教育、トレーニング、創造性、連携はどれも、成長がデジタルに左右される労働市場に組織が備えるための要素です。
3. 教育に重点を
Alexander Riedl氏の視点
欧州委員会通信ネットワーク・コンテンツ・技術総局(DG CONNECT)デジタル・スキル&エコノミー・ユニット副ユニットヘッド
1962年に英国のSF作家、Sir Arthur C. Clarkeが指摘したように、素人の目には「優れたテクノロジーは魔法と区別がつかない」のです。魔法が支配する職場環境では、常識は通用しなくなります。そこで、AIを利用する企業は、ロジックの基本的な理解を求めるようとしています。
企業は自社のニーズに合う完璧なスキルを持った、外部からの候補者の採用を当てにするべきではありません。企業はむしろ、実習制度やインターンシップを通じて若い人材を教育するとともに、現在の労働力の再教育とスキルアップを図らなければなりません。
多くの場合、その方がコストも時間もかかりません。また新しい技術の受容も円滑に進み、ディスラプションのリスクを低減させることができます。先見の明がある企業は、スキルとトレーニングのニーズを大いに予期しています。このような企業は既存の労働力を維持するだけでなく、必要な人材を確実に引き付け、維持し、育成するための人事戦略を適応させます。
組織が正しい道を進むには
第一に現状(ニーズ、オファー、ミスマッチ、ギャップ)を分析し、理解し、今後の展開を予想しましょう。
第二に、公共政策担当者と教育機関は「ロードマップ」を考案することが必要です。ここで言うロードマップとは、トランスフォーメーションに対処し、対策の優先順位と対策に向けた道筋を決定するためのプロセスとスケジュールを意味します。米国のジョン・F・ケネディ元大統領の言葉を借りてわかりやすく言い換えると、教育制度自分のために何ができるのかではなく、自分が教育制度のために何ができるのかを問いかけるということです。
企業は実習制度やインターンシップを利用して若い人材を教育するとともに、現在の労働力の再教育とスキルアップを図るべきです。
全関係者(企業、教育・研修プロバイダー、政府)が決断力をもってアクションを起こすことで、生涯を通じた学習サイクルを強化し、結果として経済全体のパフォーマンスを高めることができます。
4. 人的資源の未来はデジタルであることを認識する
David Storeyの視点
Partner EMEIA Talent Lead, People Advisory Services
デジタルトランスフォーメーションの成否は、適正な規模、形、スキルにかかっています。HR部門は将来的な労働力ニーズを計画し、そのニーズを満たすために社員、請負業者、パートナーの能力を開発し、追跡し、活用しなければなりませんが、どちらも手間のかかる課題です。
デジタルはビジネスを変化させると同時に、HRの世界においては進歩の中心でもあるという点は明るいニュースです。
技術に明るい部門は従来クラウドベースのシステムに投資しています。それに付随して大量のデジタルHRアプリケーションが市場に流入しました。データ解析は現社員についてより深い知見を生み出し、潜在的な能力に基づいて人材プールを開発するための新たな手法を用いて、現在のニーズと予想されるニーズをマッチさせることが可能になりました。
同様に、戦略的人員配置計画を使って能力「ヒートマップ」を引き出し、予想されるライフスパンで現在の役割を分割することができます。これによって企業はタイムリーな人材介入を計画し、社員の再教育、採用戦略の調整、スキルギャップを埋めるために必要な投資の数量化を行うことができます。
デジタルは課題であると同時に解決策でもあります。
David Storey
Partner, EMEIA Talent Lead, People Advisory Services
ピープルデータをピープルインサイトに変換し、それに基づいて行動するためには、HRプロフェッショナルの新しいスキルセットが必要です。HR部門が、より広範なビジネスのためにデジタルスキルの採用に集中するのと同じように、HR自体のデジタル人材ベースを進化させなければなりません。
