EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
EY新日本有限責任監査法人 品質管理本部 会計監理部
公認会計士 平川 浩光
公認会計士 大竹 勇輝
公認会計士 桑澤 明
公認会計士 浦田 千賀子
品質管理本部 会計監理部において、会計処理及び開示に関して相談を受ける業務、並びに研修・セミナー講師を含む会計に関する当法人内外への情報提供等の業務に従事している。
本稿では、2025年3月期決算に影響する会計基準等を解説するとともに、期末決算で留意すべき検討ポイントについて解説します。なお、文中の意見にわたる部分は筆者らの私見であることをあらかじめお断りします。
2025年3月期においては、改正法人税等会計基準等、実務対応報告第46号等が原則適用となります。2025年3月期決算から原則適用となる会計基準の略称及び適用開始時期は<表1>のとおりです。
表1 会計基準略称及び適用時期の一覧
新リース会計基準等が2024年9月に公表され、2026年3月期からは早期適用可能となり、2028年3月期から原則適用となります。略称及び適用時期は<表2>のとおりです。
なお、2025年3月期において新リース会計基準等は適用されませんが、未適用の会計基準等に関する注記が必要となることにご留意ください。
表2 会計基準略称及び適用時期の一覧
日本公認会計士協会(以下、JICPA)から公表されていた実務指針等が企業会計基準委員会(以下、ASBJ)へ移管されました。2024年7月1日にASBJが公表した移管指針及びJICPAが廃止した実務指針等は<表3>のとおりです。
移管に当たっては、移管対象のJICPAが公表した実務指針等の所管をASBJに移すことを主たる目的とし、当該移管により実務を変更しないことを意図しています。このため、当該移管指針は、実務への影響を最小限とするように以下の方針に基づいて移管されました。
(1) 基本的には文書単位でそのままの形で移管することを原則とする。
(2) 実務指針等の「委員会名」及び「連番」は変更する一方、「実務指針等の名称」 は変更しない。
(3) 各実務指針等における項番号を変更しない。
(4) 実務指針等に関して、字句等の誤りが含まれている可能性があるが、移管に当たって識別された字句等の誤りについて訂正しない。これらは、当委員会に移管した後、年次改善の一環として一括して訂正する。
当該移管指針は公表日以後適用するとされ、当該移管指針の適用は会計方針の変更に関する注記を要しないとされています。
表3 2024年7月1日公表された移管指針及び廃止された実務指針等
財務諸表等規則等が改正され、2024年4月1日より施行されました。2025年3月期においては改正後の財務諸表等規則等が適用されます。
改正前の財務諸表等規則等は、「連結・単体」及びそれぞれに「年度・中間・四半期」と6つの内閣府令及びガイドラインから構成されていましたが、今回の改正により、「連結」及び「単体」にそれぞれ統合し、2つの内閣府令及びガイドラインから構成されることとなりました(<表4>参照)。
表4 財務諸表等規則等の改正内容
改正法人税等会計基準等が2024年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から原則適用されています。主な改正内容は以下のとおりです。本稿ではこれらについて設例を用いて解説します。
改正法人税等会計基準等の適用は、会計基準等の改正に伴う会計方針の変更として取り扱うため、会計方針の変更に関する注記が求められます。
また、原則として、新たな会計方針を過去の期間の全てに遡及(そきゅう)適用するとされていますが、税金費用計上区分については経過措置が認められます。経過措置を用いる場合、改正法人税等会計基準等を過年度に生じた取引等に適用した場合の会計方針の変更による累積的影響額を適用初年度の期首の利益剰余金に加減します。そして、対応する金額を資本剰余金、評価・換算差額等又はその他の包括利益累計額のうち、適切な区分に加減し、当該期首から新たな会計方針を適用することとなります。なお、グループ法人税制が適用される場合の子会社株式等の売却に係る税効果については、経過措置は認められていません。
当事業年度の所得等に対する法人税、住民税及び事業税等(以下、法人税等)は、法令に従い算定した額を損益に計上することとされていました。
当事業年度の所得に対する法人税等を、その発生源泉となる取引等に応じて、「損益」「株主資本」及び「その他の包括利益」(又は「評価・換算差額等」)に区分して計上することとされました。
