2020年10月27日
水素エネルギーの灯が照らす未来

新型コロナウイルス感染症による国内消費者の行動変容に対応するには?

執筆者 吉本 司

EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社 カスタマーエクスペリエンス・トランスフォーメーションリーダー パートナー

企業のトップライン向上をミッションに顧客接点DX、新規事業・サービス創出を支援。2児の父親。

2020年10月27日

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  • 新型コロナウイルスによる日本の消費者の行動変容と企業に求められる対策(PDF)

新型コロナウイルス感染症の流行が続く状況下において、消費者はいま、企業に何を求めているのでしょうか。EYで調査した日本国内の消費者の行動変容について、業種・業態、消費者の性別や年代といったさまざまな切り口から、コロナ禍における消費者行動の変化やその理由をご紹介します。

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行以降、人々は新しい常識や習慣に適応しながら、徐々に日常を再構築しつつあります。政府は国内移動やイベント開催に対する規制を緩和し、低迷した国内消費を喚起するための対策を打ち出していますが、感染が再び拡大する傾向が見られるなど、いまだに先の読めない状況は続いています。

このような状況において、企業が消費者の不安を解消し、新たな生活に即した価値を提供するためには、コロナ禍が消費者の行動、心理をどのように変えたのかを理解することが不可欠です。

EYでは、日本国内に居住する消費者7,000名を対象に、新型コロナウイルス感染症流行前後における消費行動の変化について調査を行いました。本調査では、サービス・小売企業の業態や、消費者の年代、性別といったさまざまな切り口で分析を行っています。消費者がいま、企業に真に求めているものとは何でしょうか。

  • サーベイの方法

    • 調査対象者  日本国内に居住する20歳から75歳の男女
    • サンプル数  7,000サンプル(エリア・性別・年代に基づく人口構成比割付)
    • 調査実施期間  2020年8月21-31日
    • 調査対象エリア  関東首都圏、近畿、中京エリア
    • 調査手法  オンラインサーベイ

消費者行動の変化とその要因

今回の調査によれば、緊急事態宣言の解除後、小売業では消費者の利用状況に回復傾向が見られました。一方で、消費者は旅行、レジャー、飲食店などのサービス業の利用に対しては依然として消極的になっていることがうかがえ、今後もその傾向は続くものと考えられます。

図1 平常時(19年6₋12月)と比較した業態別利用頻度変化率 1

*1:利用頻度変化率は、19年6~12月期の利用頻度(5段階評価)に対して、20年4~5月期の利用頻度の増減(5段階; +2, +1, 0, -1, -2)を加減した平均値より算出(20年6~12月期も同様)

本調査の特色の1つは、消費者による利用が減少した理由を、サービスの業態別に調査した点です。サービスや小売の業態別に、「2020年度下半期は前年同時期と比べ、利用が減少すると思うか」を消費者に問い、またその理由を尋ねました。すると、消費者が利用を控える理由は、対象となるサービスや小売りの業態によって異なることが分かりました。

例として、国内・海外への旅行やジムなどのスポーツ施設、遊園地などのレジャースポットを挙げます。これらの利用が減少するだろうと回答した消費者では、その理由として、他者との接触や飛沫による感染リスクへの不安に加え、職場などの所属コミュニティが自粛を求めているためとの回答が目立ちました。

図2 消費者がスポーツ施設利用を減らす理由

図1 Now : 4つの新しい消費者セグメントの割合

また、家電量販店の利用を控えると答えた消費者には、オンライン通販で代替が利くことや、コロナ禍の先行きが見えないことによる生活費節減を理由とした人が多いことが特徴的でした。

図3 消費者が家電量販店利用を減らす理由

図1 Now : 4つの新しい消費者セグメントの割合

全体として、消費者が利用を控える背景には、ウイルスへの感染を忌避しようとする基本的な動機に加えて、収入減など経済状況の変化、利用自粛要請などの外部からの影響なども関係していることが分かりました。

 

オンライン購買行動の変化

新型コロナウイルス感染症の流行は消費者のオンライン購買行動を活発化させ、さらに購入の際に何を重要視するかといった購買心理をも変化させました。

図4 オンライン購入時に消費者が価値を感じるサービス・特徴

オンライン購入を行う際、「配送における感染対策が万全であること」を重要と感じるとの回答は、特に60代以上の人々に多く見られ、高齢層はオンライン購入においても感染への不安を抱いていることが分かりました。

また、20~30代の若年層を中心に、いわゆる「置き配」サービスが利用できることを重視する人が増えていることも注目すべき傾向と言えるでしょう。

オンライン購入後の商品配送についても、消費者が重視するポイントは変化しつつあります。

図5 オンライン購入時の配送料許容額

図1 Now : 4つの新しい消費者セグメントの割合

図6 オンライン購入時に許容できる配送リードタイム(日数)

図1 Now : 4つの新しい消費者セグメントの割合

配送料はいくらまでなら許容できるかという設問に対し、最も多かった回答は「0円」であるものの、一方で25%の人々が400円以上でも注文すると回答しました。また新型コロナウイルス感染症流行後は、それ以前と比べて消費者が許容し得る配送リードタイムも延びており、今回の調査では「配送に4日以上かかっても良い」と回答した人が47%に上りました。

パンデミックが長引く状況下で、人々は店頭での直接購買だけでなく、オンライン購買においてもウイルス対策を重要視するようになりました。また需要増や販売者の負担増を理解し、送料や所要時間がかかっても感染対策を徹底してほしいと考えていることがうかがわれます。

