8 分 2020年2月28日
凧揚げを教わっている男の子

長期的価値の重視を可能にする価値評価の変革

執筆者

Hywel Ball

EY UK&I Assurance Managing Partner and UK Audit Head, EY UK&I Regional Managing Partner and UK Chair-elect

A member of EY UK LLP Board. FTSE 100 audit partner. Father of three and Welsh rugby fan.

8 分 2020年2月28日

長期的価値(LTV)に対する取り組みを効果的に定着させている企業が、自らが創出する価値による利益を最も効果的に享受することができる。

自らを変革するか、変革を強いられるか以外に選択の余地がない業界にいると想像してみてください。このような選択に迫られていない業界はとても限られていることに気が付くと思われます。

事実上全ての企業が、市況の変化やテクノロジーがもたらすディスラプション(創造的破壊)、新たな規制、消費者の好みの変化への対応に頭を悩ませています。不安定な状況のただ中にあり、絶え間なく変化する世界において、企業が長期的に存続するために取り組んでいることについて、株主が求める情報はますます多くなっています。

経営幹部に要求されているのはそれだけではありません。勤務先として、製品やサービスの購入先として、また投資先としての企業に対して、私たちはこれまで以上に信頼性を求めるようになっています。企業の存在意義や存在理由について、私たちは知る必要があります。

テクノロジーの発展によってより多くのステークホルダーが声を上げ、市場に影響を及ぼす力を得たことで、こうした圧力が高まりました。特に、世界の人口の4分の1を占めるミレニアル世代は、消費者と従業員の両方の立場から¹、企業が掲げる目的をより重視する原動力となり、Z世代ではさらにこうした要求が強くなっています。

では、経営幹部と企業は何から着手すれば良いでしょうか? 企業経営者に最も強い影響力を持つピーター・ドラッカーの信念は「測定できないものは改善することもできない」でした。企業目的と長期戦略は互いに補強し合うべきものですが、それには、明確な企業目的と確固たる指標に基づいた長期戦略とが定められている必要があります。これには4ステップのプロセスがあります。

  1. ビジネスを取り巻く状況を把握する
  2. ステークホルダーを特定し、それぞれが何に価値を置いているか把握する
  3. 組織の戦略実行ケイパビリティを明確に理解する
  4. 長期的価値の創造を評価するための指標を策定する

これらのプロセスを正しく実行することにより、企業目的を長期的戦略に合致させることができるでしょう。

企業目的の価値を把握する

エネルギー企業は、気候変動に対する社会的関心と対峙しています。テクノロジー企業は、ビッグデータやソーシャルメディアが社会貢献できるかという視点で見られています。製薬企業は特許を正当な形で使用するよう、また救命のための投薬がより無理のない価格で提供できるよう求められています。今日の経営幹部はどの業界においても、消費者や規制当局、投資家などから圧力を受けています。

この状況下で投げかけられる問いには以下のようなものがあります。自社にとって最も重要なステークホルダーは誰なのか?自社の企業目的は何か?ステークホルダーのニーズをどう満たせばよいか?どのような成果を出して何に投資をすれば、ステークホルダーにとっての最大の価値を創造できるか?そのことをどのように明確化し、測定すればよいか?そして、企業目的と一致した長期戦略を策定し、明確化し、実行したら、投資家はどう判断するのか?というものです。

最後の問いについて言えば、信頼性が高く、十分に説明された企業目的に基づいて明確な長期戦略を掲げる企業が、より幅広い支持を集めるようになっています。昨年8月、米国の主要企業の経営者団体であるビジネス・ラウンドテーブルは181人のCEOが署名した声明を大々的に発表し、企業は「顧客、従業員、取引先、地域社会や株主など、全てのステークホルダーの利益を目指して」行動する必要があるとの見解を示しています。

問題はどこにあるのでしょうか? 財務、人材、消費者、社会など、多方面で長期的価値を創造する企業が成功を手にすると考えるステークホルダーが増える一方で、金銭的な価値以外の価値をどのように測定すればよいのかについての明確な回答は誰も持ち合わせていません。企業が行う長期投資の価値を明確に示す指標がない以上、既存の短期的な指標と報告書に基づいて投資家が判断を行ったとしても、それを非難しても仕方がありません。

企業も投資家も、同じ悩みを抱えています 。グローバル企業の価値の48%が無形資産にあると されている状況2では、投資によって企業がどのように将来の価値を創り出せるかを、現状の財務報告で明確に伝えていると考える投資家がわずか25%にとどまっているのは不思議ではありません3