以下では、「株主資本」及び「その他の包括利益」に区分して計上される取引等について解説します
株主資本に計上される取引等の例示は<表5>のとおりです。このうち、今回の改正により会計処理の変更があったのは<表5>の下線部分であり、そのほかは改正による影響はありません。
表5 株主資本に計上される取引等の例示
改正後の株主資本に計上される取引の会計処理について、以下設例を用いて説明します。
設例:前提条件
① P社はS社を連結子会社としている。
② X1年にP社はS社株式を追加取得した。当該取引によりP社連結財務諸表において、S社株式と非支配株主持分との相殺消去により、借方に資本剰余金10,000が計上された。これ以後P社はS社株式を追加取得していない。なお、P社にS社株式を売却する意思はない。
③ X3年にP社はS社株式全てを第三者へ売却する意思決定を行った。この際に、S社株式の追加取得に伴い生じたP社持分変動による差額(②の資本剰余金)に係る連結財務諸表固有の一時差異について、資本剰余金を相手勘定として繰延税金資産を計上した。
④ X4年にP社はS社株式の全てを売却した。
⑤ X3年期末の法定実効税率は30%とし、繰延税金資産の計上要件を満たしているとする。
仕訳
X1年S社株式追加取得時
X3年S社株式売却の意思決定時
X4年S社株式売却時
i. S社株式売却に伴う繰延税金資産の取崩し
ii. S社株式売却益に対する課税(※)
※ S社株式の売却益に対する法人税等について、追加取得に伴い生じたP社の持分変動差額に対して課税された法人税等は資本剰余金から控除します。
Point
① 改正前後でX4年社S社株式売却時の仕訳が以下のとおり変更されています。
i. S社株式売却に伴う繰延税金資産の取崩し
ii. S社株式売却益に対する課税(※)
※ 改正前には親会社の持分変動差額に対して課税された法人税等を資本剰余金から控除する定めはありませんでした。
② 改正前後のX4年P社の連結損益計算書及び個別損益計算書は以下のとおりとなります。なお、S社には留保利益がなく、S社売却に係る損益及び課税所得のみを考慮し、個別損益計算書では、S社株式売却益が20,000、法人税等が6,000とします。
その他の包括利益に計上される取引等の例示は<表6>のとおりです。
表6 その他の包括利益に計上される取引等の例示
改正後の評価・換算差額等に計上される取引の会計処理について、以下設例を用いて説明します。
設例:前提条件
① A社(3月決算)は取得原価が10,000の「その他有価証券」を保有しており、X1年3月期の期末において、その他有価証券の時価は、12,000であった。
② X1年4月1日にA社はグループ通算制度に加入することが決定しており、X1年3月期の期末において、当該「その他有価証券」に対して、税務上、時価評価が行われる。このため、「その他有価証券評価差額金」2,000は、X1年3月期において課税所得に含まれ、課税される。
③ A社は、当該「その他有価証券評価差額金」を除いても課税所得が4,000生じており、また、税引前当期純利益も4,000である。
④ X1年3月期の期末における法定実効税率は30%であった。
⑤ その他の将来減算一時差異及び将来加算一時差異は存在しない。
仕訳
Point
① 改正前後で仕訳が以下のとおり変更されています。
② 改正前後の個別損益計算書は以下のとおりです。(※)
※ 改正前は税引前当期純利益4,000に対して法人税等が1,800であり、両者の割合が45%と法定実効税率と乖離(かいり)していました。一方で、改正後は税引前当期純利益4,000に対して法人税等1,200であり、両者の割合が30%で法定実効税率と一致し、税引前当期純利益と税金費用が合理的に対応しています。
グループ法人税制が適用される場合の子会社株式等の売却に係る税効果の会計処理は<表7>のとおり変更されています。
表7 グループ法人税制が適用される場合の子会社株式等の売却に係る税効果の変更内容
改正後のグループ法人税制が適用される場合の子会社株式等の売却に係る税効果の会計処理について、以下設例を用いて説明します。
設例:前提条件
① P社は、S1社及びS2社の株式の100%を保有し、子会社としている。なお、3社はいずれも3月決算の内国法人である。なお、P社は、グループ通算制度は適用していない。
② X1年3月末時点のS2社株式の税務上の簿価及び個別財務諸表上の簿価は、2,000である。また、S2社に対する投資の連結財務諸表上の簿価は2,500である。
