8 分 2022年4月4日
製造業のレジリエンスを強化するデジタルソリューションの4つの活用法

製造業のレジリエンスを強化するデジタルソリューションの4つの活用法

執筆者 Craig Lyjak

EY Global Smart Factory Leader

Operational Excellence thought leader. Digital innovator. Passionate developer of people. Foodie. Father.

EY Japanの窓口

EY ストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社 サプライチェーン&オペレーションズ パートナー

製造業・流通業に対しSupply Chain Transformationのソリューションをリード。趣味はサーフィン。

8 分 2022年4月4日

デジタルソリューションは、製造業に必要なレジリエンスの構築を促進します。

要点
  • EYスマートファクトリーの基盤となるデジタルソリューションにより、コネクティッドされ集中管理されたシステムの中でグローバルなオペレーショナルエクセレンス・プログラムを促進します。
  • 熟練者のナレッジ(知見やノウハウ)が蓄積されたデータベースにインテリジェンスを適用することにより、現場作業員による適切な情報へのアクセスを容易化できます。
  • コントロールタワーは、可視性の提供だけでなく、高度なAI(人工知能)やアナリティクスを活用することで、さまざまなシナリオの迅速なシミュレーションやモデリングを可能とします。

 EY Japanの視点

日本では、労働人口の減少や日本製造業の成長を牽引してきた世代の高齢化に直面しており、脱熟練者依存に向けて、重点工程の自動化や知識・スキル継承におけるデジタル活用が進められています。

一方で、コロナ禍において、有識者が出勤できず生産が滞る、日本から生産準備の海外出張が行えず上市が遅れる、生産維持のために現場作業者の出社は止められない等、「人依存の生産力」の新たな課題が浮き彫りになりました。

これらの解決に向けては、個々の工程や拠点の自律的改善活動を継続すると共に、本社主導のセンターオブエクセレンス(CoE)オペレーションを獲得し、グローバル全体での変化対応力と生産性を向上させる必要があります。

デジタルソリューションの活用は

  • リーンな標準オペレーションを各拠点に導入し、デジタルツイン上での現場の見える化と各種シナリオのシミュレーションやモデリングで意思決定を迅速化
  • 知識やスキルを形式知化し、グローバルで人材育成や作業支援に活用し、リソース弾力性を向上
  • 現場自律改善活動のデジタル化推進とグローバルノウハウへの昇化による改善効果の最大化

といった効果に期待がもてます。

EY Japan の窓口

EY ストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社
サプライチェーン&オペレーションズ
パートナー 平井 健志
シニアマネージャー 杉浦 紫乃

 

製造業は、新型コロナウイルス感染症(以下、COVID-19)の感染拡大によるビジネスへの影響に対処すべく、さまざまな対応策を模索しながら取り組みを進めていますが、製造オペレーションのレジリエンスの重要性がこれほどまでに顕著になったことはありませんでした。もちろん、コロナ禍以前においても、製造業においては人材の確保、ならびに災害等による混乱からの対応力を強化する必要性は認識されていました。

そうした中で注目され始めたのがデジタルテクノロジーです。デジタルテクノロジーは、製造業が、パンデミックや自然災害などの予期せぬ出来事や、深刻な人材の不足といった組織的問題などの大きな課題に直面する中で事業継続性を担保するための強力なツールとして期待されています。スマートファクトリーの基盤となるデジタルソリューションは多数あり、それらを活用すれば、災害等による混乱やディスラプション(創造的破壊)による影響を最小限に抑えるために必要なレジリエンスを構築できるだけでなく、危機的状況下でも効率的なオペレーションを維持することが可能になります。デジタルソリューションの主要な活用法としては、以下の4項目が挙げられます。

  • 熟練者のナレッジのデジタル化
  • 熟練者ナレッジへのアクセス容易化
  • 意思決定の迅速化
  • プロセスの最適化


熟練者ナレッジのデジタル化

伝統的なモノづくりの現場では、今もなお、暗黙知が色濃く残っています。これは、ノウハウの属人化であり、熟練者が長年の経験で培かったナレッジ(匠の技能)は文書化されず、一定の実技指導や日々の作業の様子を見せる形で伝承されます。こうした慣習が定着している場合、企業は熟練者のノウハウや専門領域に対する知見を広く活用することができないだけでなく、熟練者が退職すると同時にナレッジも失ってしまう恐れがあります。

