ニュースリリース

2024年3月7日 東京, JP

EY調査、企業の気候関連情報の開示は前進するが、気候戦略とアクションでは期待を満たせず

EYは、気候変動のリスクに関する最新のレポート「EYグローバル気候変動リスクバロメーター(2023年度版)」を発表しました。今年で5回目を迎える本調査では、企業の気候戦略と企業戦略の間には深刻な分離があることを示唆しています。

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今年で5回目の「EYグローバル気候変動リスクバロメーター」を発表

  • 気候関連情報開示の質は徐々に向上しているものの、改善の度合いは温室効果ガス削減目標遵守の公約(気候コミットメント)を支えるには十分ではない
  • 調査対象企業の74%が、気候リスクの定量的インパクト(業績に与える影響)を財務諸表に反映しておらず、依然として企業戦略と環境インパクトは分離している
  • 調査対象の企業のほぼ半数(47%)が、気候コミットメントに沿ったネットゼロ移行計画を開示していない  


EYは、気候変動のリスクに関する最新のレポート「EYグローバル気候変動リスクバロメーター(2023年度版)」(以下、「本調査」)を発表しました。今年で5回目を迎える本調査では、企業の気候戦略と企業戦略の間には深刻な分離があることを示唆しています。企業は、温室効果ガス削減目標遵守を公約する気候コミットメントに合意しているにもかかわらず、調査対象の企業のほぼ半数(47%)が、公約達成の意思を証明するネットゼロ移行計画を開示していません。これを裏付けるように、74%の企業が、気候リスクの定量的インパクト(業績に与える影響)を財務諸表に反映していません。このことは、気候変動が他の重大なインパクトと同程度には重視されていないことを示唆しており、「気候戦略は依然として企業報告から分離されている」という大局的な傾向を示しています。気候関連の情報開示は、カバー率も質も向上(ともに前年同期比で6%の向上)するなど、特に発展途上国で改善されていますが、私たち人類がもう後戻りできない段階に達している現在、この深刻な状況を打破するには、もはや情報の開示だけでは十分ではなく、大々的に多くの企業が集ってトランスフォーメーションを実行する必要があります。

本調査は、気候関連の情報開示についてカバー率と質の向上をスコアリングする、定評あるベンチマークです。気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)の基準に基づいて、51カ国の1,500以上の企業の業績関連の情報開示を検証しています。気候変動リスクバロメーターは、各企業が、TCFDが推奨する情報開示のうちいくつ開示しているかその数(カバー率)と、各開示情報の範囲および詳細(質)を計測しています。

本調査によると、カバー率は引き続き前進を続けており、2022年の84%から、2023年は90%へ向上しました。しかし、気候関連の開示情報の質は、50%と依然低く、わずかながらも向上(前年同期比6%増)した唯一の理由は、国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)が新たに導入するサステナビリティ情報開示基準によって要求事項が増えるため、それに備える必要があるというものでした。また、本調査によって、気候関連の開示情報の粒度が依然として均一化されておらず、情報開示をめぐる規制の効果に格差があることも明らかになりました。気候関連情報開示の質で上位を占める国は、英国(66%)、ドイツ(62%)、フランス(59%)、スペイン(59%)、米国(52%)となっています。しかし、インド(36%)、中国(30%)、フィリピン(30%)、インドネシア(22%)は、大きな改善が必要な国として挙げられています。
 

EYグローバル気候変動・サステナビリティ・サービス(CCaSS)リーダーのマシュー・ベルのコメント:
「気候関連の情報開示では、国や地域固有の、またセクター独自の複雑性が存在していて、先頭を走るリーダー国と、遅れを取っている国があることが、今年の調査でわかりました。当然のことながら、厳しい開示規制や気候変動にコミットしている投資家または政策立案者コミュニティを有する国は、TCFDが推奨する最新の開示情報を活用し、ISSBが導入する新たな開示要件の準備を着実に行いながら、前進を続けています。気候関連情報開示が法律で義務付けられていない国でスコアがかなり低くなっており、それが平均スコアを引き下げているため、この問題への対応が行われるまで、スコアの低迷は続くでしょう」