③ P社はS1社に対して、S2社株式を時価3,500で売却する意思決定をX1年3月末に行った。なお、P社は連結財務諸表上、従前、配当による課税所得が生じないこと及び売却する意思がなかったことから、X1年3月末より前において、子会社に対する投資に係る連結財務諸表固有の将来加算一時差異に対して繰延税金負債を計上していなかった。
④ X1年4月にS2社株式の売却に係る取引が実行された。なお、S1社はS2社株式を売却する意思はない。
⑤ X2年3月期において、P社連結上、税金等調整前当期純利益が10,000生じており、税金等調整前当期純利益に対応する法人税等が3,000生じている。
⑥ X3年3月期において、S1社がS2社株式を企業集団外の第三者へ再売却する意思決定をした。なお、S2社株式のS1社への売却により生じた将来減算一時差異について繰延税金資産の回収可能性があるとする。
⑦ 上記前提条件に関連するものを除いて、将来減算一時差異及び将来加算一時差異は存在しない。
⑧ 法定実効税率は30%とする。
仕訳
X1年S2社株式売却の意思決定時(※)
仕訳なし
※ P社はS2社株式売却の意思決定を行っていますが、企業会計基準適用指針第28号「税効果会計に係る会計基準の適用指針」(以下、税効果適用指針)に基づき、連結財務諸表固有の将来加算一時差異500については、繰延税金負債を計上しません。
X1年S2社株式売却時(※)
P社個別
P社連結
※ P社個別上は、税務上繰り延べられた売却益1,500に係る将来加算一時差異が発生し繰延税金負債が計上されます。一方でP社連結上は税効果適用指針に基づき当該繰延税金負債を取り崩します。S2社株式のS1社への売却により、S2社株式の連結上の価額2,500は、S1個別上の簿価3,500を下回るためこれらの差額1,000は連結固有の将来減算一時差異に該当しますが、S2社株式の再売却の計画がないことから繰延税金資産は計上されません。
X3年S1社のS2社株式再売却の意思決定時
P社連結(※)
※ X1年S2社株式売却益に係る繰延税金負債の取崩額450を戻入れ、S2社株式のS1社への売却により生じた連結固有の将来減算一時差異1,000について繰延税金資産が計上されます。
2021年10月に経済協力開発機構(OECD)/主要20カ国・地域(G20)の「BEPS包摂的枠組み(Inclusive Framework on Base Erosion and Profit Shifting)」において、当該枠組みの各参加国により合意が行われた第2の柱「グローバル・ミニマム課税」には、所得合算ルール(IIR: Income Inclusion Rule )、軽課税所得ルール(UTPR : Undertaxed Profits Rule )及び国内ミニマム課税(QDMTT : Qualified Domestic Minimum Top-up Tax )の3つのルールがあります。
日本においては、2023年3月28日に成立した「所得税法等の一部を改正する法律」(令和5年法律3号)において、グローバル・ミニマム課税制度が創設され、前述の3つのルールのうちIIRに係る取扱いが定められています。当該IIRに係る取扱いは、2024年4月1日以後開始する対象会計年度から適用することとされた一方、UTPR及びQDMTTに係る取扱いについては、令和7年度の税制改正での法制化が予定されています。
日本においては、前記のとおり、グローバル・ミニマム課税の3つのルールのうちIIRの取扱いが2024年4月1日以後開始する事業年度から適用されており、会計上も実務対応報告第46号が適用されています。また、日本以外の国・地域においては、グローバル・ミニマム課税におけるUTPR及びQDMTTが課せられる場合があります。2025年3月決算において、グローバル・ミニマム課税制度に係る法人税等(当期税金)が会計処理及び開示に及ぼす影響については、情報センサー2025年3月「グローバル・ミニマム課税制度に係る会計上の取扱い」をご参照ください。
前述のとおり、UTPR及びQDMTTに係る取扱いについては、令和7年度の税制改正での法制化が予定されています。この点、改正実務対応報告第44号「グローバル・ミニマム課税制度に係る税効果会計の適用に関する取扱い」では、IIRのみならず、UTPRやQDMTTの取扱いも含めて、国際的な動向等に変化が生じない限り、税効果会計の適用に当たっては、税効果適用指針の定めにかかわらず、グローバル・ミニマム課税制度の影響を反映しないこととする実務対応報告第44号の取扱いを継続することとされています(改正実務対応報告第44号第3項、第15-5項)。
また、開示についても、改正実務対応報告44号を適用した旨の注記は不要とされています(改正実務対応報告第44号第16項)。