熟練者のナレッジを文書化する試みは製造業の間で始まっていますが、文字情報中心であることが多く、必ずしも最も効果的で効率的なアプローチを取っているとは限りません。例えば、作業標準書を作成する場合、熟練者は、自身が培ったノウハウや知見を他の現場作業員が活用できるように、作業方法を文書にまとめるよう依頼されます。しかし、有益な情報を漏れなく、かつ、読む気を削がないボリュームで簡潔に記載するのは簡単なことではありません。

さらに、この分野の熟練者は、現場で機械を操作しているほうがはるかに本領を発揮できるものです。通常業務の一環でこうした内容の文書を作成することに慣れているテクニカルライターではないため、わずか一ページの文書でも、書き終えるのに数時間かかってしまうかもしれません。そうなると、熟練者は作業標準書の作成を楽しめず、負担に感じるようになってしまい、彼らの時間も能力も最大限に活用できているとは言えません。さらに言えば、コンピューターと格闘している数時間の間に、熟練者はさらなる製品を生み出すことができたかもしれません。

デジタルを活用すれば、暗黙知を容易かつ効果的に取り込み、形式知に変換することができます。こうして形式知化された熟練者のナレッジを組織全体で広く活用することで、組織知化することが可能になります。現在、ビデオ、オーディオ、文書、Webカメラ画像、スクリーンキャプチャ画像、ハイパーリンクなど、さまざまなコンテンツを提供する安全で構造化されたデータベースを備えたマルチメディアプラットフォームが利用可能であり、これらを活用すれば、どんなナレッジも簡単に形式知に落とし込むことができるため、手入力で文書を作成する必要はなくなります。

例えば、熟練者は、機器の部品交換の方法を何時間も苦心しながら文書化する代わりに、作業の様子を動画に収めて、部品交換の完了とともに撮影を終え、後はプラットフォームに動画をアップロードするだけで済みます。EYの経験値によると、デジタルツールを活用すれば、ナレッジの取り込みに必要な労力を一般的な作業であれば80%以上、単純な作業であれば95%以上軽減できると見込めます。


熟練者ナレッジへのアクセス容易化

製造現場で問題が発生した場合、作業員は熟練者のサポートが頼りになります。しかし、熟練者が病気で休んでいたらどうすればよいでしょうか。他の誰に連絡すればよいでしょうか。別の熟練者と電話で連絡が取れた場合、どのように協力を仰ぐのが最善でしょうか。

大手製造業の現場で問題が発生した際には、「どんな情報が必要なのかわからない」、「熟練者となかなか連絡が取れない」、「そもそも誰に連絡したらよいのかわからない」といった作業員のサポート体制に関する声がよく聞かれます。熟練者のナレッジがデータベースに適切に格納されていれば、作業員は必要な情報を必要なタイミング・場所で入手できるようになります。

ナレッジトランスファーが必要とされる作業は、通常、以下の3のタイプに分けられます。

  • 定型・定常作業:本タイプは、組織の標準業務の一環として予測可能な頻度で発生する反復的な作業です。こうした作業には、タスク通知と連動した簡易なマルチメディア形式の作業手順書を提供できます。
  • 定型・非定常作業:本タイプは、段取り替えや品質検査などの比較的複雑な手順を要する作業です。定型作業であるため、作業標準は設定されていますが、簡易なチェックリストを使用する場合がほとんどです。事前にビデオ(将来的には、仮想現実など)で学習して知識を補うことができます。
  • 非定型・非定常作業:本タイプは、まれに発生するイベントへの対応であり、関連の標準書などはほとんど整備されていません。こうした作業には、構造化・非構造化データベースや、問題解決の手順を示すデジタルワークフローが最適です。

熟練者のナレッジを格納するデータベースにインテリジェンスを適用すれば、作業員は膨大なデータから手探りで検索しなくても適切な情報を容易に入手できるようになります。また、問題解決や疑問点解消の手がかりとなる文書やビデオを見逃す可能性もなくなります。人工知能(AI)は、一種の「デジタルコーチ」として機能し、膨大な量の構造化・非構造化データを迅速かつ効率的に照会して、熟練者の専門的知見やノウハウをユーザーに適切に提供できるため、作業員は熟練者に直接にコンタクトを取らなくて済みます。こうしたAI機能を活用すれば、熟練者のデータ化されたナレッジを作業員の手元に届けることが可能になり、全ての複雑なデータをユーザーが利用できる情報とする為に膨大な時間とコストを掛ける必要がなくなります。

