2022年6月30日
メタバースに新規参入する企業が検討すべき7つの要件

メタバースに新規参入する企業が検討すべき7つの要件

執筆者 三浦 貴史

EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社 テクノロジー/メディア・エンターテインメント/テレコムセクター パートナー

Japan TMTセクターにおいて、デジタルを活用したビジネスモデルおよびオペレーションの変革を支援。

2022年6月30日

メタバースは、近い将来どの企業にとっても無視できない存在となる可能性があります。
新規参入に当たり検討が必須となる7つの要件(ポジショニング、人材獲得、顧客体験設計、組織のアジリティ、エコシステム形成、規制への対応、マネタイズの仕組み)について解説します。

要点
  • メタバースは、Z世代を中心に、人々の新たな「生活の場」として、社会生活・企業活動に影響を与える。
  • 企業は、自社がどのポジションで参入が可能か早期に検討すべきである。
  • 日本ではソニーグル-プが2022年度経営方針説明会でメタバース領域への取り組みを発表 。
  • メタバースには確立されたビジネスモデルは依然存在しないが、企業は参入要件を認識する必要がある。

Z世代を中心に、人々の新たな「生活の場」として社会生活に大きな影響を与えると言われているメタバース。新たな市場故にルールや商習慣があいまいであるため、そのビジネス規模が図りきれず、参入への道筋が描けていない企業も多いのではないでしょうか。

ですが、マーケット創世記の今だからこそ早期に市場に参入し、確固としたポジションをとるとともに必要なルール形成に関わっていくことが後の大きな成果につながるはずです。

本稿では、いまだ確立されたビジネスモデルが存在しないメタバースについて、その参入要件を整理し、企業がスピーディーに動くためのポイントを解説します。

Ⅰメタバース台頭の背景

メタバースとは、「超(meta)」と「宇宙(universe)」を組み合わせた造語であり、インターネット上に構築されたバーチャル空間内のさまざまなサービスを指します。メタバースの市場規模について、2022年の市場規模は939億ドル、以降2030年まで毎年40%以上の成長率が見込まれており※1、現在経営アジェンダとして世界的に注目を集めています。

このようなメタバースの急速な発展の背景には、ブロックチェーンによる非中央集権化、AI、通信などの技術革新に加え、今後の社会・消費の中心となるZ世代によるメタバースの積極的な利用が強力な成長ドライバーであると考えられています。ではなぜZ世代にメタバースが受け入れられているのでしょうか。その理由として、以下3点が挙げられます。

  • Z世代は、ゲーム・バーチャル空間で時間を費やす割合が高く、バーチャル空間で人とつながることに抵抗感がない。
  • Z世代は目的に応じてアイデンティティーを使い分ける傾向にある。そのため、アバターを通じ場所・目的に応じてアイデンティティーを使い分けることができるメタバースとの親和性が高い。
  • Z世代は、現実とバーチャルを区別する意識が低く、つながり自体に価値を感じる。

さらに、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)による生活様式の変化もメタバース流行の後押しになっています。人・モノの物理的な移動が制限されたことで、バーチャル空間でのショッピング・エンタメ・交流が加速度的に広がり、バーチャル空間が生活の一部として認知されました。

これらは、現実世界からの「逃げ場」として認知されていたSecond Lifeなどの黎明(れいめい)期のメタバースとは異なり、現実と同等のコミュニケーション・経済活動を行うことができる「生活の場」として認知されており、今後一層の広がりが期待されています。

※1 Emergen Research, METAVERSE Global Trend Analysis and Forecast (2021)

Ⅱメタバースが社会生活・産業・企業活動に与える影響

このようにZ世代と親和性が高いメタバースですが、社会生活や産業、企業活動にはどのような影響を及ぼすのでしょうか。

社会・生活においては、既にZ世代・α世代を中心にメタバース空間で娯楽、社交、経済活動が始まっています。現在の中心的なコミュニケーションツールであるSNSとメタバースの最大の違いは、アバターによる「デジタル・アイデンティティー」です。メタバース上では、各個人は、アバターを通じて自身のアイデンティティーを主張できます。例えば、Unileverはメタバースプラットフォーム(PF)であるDecentralandで、アバター同士のバーチャルの結婚式の開催、およびNFTによる結婚証明書を提供しており、性別、人種、階級などに関係なく自分の本当の「アイデンティティー」を確認・主張することができます。