このため、グローバル・ミニマム課税制度に係る税効果会計については、2024年3月決算と同様に、2025年3月決算においても会計処理及び開示は不要となります。
2024年12月27日に閣議決定された令和7年度税制改正の大綱において、防衛力強化に係る財源確保のための税制措置の一環として、防衛特別法人税(仮称)が創設され、また、経済のグローバル化・デジタル化への対応として、グローバル・ミニマム課税における新たなルール(UTPR及びQDMTT)の法制化、外国子会社合算税制の見直しを行うとされています。
これらの税制改正項目の概要及び税効果会計への影響は、以下のとおりですが、防衛特別法人税の創設及び外国子会社合算税制の見直しについては、当期の税効果会計に影響を与える可能性があると考えられます。
なお、令和7年度税制改正の詳細については、EY税理士法人がウェブサイトに公表しているJapan tax newsletter 2025年1月22日号「令和7年度税制改正大綱(詳細版)」をご参照ください。
防衛特別法人税の額は、法人税額から500万円を控除した額を課税標準とし、当該金額に4%の税率を乗じて計算した金額とするとされています。また、防衛特別法人税は、2026年4月1日以後開始する事業年度から課せられる予定とされています。
税効果会計の適用に当たっては、決算日において国会で成立している税法に規定されている方法に基づき繰延税金資産及び繰延税金負債の額を算定することとされています(税効果適用指針第44項)。このため、防衛特別法人税に係る規定を含む「所得税法等の一部を改正する法律」(以下、改正税法)の法案が、2025年3月31日までに成立した場合には、税効果会計の適用に当たって、改正税法の影響を反映する必要があると考えられます。
この点、改正税法が2025年3月31日までに成立した場合に税効果会計の適用に当たっての防衛特別法人税の取扱いを明らかにすることが実務に資すると考えられるため、ASBJより、2025年2月20日に補足文書「2025年3月期決算における令和7年度税制改正において創設される予定の防衛特別法人税の税効果会計の取扱いについて」(以下、補足文書)が公表されています。補足文書では、改正税法が成立した場合には、税効果会計の適用における2026年4月1日以後に開始する事業年度(2027年3月期)に解消が見込まれる一時差異等に係る繰延税金資産及び繰延税金負債の計算に用いる法定実効税率は、次の算式により算定することが税効果会計の趣旨に適うこととなると考えられるとされています(補足文書第12項、第13項)。なお、この場合であっても、2026年3月期に解消が見込まれる一時差異等に係る繰延税金資産及び繰延税金負債の計算に用いる法定実効税率は、防衛特別法人税の影響は加味しない現行の法定実効税率となる点に留意する必要があります。
また、防衛特別法人税の課税標準の計算において法人税額から基礎控除額として500万円を控除することが予定されていますが、上記の算式においては考慮していないとされています。
外国子会社合算税制とは、内国法人が低税率の外国関係会社に、自社の所得を移転することにより日本における法人税負担を不当に軽減することを防ぐため、一定の要件に該当する外国関係会社の所得について、内国法人の所得と合算して日本で課税する制度になります。外国子会社合算税制の適用対象となった場合、外国関係会社の所得について一定の計算の結果算定された課税対象金額等を、外国関係会社の事業年度終了の日の翌日から2カ月を経過する日を含むその内国法人の各事業年度の益金として算入されることになります。
改正税法では、課税対象金額等の合算時期について、当該外国関係会社の事業年度終了の日の翌日から4カ月を経過する日を含むその内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上、益金の額に算入することへと見直される予定です。
また、適用時期については、<表8>のとおりとされています。
原則適用 |
内国法人(親会社)の2025年4月1日以後開始する事業年度に係る外国関係会社の課税対象金額等(その外国関係会社の同年2月1日以後に終了する事業年度に係るものに限る)について適用する |
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早期適用 |
内国法人(親会社)の2025年4月1日前に開始した事業年度に係る外国関係会社の課税対象金額等(その外国関係会社の2024年12月1日から2025年1月31日までの間に終了する事業年度に係るものに限る)について、早期適用することができる |
