注目される米国:トランプ新政権が貿易に与える影響

注目される米国:トランプ新政権が貿易に与える影響

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EY 税理士法人

2017年2月3日
カテゴリー 間接税

Japan tax alert 2017年2月3日号

トランプ新政権が貿易に与える影響

はじめに

トランプ大統領が発表した就任後100日計画には、様々な貿易関連措置も含まれています。ただし現時点では、その多くの詳細は明らかにされていません。本アラートでは、こうした数多くの貿易関連の提案について検討します。

国境税調整の課題

共和党が米国上下両院で過半数を占め、かつ政権も掌握することから、税法変更の準備が整います。有力視されている変更の1つが、2016年6月に下院共和党議員が発表した「税制改革タスクフォース計画(ブループリント)」です。これが施行されると、法人所得税に代わって20%の"国境調整済み"仕向地主義キャッシュフロー課税が導入されることになります。

"国境調整済み"仕向地主義キャッシュフロー課税とは?

物品が生産された国で課税される場合、原産地において課税されたと考えられます。一方、物品の消費地で課税される場合は、仕向地で課税されたと考えられます。税金が生産活動を行う事業体(又はその親会社か、最終的な個人オーナー)の居住地に基づいて課税される場合は、居住地で課税されたと考えられます。仕向地主義による付加価値税(VAT)は、消費地で課されるキャッシュフロー課税の一種です。

国境税調整とは、すべての国内消費には課税する一方、国内で発生された商品・サービスが国外で消費される場合には免税及び適用外とする制度です。VATの場合、国境税調整は一般的に、過去に支払われたVATの還付を認めると同時に、輸出取引を免税にする形式をとります。国境調整済み仕向地主義キャッシュフロー課税も、輸出取引の免税に関してはこれと同じ形式で扱われる見込みです。ただし、前段階税控除方式は導入されないと推測されます。

ブループリントが採用したモデルでは、米国での販売活動によってキャッシュフローが生じる限り、輸入品は課税されます。さらに、販売によって外国で生じたキャッシュフローは、課税対象とはならず、実際上は(従来のVATモデルの場合と同様に)輸出品を免税することになります。

貿易への影響

この税制改革案は貿易にどのような影響を与える可能性があるのでしょうか。第一に、国境税/国境税調整規定は輸出振興を目的としており、生産地と貿易量に多大な影響を与える可能性があります。第二に、ブループリントに提案されているキャッシュフロー税は比較的斬新な概念であるため、国境税調整が「世界貿易機関協定(WTO協定)」の下で認められるかどうかは、完全に明確というわけではありません。1994年制定「関税及び貿易に関する一般協定(GATT)」の第XVI条、及び「補助金及び相殺措置に関する協定(SCM協定)」により、輸出補助金は規制されています。SCM協定では、輸出を条件として、商工業事業者が支払う、又は支払うべき直接税や社会保障負担金の全部又は一部の免除、軽減や繰り延べは、容認できない輸出補助金と見なされます。ただし、国内消費向けの製品であれば、輸出時に免税する措置は認められています。キャッシュフロー税の概念には、従来の間接税と直接税の両税制の要素があります。税制計画によると、国境税調整メカニズムはWTO規則に適合するとしていますが、当然ながら、他のWTO加盟国はこの見解と意見を異にすることが考えられます。結果として、このメカニズムはWTO加盟国から異議を申立てられる可能性があり、いかなる申し立てであれ、その申立てが優勢になれば報復的な貿易措置を伴うリスクがあります。

さらに、キャッシュフロー課税において国境税調整の考え方を導入するという立場は、大統領選期間中に議論された貿易関連問題の一部に対処することも意図しています。例えば「北米自由貿易協定(NAFTA)」に対して、トランプ氏が選挙運動で繰り広げた批判の1つは、メキシコに輸入される米国製の製品にはメキシコのVATが課される一方、米国に輸入されるメキシコ製の製品は課税されない場合があり、不公平な状況にあるという点です。国境税調整を導入すれば、この不公平感が是正されることになります。国境税調整キャッシュフロー課税は、米国の製造業に国内にとどまる動機を与え、また米国外で製造された製品に国境税を課すことにもなるため、後段で検討するように、「オフショアリング終了法(End the Offshoring Act)」案で表明された目標に一致します。

