EHSの成果をデジタル戦略でどのように改善できるか?
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EHSの成果をデジタル戦略でどのように改善できるか?


EHSの専門家がどのようにリスクを軽減し、意思決定を行い、リソースを配分するか──テクノロジーの進歩は、その本質を変えようとしています。

デジタルテクノロジーが私たちの経済と社会、そして生活様式を変えつつあります。環境・労働安全衛生(EHS)の管理はデジタル化の影響を強く受けます。EHSの専門家がどのようにリスクを軽減し、意思決定を行い、リソースを配分するか──テクノロジーの進歩は、その本質を変えようとしています。プロセスの自動化から現場でのセンサーの普及とその後の予測分析への進化に至るまで、その機会を捉えることができれば、働く人も組織もEHSのパフォーマンスが大きく変化することを実体験できます。

ビジネス環境のデジタル化が進む中、先進的な組織は、既存のテクノロジーと最先端テクノロジーを活用してEHSの成果を向上させています。しかし、こうしたテクノロジーの変化をどのように生かしてパフォーマンスの向上につなげることができるか、まだ模索中の組織がほとんどです。

この記事では、EHSに関わるデジタル化への取り組みや構想に付随する課題と、EHS専門家がどのようにデジタルテクノロジーを活用すれば、リスクをより適切に管理し、EHSの結果を向上させることができるかについて検証します。

現在の状況

マーケティングや金融などと比べ、EHSの分野ではデジタルテクノロジーの導入が遅れています。これは、解決しようとしている問題を組織が必ずしも完全に理解しているとは限らず、実装したソリューションに体系的、人的、技術的なギャップが生じるためです。また、デジタルテクノロジーを採用している組織でも、その設計に問題があり、十分に連携していないため、問題を個々に解決することしかできない場合が多々あります。

この分野でデジタルテクノロジーの進歩を遅らせている要因としては他に、次のものが考えられます。

事故の重視

EHS管理では従来、事故の比較・評価に重点が置かれてきました。より広い組織という観点に立つと、事故データには限界があります。多くの場合、事故原因となったデジタルの痕跡は特定されません。ごくまれに、原因に関係するデータが特定できた場合であっても、事故の因果関係モデルが完全なもので、統計的に厳密なものか、という問題が残ります。

データの不足

従来のEHS活動(調査や事故報告など)のデジタル化が進んでいるにもかかわらず、EHSデータはまだ比較的少ないのが現状です。労働安全活動だけでは、組織レベルでビッグデータを提供することはまずできません。そのため、EHSのシステムと専門家がより有益な知見を得るため、データを提供してくれるエンドユーザーとセンサーを増やしているのです。考え抜かれた設計のユーザーインターフェースから良質のデータをより多く集め、それを利用すれば、EHSリスクを低減できます。

「非デジタル」なバックグラウンド

EHSの業務は、多くの専門分野にまたがっています。そのためEHSの専門家の経歴はさまざまですが、金融やITなど、デジタルやデータ、統計学を駆使する職業に就いていた専門家はほとんどいません。

ビジネスケースの提示が不可能

健康で安全な職場づくりにつながる、デジタル関連の取り組みや決定、オペレーションは、そのメリットを数値化することが難しい場合もあるでしょう。「何をもって成功とするか」を明確化できなければ、取り組みへの継続的なサポートを確保することはさらに難しくなります。言い換えれば、「包括的統合」の持つ意味を明確に示すことは、依然として難しい場合がある、ということです。

信頼の欠如

ビッグデータの解析をはじめとするデジタル技術の利用により、プライバシー、差別、セキュリティ、品質などの重要な分野に対する懸念が高まっています。これらのリスクは、信頼関係が希薄な職場で特に、さまざまな取り組みを妨げる恐れがあります。

デジタルテクノロジーを利用したEHSの取り組みの成功事例も出てきました。その内容は以下の通りです。

テクノロジー

EHSの取り組み

手動操作のリスクを低減するテクノロジー

筋骨格系の外傷発生を減らすために用います。「リスクのある」身体運動を測定し、そのデータを継続的にフィードするため、ユーザーはモバイルアプリケーションでアラートをリアルタイムに受信できます。受信後のチュートリアルで、正しい手動操作方法も学べます。

