド、ソーシャルボンド、サステナビリティボンド、およびサステナビリティ・リンク・ボンドの継続的な拡大を強調し、2024年には発行総額が1兆1,000億米ドルを超えました。IOSCOは、市場の健全性を高めるための5つの重要な提言を行っています。その中には、規制の枠組みの強化、サステナビリティパフォーマンス目標の透明性の向上、独立した外部レビュープロセスの促進、投資家教育の取り組みの拡大などが含まれています。
 

気候変動リスク等に係る金融当局ネットワーク(NGFS)

5月7日、気候変動リスク等に係る金融当局ネットワーク(NGFS)は、金融当局が気候変動や関連政策が金融の安定や経済のレジリエンスに及ぼす短期的な影響を評価するための、第1弾の短期気候シナリオ(*29)発表(*30)しました。5年間にわたるこれらのシナリオは、リスク評価とストレステストを精緻化するために、気候政策と極端な気象現象などの物理的リスクに関する4つの異なる仮定に焦点を当てています。NGFSは、気候移行対策の遅れは経済コストと金融ストレスを激化させる可能性があると指摘し、早期の行動の必要性を強調しています。
 

【EMEIA(欧州・中東・インド・アフリカ)】

ドイツ

5月18日、ドイツは長年の原子力発電に対する反対の立場を撤回(*31)し、重要な政策転換を打ち出しました。これまでドイツは、原子力エネルギーを低炭素ソリューションとして認めることに反対し、EUの資金調達や規制決定に影響を与えてきました。フリードリヒ・メルツ首相率いる新政権は、エネルギー安全保障上の懸念と輸入ガスへの依存を理由に、原子力発電の段階的廃止は戦略的過ちであると見なしています。ドイツは、小型モジュール炉の開発と、フランスの核防衛の枠組みに加わる方法を模索しています。この転換は、EU内の原子力拡大に対する反対を和らげ、世界銀行をはじめとする世界の金融機関が、原子力プロジェクトへの融資制限を見直すきっかけとなる可能性があります。
 

インド

5月8日、インド財務省は、国の気候目標に沿った持続可能な経済活動を識別することを目的とした「気候ファイナンス・タクソノミー」の草案(*32)を発表(*33)しました。このタクソノミーは、グリーンウォッシュを防止しつつ資本流動を促進することを目的とし、排出を直接削減またはレジリエンスを高める「気候支援型」活動と、鉄鋼、セメント、エネルギー集約型産業など削減が困難なセクターにおける「移行支援型」活動の2つの区分を設定しています。草案に対する意見募集期間は6月25日までです。



その他の重要トピック

【Global】

TNFD highlights 12 nature-related considerations for corporate directors
TNFD、企業の取締役が考慮すべき12の自然関連事項を強調(*34)

Financing gaps for biodiversity conservation persist as corporations look to nature-based solutions
企業が自然に基づく解決策を模索する中、生物多様性保全のための資金ギャップは依然として存在(*35)

CDP restructures, looks to reduce sustainability reporting burden
CDPが組織再編、サステナビリティ報告負担軽減へ(*36)

When will companies start spending on climate adaptation?
企業はいつ気候変動への適応に着手するのか?(*37)

The Circularity Gap Report 2025: Global circularity rate fell to 6.9%—despite growing recycling
資源循環ギャップ・レポート2025:世界の資源循環率は6.9%に低下-リサイクルの増加にもかかわらず(*38)
 

【Americas】

UCLA Study: More US companies reporting carbon emissions, but few disclose climate transition plans
UCLAの調査:炭素排出を報告する米国企業は増加、しかし気候移行計画を開示する企業は少ない(*39)
 

【EMEIA(欧州・中東・インド・アフリカ)】

EU considers looser criteria to help countries meet climate goals
EU、各国が気候目標を達成するための基準緩和を検討(*40)
 

【Asia-Pacific】

Tokyo to waive water bills this summer to combat extreme heat
東京都、猛暑対策で今夏の水道の基本料金を無償に(*41)



今後の日程

現在予定されている、注目すべき今後の主な日程は以下です。

  • 2025年第2四半期:ISSBは、SASB基準強化のための公開草案を発表予定。

  • 2025年上半期:ECは、サステナブル・ファイナンス開示規制(SFDR)の改正案を公表予定。

  • 2025年上半期:英国政府は、英国の規制対象金融サービス企業とFTSE100企業に対し、カーボンフットプリントの公開と、パリ協定1.5℃目標と整合する信頼できる移行計画の策定と実施を義務付けるコミットメントをどのように進めるかについて協議予定。

  • 2025年下半期:ニュージーランド外部報告審議会(XRB)は、小規模な気候報告企業(CRE)に対する開示簡素化や、特定クラスのCREに対する異なる報告モデルの必要性について、2回目の情報提供要請を行う予定。

  • 2025年下半期:EFRAGは、ESRSの簡素化と改訂に関する公開草案を発表予定。

  • 2025年下半期:ISSBは、IFRS S2号「気候関連開示」基準の改訂を最終化予定。

  • 2025年:以下の協議を予定。
    • 2025年上半期:UK SRSの承認に関する英国政府の協議。
    • 2025年下半期:英国上場企業に対して、(TCFDの代わりに)UK SRSに基づく開示要件を導入することに関する英国金融行為規制機構(FCA)の協議。
    • 2025年下半期または2026年初旬:「経済的に重要な」企業に対するUK SRS導入に関する英国政府の協議。


〈お問い合わせ先〉

EY新日本有限責任監査法人
サステナビリティ開示推進室



牛島 慶一

EY Climate Change and Sustainability Services, Japan Regional Leader, APAC ESG & Sustainability Strategy Solution Leader

馬野 隆一郎

EY新日本有限責任監査法人 サステナビリティ開示推進室 室長 パートナー

大石 晃一郎

EY新日本有限責任監査法人 サステナビリティ開示推進室 パートナー

※所属・役職は記事公開当時のものです。


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