NAFTAからの脱退又は再交渉の可能性

就任後100日計画によれば、NAFTAを再交渉するか、又は将来的には完全に脱退する意向が大統領から発表される予定です。NAFTA再交渉の進め方は数多くあると見られます。NAFTAの改正には一定のプロセスが定められていますが、当事者はその枠組みを離れて決定することが可能です。NAFTA第2205条の規定によれば、いかなる当事者も6カ月前の書面による通知によって協定からの脱退が可能になります。当該プロセスの詳細については、後述の「NAFTAの次にあるもの」で検討します。

貿易協定からの脱退に続くプロセスは、米国が南北戦争時代以来、同様の措置を取ったことがないことから現時点ではあきらかではありません。ただし、現行法の規定から、脱退に関して大統領に当られている権限の度合いについて、何らかの指針が得られます。

1993年成立の「北米自由貿易協定施行法」は、廃止、又は代替法案が米国連邦議会で可決され、大統領が署名するまで効力を持ち続けます。ただし当該施行法は、米国が一方的に脱退する場合に関しては一切言及していません。脱退という事態になれば、NAFTAが定めた法律の現行規定を廃止すべく、大統領が連邦議会の承認を求めることになると考えられます。

1974年制定の「通商法」は改正を重ねて現在に至っており、米国がNAFTAから完全に脱退するという事態において、関税率を変更する大統領権限に一定の制限を課します。「通商法」の第125条(e)に基づき、貿易協定の終了後1年間は輸入関税率の自動変更に至ることはありません。ただし大統領が、関税率は「当該協定の締結以前の水準に戻すべきである」との声明を出す場合は、この限りではありません。脱退から60日以内に、大統領には「終了又は脱退の影響を受けた全品目の適切な関税率に関する勧告」を連邦議会に伝える必要があります。概して「通商法」第125条(c)の規定に基づき、影響を受けた製品に課される新関税率は、1974年当時の実効関税率よりも20%から50%高い範囲に制限されます。メキシコについてはおそらく、適用される"当該協定の締結以前の"関税率は、米国法の下でWTO加盟国に適用される"通常貿易関係"(最恵国)関税率に戻ると推定され、その平均関税率は約3.5%です。今後のカナダとの関係に関しては、それほど明白ではありません。米国とカナダは1989年に自由貿易協定を締結しましたが、その後NAFTAに置き換えられた経緯があります。万が一NAFTA終了に至った場合に、この法的経緯が考慮されて以前の自由貿易協定が効力を持ち続けるか否かについて、今までのところ、次期大統領は一切言及していません。同様に、メキシコに輸出された米国製品に適用される関税率も最恵国関税率が適用されると考えられます。メキシコの平均関税率は、言うまでもなく、米国よりもはるかに高く、現行では工業製品に対して約7.7%です。カナダが輸入する米国製品についての状況は、以前の自由貿易協定との関係からも不明です。

中国を為替操作国に指定

トランプ次期大統領は既に、「中国を為替操作国と指名するよう、新財務長官に就任後直ちに指示する」と表明しています。こうした指定の根拠法となる「貿易円滑化及び貿易執行法2015(Trade Facilitation and Trade Enforcement Act of 2015)」の第701条(a)には、為替操作国と指名する場合には以下の3つの基準に照らして、分析・評価しなければならないと明記されています。

  1. 米国との二国間貿易において巨額な貿易黒字を計上
  2. 大幅な経常黒字の状態
  3. 外国為替市場において持続的かつ一方的介入を実施

この問題に関する直近の報告(2016年10月)において、米財務省は上記の基準のうち中国が満たすのはわずかに米国との二国間貿易において巨額な貿易黒字を計上していることのみと判明しました。その結果、新政権は中国を為替操作国と指名するためには、他の2件の基準も満たしていると断定する必要があります。中国がこれらの基準をどのように満たすかに関して、次期政権の見解は明確ではありません。とはいえ、前述の根拠法そのものが、協議と二国間取り決めの強化に関する要件以上に、直接的な影響を中国にもたらすことはありません。特に米国の相殺関税法(CVD法)における為替操作の意見聴取に備えるために検討がなされたものの、「貿易円滑化及び貿易執行法2015」の最終規定にはこのような為替操作に関する規定は盛り込まれませんでした。

