2021年6月4日
バーゼルⅢ流動性リスク管理強化――金融機関に今必要な態勢強化策とは

バーゼルⅢ流動性リスク管理強化――金融機関に今必要な態勢強化策とは

執筆者 緒方 兼太郎

EY ストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社 金融サービスリスクマネジメント パートナー

金融セクターのアドバイザー。ワークライフバランスを推進。

2021年6月4日

国際統一基準行においては、2015年3月31日から適用されているバーゼルⅢ流動性規制の流動性カバレッジ比率に加え、2021年9月30日から安定調達比率が適用されることとなり、両指標の内部管理、データ整備・システム整備などの重要性が増しています。

要点

  • 国際統一基準行においては、2015年3月末より適用されている流動性カバレッジ比率に加え、2021年9月末より安定調達比率が適用されることとなる。
  • 流動性カバレッジ比率および安定調達比率の計測に当たり、さまざまな態勢の高度化が必要となる。

バーゼル銀行監督委員会(BCBS)は、2010年12月に銀行セクターの強靭性を高めることを目的として、資本・流動性規制を強化するための改革を打ち出しました。バーゼルⅢでは流動性管理の枠組みのさらなる強化として、銀行が流動性リスクに対する短期的・長期的な強靭性を高め、将来の流動性リスクを削減するという目的を達成するために、資金流動性に係る2つの最低基準が策定されました。流動性カバレッジ比率(Liquidity Coverage Ratio:LCR)と安定調達比率(Net Stable Funding Ratio:NSFR)です。

本邦では、国際統一基準行に対して、2015年3月31日からLCRが適用されており、2021年9月30日からはNSFRが適用されます。金融庁は2020年末のパブリックコメントの募集を経て、2021年3月31日には、流動性比率規制に関する告示等の一部改正を公表しました。ここで改めて、両指標の概要を確認するとともに、その計測に係る態勢高度化のために検討すべきポイントをご紹介します。

まずLCRは銀行が高品質な流動資産を十分に保有し、1カ月間のストレス下での資金流出に耐える力を持っていることを示します。LCRは以下の計算式で求められます。

「適格流動資産(HQLA)」は、流動性ストレス時においても大きく減価することなしに換金できる資産であり、区分ごとに異なる掛け目を乗じて計算されます。
「30日間のストレス期間のネット資金流出額」は30日間の特定のストレスシナリオにおいて、予想される累積資金流出から累積資金流入を差し引いたものと定義されます。それぞれ基準日から30日を経過する日までに、累積資金流出は、弁済期限が到来するホールセール調達やリテール預金などについて、累積資金流入は弁済期限が到来する貸出やレポ運用などについて、区分ごとに算入率を乗じて算出します。計上できる累積資金流入の額は累積資金流出の75%が上限額となります。

次にNSFRは銀行が、市場流動性が低く実質的には長期資産とみなし得る資産を保有する場合、その裏付けとして対象期間1年の間十分に安定的な資金調達により流動性を確保することで、資産・負債が持続可能な満期構造を保っていることを示します。NSFRは以下の計算式で求められます。

「利用可能安定調達額(ASF)」は自己資本や預金といった銀行の調達手段(負債)の区分ごとに、算入率(ASF掛け目)を乗じて算出します。ASF掛け目は、契約の満期日や資金提供者の資金引き揚げ意向といった個々の金融機関の資金調達源の相対的安定性を踏まえて決定されます。
「所要安定調達額(RSF)」は貸出や適格流動資産(HQLA)の区分ごとに算入率(RSF掛け目)を乗じて算出します。長期の貸出や処分制約のある資産に対し高い算入率が設定されています。

LCRおよびNSFRの計測における留意点として、以下のような事項を検討すべきと考えられます。

共通するポイントとして、資産・負債の満期を適切に判定する態勢を整備することが重要となります。残存期間により規制上の計測方法・計上箇所が異なるため、満期日に関する情報を取得の上、満期日調整を行うとともに、満期の定めのない場合には個々に取り扱いを整理することが求められます。また、担保の設定状況によって計上区分が異なることから、担保授受を追跡できるよう、システム上の対応を行う必要があります。
さらに、顧客情報など必要な情報を入手できない場合や各種判定が不可の場合には、適切な補正を行うなどの対応が必要になります。

LCRの計測においては、システム上の元本・利息のキャッシュフロー計算の有効性の確認が重要になります。また、デリバティブ取引については、30日間のキャッシュフロー算定方法の検討と担保勘案効果の整理、シナリオベースの資金流出額の整理が求められます。加えて、グループ会社が多い場合には自由移動性を考慮するための仕組みを検討することが期待されます。

NSFRの計測においては、掛け目を適切に決定することが重要になります。特に資産の処分制約期間の確認や貸出金の判定が課題となることが考えられ、資産の処分制約期間の確認については、RSFの計測において資産の処分制約の有無、処分制約期間の割り当てルールの検討が必要になり、また、貸出金については、バーゼルⅡの自己資本比率規制上の標準的手法におけるリスクウェイト、残存期間、処分制約の有無を踏まえて、判定を行う必要があります。さらに、IFRS導入計画がある場合には、それを踏まえた計測方法を構築する必要があります。

実務上の留意点としては、以下のような事項を検討すべきと考えられます。

第一に、計測に当たり、網羅的に計測対象を捕捉するためにシステムを含めた適切な突合などを行うとともに、ヒューマンエラーなどの誤計測防止を含めた計測方法を定期的に検証することが求められます。また、マニュアルで行う難易度が高く、比率改善効果の低い補正作業は、その補正の要否を検討することも考えられます。
さらに、連結ベースの集計のために連結子会社の情報の収集や内部取引を控除する仕組みや新商品がLCRやNSFRの計測に適切に反映されているか判断する仕組みなどが必要になります。

第二に、管理態勢の高度化のためには、各取引がLCR、NSFRにどのように影響しているかを分析し両指標のコントロール・事業計画策定などに活用するための仕組みを構築することが必要です。リスクアペタイト指標として管理することや、拠点別LCR・NSFR、通貨別NSFRなどを分析し内部管理に活用することが考えられます。

 

流動性リスク管理態勢の整備に当たり、EYでは下の図のようなフレームワークを構築しています。

【共同執筆者】

武田 光司
(EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社 FSRM シニアマネージャー)

※所属・役職は記事公開当時のものです。

サマリー

バーゼルⅢの流動性リスク管理として、国際統一基準行においては、2015年3月末より適用されている流動性カバレッジ比率に加え、2021年9月末より安定調達比率が適用されます。両規制に関して、指標の計算に必要となる検討ポイントとともに、流動性リスク計測態勢の高度化のために検討すべきポイントを紹介します。

この記事について

執筆者 緒方 兼太郎

EY ストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社 金融サービスリスクマネジメント パートナー

金融セクターのアドバイザー。ワークライフバランスを推進。