ドイツ連邦議会、ロイヤルティの損金算入制限及び債務免除益の免税に関する法案を可決

ドイツ連邦議会、ロイヤルティの損金算入制限及び債務免除益の免税に関する法案を可決

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Japan tax alert 2017年5月17日号

エグゼクティブサマリー

2017年4月27日、ドイツ連邦議会は、権利のライセンス付与に係る有害な租税慣行の防止に関する法案を可決しました。同法案では、新たに所得税法第4j条を導入し、関連者に対するロイヤルティ及びロイヤルティ類似の支払いの損金算入を制限するとしています。損金算入が制限されるのは、このような支払いの受領国における優遇税制がOECD準拠となっておらず、実効税率が25%未満の場合です。また、同立法手続きの一環として、会社再建を目的とした債務免除から生じる利益、いわゆる債務免除益に対する課税についての新規則も採択されました。同法案は、2017年6月2日に連邦参議院が承認する見通しです。

詳細解説
ロイヤルティの損金算入制限(所得税法第4j条)

同規則の詳細については、2016年12月20日のEYグローバルアラート、「Germany publishes draft bill to restrict deduction of royalties to affiliated foreign entities that benefit from IP regimes without substantial local R&D activities」をご覧下さい。立法過程における12月提出法案からの主な変更点は、OECD準拠の優遇税制の定義に関するものです。当初の法案では、主に実質的な事業活動の証拠に基づく、優遇税制の特別な定義を予定していました。改正法案では、予定していた優遇税制の定義に代わるものとして、OECDによる行動5のネクサスアプローチに直接参照するものとしています。

また、ドイツの外国子会社合算税制(CFC)の適用対象となる国外法人に対し、ドイツ法人がロイヤルティを支払う場合は、ロイヤルティの損金算入は制限されないとしています。

債務免除益に対する免税措置

これまでドイツ税務当局は、2003年3月27日に連邦財務省が公表した会社再建通達を根拠として、債務免除から生じる利益(いわゆる債務免除益)に対する課税を裁量的に猶予又は(一部)免除してきました。会社再建通達では、会社再建にとって債務免除が妥当と考えられるケースが取り上げられています。ドイツ連邦税務裁判所は、2016年11月28日、税務当局が会社再建通達のみを根拠として税金債務を免除することは違法であるとの判断を下しました。連邦税務裁判所によれば、税務当局は、行政機関が公表した通達のみを根拠として税金債務を裁量的に免除する権限を有しておらず、法律が定める租税の賦課徴収義務を怠っているとのことです。

この裁決を受けて、ドイツ政府は、債務免除益に対する課税の問題に対処するとともに、破産の危機にある法人を免税措置の対象とするため、所得税法第3a条及び営業税法第7b条を新たに導入しました。

免税措置を受ける前提条件

所得税法第3a条は、所得税及び法人税の観点からの免税措置を規定しています。一方、営業税法第7b条は営業税における同様の優遇措置を規定しています。一般に、これらの新規則は法人及びパートナーシップに適用されます。

所得税法第3a条及び営業税法第7b条では、債務免除益、すなわち債権者による債務の全額もしくは一部免除から生じる債務者側の利益について、特定の条件の下では免税になることが規定されています。同規則の適用を受けるには、再建する必要があること、再建できる可能性があること、並びに会社再建を成功させるには債務免除が適切な手段であることを証明しなければなりません。また、債務免除が事業上の理由によるものであり、再建を目的としていることも証明する必要があります。

法律自体は、適格な債務免除として認められるケースを列挙していません。ただし、立法関連資料によれば、債務免除契約がドイツ民法典第397条第1項に準拠したものである場合、もしくは破産手続きにおいて債務免除が合意されている場合は、適格債務免除とされると考えられます。

さらに、所得税法第3a条第5項には、ドイツ破産法第286条に準じた残余債務免除及びドイツ破産法第304条に準じた債務整理計画から生じる所得は、特定の再建条件を満たす必要なく、免税措置の対象となると記載されています。

繰越欠損金の制限/有利選択義務

納税者が二重の恩恵を受けることを回避するため、債務免除益は、免税措置の適用を受ける前にまず、適用する事業年度の前年度末において使用可能な繰越欠損金と相殺しなければなりません。また債務免除益は、適用する事業年度及びその翌年度に生じる損失とも相殺する必要があります。この点については、所得税法第3a条第3項に、欠損金の使用の法的順序が規定されています。また、ドイツの利子損金算入制限規定によって生じる、支払利子もしくはEBITDAの繰越額の減額についても規定されています。さらに、適用する事業年度及びその翌年度において、納税者は、通常は納税者が任意で行う課税所得の減少につながる税務選択(有利選択)を行うことが義務付けられています(評価損の計上等)。加えて、債務免除の前5年以内に、債務が関連者から破産に直面している企業に移転された場合、当該関連者の繰越欠損金を減額させる濫用防止規定が導入されました。

関連事業費用の損金算入制限
所得税法第3c条第4項

上記欠損金の制限の他に、法案では、免税となる債務免除益に係る事業費用及びその他の費用の損金算入は原則として認めないとしています。損金算入が制限される関連費用は、債務免除益が生じた年度に発生した費用に限られたものではありません。立法関連資料には、債務保証料や再建費用が債務免除益に関連する事業費用の例として挙げられており、こうした費用は損金算入制限の対象となります。

新規則導入に伴う法人所得税法の改正

所得税法及び営業税法における新規則の導入に伴い、連邦議会は、法人所得税に係る特定の状況(連結納税、オーナーシップ変更に係る条項等)にも新規則が適用されることを明確化するため、法人所得税法の改正も採択しました。

適用期間

新規則は、2017年2月8日(上述のドイツ連邦税務裁判所による裁決の公表日)以降に債務免除が行われる全てのケースに適用されます。2017年2月8日より前に債務免除が行われた場合もしくは拘束力のある照会があった場合については、2003年3月27日付の会社再建通達が引き続き適用されます。また、連邦財務省は、特定のケースの適用期間に関する通達を2017年4月27日に公表しました。事業費用の損金算入制限は、2017年2月8日以降の債務免除に関連する事業費用に適用されます。

今後の立法手続き

同法案は2017年6月2日に、連邦参議院が承認する見通しで、連邦議会選挙前の2017年夏には立法手続きが終了する可能性があります。さらに、債務免除益に係る新規則の導入は、欧州委員会による国家補助(State aid)規制の対象となります。

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