米国のCVD規則を根拠として為替操作問題に取組むに当たり、具体的な手続きがなくとも、次期政権は別の取組み方を採用して、どのように定義されようと、為替操作を調査と対応を必要とする不公正な貿易慣行として扱うように求めることが可能と思われます。不公正貿易慣行の調査に関する所管官庁は、米国商務省の国際貿易局(ITA)です。ITAの目標は、自国の製造業者の輸出に補助金を供与している外国政府から、米国の企業と経済そのものを守ることです。ITAによる調査の結果、「損害等の事実がある」との判定が下されれば、大統領は理論上、当該損害の事実に対処する手段としてCVDを課すことが可能です。一方、WTOのSCM協定を根拠として、特定の種類の為替操作を補助金と見なすことは可能かもしれませんが、一国を対象としたCVDは前代未聞であり、CVDを課すとしても、特定の輸入貨物を対象とすべきとの要件に反した場合、異議申し立てを受けやすいように思われます。結果として、中国を為替操作国と宣言すれば、疑いなく中国との協議を始めるきっかけになる一方、他に取り得る措置ははっきりしません。

貿易救済措置と報復関税

トランプ氏の就任後100日計画によれば、次期大統領は「商務長官と米通商代表部に、米国の労働者に不当に影響を与える不正な外国貿易をすべて特定し、それらの取引を直ちに終わらせるために、米国法と国際法に基づく手段すべてを駆使するよう指示する」意向です。これらの「手段」は当然ながら、反ダンピングや相殺関税に関する現行の米国法の規定を参考にしていると考えられます。米国は現在、反ダンピングと相殺関税に関して300件を超える指令を施行しています。2015年には新たに60件を超える調査が始まりましたが、この件数は1990年代以来最大の数になっています。調査件数がこれまで以上に増加する可能性は十分にあります。

トランプ氏の選挙運動ウェブサイトでは、大統領が追加措置を取り得る法的根拠として、現行法の規定のいくつか、具体的には1974年制定「通商法」の第201条と第301条、及び1962年制定「通商拡大法」の第232条にも言及しています。就任後100日計画に記載されている基準は、極めて概略的で漠然としていますが、現行法によれば、不公正貿易慣行に対して、大統領は連邦議会の関与の有無にかかわらず、極めて柔軟に対応策を練ることができます。

例えば、中国とメキシコに対して報復関税を課す可能性が、選挙運動期間中に具体的に話題に上りました。数ある基準の中でも特に「不当」又は「不合理」であると判定された貿易慣行に関わる国に対して、新たな関税や他の制約を課すに当たり、1974年制定「通商法」第301条により大統領と米通商代表部に大して、圧倒的な権限が与えられています。このような措置を取ることに関しては、手続き上も協議の上でも様々な要件がありますが、当該の権限自体は明確です。同様に、イランやシリアといった国々に禁輸措置を課している米国貿易制裁プログラムは、大統領による「国際非常時経済権限法(IEEPA)」の実行に基づいています。IEEPAに基づき、特定の国からの輸入に関して、大統領は国家非常事態を宣言することができるので、おそらく、それを根拠に関税又は他の制約を課すことが可能になります。さらに、1974年制定「通商法」第201条により、セーフガード措置を発動することが可能になります。その場合は通常、特定の国からの物品よりもむしろ輸入品の種類が適用対象になります。例えば、2002年に当時のジョージ W. ブッシュ大統領は鉄鋼輸入にセーフガード措置を発動しましたが、WTOの異議申し立てを受けて2003年に解除しました。

トランプ氏の選挙運動ウェブサイトで言及されていたように、新政権は1962年制定「通商拡大法」第232条の行使に目を向ける可能性もあります。この法に基づき、大統領が「ある品目とその派生商品の輸入を調整する」措置を取る場合、こうした方策は比較的迅速に実施される可能性があり、商務長官による調査、大統領への報告提出(連邦公報に公表)、及び取るべき措置の性質と期間に関する大統領による決定などが必須の手続き要件となります。特に、この条項の下に付与される権限を行使するには、国の安全を害する恐れのある「品目」の輸入を特定する必要があります。「品目」という用語は、一般には個々の物品の種類を指しますが、理論的には特定の状況下で産業全般に適用拡大することが可能です。この条項をさらに適用拡大すること(すなわち、中国からの全輸入を制限する又は重税をかけること)は前例のない手法となります。