メタバースの出現は、各産業に対しても幅広い影響を与えています。第一次産業や製造業においては、XR・IoT技術の活用によるバリューチェーンの効率化が挙げられます。工場の「デジタル・ツイン」、ARヘッドマウントディスプレーによる作業アシスト・トレーニング、VRによる機械設備の適格性確認など、幅広い用途において一定のROIが検証されています。小売業や不動産業などの消費者向け産業では、メタバースを新たな顧客接点として位置付け、投資を加速しています。例えば、物件のバーチャルツアー、アバターでの試着・ショッピング、リアル店舗・イベントとの連動による地域活性化などのユースケースが増加しています。企業側がこれらのサービスを提供することで、消費者側も「距離」の概念がなくなる、商品の情報を「体験する」ことを求めるなど、購買の意思決定基準が変化することが予想されます。

上記のような環境変化に伴い、各企業はメタバースを新たなビジネス機会と捉え続々とメタバース市場に参入しています。

日本企業の中でも、ソニーグループは、先進的にメタバース関連事業を推進しており、EYは同社のメタバース・スポーツファンエンゲージメント・プラットームについて構想策定~実行支援を行っています。

ソニーグループで新規事業の探索活動をリードする山口周吾執行役員はメタバースの可能性を以下と捉えています。

「メタバースは、これまでの社会のあり方を大きく変える可能性があると思っています。若い世代の可処分時間の使い方は、これまでも大きく変化してきていますが、若いうちからスマートフォンを持ち、常にインターネットにつながり、SNSで発信や情報収集するのが当たり前の世代。彼らがアバターという新たな表現方法を持ち、リアル空間での自分と違う自分になることでより多くの自己表現方法が生まれていくでしょう。ソニーの場合は、完全な仮想空間であるメタバースだけでなく、リアル空間と結びついた仮想空間の実現も考えています。リアル空間をセンサーなどの技術を使いメタバース空間に忠実に再現するとともに、メタバース空間にしかできない空間表現を創っていきます。

メタバースには、さまざまな可能性があり、まだ成熟していない領域です。ソニーグループが持つ技術やエンタテインメントの知見を活かして、ユーザーやファンに新たな楽しい体験をお届けできるようにしたいと思っています。きっと近い将来、多くの若者がリアルな世界を楽しみつつ、メタバース空間での世界にも多くの時間を使うことになるでしょう。さまざまな企業やヒトと協力して、新たな楽しい世界を創っていきたいと思います」

メタバースは、プラットフォーマー(Meta, Robloxなどが該当)以外にもバリューチェーン上にさまざまな企業が参入しています。(図:メタバースのバリューチェーン)

画像:メタバースのバリューチェーン

例えば、GUCCIやNIKEなどのIPホルダー※2は、メタバース空間内に自社エリアを構築し、オリジナルアイテムの販売や限定イベントを開催しています。また、メタバース広告を中心に手掛ける広告業者やアドテク業者、XRハードウエア開発業者、コンテンツ開発業者、ミドルウエア開発業者などの企業がメタバース関連のビジネスを展開しています。

※2 IPホルダー:ブランドやキャラクターなどの知的財産を保有する企業

特に、ラグジュアリー、アパレル、スポーツ業界を中心としたIPホルダーはマーケティング・PR・eコマースにとどまらず、メタバースを新たな収益源として見なし、NFTの活用を進めています。例えば、2021年12月にAdidasが30,000のNFT※3を販売後数時間で完売し、計2,200万米ドルを売り上げています。また、RobloxではGucciの限定デジタルバックが4,115米ドルで購入されるなど、メタバース空間でバーチャル商品が売買されることが一般化しつつあります。IPホルダーのポジショニングでメタバースを展開する上で、以下の3点が肝要となります。

※3 NFT: Non-Fungible Token(非代替性トークン)ブロックチェーン上で発行され、流通する、偽造不可な鑑定書、所有証明書付きのデジタルデータ

  • ブランド価値の維持・向上:
    ユーザーが自由に表現・交流できるメタバース空間で商品、イベント、店舗などを再現する場合、IPホルダー側でのブランドのコントロールが効きにくい状況になります。従って、IPホルダーは、ユーザーの表現・交流に一定の制限をかけるなど、リアル世界で積み重ねてきたブランド価値を損なわない仕組みの構築が必要です。

  • リアル世界との連動:
    リアル世界(Physical)とデジタル世界(Digital)における顧客行動の融合を意味する「フィジタル」という新たな単語が生まれており、2つの世界を連動させる仕組みが必要です。例えば、RobloxのNIKELANDでは、モバイル機器に内蔵された加速度センサーを使って、オフラインの運動の結果をオンラインのプレー(走り幅跳びやスピード走などの動きなど)に活用することができます。