しかし、熟練者に直接連絡を取る必要性が完全になくなることはなく、時には熟練者に直接に指示を仰ぐ必要も出てくるでしょう。そのよう時のために、データベースに熟練者リストを保存することで、作業員は自身が必要とするナレッジを有する熟練者を素早く特定して連絡を取り、リモートでサポートを受けることが可能になります。そうしたコミュニケーションの一助となるのがシンプルなビデオチャットやMicrosoft Teamsなどのツールです。こうしたツールを使えば、作業員は、問題となっている部分を自身のスマートフォンのカメラで映し熟練者に状況を見せながら、対処方法について指示を受けることができます。

将来的には、AR(拡張現実)やVR(仮想現実)がビデオチャットに取って代わるかもしれません。例えば、Microsoft HoloLensなどの複合現実デバイスを使用すれば、熟練者は自身の現場を離れることなく、さまざまな工場や地域の作業員を指導・支援することも可能になるでしょう。複合現実プラットフォームに熟練者のイメージが実物のように映し出されるため、彼らのナレッジがさまざまな現場で広く活用されることが期待されます。


意思決定の迅速化

COVID-19危機では、レジリエンスの一側面として「スピード」の必要性が浮き彫りになりました。ディスラプションの時代には次に取るべき行動の決断に時間をかける余裕はなく、一刻を争う対応が求められることが頻繁にあります。ディスラプションの波を乗り越えられるか、それともその波に飲み込まれてしまうかは、適切な意思決定を迅速に行うことができるかどうかによります。スピード感のある意思決定は、大きな価値の創出や市場への大きなインパクトにつながります。例えば、医療従事者向けのマスクや防護具の製造に関する決断は、実際に市場に変化をもたらすでしょう。

そこで登場するのがコントロールタワーの概念です。コントロールタワーの真髄は強力なダッシュボード機能であり、意思決定者がビジネスの状態を把握し適切な意思決定を行うために必要なすべての主要データや指標を完全またはほぼ完全に可視化します。Microsoft Power BIなどのツールの力を活用すれば、原材料や部品の調達、仕入先、在庫、顧客需要、設備稼働率、在庫管理単位(SKU)あたりのコストと利益などの状況をリアルタイムで包括的に把握することが可能になります。これらの可視性の確保は、平時はもちろんのこと、COVID-19危機のように製造業の即応性が求められる出来事が発生した場合などには極めて重要です。

しかし、どんなに多くの重要なデータにアクセスできたとしても、そのデータが整理されていなければ、意思決定者は対応の方向性を見極めるのに時間がかかるだけでなく、その方向性は最適ではないかもしれないというリスクを伴います。そのため、コントロールタワーは可視性を提供するだけでなく、統合ビジネスプランニングを推進する真の意思決定をサポートします。高度なAIとアナリティクスを適用すれば、コントロールタワーは、関連データの統合だけでなく、さまざまなシナリオの迅速なシミュレーションやモデリングが可能になります。また、コントロールタワーは、意思決定者が考慮すべき最適化オプションを、製造ライン、施設、全社などの各レベルで提案することもできます。

このような意思決定支援ツールを活用すれば、製造業はより自己完結型でアジャイルなチームを構築できます。例えば、経営陣は、各組織が独自に意思決定してよい領域を見極め、ビジネス上の選択で必要となる関連情報を提供することができれば、承認プロセスを省き、より迅速な意思決定を加速化させることができます。


プロセスの最適化

ディスラプションに直面している時には、さまざまなプロセスにおいて柔軟性と即応性が求められます。ある特定の港が使用不可になってしまった場合、企業のオーダーへの対応能力にどんな影響が及ぶでしょうか。いつも使用している原材料が調達できず、代替原材料を使用しなければならなくなった場合、製品の品質はどう変化するでしょうか。2つの工場を閉鎖しなければならなくなり、その両工場の製品を他の工場でまとめて生産しなければならなくなった場合、全体の歩留まりにはどのような影響が出るでしょうか。そして、こうした事態は顧客需要への対応能力にどんな影響をもたらすでしょうか。

デジタルツインの概念を取り入れることで、プロセスにおけるレジリエンスの確立と継続的な最適化を図ることができます。デジタルツインという言葉は多くの製造業が知っているでしょう。しかし、その定義は曖昧かつ非常に広義であるため、必ずしも正確に理解されているとは限りません。例えば、ラップトップ上に映る生産ラインの画像はデジタルツインではありません。最も基本的なデジタルツインとして、物理的な資産やプロセスのデジタルあるいはバーチャルモデルが挙げられます。平時では、Microsoft Azure IoT Edge、Azure IoT Hub、Azure Cognitive Servicesなどのツールを使用してオペレーションのさまざまな側面を継続的に監視・分析することにより、潜在的な問題を特定し問題が表面化する前に是正(これにより、ダウンタイムを回避)することができます。こうしたデジタルツインの自己監視・自己修復のケイパビリティにより、プロセスの整合性とスループットはほぼ自律的に最適化され、これまでのように経験豊富な熟練者によるトラブルシューティングに依拠せずとも問題を解決することが可能になります。