デジタルは課題であると同時に解決策でもあります。そしてデジタルの中心的な使命は、進化する仕事の世界の中で人間のポテンシャルを開花させることなのです。
5. スタートアップ・エコノミーのためのトレーニング
Bruno Lanvin氏の視点
インシアード(INSEAD)社グローバル・インダイス担当エグゼクティブ・ディレクター
「継続学習」が未来の全労働者の合言葉になることは間違いありません。人間が機械との競争に勝とうとするのであれば、四つの基本的能力を身に付け、開発し、育てる必要があります。複雑な業務を克服し、創造性を備え、上手にコミュニケーションを図り、円滑な調整を行うことができなければなりません。
企業は社員の継続的なスキルアップを図れるように、独自の社内生涯教育・開発プログラムとツールを開発する必要があります。また、教育機関と密に協力し、将来の新入社員に「採用に値するスキル」を身につけさせるための適切なカリキュラムを考案しなければなりません。企業が最高の人材を引き付け、動機付けをしたいのであれば、同時に、モビリティとダイバーシティーを受け入れることが必要です。
企業が最高の人材を引き付け、動機付けをするためには、モビリティとダイバーシティーを受け入れることが必要です。
しかし独立のプロフェッショナルや、社内でトレーニングを提供できない中小企業の管理職・社員はどうすればよいのでしょうか。スタートアップ企業の創立者や、ますます増加する「ギグエコノミー」のフリーランサーはどうでしょうか。
政府や教育・トレーニング機関も生涯教育コースを開発する必要があります。企業の社員だけでなく、いわゆる「フリーエージェント」にも焦点を当てなければなりません。給与労働者を教育する責任は雇用主が負いますが、その他の人は誰が教育するのでしょうか。
どうすればフリーエージェントにスキルアップや再教育への動機を持たせることができるでしょうか。私たちは再教育についてさらに前向きなメッセージを必要としています。さらなるキャリア開発・人材開発の機会として、そのメッセージを発信していかなければなりません。
6. テクノロジーは友であり、敵ではない
Steven Bainbridge氏の視点
欧州職業訓練開発センター(Cedefop)エキスパート
技術の急速な進歩が、生産と労働のパターンを多様化させています。この5年の間に、欧州連合域内の被雇用者の 43%が使用する技術を変更しました。また、47%は職場組織の変更を経験しています。
企業が労働者を資本で代替するとき人々は失業を恐れます。また特殊な業務が所得のボラティリティを高めるとき、彼らは不平等を恐れます。
中程度のICTスキルを使う仕事には、補完的に高度な識字能力、計算能力、プランニング、問題解決、そして時には外国語のスキルも必要です。テクノロジーはタスクを実行し、データを収集できますが、どのタスクかを決定するのは人間であり、データを解釈するのも人間です。パブロ・ピカソが言ったとされるように、コンピューターなど「役に立ちません。答えを出すだけなのですから」
テクノロジーを活用するためには、高度なスキルを持ち、高度な教育を受けた人たちが必要です。しかし、テクノロジーはスキルの陳腐化を加速させます。企業は労働者を機械に置き換えるのではなく、テクノロジーを使って生産性を高める必要があります。
技術が進歩した結果、失業者の溢(あふ)れる不平等な社会がどの程度生じるかは、人工知能ではなく人間次第です。
政府機関も企業も、高度なスキルを持つ労働力を拡大し、デジタルデバイドの裏側にいる人たちを支援するために、教育とトレーニングの方向を転換する必要があります。そのためには投資を行うこと、そして、経営者、ソーシャル・パートナー、教育機関、政府機関の間に新たな連携を築き、テクノロジーだけでなく人材への投資も併せて促進することが必要です。
技術が進歩した結果、失業者の溢(あふ)れる不平等な社会がどの程度生じるかは、人工知能ではなく人間次第です。
7. 思いやり・共感・創造性を併せ持つ
John Marshal氏の視点
アデコ・グループAG、北米ヘッド