例えば、内国法人(親会社)が3月決算、外国関係会社(在外子会社)が12月決算の場合、本改正を原則適用したとき及び早期適用したときそれぞれの合算時期は<図1>及び<図2>のとおりになることが見込まれます。
図1 原則適用の場合
図2 早期適用の場合
前述のとおり、親会社が3月決算であり、在外子会社が12月決算である場合において、本改正を原則適用した場合には、従来と同様に、対象となる在外子会社の所得見合いである課税対象金額等は、2025年3月期の親会社の所得に合算され、当期税金として処理されることになります。
一方、本改正を早期適用した場合には、従来とは異なり、対象となる在外子会社の所得見合いである課税対象金額等は、2026年3月期の親会社の所得に合算されることとなります。このため、2025年3月期の親会社の連結財務諸表上、対象となる在外子会社の所得見合いである課税対象金額等について、税効果会計の適用を検討することが必要になると考えられます。
2023年12月22日に改正された企業内容等の開示に関する内閣府令等により、従前の「経営上の重要な契約」が「重要な契約」と名称が変更され、開示内容に関する改正が行われました。
開示すべき契約の類型や求められる開示内容を具体的に明らかにすることで、適切な開示を促すことが考えられるとの提言を受け改正されたもので、「重要な契約」の有価証券報告書等の記載は、2025年3月31日以後に終了する事業年度に係る有価証券報告書等から適用されます。ただし、2024年4月1日の施行日前に締結された契約については、2025年3月31日以前に開始する事業年度に係る有価証券報告書等まで(3月決算会社の場合、2025年3月期まで)は省略可能となっています。
本改正の具体的な改正の内容は、<表9>のとおりです。
項目 |
開示内容 |
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企業・株主間のガバナンスに関する合意 |
有価証券報告書等の提出会社*1が、提出会社の株主との間で、以下のガバナンスに影響を及ぼし得る合意を含む契約(重要性の乏しいものを除く)を締結している場合、当該契約の概要や合意の目的及びガバナンスへの影響等の開示を行う (a) 役員候補者指名権の合意 (b) 議決権行使内容を拘束する合意 (c) 事前承諾事項等に関する合意 |
企業・株主間の株主保有株式の処分・買増し等に関する合意 |
有価証券報告書等の提出会社が、提出会社の株主との間で、以下の株主保有株式の処分等に関する合意を含む契約(重要性の乏しいものを除く)を締結している場合、当該契約の概要や合意の目的等の開示を行う (a) 保有株式の譲渡等の禁止・制限の合意 (b) 保有株式の買増しの禁止に関する合意 (c) 株式の保有比率の維持の合意 (d) 契約解消時の保有株式の売渡請求の合意 |
ローン契約と社債に付される財務上の特約*2 |
有価証券報告書等の提出会社が、財務上の特約の付されたローン契約の締結又は社債の発行をしている場合であって、その残高が連結純資産額の10%以上である場合には(同種の契約・社債はその負債の額を合算する)、当該契約又は社債の概要及び財務上の特約の内容の開示を行う |
*1 提出会社が持株会社の場合には、その子会社を含む。
*2 有価証券報告書等の提出会社が、財務上の特約の付されたローン契約の締結又は社債の発行をした場合(既に締結している契約や既に発行している社債に新たに財務上の特約が付される場合も含む)であって、その元本又は発行額の総額が連結純資産額の10%以上の場合には、契約の概要(契約の相手方の属性、元本総額及び担保の内容等)や財務上の特約の内容を記載した臨時報告書の提出を求められる。そして、当該財務上の特約に変更があった場合や財務上の特約に抵触した場合には、財務上の特約の変更内容や抵触事由等を記載した臨時報告書の提出が求められる。
政策保有株式の開示の改正に係る企業内容等の開示に関する内閣府令等が、2025年1月31日に公布され、同日付で施行されました。
金融庁では、令和5年度の有価証券報告書レビューにおいて、「株式の保有状況」の開示のうち、いわゆる政策保有目的から純投資目的に保有目的を変更した株式の開示状況を検証したところ、実質的に政策保有株式を継続保有していることと差異がない状態になっているとの課題が識別されました。また、2024年6月に公表された「コーポレートガバナンス改革の実践に向けたアクション・プログラム2024」においても、コーポレートガバナンスの観点からこの課題が指摘され、制度改正等の今後の方向性が提言されていました。