 

余暇時間のデジタルシフト

緊急事態宣言の発令などによる外出自粛により、消費者は自宅で余暇時間を過ごすことが増えました。新型コロナウイルス感染症流行後は、YouTubeに代表される動画コンテンツ、Amazonなどが提供する映画やドラマのストリーミング配信コンテンツの利用率が高まりました。中でも20~30代の女性の利用率の伸びが目立ちます。

図7 性年代別  新型コロナウイルス流行を機に、新たに利用を開始した割合(週に1回以上の利用者)

図4  COVID-19収束後の1~2年後の買い物の仕方

また、オンラインでのスポーツ観戦や音楽ライブの視聴など、デジタルコンテンツも多角化しつつあります。外出自粛をきっかけとして、それまで触れたことのなかったデジタルコンテンツに手を延ばした人が増えたと考えられます。

図8 性年代別 リモートアクティビティへの興味・利用意向

図5  COVID-19収束後の1~2年後の買い物の仕方

こうしたリモートアクティビティに対する利用意向は、新型コロナウイルス感染症流行以前に比べ、若年層を中心に高まりを見せています。若い世代を中心に、消費者はコロナ禍にあっても新しい興味を模索し、未知の体験に期待しています。

 

消費者のモビリティにおける変化

今回の調査では、新型コロナウイルス感染症流行後の消費者の移動にも着目しました。通勤、通学といった日常的な移動ではやや電車の利用者が減少しているものの、流行前後で大きな変動はありませんでした。しかし休日に娯楽施設へ出掛けたり、旅行をしたりするための移動においては、電車利用は大きく数を減らし、自家用車での外出にシフトする傾向が見られます。

コロナ禍は、在宅勤務やサテライトオフィス、地方や観光地でリモートワークと余暇を組み合わせるワーケーションといった新しい働き方の認知度を高めました。興味深いのは、「新型コロナウイルス感染症流行を受けて、転居をする意向があるか」について調査したところ、東京都に住む20代のリモートワーカーの半数近くが、「転居を検討している」と答えた点です。若い世代におけるこうした動きは、新たなワーキングスタイルの定着への期待とともに、地方創生の足掛かりにもなると考えられます。

図9 新型コロナウイルス感染症流行後の転居意向

消費者が企業に期待するアクション

消費者はいま、企業に何を求めているのでしょうか。本調査では、「企業が注力するものとして好感が持てるのはどのような行動・特徴か」を消費者に尋ねました。

図10 好感を抱く企業の行動・特徴

図5  COVID-19収束後の1~2年後の買い物の仕方

その結果、「ウイルス感染の発生を防ぐための対策を講じている」企業に好感を頂くとの回答が最も多く、高品質・低価格といった、それまで重視されてきた付加価値を上回りました。新型コロナウイルス感染症の流行は、消費者の価値基準にも影響を与えました。今や、多くの消費者にとって、企業のブランドイメージに最も寄与するのはウイルス対策となったのです。

さらに消費者は、サービスそのものについての価値観をも変化させつつあります。

調査によれば、8割を超える消費者が、感染対策を強化するためには、サービスの品質や利便性の低下、提供スピードの遅延が発生するのもやむを得ないと回答しました。

図11 感染症対策の代償として低下を許容できる付加価値

また、年代や性別によって、許容できる内容やその度合いに差異が見られます。サービスの種類や、ターゲットとする層に応じて、消費者の求める提供スタイルを見極める必要があるでしょう。

 

クラスター分析で見る消費スタイルの変化

今回の調査で得られた消費者の行動や心理に関するデータを基に、クラスター分析手法を用いて消費者を類型化したところ、国内消費者は特色あるいくつかのクラスターに分類されました。

分析にあたっては、新型コロナウイルス感染症流行前と流行後の差異に着目しました。すると、流行前においては4つのクラスター、流行後は6つのクラスターが形成されました。

図12 
(左)新型コロナウイルス感染症流行前後の消費者クラスター分析
(右)新型コロナウイルス感染症流行後の当面の消費スタイル

従前は、消費意欲そのものの大小が消費者分類に直結していましたが、コロナ禍以降は、節約志向や自粛要請に対する積極性など、各クラスターを特徴付ける因子に大きな変化が見られました。

大局的には、新型コロナウイルス感染症流行後の消費スタイルは、高齢者や主婦層などの節約・自粛を励行する人々と、それまでの消費行動を比較的維持している人々に二分されると言えるでしょう。

新型コロナウイルス感染症の流行が人類にとって未曽有の脅威であることには疑いがありません。しかし同時にコロナ禍は、どのように働き、どのように暮らしたいのか、消費者や企業が本当に大切にすべきものは何か、という根本的な価値観を私たちに問い直す側面を持っています。消費者の変化を俊敏に、かつ正確に捉えて策を講じることができるか否か。それが、脅威を機会に変え、ニューノーマル時代のコンシューマービジネスを勝ち残っていくための試金石となるでしょう。

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サマリー

調査によると、消費者が利用を控える理由は、対象となるサービスや小売りの業態によって異なることが分かります。また、消費者が重視するポイントが変化し、消費者クラスターを特徴付ける因子にも大きな変化が見られました。消費者の変化を俊敏に、かつ正確に捉えて策を講じる企業姿勢が、これまで以上に求められています。

この記事について

執筆者 吉本 司

EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社 カスタマーエクスペリエンス・トランスフォーメーションリーダー パートナー

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