目的志向への移行

181

人のCEOが、企業は「顧客、従業員、取引先、地域社会、株主など、全てのステークホルダーの利益を目指して」行動する必要があるとの見解を示しています。

目的志向の戦略を評価する

2017年に、EY、事業会社、アセットマネージャー、アセットオーナーが集まり、Embankment Project for Inclusive Capitalism(以下、EPIC)を立ち上げました。このメンバーの運用資産総額は約30兆米ドルに上ります。ここで目標として掲げられたのは、長期的価値をけん引する主要因である消晋者や財務、人材、社会に対して効果的な戦略が与える影響を測定するため、首尾一貫した、受容性の高い指標を見定めることでした。

例えば、企業が人間的価値をいかにうまく生み出しているかについては、人件費、労働力の構成と多様性、教育・研修・能力開発、雇用契約と福利厚生といった指標を基に、人材がどのように配置されているかを見れば評価できるでしょう。

EPICプロジェクトが提案したのは、「万能」なソリューションではありません。企業が用いる指標は、企業目的や戦略的目標に最も関連のある領域で価値創造を測定すべきであると認識するとともに、企業の戦略・状況・目的・ステークホルダー・戦略実行ケイパビリティに基づいた具体的な成果ベースの指標を特定するために、長期的価値(LTV)フレームワークを検証しました。

これにより、企業は報告に当たって最も重要な指標を見定めるためのプロセスを構築することができ、投資家は企業を取り巻く状況を考慮した上で、こうした指標が厳正なプロセスを通じて選択されたことを知ることができます。

EPICは、長期的価値に関する議論を進展させるタイムリーな取り組みでした。特定の要因が幅広いステークホルダーにどのように価値を生み出すのかを具体的な方法で測定できれば、企業や投資家は最良の選択肢をとりやすくなります。

同様に、企業目的を現実のものとし、信頼できる測定可能な指標に沿って実行することによって、長期的価値を最大限に高めることも容易になります。

では、ステークホルダーが関心を持つ長期的価値をどう測定すればよいのでしょうか? 4つの重要なステップについて説明します。

無形資産への投資

25%

投資によって企業がどのように将来の価値を創り出せるかについて、現状の財務報告が明確に伝えていると考える投資家の割合

1. ビジネスを取り巻く状況を明確にする

経営幹部は、企業がステークホルダーに向けた価値創造のドライバーとなる企業目的と、ビジネスモデルに影響を及ぼす、次のような社会の動きを検証する必要があります。自社が属している業界は、新たなテクノロジーによるディスラプションの影響を受けているか? 自社の顧客において、社会への積極的な貢献を求めるミレニアル世代の影響は増加しているのか? このように社会全体の動向をつかむことが、効果的な戦略の策定に必要不可欠です。

企業目的と事業に影響を及ぼすような動向を体系的に整理した後、ビジネスを取り巻く状況として最後に残るのがガバナンス、すなわち企業が戦略を実行に移すために設けている仕組みです。経営体制とプロセスはどのようになっているでしょうか? また、行動を促すために企業内でどのような施策を行っているでしょうか?

ビジネスを取り巻く状況を明確にするということは、企業の長期戦略を支える、なぜ(目的)・何を(企業の事業環境を形成する動向)・どのように(戦略を実行に移すためのガバナンス体制)という質問に答えることでもあります。この3つの要素は極めて重要であり、長期戦略を推進するための指標を見定める上で、企業は「自社の存在意義とは何か?」という本質的な問いに答える必要があります。

2. ステークホルダーにとっての成果を評価する

ビジネスを取り巻く状況の明確化に続き、社内外の重要なステークホルダーを特定し、企業の活動からそれぞれのステークホルダーが得られる価値を特定する必要があります。

鍵となる顧客層はミレニアル世代かもしれません。企業の訴求ポイントは、特定の社会的使命に集中しているかもしれません。また、市場に常に革新的技術をもたらしているかどうかにかかっているかもしれません。

エネルギー企業であれば気候変動と戦い、社会に利益をもたらすため、企業活動全体でのカーボンフットプリント削減を可能な限り推進しながら、手頃な価格で信頼性の高いサービスを顧客に提供する必要があるでしょう。

ここに挙げたことは全て、企業にとって極めて重要なステーク―ホルダーが誰か、そして企業はどのような価値を創造すべきかを示唆しています。いずれにせよ、あらゆるステークホルダーの生活に、独自の地位を確立する方法を見つけることが極めて重要です。

3. 戦略実行ケイパビリティを特定する

企業とステークホルダーについての理解に続き実施すべきなのは、ステークホルダーに役立つ戦略を推進するために使用できるケイパビリティを明確に把握することです。長期的価値を創出し、保護する手段は何でしょうか?企業にはどのようなリソースが必要でしょうか?

