2023年7月7日
再エネ大量導入時代に送配電事業者が蓄電システムを活用するには

再エネ大量導入時代に送配電事業者が蓄電システムを活用するには

執筆者 EY ストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社

複合的サービスを提供するプロフェッショナル・サービス・ファーム

EY Strategy and Consulting Co., Ltd.

2023年7月7日

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  • 再エネ大量導入時に送配電事業者が蓄電システムを活用するには

現在の蓄電システムの市場環境は、総コストの低下や将来の収益確保の見通しを立てづらい状態です。再⽣可能エネルギー(再エネ)⼤量導⼊時代において、送配電事業者の蓄電システム活⽤による市場拡⼤がそれらの問題解決に寄与すると期待されます。

本稿では、送配電事業者を取り巻く環境や課題、その解決策について考察します。

要点
  • 再エネ大量導入時代における送配電システムの課題はどのようなものか。
  • 系統運用に蓄電システムが与えるインパクトはどのようなものか。
  • 送配電事業者が蓄電システムの設置を決定するに当たり、どのように蓄電システムの経済合理性を見いだすか。

1章 再エネ大量導入時代における送配電システムの課題

脱炭素化が急速に進められている現代において、需要家は自ら導入した再エネ発電設備に蓄電システムを併設することで再エネの活用を進めています。それを受け、発電事業者は需要家のニーズに応える形で電力事業者として蓄電システムの導入に取り組んでいます。

送配電事業者は、こうした再エネの⼤量導⼊により、変動電源の増加とそれに伴う送電網の空き容量不⾜、また分散型電源の増加とそれに伴う需要予測の複雑化など電力系統(以下、系統)運⽤上の課題に対して対応が求められています。

これらの課題を解決し、系統運営の安定化を目指すには、海外のように送配電事業者自ら蓄電システムを活用することも視野に入れることが必要ではないかと考えられます。
 

2章 蓄電システムの系統運用におけるインパクト

系統全体を見渡すと、需要家は蓄電システムの活用により、安定的な電力供給が可能になります。発電事業者は、フィードインプレミアム(FIP)制度の導入以降、蓄電システムを利用して発電した電力を時間に応じて給電し、エネルギー利用の効率化を進めています。

しかし、送配電事業者は、現時点で系統運⽤を⽬的とした蓄電システムの利⽤を認められていません。法整備が進んだとしても、現在の市場環境では蓄電システムの総コストの⼗分な低下が⾒込めているわけではなく、経済合理性の観点から投資が進まないと想定されます。

一方、中長期的な系統運用の安定という観点からは、2050年に向けた再エネの導入はより一層加速すると考えられ、送配電事業者による蓄電システムの利用を検討する必要があります。
 

3章 蓄電システムの経済合理性

再エネの導入が進むことで、蓄電ビジネスの市場拡大も期待されていますが、現在は経済合理性が十分に見いだせない状況です。需給調整市場・電力卸売市場での安定的な収益確保が難しく、リチウムなどの原材料価格は高騰しており、本体価格の低下は鈍足です。経済合理性の観点からは、蓄電池の設置コストのさらなる低下と、電力取引市場以外の収益源が必要です。

そういった環境下、需要家に対しては本体価格+設置コストの目標価格への到達を意識した補助金があり、蓄電システムの導入が進んでいます。配電事業者に対しては経費の一部を補助する支援が開始されます。

系統運用を目的とした蓄電システムの設置は、制度上の制約があり、法整備が開始されたばかりです。今後、送配電事業者に対しては電力取引市場以外での収益確保に向けた規制緩和や、長期的なコスト負担へのさらなる支援が期待されます。
 

4章 蓄電システム普及に向けた論点

このような状況から、送配電事業者が自ら蓄電システムを活用する上では、環境の変化を想定し、その影響を最小化できるような投資計画を立案することが重要だと考えられます。

EYでは、蓄電システムのコストと収益について市場と政府支援の双方の観点から投資期間における見通しの作成を支援します。またこれにより、蓄電システムの設置における投資判断を容易にし、再エネ大量導入時代における蓄電システムのビジネスをサポートします。

① 蓄電システムのコストについての見通し(直接的な経済合理性)

  • 蓄電コスト(蓄電池本体価格+設置コスト)の低下がどの程度見込めるか
  • コスト低減に向けた政策支援がどのような形でいつまで行われるか

② 蓄電システムの収益についての見通し(間接的な経済合理性:収入)

  • 需給調整市場と卸取引市場からの収益がどの程度期待できるか
  • 送配電事業者への規制緩和がどの程度行われるか

③ 蓄電システムの政策支援についての見通し(間接的な経済合理性:合計)

  • 需要家にとっての経済性(電気代削減効果)がどの程度期待できるか
  • 災害時対策としての導入がどの程度進むか
  • 災害対策への補助金がどの程度行われるか

【共同執筆者】

相澤 なつみ
(EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社 エネルギーセクター/インテリジェンス ユニット)

シンクタンク研究員を経て、2021年に⼊社。インテリジェンス ユニットにて、エネルギーセクター向けに政策動向・データ分析に関連する調査に従事。
電⼒市場や脱炭素に関わる事業戦略⽴案のコンサルティングサービスに携わる。

※所属・役職は記事公開当時のものです。

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サマリー

再エネ大量導入時代において、送配電事業者による蓄電システムの活用が期待されています。しかし、現在の市場環境は、送配電事業者にとって蓄電コストの低下や蓄電システムによる将来の収益確保の見通しを立てづらい状態です。
送配電事業者が蓄電池の設置を決定するには、政府による規制緩和が進むとともに、環境の変化を想定した投資計画を立案し、不確実な外部要因の影響を最小化することが必要です。

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執筆者 EY ストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社

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