しかし、デジタルツインの機能はこれだけに留まりません。さらに重要なデジタルツインの機能として、計画的あるいは予期しないさまざまな変化がもたらし得るオペレーションへの影響を見極めることができます。例えば、製品の主要原材料を突然調達できなくなり、その状態が数カ月間続いているとします。そうした場合、製造業は、その製品を再開発するか、それとも他の原材料を代用するか選択を迫られます。短い時間の中で決断するにあたって、デジタルツインを活用して、代替原材料の複数の候補について製品(および価格)に与える影響を仮想モデル化し最も混乱の少ない最適な選択肢を見極めることができれば、異なる原材料を使用した場合のリスクを最小限に抑えることができます。

モデリングとシミュレーションは、未来の工場においてコアとなる考え方です
Neal Meldrum氏
Microsoft社ビジネス・ストラテジー・マネージャー

Microsoft社ビジネス・ストラテジー・マネージャーのNeal Meldrum氏は、次のように述べています。

「モデリングとシミュレーションは、未来の工場においてコアとなる考え方です。デジタルツインは、製造を本稼働する前に設備資産やプロセスのアジャイル検証を可能にする強力なドライバーです。EYは、複雑なデータオントロジーの迅速な構築とデジタルツイン導入を促進するためにAzure Twinsプラットフォームを活用しています」

さらに、Microsoftでは、デジタルモデルの構築を実現する新サービスとして、データサイエンティストが作成したデジタルモデルを、データサイエンスに関する高いスキルがなくても少しずつ微調整し改良することができるソリューションを提供しています。このサービスを利用することにより、製造工程のオペレーターは当初は予定していなかった事象を自身でモデルに織り込んだり、より関連性の高い新しいデータを活用したりすることが可能になります。これは、デジタルツインのスケーラブル化の観点から、非常に重要なブレークスルーと言えます。

もちろん、デジタルツインの導入によるこうした課題への対処は、一朝一夕にできるものではありません。(多くの製造業ではほとんど保有していない)膨大な量の過去データが必要であるとともに、データサイエンティストによるモデルの構築および指導のための時間が必要です。つまり、デジタルツインの活用を実現するには、強いコミットメントと粘り強く取り組む根気が不可欠となります。しかし、そうした取り組みの先には、物理的な自動化技術の進歩とともに適切にナレッジが蓄積・共有され、最終的にはタッチレスな製造オペレーションの実現を目指す強固なレジリエンスを備えた最適化されたプロセスがあります。

製造業のレジリエンスを強化するデジタルソリューションの4つの活用法

  • ナレッジの取り込み
  • ナレッジへのアクセス
  • デジタルツイン
  • コントロールタワー
Four ways to use digital to strengthen manufacturing

さらなる取り組み

製造業は今、自社のオペレーションにとってレジリエンスがどれほど重要であるか改めて実感しています。COVID-19による直接的および長期的な影響が、各社のレジリエンス強化に向けたデジタルソリューションの適用方法と適用領域を検討する上で大きく関わってくることは間違いないでしょう。EYでは、引き続きこの重要なトピックにさらに踏み込み、ブログを通じてインサイトを発信してまいります。その第一弾として、製造業界のリーダー企業では熟練者の暗黙知を全社的に享受するためにどのような取り組みを行っているのか、複数の事例を挙げながら掘り下げて見ていきます。

サマリー

デジタルテクノロジーは、製造業がパンデミックなどの大きな出来事に直面する中で事業継続性を担保するための強力なツールとして注目されています。EYスマートファクトリーの基盤となる多数のデジタルソリューションを活用することにより、製造業はディスラプションによる影響を最小限に抑えるために必要なレジリエンスを構築できるだけでなく、危機的状況下でも効率的なオペレーションを維持継続することが可能になります。

レジリエンスを強化するデジタルソリューションの4つの活用法は、以下のとおりです。

  • 熟練者ナレッジのデジタル化
  • 熟練者ナレッジへのアクセス容易化
  • 意思決定の迅速化
  • プロセスの最適化

この記事について

執筆者 Craig Lyjak

EY Global Smart Factory Leader

Operational Excellence thought leader. Digital innovator. Passionate developer of people. Foodie. Father.

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製造業・流通業に対しSupply Chain Transformationのソリューションをリード。趣味はサーフィン。

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