新たなテクノロジーがもたらす影響に対し、消費者は依然として慎重である
消費者と新たなテクノロジーの関係は、⽭盾したものになる可能性があります。つまり、デジタルツールに強く依存する⼀⽅で、そのようなツールが自身の精神的・経済的健全性にもたらすリスクに対して不安を抱くこともあります。
例を挙げると、⼈々はモバイル機器が常時接続されている状態を当たり前と思う⼀⽅で、常に接続された状態では気が休まらないと感じ、アラートやリマインダーをオフにしたいと思うようになってきています。
知名度だけで信頼を築くことはできません。例えば⼈⼯知能(AI)の活⽤は、ブランドエンゲージメントにおいて当然のこととなりつつありますが、その活⽤⽅法に不安を抱いている消費者が相当数いることも事実であり、回答者の24%が⾃分の仕事がAIに完全に取って代わられるかもしれないことを懸念しています。また、職場でAIを使⽤している⼈たちの⽅が、⾃⾝のプライベートへのAIの影響に対してより強い不安感を抱いています。
デジタルイノベーションの有⽤性とアクセスのしやすさは⾼まってきましたが、テクノロジーと個⼈データの利⽤に対する信頼は⾼まってはいません。各回のIndexを⽐較すると、個⼈データを企業やブランドと共有することについて、消費者の意向に⼤きな変化は⾒られません。消費者は依然として慎重な姿勢を保っています。
- 55%がIDの盗難と不正利⽤を⾮常に懸念
- 53%がデータセキュリティ/侵害を⾮常に懸念
- 53%が企業による個⼈情報の第三者への販売を⾮常に懸念
消費者は、個⼈データを共有することで得られるメリットや価値と、その代わりにもたらされるリスクを天秤にかけて検討したいと考えているのです。
テクノロジーイノベーションは消費者に目に見えるメリットを与えるものでなくてはならない
企業がインサイトを得られるデータ宝庫の構築を急ぐ⼀⽅で、消費者は自身のデータが重視されていることをますます認識するようになってきました。消費者は、個⼈データを共有する⾒返りとして、お得に買い物ができる特典など、より多くを期待しています。消費者エンゲージメントにおいては、この交換のバランスを取ることが重要です。
企業はテクノロジーとデータを利⽤して、ごくわずかな利益と市場シェアを守っています。消費者は新たなブランドを試したり、必要不可欠なものを見直したりして、価値を重視するようになっています。企業はそれを踏まえて、慎重に取り組みを進める必要があります。新たなテクノロジーへの参加が⾃⾝の利益にはならないと消費者から思われてしまうと、企業は現在の顧客を失うだけではありません。⻑く成功し続けるために必要な消費者との関係を、修復できないほどに損なう可能性もあるのです。
今回のIndexを⾒ると、パンデミック後、⾼い⽔準で推移していた企業に対する消費者の信頼度が、ここにきて着実に下降していることが分かります。⼩売企業と消費財メーカーは、⼤半の企業に⽐して消費者と接することが多い業種です。それは信頼を築く機会にもなり得ますが、消費者のニーズと状況を考慮に⼊れなければ、信頼の損失につながりかねません。
テクノロジーが人々の⽣活と働き⽅を根本的に変える
急速なテクノロジーの変化は、⼈々の⽣活と仕事の仕方を変え、消費者の定義を変えることになるでしょう。さまざまな分野の⼩さな、そして⼀⾒つながりが無いように思える変化が、⾏動や考え⽅の予期せぬ急激な変化をもたらすかもしれません。また、新たなテクノロジーが、誰も気づかないうちに消費者の⽇常⽣活に徐々に⼊り込むこともあり得ます。
今回のIndexでは、消費者の半数が、⾃分の勤務する会社では株主、従業員、消費者により多くの価値をもたらすことを⽬的とした⼤型テクノロジープロジェクトを進めていると回答しています。変化を促す最も重要な要因の1つがAIです。AIの活⽤により、新たな製品とサービス、それにアクセスする今までにない⽅法、まったく新しい⽣活様式や働き⽅が⽣まれ、消費者体験が激変することになるでしょう。
EYでは変化を促す主な要因(ドライバー)を200以上抽出し、これからの消費世界のあらゆる側⾯(買い物や趣味・娯楽、健康維持から、消費の仕⽅、働き⽅、移動⼿段、テクノロジーの活⽤⽅法まで)にこれらのドライバーが与える影響について調べました。その結果を参考にして、AIが消費者の⽣活と企業の活動のさまざまな側⾯にどのような影響を与え、またそうした側⾯をどのように形作る可能性があるかを紹介しています。
消費者エンゲージメントで支持を得、価値をもたらし、信頼を築く
消費者は家計への懸念から⽣活を切り詰め、価値観を⾒直しています。企業はこうした短期的なニーズに対応する必要がある半⾯、⼤局を⾒失うわけにもいきません。将来的にテクノロジーが消費者の⾏動を変えていきますが、それでも魅⼒を失わない価値提案を創出することが企業には求められます。
1. 消費者は自社のブランドや製品の価値を十分に理解してくれているのか。それは、消費者の求めるものなのか。
⼩売企業や消費財メーカーにとって、顧客の⽣活に溶け込むための極めて重要な転機が今、訪れています。ただし、そこで重要となるのは、消費者が価値を認めるメリットを提供することです。例えば、時間の節約につながる⽬に⾒えない利便性を提供できますか。消費者の問題を解決し、必要不可⽋な存在になっていますか。満⾜感が得られ、対価に⾒合い、他にない顧客体験を創出していますか。これら3つの要素を組み合わせた、理想的な価値を消費者にもたらすためにテクノロジーを使用していますか。
2. 自社の製品やタッチポイント(接点)に対する消費者の信頼を構築するために何をするか。また、その対策が成果を上げているかどうかをどのように判断するか。
信頼を得るためには、価格に⾒合った価値を提供し、データを安全に保管・管理し、消費者が考える企業価値に沿った⾏動をし、倫理を重んじ、嘘偽りのない姿勢を取るなど、多くの対応が必要です。消費者から信頼されるブランドの仲間⼊りを果たすことができれば、⼀段と深く、かつ幅広い関係を消費者と築くことができます。しかし、企業に対する消費者の信頼が損なわれている時には、そうした関係を築くことは難しく、また簡単に壊れてしまいます。新たなチャネルが急増する今、⼩売企業や消費財メーカーはほぼ常に消費者と接しているため、関係構築の機会も多い半⾯、対応を誤り関係を損なう機会も同様に多いのです。
3. テクノロジーを活用した顧客エンゲージメントの変⾰を具体化するために、戦略をどのように修正するか。何を優先させていくか。
継続的なイノベーションは、消費者への価値提案、消費者がそれにアクセスする⽅法、⽣活、働き⽅を変えていきます。この状況に対応するには、提供する製品とサービス、事業運営、そして消費者エンゲージメントのあり⽅を進化させる必要があります。また、今の時代に適し、かつこれからの時代にも適したテクノロジーの⾒極め、導⼊・統合することも必要です。これらは複雑な課題ですが、⽬指すべきゴールははっきりしています。顧客との信頼関係を構築し、彼らの支持を得て、喜ばれる価値を提供することです。
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サマリー
⼩売企業や消費財メーカーは、イノベーションを通して消費者との信頼関係を築き、彼らの懸念を尊重し、価値をもたらす必要があります。これらをきちんと実現した企業は足元の業績を向上させるだけではなく、テクノロジーが消費の仕⽅、働き⽅、⽣活を変え、消費者エンゲージメントの機会を変革する未来にも確実に対応することができるでしょう。