2020年5月20日
水素エネルギーの灯が照らす未来

新型コロナウイルス感染症危機後の「新しい働き方」に向けた安全衛生面に必要な対応とは

執筆者 EY 新日本有限責任監査法人

グローバルな経済社会の円滑な発展に貢献する監査法人

Ernst & Young ShinNihon LLC.

2020年5月20日

新型コロナウイルス感染症危機後のニューノーマルに備え、事業者は従業員の安全・健康に留意し、そのウェルビーイングの向上に貢献することが業績にもつながることを認識し、新しい働き方に柔軟に対応した安全衛生の対策を継続して実施することが求められます。

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)への対応は私たちの働き方に急激な変化をもたらしました。テレワークをはじめとした、オフィスに出社しない働き方の拡大は最も大きな変化の一つといえます。新型コロナウイルス感染症拡大以前からテレワークは徐々に採用されていましたが、今般緊急的な対応としてテレワークの実施を余儀なくされた事業者・従業員が急激に増加しています。

テレワークには作業に集中することができる(他人からの声掛けなどの阻害がない)、通勤時間の節約になる、プライベートな時間のやりくりが柔軟になり、ワークライフバランスを取りやすくなるなどの利点があります。一方で管理が緩くなりやすい、会社の動向などに気付きにくい、労働時間とプライベートの境目が曖昧になる(長時間労働を招く恐れがある)、従業員が孤独になるといった問題点が浮かび上がっています。特に会社側(管理職等上位職者)と従業員とのコミュニケーションがおろそかになってしまうことは大きな課題と認識されています。

このように従業員とのコミュニケーションが困難になる可能性が高まる状況下で、ビジネスをより持続可能とし、従業員の生産性を向上させるためには、事業者はより積極的に従業員のWell-being(以下ウェルビーイング)に留意した取り組みを実施することが必要です。

ウェルビーイングは社会性などを含めたさまざまな要因が関連します。テレワークに労働安全衛生面として実施できる対応としては、作業場・作業環境での安全性、メンタルヘルス対策などが挙げられます。

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第1章

作業場・作業環境の安全性

事業者は従業員に対する安全配慮義務があり、事業所で勤務する場合、労働安全衛生規則や事務所衛生基準規則などにより労働環境を適切に保つことが求められています。

テレワークをはじめとした事業所外での就業についても、事業者は従業員に対する安全配慮義務は除外されることはなく、在宅勤務中に発生したけがなども労働災害とみなされる可能性があります。

例えば、厚生労働省が発行している資料では、家庭内でトイレに行き、作業場所に帰ってきた際に椅子に座り損ねてけがをしたようなケースについては、労災となり得ることが示されています。

事業者が従業員の家庭内の作業場所を管理する程度には限界があります。ただし、以下のような安全の側面について適当であることを確保することが、従業員の安全や衛生に貢献し、また、ひいては生産性を向上させ、労災などによる損失時間を防ぐことにより事業者の業績に貢献するものと考えられます。

  • 作業環境
    -パソコンを用いた作業環境(エルゴノミクス)
    -作業場所の明るさ(パソコンの画面等)
    -大気環境(気温、湿度、換気状況)
  • 安全な作業場所
    -電気安全
    -周辺の障害物除去
  • 非常時の対応
    -防災・防火体制
    -非常時報告、連絡先

緊急対策にテレワークを実現した場合にはこのような対応が十分ではない場合もありますが、テレワークによる業務実施を長期的かつ一般的なものとするためには、会社の仕組みとして在宅作業場所での安全配慮の取り組みを実施することが推奨されます。

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第2章

メンタルヘルス対策

物理的な安全衛生だけでなく、事業者には従業員のメンタルヘルスに関しても配慮することが求められています。

メンタルヘルスについては4つのケア(セルフケア、ラインケア、社内医療リソースによるケア、社外医療リソースによるケア)が重要であると考えられていますが、在宅勤務が拡大するに伴い、上司が部下の様子を見聞きして指導するラインケアが困難になる可能性があります。

また、在宅勤務等でIT機器や複数のツールを利用することはマルチタスクの原因となり、マインドフルネスな状態(今この瞬間に集中することで穏やかな心理を保っている状態)から遠ざかるものと考えられています。

事業者は心の健康づくり計画などの策定が求められていますが、働き方の状況の変化に伴い、従来とは異なる取り組みの検討が必要になる可能性があります。働き方の変化に応じてリスクを評価すること(リスクアセスメントの実施)は安全衛生では重要な手順となります。

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第3章

リスクアセスメントの仕組みの導入

作業環境や作業内容が変更になった場合には、事業者が配慮するべき安全対策も変わる可能性があります。

工場などではいわゆる4M(マン・マシン・マテリアル・メソッド)変更時にリスクアセスメントを実施し、作業の安全性を評価する仕組みが導入されている例があります。しかしながら、オフィスなどでは安全に関する配慮が必ずしも十分ではない場合もあります。例えば、無理な姿勢でノートPCを操作する際の身体への影響などが考慮されていないケースは、テレワークではないオフィスにおいてもよくみられます。

テレワークなど自宅での作業環境では、特に日本固有の住宅事情も相まって安全性への留意がおろそかになる恐れがあります。新型コロナウイルス感染症危機への対応は緊急性が高く、安全性の評価などを必ずしも実施できるだけの余裕がないものでした。今後、テレワークを本格的に導入するにあたっては、テレワーク環境についてもリスクアセスメントを導入し、従業員の安全性に配慮した作業環境の実現を図ることが推奨されます。

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サマリー

事業者は従業員の安全・健康に留意し、そのウェルビーイングの向上に貢献することは事業者の業績にもつながることを認識し、今後変化する働き方に柔軟に対応した安全衛生の対策を継続して実施することが求められます。

この記事について

執筆者 EY 新日本有限責任監査法人

グローバルな経済社会の円滑な発展に貢献する監査法人

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