今年の調査ではより深い分析を行うため、今後数年間の気候関連情報開示の動向を決定づけるであろう3つの新しい領域を測定しました。1つ目は、企業の財務諸表に気候関連のリスクとオポチュニティがどの程度反映されているか、そのレベルの測定です。これは、気候変動のリスクとオポチュニティに対する企業の理解度を示すだけでなく、企業がその理解を開示することにどれほど意欲的かを伝えるものです。2つ目は、企業が公約からアクションへと前進しているか否か、またどのようにアクションに移しているのかを評価する、企業のネットゼロ移行計画の測定です。そして3つ目は、さらなるインサイトに対する企業の準備度の計測、つまりISSBが示している基準草案(S2号)に対して準備ができているか、またはそれを採用するかどうかの計測です。

企業業績

気候関連情報と企業業績との関係性に目を向けると、調査対象企業の3分の1のみが、気候関連インパクトの業績に対する定量的・定性的な関連性を、財務報告書で公表しています。これは、財務報告の中で、気候関連のリスクとインパクトが、企業業績の他の指標とは同等に考えられていないことを示唆しています。さらに、調査対象の企業の42%が、自社のバリューチェーンおよびより広い視野で見た市場動向に照らしたシナリオ分析を行っていません。そして、まだ気候変動がビジネス成長の文脈で考えられていないことを象徴するように、大半の企業は、気候関連リスクの戦略(77%)と比較して、気候関連オポチュニティの戦略(68%)を開示することに引き続き消極的です。

ネットゼロ移行計画の策定

ネットゼロ移行計画の策定については、まだまだできることがあるようです。調査対象企業のほぼ半数(47%)が、気候変動に関する最新の推奨事項に合わせて自社のビジネスモデルとオペレーションをどう方向転換していく計画なのかを情報開示していません。移行計画を情報開示している企業(53%)でも、情報の詳細さの度合いは依然として限定的です。当然ながら、エネルギー(60%)、鉱業(60%)、運輸(58%)、テレコム&テクノロジー(57%)など、最大の気候リスクにさらされているセクターは、最も詳細な移行計画を整えています。しかし、農業セクターは遅れを取っており、なんらかの移行計画を開示していると回答したのは、調査対象の農業セクター企業のわずか43%のみでした。

新基準遵守への準備度

本調査によると、気候リスクとビジネス成長戦略とのつながりを理解している企業は、国際財務報告基準(IFRS)S2号「気候関連開示」などの、新たな気候情報開示要件への準備度が高くなっています。しかし、ただコンプライアンスするだけというアプローチを取っている企業は、新たな気候関連情報の開示義務を遂行しようとする際に苦心する可能性が高いでしょう。

アクションへ前進するための道のり

本調査では、気候変動に対する世界レベルの行動計画を後押しするために、企業が実行を検討すべき3つの重要なアクションを例示しています。

  • 負担からアクションへ 思考の転換:最高の業績を上げる企業は、情報開示を態度とアクションを推進するために活用しており、気候リスクをめぐるコンプライアンスを実行可能なオポチュニティと捉えています。こうした企業は、詳細で厳密なデータの開示と共に、当該データに基づいて戦略の策定からアクションまで一貫して行っています。
  • データに基づく脱炭素化:データはサイロ化するのではなく、リスク管理とつなげて統合し、CO2削減の加速に役立てられるべきです。
  • 取締役会での重要性の向上:気候データは、取締役会レベルで活用され、企業戦略に影響を与えるものではなくてはならず、経営陣は気候インパクトについて組織全体に対して一貫したアプローチを取るべきです。
     

マシュー・ベルのコメント:
「気候コミットメントを実現するためには、ネットゼロ経済への移行を大幅に加速させなくてはならない今、企業が公約している志高い気候プランとそれを達成するための実際のアクションの間には懸念を呼ぶほどの格差があることを、本調査は示唆しています。気候リスクの情報開示は、単に法律で求められているから従うという捉え方をするべきではなく、より広範な商業戦略を伝えるオポチュニティや、競争優位を得るためのオポチュニティとして捉えるべきです。変化を受け入れ、実際にそれを達成すべきリーダーたちにとって、今は非常に重要な転換期かもしれません。企業は公約を発表するという思考から、アクションを起こす思考へ移行すべきであり、自社のオペレーション全体に脱炭素化戦略が浸透しているだけでなく、実行されていなくてはなりません」
 

EY Japan 気候変動・サステナビリティ・サービス(CCaSS)リーダーの牛島 慶一(うしじま けいいち)のコメント:
「本レポート結果から、『開示は進むも、経営戦略への統合は改善の余地あり』、また『国や地域によっての格差が大きい』ことが明らかになりました。日本はかねてからTCFD賛同企業が多いため、本レポートの調査対象企業においては、開示の量と質の両面で、欧米諸国と同水準を維持しています。しかし、グローバルなバリューチェーンにおいて、上流も下流も他の国や地域に依存しやすい日本経済は、経済力や排出量で日本を上回る国との足並みがそろわなければ、気候変動分野でのグローバルなリーダーシップの発揮はもとより、思い切った投資になかなか踏み切れない状況かもしれません。実際に企業の開示の質を高めるためには、社会的なデータの蓄積だけでなく、新技術などの具体的なソリューションの実装が必要です。
 