  • コミュニティー形成:
    ユーザーの「生活の場」となるメタバース空間では、従来のマーケティングの指標である、認知度、コンバージョン率、顧客単価以上に、LTV(顧客生涯価値)が重要視されています。従って、IPホルダーは、プラットフォームの全体の顧客体験を設計するプラットフォーマーと連携しユーザーを退屈させない継続的なイベントの開催や、ユーザー同士が自然発生的にコミュニティーを形成するような仕掛けを構築する必要があります。例えば、最近注目が集まっている、ブロックチェーン技術を使ったコミュニティーであるDAO(自律分散型組織)もメタバース内で重要な役割を担うと考えられます。

ソニーグループ事業開発プラットフォーム新規事業探索部門コーポレートプロジェクト推進部小松正茂統括部長は、メタバースにおけるプラットフォーマーとIPホルダーとの連携におけるポイントとして以下を挙げています。

「IPホルダーにとって、新しい『生活の場』として発展するメタバースはユーザーとのエンゲージメントを高める有効な手段となると考えています。そしてそれは、IPホルダーにとって顧客との新しい接点となり、これまでと違うビジネスチャンスをもたらす『場』として発展していく可能性があります。空間と時間、ユーザー間で体験を共有する『場』においてどのように顧客と接点を作りエンゲージメントを高めるかについていくつかの先行事例が出始めていますが、まだ確立された手法はありません。プラットフォーマーはそれぞれ特徴ある顧客体験を提供して、ユーザーはその『場』で空間と時間を共有して楽しんでいます。IPホルダーはその特徴やユーザー属性を理解して顧客体験構築をしていく必要があります。

既に発表しているように私たちはイングランドプレミアリーグのManchester City Football Clubとのパートナーシップを通じてソニーグループ各社が持つテクノロジーとマンチェスター・シティが保有するグローバルIPを活用して、実世界と仮想空間を融合し、世界中のファンがチームを身近に感じることができる魅力的なコンテンツの開発や新たなファンコミュニティの実現に向けた実証実験を行っています。具体的には、マンチェスター・シティのホームスタジアムであるエティハド・スタジアムを仮想空間上にリアルに再現します。選手やチームを身近に感じることができ、またファン同士が交流できる仮想空間ならではの体験価値を創出します。世界中から集まったファンは、自由にカスタマイズ可能な自身のアバターを作成することでチームにかける思いや情熱を表現できるほか、エンゲージメントを高められるさまざまなサービスにアクセスすることが可能となります。ソニーはこれまでも音楽をはじめとした様々なエンタテインメントの分野においてテクノロジーを活用したファンエンゲージメントの向上に取り組んできました。メタバースの領域においてもIPホルダーとのパートナーシップを通じてエンタテインメントのノウハウとテクノロジーを活用したファンエンゲージメント向上につながるソーシャルエンタテインメント空間を作っていきたいと考えています。」

Ⅲメタバース参入に当たる要件

このように、すでに社会生活や産業、企業活動に大きな関わりを持つメタバースですが、今後企業が新規参入する場合、どのような点に留意すべきでしょうか。

メタバースは特定の成功者がおらず依然不確実性の高い領域です。一方、上述のいくつかのポジションにおいて一定の成果を上げている企業を分析すると、メタバースを事業として成立させるための、メタバース特有の7要件が浮かび上がります。

  1. 適切なポジショニング
    メタバースは過去のeコマース、AIなど、現在必要不可欠な領域の黎明(れいめい)期に近い存在であり、企業にとって無視できない存在である事ことが示唆されています。従ってあらゆる企業が、自社はメタバースのバリューチェーン上のどのポジションで参入が可能か、または新たなポジションがないか、現時点から検討し、社内体制を整える必要があります。

  2. メタバース人材の確保
    ポジショニングに関わらず、メタバース運営や関連ツールの開発に必要なメタバース人材の確保が必要です。特に、Unreal EngineやUnityなどのエンジン開発のエンジニアや、メタバース空間内のユーザーのマッチング機能などを開発するインフラエンジニアは専門領域が分かれるため、人材が不足している状況です。また、IPホルダーとの連携においては、各産業のナレッジも求められます。企業は、M&Aやヘッドハンティングを含めたこれらの人材の確保が求められます。

  3. 顧客体験設計
    メタバース空間からユーザーが得られる価値は、個別の体験ではなく、空間全体から提供される体験によるデジタル・アイデンティティーの確立です。リアルと同一のアイデンティティーなのか、リアルとは異なるアイデンティティーなのか、ユーザーによって求めるものは違いますが、企業は、おのおの空間内でのアイデンティティーの確立を支援することで良質な顧客体験を提供することが可能になります。このためには、イベント、ゲーム、アイテムなどのコンテンツ設計に加えて、不正や荒らしなどを防止するガバナンスの仕組みが重要です。