こうした経緯を踏まえ、有価証券報告書等における「株式の保有状況」の開示に関して、当期を含む最近5事業年度以内に政策保有目的から純投資目的に保有目的を変更した株式(当事業年度末において保有しているものに限る)について、開示の拡充(<表10>参照)が行われたものです。
本改正は、2025年3月31日以後に終了する事業年度に係る有価証券報告書等から適用されます。
区分 |
開示事項 |
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最近事業年度において保有目的を純投資目的から純投資目的以外の目的に変更したものがある場合 |
ⅰ銘柄 ⅱ株式数 ⅲ貸借対照表計上額 |
最近5事業年度において保有目的を純投資目的以外の目的から純投資目的に変更したものがある場合 |
ⅰ銘柄 ⅱ株式数 ⅲ貸借対照表計上額 ⅳ保有目的を変更した事業年度(※改正により追加) ⅴ保有目的の変更の理由及び保有目的の変更後の保有又は売却に関する方針(※改正により追加) |
※ いずれも当事業年度末において保有しているものに限る。
また、「純投資目的」の考え方が明示されています。「純投資目的」とは、「専ら株式の価値の変動又は株式に係る配当によって利益を受けることを目的とすることをいう」とされています。例えば、当該株式の発行者等が提出会社の株式を保有する関係にあること、当該株式の売却に関して発行者の応諾を要すること等により、発行者との関係において提出会社による売却を妨げる事情が存在する株式は、純投資目的で保有しているものとはいえないことに留意するとされています。
国際的なサステナビリティ開示基準の動向として、2023年6月に「国際サステナビリティ基準審議会」(ISSB)から、IFRS S1号「サステナビリティ関連財務情報の開示に関する全般的要求事項」及びIFRS S2号「気候関連開示」が公表されました。日本においても2022年7月に「サステナビリティ基準委員会」(SSBJ)が設立され、IFRSサステナビリティ開示基準と整合性のある基準の開発に取り組むこととなり、検討を重ねた結果、2025年3月5日に以下のサステナビリティ開示基準(以下、SSBJ基準)が公表されました。
SSBJは、国際的な比較可能性の担保を考慮し、国際的なサステナビリティ開示基準である国際サステナビリティ開示基準審議会によって策定されたIFRSサステナビリティ開示基準(以下、ISSB基準)に基づいて開発されています。その基本的な開発方針は、ISSB基準の全ての要求事項の定めを取り入れた上で、一部の定めについては、ISSB基準の要求事項に代えてSSBJ基準独自の取扱いを選択することを認めることとしています。この結果、SSBJ基準独自の取扱いを選択しなければ、SSBJ基準の適用によって開示される情報は ISSB基準に準拠したものになります。
なお、IFRS S1 号は、サステナビリティ関連のリスク及び機会に関して開示すべき事項(以下、コア・コンテンツ)を定めた部分と、コア・コンテンツ以外の、サステナビリティ関連財務開示を作成する際の基本となる事項を定めた部分とで構成されており、IFRS S1 号のコア・コンテンツに関する定めは、具体的に適用される IFRS サステナビリティ開示基準が存在しない場合に適用することとされています。SSBJ基準は、分かりやすさの観点から、日本における IFRS S1 号に相当する基準を、コア・コンテンツ以外の基本となる事項を定める「適用基準」と、コア・コンテンツを定める「一般基準」とに分けています(<図3>参照)。
図3 IFRSサステナビリティ開示基準(ISSB基準)との関係
また、適用基準、一般基準及び気候基準の概要は、<表11>のとおりです。
基準 |
概要 |
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適用基準 |
SSBJ基準に準拠したサステナビリティ関連財務開示を作成し、報告する場合における基本事項を示すことを目的としています。このため、企業がSSBJ基準に従ってサステナビリティ関連財務開示を作成し報告する場合に適用しなければならない基準となります。 |
一般基準 |