バーチャルリアリティ(VR)テクノロジー

トレーニングの効果を大幅にアップさせるために用います。このテクノロジーを活用することで、効果が大きく拡張性があり、効率的な方法を導入し、リスクの高い環境で働く経験の浅い人をはじめとした作業者の能力を迅速に育成することができます。

ドローンとロボティクス

「危険・汚い・きつい」3Kの仕事を人間の代わりに行うために用います。このテクノロジーを活用すれば、緊急対応シナリオで想定されるような場所など、到達しにくいところにも立ち入ることができます。また、農業や鉱業の現場での大規模なスキャニング作業などで、大幅な時間短縮にも利用できます。

人工知能(AI)ボット

これらのボットは、複雑なタスクの自動化で使用されるケースや、数多くのユーザーガイド・アプリケーションに組み込まれるケースが増えています。例えば手動操作のガイドでは、カスタマイズしたトレーニングによってAIボットで作業者に指導を行うことができます。

仕事現場に関するアナリティクス

職場にセンサーを設置して、パフォーマンスを構成する要素を測定します。センサーから送られてくる大量のデータを作業者の指導や、職場とインターフェースのデザインの向上に利用することも可能です。運輸業や電力・ガス、製造業の現場では今、「人間工学に基づいた分析」が行われるようになっています。

生体情報

作業者にセンサーを取り付けて、体と心の健康などの指標を集めます。例えば、疲労度や体温をリアルタイムに測定することができ、また、あらかじめ設定しておけば、問題があった場合にアラートで作業者と組織に警告します。手動操作センサーは、「リスクのある」身体運動を測定し、その作業者に合った指導をチュートリアルで行うために開発したものです。

ヒアラブル

ヒアラブルは耳に装着するデバイスで、聴覚や音声に関わる作業を助けてくれます。リアルタイムに翻訳をしてくれるデバイスも、その一例です。異文化・異言語間コミュニケーションの円滑化にもこのテクノロジーを利用できます。労働安全衛生面のパフォーマンスを良好に維持するには、信頼が置けて、効果的なコミュニケーションが不可欠です。この先端テクノロジーを活用すれば、関係をぐっと深めることができるかもしれません。

テクノロジーだけの問題ではない

 

EHS分野では、デジタルテクノロジー導入に向けた取り組みの失敗例がいくつもあります。デジタル管理システムの設計に問題があり、ユーザーをいら立たせ、失望させているケースや、自動化しても効率化できなかったケース、最新のガジェットがすぐに無用の長物になるケースなどはほんの一例です。

 

EHSをデジタルテクノロジー化する取り組みは、テクノロジーそのものを導入すれば終わりというわけではありません。実際に、今では数々のテクノロジーが高度化しており、最大の弱点ではなくなりました。それどころか、企業の多くは「ソリューション過多」に悩まされているか、思考が「デジタルまひ状態」に陥っています。今日の課題の多くは、そのニーズに合うよう専用に開発されたアプリで満たされています。つまり、数多く存在するソリューションの中から適切なものを探し出し、連携させ、統合することが今日の課題なのです。

 

また、その取り組みの成否を決めるのは、多くの場合、デジタル以外の要素です。この要素には、例えば以下のものがあります。
 

  • 解決すべき問題と、その解決に必要な新しいテクノロジーの要件と判定基準の完全な把握
  • 企業主導でステークホルダーから意見を聞き、その関与を促し、研修を行う取り組み
  • 求められるデジタルおよび主題に関する分野の専門知識と経験の確保
  • EHS面のニーズと影響に配慮した、より幅広いデジタル戦略の確立
  • テクノロジーを活用して寿命を延ばし、価値を高めると同時に、投資収益率(ROI)も改善できる、調達(人材採用や購買など)に関する決定

 

EHSの専門家は、デジタルテクノロジーのプラスの効果を高め、マイナスの影響を抑えようと努めています。今後は、EHSテクノロジーやデジタルソリューションの導入に当たり、デジタル以外のこれらの要素をクリアすることがますます不可欠となっていくでしょう。

 

何をもって、EHSテクノロジーの導入を成功とするのか? 

