英国総選挙結果が財政法と税制改正案に与える影響

英国総選挙結果が財政法と税制改正案に与える影響

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Japan tax alert 2017年6月14日号

エグゼクティブ・サマリー

2017年6月8日に行われた英国総選挙は、与党・保守党が第1党にとどまるものの、過半数の議席を維持できない結果となりました。第1党である保守党は、民主統一党(以下、「DUP」)の協力を得て、政権運営を目指すことになります。

選挙翌日、保守党首であるテリーザ・メイ首相は、英国が必要としている安定性を保守党がもたらすと述べました。しかし、保守党が次期政権を担うことになっても、保守党の閣僚人事に変更があるかどうかは現時点では不明です(メイ首相自身が辞任する可能性もあります)。

国会は6月13日(火)に再開され、新下院議長が選出される予定です。国会開会式は翌週の6月19日に予定されています。

詳細

財政法措置

税務の観点からの喫緊の重要事項は、2017年度財政法において保留となっている改正案(法人の利子損金算入制限制度、英国法人税法上の欠損金控除制度の改正、実質的株式持分免税措置(substantial shareholding exemption)の改正、非英国永住者(non-domiciles)ステータスに係る改正等)です¹。これらの条項は、できるだけ早い時期に議会に再提出されると思われます。

しかし、これら改正項目の適用開始日は依然として不明です。当初の予定通り、2017年4月から適用開始となるのか、あるいは、延期されるか予断を許さない状況です。

適用開始の延長は、事業計画にこれら改正案を織り込んでいた、また2017年4月からの適用開始を前提に取引を行ってきた法人や個人に対して、大きな影響を与える可能性があります。これらの延長は法人や個人だけでなく、もちろん国家予算にも多大な影響を与える可能性があります(利子損金算入と欠損金控除の制限が遅れれば、四半期当たり4億ポンドの税収不足をもたらす可能性があります)。

再提出された改正案を夏季休会前に立法化するには、時間が非常に限られているため、改正案が立法化されるのは今年後半になる可能性が高いと考えられます。

保守党マニフェストにおける租税政策

保守党は、マニフェストの中で「健全な財政、低税率、規制の改善、世界市場との自由貿易協定の上に成り立つ強い経済」を掲げました。その目的は、2025年までに財政均衡を図り、財政赤字をなくすこととしています。

マニフェストは、新保守党政権が目指す税制改正案の詳細について多くは語っていませんが、以下の事項が取り上げられています。ただし、新政権が長期目標を達成するまで政権を維持するかどうかは現時点では未知数です。

  • 2020年までに個人所得税の基礎控除額を12,500ポンドに引き上げ、また高税率の対象となる所得水準を50,000ポンドに引き上げる
  • 付加価値税(VAT)の引き上げはしない(ただし、所得税率もしくは国民保険料(社会保険)について同様の公約はない)
  • 2020年までに法人税率を17%に引き下げる(すでに立法化済)
  • 租税の簡素化(すでに租税簡素化室が適用可能なアプローチの検討を開始している)
  • 公平性の向上の観点で、事業用固定資産税制度の改正を行う
  • 税務コンサルティングファームへの規制強化や信託に係る透明性の向上を含む、脱税対策の強化
  • オンラインマーケットプレイスにおけるVAT不正行為を減少させるための追加措置の導入

雇用形態

近い将来に検討される可能性が高い分野の1つに「ギグ・エコノミー(インターネットを通じてフリーランスで働く形態)」への対応があります。その検討事業の1つとして、近日中に発表される予定であるテイラー報告があります(現代ビジネスにおける雇用慣行に関する分析報告)。テイラー報告の6つの主要テーマに租税は含まれていませんが、2017年春の予算案における自営業者の社会保障に関するコメントによれば、租税政策とテイラー報告は相互に関連する可能性があると考えられます。それを踏まえてか、保守党のマニフェストには社会保障費の引き上げはしないとの公約はありません(前回の選挙戦では同公約が掲げられました)。しかしながら、連立議席でかろうじて過半数を守る状態では、保守党政府は議論の分かれるこの問題を積極的に取り上げない可能性もあります。

英国のEU離脱

保守党のマニフェストは、英国の5つの重要な課題の1つとして英国のEU離脱を挙げています。その中で保守党は、欧州連合(EU)からの円滑で秩序ある離脱を成し遂げる一方で、欧州と「深く特別なパートナーシップ」を樹立する必要性を強調しました。選挙結果は、英国の交渉立場を不明確にしたと考えられますが、連立政権のパートナーであるDUPとの関係上、これまで焦点があまり当てられてこなかった英国(北アイルランド)とEU(アイルランド共和国)との国境の取扱いに関する合意の重要性が増す可能性もあると考えられます。

DUPのマニフェストは、アイルランドの国境問題を強調する一方で、保守党と立場を同じくする点としては欧州連合司法裁判所の管轄権の終了を求める点が挙げられます。また、英国が必要とするスキル、労働力及び安全保障を満たす有効な移民政策を求めており、必要に応じて「効果的で期限付きの移行措置」を設けることについて理解を示しています。

英国のEU離脱に関する欧州委員会との交渉は、6月19日の週に開始する予定です。新政権にとって重要な課題の1つは、できるだけ早期に自由貿易協定に関する交渉開始についてEU交渉担当者を説得し、離脱協定が締結されるまで、議論を遅らせないことにあると考えられます。

今後数日の間に、新政権の優先施策を議会開会に当たり指し示す女王演説の準備の中で、保守党新政権の政策方針が明らかになると考えられます。

脚注

1. 2017年4月28日付、EYグローバルタックスアラート、「 UK enacts shortened version of Finance Bill」参照(英語版)。

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