  4. 組織のアジリティ
    各メタバース空間でのユーザーの消費はイベントベースで行われます。スポーツであれば試合前後、音楽であればライブ前後の友人とのチャットやイベントに向けたスキンの購入などです。また、ブランドであれば、ファンは新製品発売と同時にメタバース空間でもオリジナルアイテムの発売を求めるかもしれません。このように、遅れが許されない状況やユーザーの要求に迅速に応えられるような、組織全体のアジリティの獲得が重要です。

  5. エコシステム形成
    メタバース空間での顧客体験提供、メタバース広告、課金アイテム、ゲームなどのマネタイズの仕組み作りには企画、開発、マーケティング、パートナリング、など多くのケイパビリティが必要です。これらを全て自社で保有することは困難なため、コアな部分は自社で保有しつつ、非コア部分は、他社とのパートナリングなどエコシステムの形成が重要です。例えば、Minecraftではグローバルで200以上の企業、個人と公式開発パートナーシップを締結、RobloxではUGCクリエイターとブランドをマッチングさせる仕組みを構築し、自社でのコンテンツ開発負荷を削減しています。

  6. 規制への対応
    バリューチェーンのポジションに関わらず、プライバシー、権利関連の規制、税務観点での対応が重要となります。
    • プライバシー:近年EUのプライバシーポリシーが厳格化しており、米国とEU間における個人情報移転への規制が再整備されており、MetaはFacebookやInstagramなどのサービスをEUから撤退する可能性にも言及※4しています

    • 権利関連の規制:リアル世界の商品の知的財産権を、バーチャル空間での侵害行為に及ぼすことができるのかが論点になっています。エルメスのハンドバッグである「バーキン」をモチーフにしたNFT「MetaBirkin」が、商標権侵害であるとして、エルメスはそのデジタルアーティストに対し訴訟を起こしました。

    • 税務:NFTによる売り上げやデジタルアイテムのトランザクションに対して税務観点での整備が進み始めています。2022年2月に、イギリスで「付加価値税詐欺(脱税)」の疑いでNFTと暗号資産が押収される事案がありました。
  7. マネタイズの仕組み
    現時点では、メタバース空間でのマネタイズモデルについて、一部ゲームなどの課金を除き開発・運営コストをペイできる程の確立されたものはありません。Robloxではマネタイズモデルを考える組織を専任で配置していますが、デジタル通貨やトークンなどの経済圏確立、NFTなど2次流通の仕組み、メタバース空間での広告価値検証、データの価値設計など自社ならではのマネタイズモデルの構築が重要です。

※4 Meta Platforms, Inc., Annual Report 2021, https://investor.fb.com/financials/(2022年6月28日アクセス)

小松氏は実行上の課題について以下のように捉えています。

「実行上の課題は、提供するメタバースの空間において、お客さまが繰り返し来てもらえるような体験を提供できるかです。NFTやデジタル通貨、トークンなどの仕組みも、その体験の構築の中で活用されることでマネタイズが可能になります。また、安心・安全なメタバース空間の提供のためのモデレーションなどのコストについても検討が必要です。メタバース空間に『場』を作る話にフォーカスが当たることがありますが、『場』を作ることよりもその場で行われる『体験』やその『運営』にマネタイズのヒントがあると考えています。」

Ⅳ 終わりに

本稿では、グローバルの先進事例分析や、実際のコンサルティング支援によって得た知見を基に、メタバースのビジネスインパクトと企業の参入要件を中心に考察しました。メタバースには、依然として確立されたビジネスモデルは存在しません。一方、過去のeコマースやAIがそうであったように、企業はいや応なしに参入が求められる可能性があり、現時点から、本稿で挙げたような参入要件についての準備が必要です。特に、必要人材の獲得、組織のアジリティなど、これまで日本企業が苦手としている領域が多く、日本企業はメタバース参入に向けた組織変革が求められることになります。

【共同執筆者】

田口 祐二朗
(EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社 テクノロジー/メディア・エンターテインメント/テレコムセクター シニアマネージャー)

梁 之誠
(EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社 テクノロジー/メディア・エンターテインメント/テレコムセクター マネージャー)

瀧波 洋平
(EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社 テクノロジー/メディア・エンターテインメント/テレコムセクター マネージャー)

※所属・役職は記事公開当時のものです。

サマリー

メタバースは、これから私たちの生活やビジネスに大きなインパクトをもたらす可能性があり、企業は参入の準備をしておく必要があります。メタバースには、依然として確立されたビジネスモデルは存在しませんが、EYは先行事例などからの考察をもとに、参入に必要な7つの要件を抽出しました。

この記事について

執筆者 三浦 貴史

EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社 テクノロジー/メディア・エンターテインメント/テレコムセクター パートナー

Japan TMTセクターにおいて、デジタルを活用したビジネスモデルおよびオペレーションの変革を支援。