EHSテクノロジー構想の成功は以下のように定義されます。
 

  • 主要なステークホルダーの期待と目的をかなえる
  • EHSパフォーマンスを向上させる
  • EHS関連のリスク管理を効果的に支援する
  • より幅広い業務運営に組み込む
  • 組織全体が一丸となり、テクノロジーの導入に取り組む

 

より具体的には、以下のような成果をもたらします。
 

  • EHS関連のリスク管理の強化により、労働災害の発生率が低下し、労働環境が改善する
  • 効率性の向上とEHSプロセスの改善により、リソースが解放され、より重要な問題に注力できるようになる
  • リアルタイムに入手した綿密なデータから、より適切なリソースの配分ができ、意思決定がスムーズになる
  • EHSテクノロジーを活用する現場の能力が向上し、変革を起こすようなテクノロジーを利用できるようになり、問題解決能力が向上する

 

取り組みのこれから

 

EHS部門がデジタルテクノロジーを効果的に活用し、EHSパフォーマンスを持続的に向上させていくことは簡単ではありません。しかし、組織がさらに成功を重ね、そこにEHSの専門家がきちんと寄与するには、この持続的向上を実現させる必要があります。

 

新しいデジタルテクノロジーが次々と誕生する今、何から手を付ければよいか戸惑うこともあるでしょう。簡単なソリューションはありません。万能のソリューションも、長期的な向上を約束する最新のガジェットもないのです。

 

それでは、デジタルテクノロジーをうまく活用して、EHSのリスクをより的確に把握、管理し、被害を減らすために、組織は何をしたらよいのでしょうか?

 

組織が行うべきこと

 

解決すべき問題と、何をもって「解決した」とするかを明確に把握する

事故や危険事項、リスクと同様に、問題を明確に理解しなければ、何が必要であるかをきちんと把握することはできません。

 

その時点でのEHSデジタル成熟度を評価する

デジタルの世界では一足飛びに事を進めるようなリープフロッグ戦略がうまくいくことはほとんどありません。現状を正確に把握せずに、達成可能で明確な進行計画を立てることは至難の業です。今は使っていない昔のソフトウェアライセンスなど、従来のテクノロジーをいまだに持っている組織も多いため、その時点でのデジタルシステムを評価することも、この計画立案の一部に含まれます。

 

デジタルテクノロジーを戦略的な観点から捉える

特定の問題を個別に解決するだけでなく、組織の目標の達成にも目を向けて、一致協力した構想と効果的な変更管理プロセスを策定しましょう。

 

EHSに関わるデジタルシステムとソリューションの統合と自動化を図る

このようなシステムとソリューションにより、カスタマイズ可能で、正確なデータをリアルタイムに入手しやすくなり、十分に情報を得た上で意思決定できるようになるはずです。システムは、信頼に足る堅牢性と、使いたくなるような魅力を備えていなければなりません。

 

デジタル能力の育成に投資し、外部のサポートを活用する

世の中のことを何でも知っている人はいませんし、全てに精通することがEHSの専門家の役割ではありません。むしろ、デジタルテクノロジーを活用してEHSパフォーマンスの向上を図りたいと考えている部署が、自分たちのニーズを把握し、必要に応じて戦略的にサポートを得なくてはなりません。何が成功に必要かを理解している、信頼できるアドバイザーを見つけるなど、取り組みを成功させ、統合型のデジタルアーキテクチャを構築するのに適したサポートを得ることが不可欠です。

 

この記事で述べてきたように、テクノロジーの活用だけでは、デジタルイノベーションの導入を成功させることはできません。必要なのは、その分野の専門知識と経験、役に立つテクノロジー、そして人間を中心に考えるアプローチの3つです。
 

EYのEHSチームは各組織と連携して、その組織が取るアプローチを状況に応じて調整し、デジタルテクノロジーを積極的に活用して、EHSの成果を向上させる支援を行っています。
 

一部のサービスやツールは、EYの監査を受けるクライアントおよびその関連会社に適用される独立性基準を順守するために制約を受ける場合があります。詳しくは、EYの担当者にお問い合わせください。


サマリー

先進的な組織は、既存のテクノロジーと先端テクノロジーを活用してEHSの成果を向上させています。しかし、こうしたテクノロジーの変化をどのように生かしてパフォーマンスの向上につなげることができるか、まだ模索中の組織がほとんどです。この記事では、EHSに関わるデジタル化への取り組みや構想に付随する課題と、EHSの専門家がどのようにデジタルテクノロジーを活用すれば、リスクをより適切に管理し、EHSの結果を向上させることができるかについて検証します。


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