一般目的財務報告書の主要な利用者に対して有用なサステナビリティ関連のリスク及び機会に関する情報の開示を定めることを目的としており、サステナビリティ関連財務情報は、ガバナンス、戦略、リスク管理、並びに指標及び目標の分類に基づいて開示することを定めています。 ここで、SSBJが公表する他のテーマ別基準が、具体的なサステナビリティ関連のリスク及び機会に関する情報の開示について定めている場合には、この他のテーマ別基準に従わなければなりませんが、テーマ別基準によって具体的な定めがない場合は、一般開示基準に基づいて開示を行うことになります。 現段階において、SSBJが公表した具体的なサステナビリティ関連のリスク及び機会に関する情報の開示の定めは、気候基準のみとなりますが、例えば、人的資本や人権等の他のサステナビリティテーマについて開示する際は、一般開示基準に基づいて開示することになります。 |
気候基準 |
企業の気候関連のリスク及び機会に関する情報の開示について定めることにあり、企業がさらされている物理的リスク及び移行リスクといった気候関連のリスク、及び企業が利用可能な気候関連の機会の開示において適用しなければならないとされています。TCFD提言を踏まえ、気候関連のリスク及び機会に関して、ガバナンス、戦略、リスク管理、並びに指標及び目標に関する開示を求めており、シナリオ分析に基づくレジリエンス評価や温室効果ガス排出量等の開示が求められます。 |
SSBJ基準では、SSBJ基準の適用対象企業を定めていませんが、金融商品取引法の枠組みにおいて本基準が適用されること、特にグローバル投資家との建設的な対話を中心に据えた企業であるプライム上場企業が適用することを想定して開発が行われました。
同時に、プライム上場企業以外の企業が本基準に従いサステナビリティ関連財務開示を作成することを奨励すべきとの考えから、本基準は、プライム上場企業以外の企業(例えば、金融商品取引法以外の法令の定めに基づき本基準に従った開示を行う場合や、任意で本基準に従った開示を行う場合)も適用することができるようにされています。
金融商品取引法に基づく法定開示(有価証券報告書)における本基準の適用対象企業及び適用時期等については、金融庁が法令において定めることが想定されています。この点、現在、金融庁が金融審議会に設置した「サステナビリティ情報の開示と保証のあり方に関するワーキング・グループ」で検討されており、有価証券報告書においてサステナビリティ開示基準に基づく開示は、2027年3月期以後、時価総額3兆円以上の企業から段階的に求められていく見込みとなっています※1。
SSBJ基準は、強制適用時期を定めていませんが、任意でSSBJ基準に従った開示を行う場合、本基準の公表日以後終了する年次報告期間から適用可能とされ、2025年6月に提出する2025年3月期の有報から適用することができるとされています(適用基準第91項、一般基準第40項及び気候基準第100項)。
ただし、SSBJ基準を適用する場合、適用基準、一般基準及び気候基準は、同時に適用しなければならないとされています(適用基準第 91 項、一般基準第 40 項及び気候基準第 100 項)。
2023年1月に公布・施行された改正後の「企業内容等の開示に関する内閣府令」(以下、開示府令)に基づく有価証券報告書のサステナビリティ情報の開示は、2023年3月期から行われています。2025年3月期では3年目の開示として、各企業の取組みの進展も踏まえ、より一層充実した内容の開示を積極的に行うことが期待されます。開示の検討に当たっては開示府令で求められる開示内容を再度ご確認いただくとともに、金融庁から公表された「記述情報の開示の好事例集2024」※2が参考になると考えられます。
この好事例集では、有価証券報告書の記載項目である「サステナビリティに関する考え方及び取組等」及び「コーポレート・ガバナンスの状況等」に関し、今後の開示の参考となる好事例が掲載されているとともに、「投資家、アナリスト、有識者が期待する主な開示のポイント」が開示項目別に記載されており、財務諸表利用者の期待を踏まえた開示を検討する際に有用になるものと考えられます。また、「好事例として採り上げた企業の主な取組み」も紹介されており、開示面のみならず、企業のサステナビリティを高める取組み自体を検討する際にも参考になるものと考えられます。
※1 金融庁 金融審議会「第5回 サステナビリティ情報の開示と保証のあり方に関するワーキング・グループ 参考資料」参照。www.fsa.go.jp/singi/singi_kinyu/sustainability_disclose_wg/shiryou/20241202.html(2025年3月6日アクセス)
※2 金融庁「記述情報の開示の好事例集2024」www.fsa.go.jp/news/r6/singi/20250324-2.html(2025年3月25日アクセス)
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