企業の将来にとって最も重要な意味を持つ長期投資と、それに関連する指標を優先させるためには、これらの問いに答えることが不可欠です。最善の戦略は、あらゆる角度からトランスフォーメーションの課題に取り組むことです。ほかのステーク―ホルダーを差し置いて、特定のステーク―ホルダーだけを優先させることは許されないのです。

例えば、より大きな人材価値を生み出そうとしている企業であれば、従業員のための自己啓発プログラムなどが用意されているはずです。それこそが、企業が戦略に織り込むべき価値創造手段であり、その手段が企業戦略の求める価値を確実に生み出すために必要となる特定のリソースや投資とともにあるべきものです。

また、自動車メーカーを例に考えてみましょう。ステークホルダーは環境への影響を最小限に抑えながら、高性能の自動車を生産することを期待しています。この場合、重要な価値創造手段は、企業が研究開発のために用意したプログラム、あるいは企業の適応能力を高め、イノベーションを可能にする新たなスキルを従業員に習得させるための研修かもしれません。

今日の企業は、成長と繁栄を促す、世界で最も強力なエンジンです。企業が全てのステークホルダーのために長期的な価値を創造する道を歩むとき、世界はより良いものになっていくでしょう。

4. 長期的価値の創出を評価するための指標を策定する

長期的価値の創出の観点で戦略の成果を測定する最後のステップは、企業目的とステークホルダーにとっての成果、戦略実行ケイパビリティに合致した指標を厳密に選択することです。EPICプロジェクトの報告では、比較可能であること、経験的に検証済みであること 、正確であること、信頼性があることなどの、指標を選択し、策定する際の5つの適格基準と7つの原則を示しています。

企業の長期的戦略への支持を勝ち取るには、適切な指標が不可欠です。指標は、戦略の信頼性を高める役割を果たします。長期投資の価値を測定し、投資家などのステークホルダーに示すための手段となるだけでなく、信用に足る、揺るぎない指標であれば、それだけステークホルダーからの支持を得ることができるからです。

ステークホルダーは、例えば、ある石油・ガス会社が脱炭素化を目指して策定した技術ロードマップは、実際に長期投資に値するといった、確証を与えてくれる情報を求めています。

ここでもまた、企業が財務以外のより幅広い指標を使用することによって、目標までの進捗状況や、さらに多くの価値を生み出す可能性について測定し、報告することが可能になります。

利益の先にある企業目的

私たちは常にディスラプションが起こり、幅広いステークホルダーのための価値創造を目的とした資本主義へと移行し始めた世界に暮らしています。この世界では、財務面での長期的な成功と同時に、人類と地球が直面している問題の解決に貢献することも、企業に求められています。

言い換えれば、企業は株式市場における価値と、社会にとっての価値の両方によって審査されています。

これは確実な進歩です。企業は、成長と繁栄を促す、世界で最も強力なエンジンです。企業が全てのステークホルダーのために長期的な価値を創造する道を歩むとき、世界はより良いものになっていくでしょう。

今日、私たちは、その良い世界をもたらす限りない可能性を現実の行動に変えるための手段を手にしています。長期的価値の創造を正確に、そして効果的に測定することができれば、理想を現実のものにすることさえ可能になるのです。

Embankment Project for Inclusive Capitalism(EPIC)

EPICの冊子をご希望の方はご連絡ください。

サマリー

今日、信頼性の高い企業目的に基づいて明確な長期的戦略を掲げる企業がより幅広い支持を集めるようになっており、企業はこれに対応することが課題となっています。重要なのは、長期的価値を単なる理想から現実のものにできるかどうかです。

この記事について

執筆者

Hywel Ball

EY UK&I Assurance Managing Partner and UK Audit Head, EY UK&I Regional Managing Partner and UK Chair-elect

A member of EY UK LLP Board. FTSE 100 audit partner. Father of three and Welsh rugby fan.