ロボットがいくら高性能になっても、思いやり、共感、創造性を持つことはできません。しかし、これらのスキルは職場環境の成否を握る鍵なのです。回答者の86.8%が、人間の方が機械よりも優れている職種が、いつの日も必ずあるだろうと考えています。今後10年間、人間が機械より優れていると回答者が考えるスキルは、思いやり(67.3%)と創造性(65.6%)です。3
それでも、未来の職場で自動化されたシステムを維持するためには、技術的スキルが不可欠です。私たちには、テクノロジーを創造し、プログラミングし、修正し、維持するための適正なスキルを持った人材が必要になるでしょう。今日の市場は、開発者とエンジニアに関してすでに深刻な人材不足に陥っています。継続教育では、数学と科学の課程の履修が依然として低調です。つまり、この不足状態はさらに悪化するでしょう。
多様な労働力は問題解決に役立ち、顧客基盤のより深い理解につながることがわかっています。
被雇用者の皆さんは今、組織がスキルセットの開発に投資することを期待し、会社が費用負担する語学教室のような人材開発の機会を求めています。
加えて、世界の環境意識、倫理意識はますます高まっています。その結果、人材を引き付ける上で、雇用者の社会的責任方針の質がこれまでになく重要になってきました。企業は将来の労働市場への準備にますます気を配るようになり、多くの企業が地元の教育プロバイダーと連携しています。地元の若い人材に投資することだけでなく、明日の労働市場において若者が自分の未来をどう思い描いているかを知ることも目的の一つです。
最後に、多様な労働力は問題解決に役立ち、顧客基盤のより深い理解につながることがわかっています。今、多様な労働力を擁する企業が最も成功に近い場所にいると経営者の69%が考えています。
8. 企業家・成人とデジタルオポチュニティーをつなぐ
Véronique Willems氏の視点
欧州手工業・中小企業連合会(UEAPME)事務局長
今や基本的なデジタルスキルは、計算能力や識字能力と同じく必須能力になっています。これからは、問題解決、コミュニケーション、学び方の学習、イニシアチブ、クリティカルシンキング(批判的思考)のようなキーコンピテンシーに重点を置くべきです。
未来の労働者は、PCとインターネットの使い方、責任を持ってソーシャルメディアを扱う方法、そのポテンシャルをマーケティングに活用し、ウェブサイトを構築する方法を知らなければなりません。また多くの労働者は、コーディング、ビッグデータの使い方、ソフトウェアのプログラミングと設計、機械学習とAIの使い方を学び、サイバーセキュリティを維持しながらEサービスやEファイナンスを活用する必要があるでしょう。
今や基本的なデジタルスキルは、計算能力や識字能力と同じく必須能力になっています。これからは、問題解決、コミュニケーション、学び方の学習、イニシアチブ、クリティカルシンキング(批判的思考)のようなキーコンピテンシーに重点を置くべきです。
次のような幅広い視野で、これらのデジタルスキルを強化することが必要です。
- 企業とITコンサルタントの間のサービスレベル契約を理解する
- 製品販売にあたり、デジタル・プラットフォームを利用する機会を意識する(例:デリバリーサービス)
デジタルスキルのトレーニングは若者だけに焦点を絞るべきではありません。企業家や成人もまた、「デジタルハイウエーとつながり」、地域と企業の分離を防ぐためのデジタルスキルを必要としています。また、デジタルスキルの排除も防がなければなりません。
教育の進路やコースを通じて、アントレプレナーシップとイニシアチブの意識を中心に据えるべきです。
あらゆるレベルの立法者、公的職業安定機関、セクター、個人、執行者、政策担当者が、デジタル・トランジションにおいて、テクノロジーへのアクセス、スキルへのアクセス、データへのアクセス、イノベーションへのアクセス、そして成長機会の面で、公平な競争の場を形成しなければなりません。
ここに成果が証明されている解決方法が一つあります。それは、同じ分野の企業間の協力とプーリングです。こうした協力は中小企業間の場合もあれば、同じバリューチェーンに属する中小企業と大手企業の間で行われる場合もあります。
サマリー
欧州の各国、政府、企業、教育機関が一丸となり、欧州大陸のデジタル成長のポテンシャルを開花させ、より明るい未来を確実に手にするために必要な人材を開発することが可能です。