これらの措置は当然ながらいずれも、米国の国内企業及び外国政府の双方から議論を巻き起こすおそれがあります。

オフショアリング終了法

就任後100日計画は、「オフショアリング終了法」と題した法律の導入も求めています。同計画で公にされた目標は、米国内での生産を維持するインセンティブを提供すること、及び米国に再輸入される製品に対して関税を設定することです。上述のように、ブループリントで提案された国境税調整キャッシュフロー課税も、方向性が同じであると見られます。

EYの見解

就任後100日間計画から、著しい変化が起こる可能性は明白に見て取れますが、具体的な変化の詳細は推測の域を出ません。最低でもNAFTAの改正要求など、起こり得る行政措置に関しては、有益であると判断できる改正を具体的に特定すれば、企業には有利に働く可能性があります。例えば、ある企業は品目別原産地規則の変更から、又は戻し税と関税繰り延べプログラムへの制約を定めているNAFTA第303条の廃止から利益を享受できるかもしれません。こうした提案を新政権に伝えられる期間は短い可能性もあるため、企業は素早くかつ簡潔に提案できるように自社の体制を整えることが望ましいと考えます。

新政権が発足して活動を始めると、企業は様々な想定される状況に備えるために機敏に行動する必要があるかもしれません。具体的な提案がないと戦略を立てることは困難ですが、顕著な貿易活動を展開している企業には、戦略的な事業対応策を策定・実施できるように、確実に貿易データを入手して、具体的な提案の観点から迅速に分析し、想定される状況に対応できる事業モデルを策定することを推奨します。

NAFTAの次にあるもの

米国、カナダ及びメキシコ間の「北米自由貿易協定(NAFTA)」は、1994年1月1日に発効され、世界最大級の自由貿易地域を創設しました。世界初の包括的自由貿易協定の1つとして、NAFTAは世界各国の他の自由貿易協定にとって貴重な手本を示しました。

NAFTAの下で、米国、カナダ及びメキシコの域内で取引される対象品すべての輸入関税が段階的に廃止され、予定通り2008年1月1日に残存していた関税と数量制限が全廃されました。

NAFTA加盟各国で製造され、同協定の原産地規則に合致した製品は、「NAFTA原産」と見なし得るので、いかなるNAFTA加盟国も関税を払わずに当該製品を輸入できます。この結果、米国、カナダ及びメキシコで製造・販売される物品の工業生産チェーンが高度に統合されたばかりでなく、北米から世界の他の地域に輸出される製品についても同様の統合が進みました。

選挙期間中と選挙以降の声明では、次期政権はNAFTAの改正を積極果敢に求めるか、あるいは完全に脱退することさえも求める意向を明らかにしています。起こり得る改正について具体的な提案はまだ不明ですが、本アラートでは以下のとおり、NAFTAの改正や完全脱退以外の様々な代替案について一考します。

改正のための既存の仕組み

次期政権が取り得るオプションの1つは、変更を提案するに当たって既存の仕組みと手続きを活用することです。NAFTA自体は発効以来、現在に至るまで大幅に改正されたことはありませんが、NAFTA自由貿易委員会を通じて全3加盟国の合意を反映させる形で協定を修正した事例はいくつかあります。

NAFTA第2001条に基づき、NAFTA加盟各国の外国貿易担当当局者(米通商代表部、カナダの国際貿易大臣、及びメキシコの経済長官)から成る自由貿易委員会が設立されました。同委員会の目的は協定の実施状況と解釈を監督し、解釈の違いから生じる紛争を解決することにあります。自由貿易委員会は、NAFTAの下で設立される様々な委員会と作業グループ(すなわち附則2001.2に基づき設立される委員会・作業グループ、例えば物品貿易に関する委員会や、農業貿易に関する委員会、原産地規則に関する委員会など)を監督します。

設立以来、自由貿易委員会は原産地規則の自由化や二国間パネル審査手続きの改正など、NAFTAの修正を複数採択しています。これらの修正はその後、加盟各国の国内法への採択を通じて施行されます。施行要件は国により異なる場合があります。例えばメキシコでは、修正を発効させるために、政府の執行部が、通常は経済省を通じて「メキシコ官報における協定(Accord in the Mexican Official Journal)」を発表することで修正を公表します。米国では、修正案を受けて規則制定プロセスに入り、対応するNAFTA施行規則が連邦公報に発表されて同プロセスが終了します。