地域格差に関しては、ASEAN、インド、中東などの新興国が開示の量で大幅に進化している一方、質においては依然として、先進国との間に大きな差があります。日本企業には世界のバリューチェーンでのポジションを強化するために、他の国や地域との協業を通じたソフトパワーの行使が期待されます。

今後数年間は、資本市場への気候変動課題の統合がますます進展するでしょう。全体の質を上げるためには、まず量の拡大が重要ですが、既にグリーンウォッシュという言葉があるように、視点は質の向上に移行しはじめています。日本の経営が強みとしていた現場力、実務力を発揮すれば、国際社会の課題解決に貢献する機会があるでしょう。

経済への気候変動の統合は、気候変動対策を軸にした新たな経済圏を形成し、その他の市場との競争を引き起こす可能性があります。企業は気候変動を軸に、世界のバリューチェーンの見直しを迫られることになるでしょう。政府の支援強化も必要です。したがって、企業を主体とするサプライチェーンへの働きかけや、官民の協力が重要になります」
 

本調査の完全版は、以下のサイトをご覧ください:
EYグローバル気候変動リスクバロメーター2023


※本ニュースリリースは、2023年11月28日(現地時間)にEYが発表したニュースリリースを翻訳したものです。英語の原文と翻訳内容に相違がある場合には原文が優先します。

英語版ニュースリリース:
EY Businesses fall short on climate strategy and action, despite advances in reporting


 

EYグローバル気候変動リスクバロメーター(2023年度版)について:

EYグローバル気候変動リスクバロメーターは、世界各国の企業の中でも、特に気候変動の影響を大きく受ける可能性がある業界について、その企業が公開している気候関連リスクに関する情報が推奨される基準とどれほど一致しているかを年次レポートとして提供しています。
この年次レポートは、企業だけでなく、国の規制当局、金融機関、投資家などのあらゆる種類の外部ステークホルダーが、現在の世界の気候リスクの報告の状況を理解できるよう情報を提供しています。EYグローバル気候変動リスクバロメーターの初版は、2018年12月に発表されました。
2023年版のEYグローバル気候変動リスクバロメーターは、企業が自社の報告プロセスにおいて、TCFDのフレームワークを活用しながら、新たに求められる気候関連リスクとオポチュニティの情報開示についてどの程度準備が整っているかを分析しています。本レポートは、気候変動関連の影響を受けるリスクが高い企業を含め、金融および非金融セクターの企業が2022暦年に公表した情報をもとに調査しています。こうした情報開示は、一般的に年次サステナビリティレポートおよびCDP気候変動レポートにおいて行われました。
この調査は、51の国・地域における、特に気候リスクの高い13セクターの、時価総額ベースで最大の1,536社の企業による情報開示を調査の対象としました。これは、2022年から調査の規模と地理的範囲が拡大されたものです。さらにバロメーターのスコアリングマトリックスは、2022年に改良されており、より詳細でより堅固なものとなっています。TCFDが推奨する情報のカバー率および情報の質など、複数の要素を含むシステムを通じて、企業の評価が行われました。
2023年版のバロメーターは、それ以前のリサーチを基盤とし、いくつかの新しい要素、特にISSBのS2号の導入に対する企業の準備度に関する要素を取り入れました。そのため、2023年のバロメーターは、特に、IFRS S2号「気候関連開示」に即した情報開示要件への企業の準備度、ネットゼロ移行計画についての情報開示の程度、財務諸表や報告書における気候変動による財務インパクトの開示状況を捉えています。
これは、ISSBの新しい情報開示要件に関連する追加の質問を調査に取り入れただけでなく、既存の質問を改良し漸進的なテーマに焦点を当てることで実現されました。これらの側面は、次のような観点から分析されました:①規制当局からの圧力の増加とISSBの発展、②さまざまなステークホルダーが、企業が開示する気候関連目標の具体性やそれが実際にネットゼロに向かって前進しているのかを評価することにますます関心と懸念を持っていること、③気候変動が自社の運営にどのようなインパクトを与えるのかを企業が理解することが、より一層求められている状況。

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