上記のように、NAFTAに基づく既存の仕組みが、NAFTA加盟国間の交渉及び修正の実施のための媒介となり、協定を調整してきました。将来的には交渉が閣僚レベルで着手され、NAFTA当事者の代表者間で直接遂行される可能性もありますが、今後提案され得る修正を協議するに当たって自由貿易委員会は有用な機構になり得るでしょう。

包括的交渉

NAFTA自由貿易委員会は協定にいくつかの修正を施してきましたが、これらは協定の原文に大幅な変更又は追加を盛り込むまでには至っていません。実際には、自由貿易委員会はNAFTAを精緻化の役割を担っており、今後協定の原文のより大幅な変更や追加も許容されていると解釈される可能性があります。

必要な対応がされない場合、NAFTA加盟国はNAFTA第2202条に基づき、協定の修正又は追加に合意できますが、その合意内容は各国の法的手続きに従って承認を得る必要があります。

第2202条代替条項に基づき、自由貿易委員会を介さずに、米国、カナダ及びメキシコ各国政府間で直接交渉に着手することも可能と思われます。この代替条項に従い、交渉が実施される場合は、NAFTAの改正は加盟各国で適用される法的手続きに従う必要があります。その結果、国内の議会承認が必須となり、改正の実施が遅れる可能性があります。米国では、協定そのものを変更する場合、現行関連法(例えば、以下で検討するように、「北米自由貿易協定施行法」)の改正を伴うと見られます。この場合、発効するには連邦議会の同意及び大統領の署名が必須になります。

脱退

第2205条に基づき、いかなる加盟国も脱退の通知書を他のNAFTA加盟国に提出した6カ月後にNAFTAから脱退することができます。加盟国の一国が脱退した場合、協定は残りの加盟国において効力を持ち続けます。

米国法の下で、大統領は連邦議会の承認や同意がなくとも、かかる通知書を出す権限を有すると見られます。これまでの100年の間に、NAFTAのような貿易協定が終了に至ったことは一度もありませんが、米国憲法の原則は、大統領に対し、比較的制限を受けずにNAFTAなどの行政協定を終了させる権限を与えているように見受けられます。例えば、歴代の大統領の中には、一方的に台湾との相互防衛条約を終了させた大統領もいれば、ソ連との「弾道弾迎撃ミサイル制限条約」から脱退した大統領もいました。少なくとも、たとえ大統領が第2205条に基づく通知書を出し、当事者が法的異議申し立てを起こしたとしても、当該紛争は法的というよりはむしろ政治的なものと見なされるため、米国の裁判所が判決を下すことはなさそうです。

重要なことに、NAFTAは1993年制定の「北米自由貿易協定施行法」により、米国法に則って施行されました。この200ページ近くに及ぶ原本に従い、米国法にNAFTA関連の変更が成されました。これを変更するには連邦議会のさらなる同意が必要になります。言い換えれば、たとえ大統領主導で加盟国全3カ国間の協定であるNAFTAから脱退しても、米国法上の施行法を自動的に破棄することにはならず、連邦議会による並行措置が取られる必要があると考えられます。このように国際協定の終了と現行の国内法規定の間に断絶が生じれば、特に短期間で不安定な状況に陥る可能性があります。

変更への備え

トランプ新政権が早期にNAFTAの改正を提案すると見られる状況では、利益を享受し得る改正について具体的なタイプを検討することが企業に役立つと思われます。例えば、品目別原産地規則が変更されれば、免税待遇の資格に影響を及ばす可能性があります。NAFTA第303条により、NAFTA加盟国間で取引される物品を対象として、戻し税と関税繰り延べプログラムが制限されていますが、一部の企業はこの条項が貿易を不当に制限していると断定しています。米国が提出する可能性のあるNAFTA改正案に企業の意見を取り入れることを許可するプロセスはまだ一切発表されておらず、しかも意見公募の期間が短い可能性があるため、機会が生じた場合に素早く共有できるNAFTA「改正希望リスト」をまとめておくことが企業にとって重要と思われます。

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