欧州委員会がEU VAT制度の大規模改革を提案

欧州委員会がEU VAT制度の大規模改革を提案

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EY 税理士法人

2017年10月18日
カテゴリー 間接税

Japan tax alert 2017年10月18日号

概要

2017年10月4日、欧州委員会(委員会)は、過去25年間で最大規模といわれる、欧州連合(EU)付加価値税(VAT)制度の改革案を発表しました。

本アラートでは、その主な内容を解説します。

詳細解説

EU加盟国間取引における課税地ルールに係る最終的なVAT制度(definitive VAT system)は、EUの長年の取組み事項であり、近年、委員会はVAT行動計画の中で、単一のEU VATエリア(Single EU VAT area)実現の必要性を詳細に説明していました。

委員会は、VAT制度の改善と近代化を目的とした、EU VATエリアにおける一連の基本原則又は基盤と、重要な改正について提案しています。EUの優先事項は、不正の防止を図ると同時にVAT制度をより強固かつ簡素なものにすることです。具体的には、委員会は以下の事項における合意を目指しています:

  • ワンストップ・ショップ: 国境を超える取引を行う企業におけるVAT上の義務が簡素化されます。  「ワンストップ・ショップ」は、すでに一部のクロスボーダー取引において使用されているコンセプトです。
  • 一貫性の向上: VATの最終納付額が、最終消費者が所在する加盟国の税率に基づき、当該加盟国へ支払われる「仕向地」主義へ移行されます。
  • 形式主義の軽減: クロスボーダー取引において、自国の規定に沿ったインボイス発行を可能とする、VATインボイス発行ルールの大幅な簡素化が行われます。
  • VAT不正への取組み: 事業者間のクロスボーダー取引にVATが課されます。現行制度では、当該取引におけるVAT課税は免除されています。詳細は、後述の最終的なVAT制度についての解説を御覧ください。

今回の提案においてはさらに、簡素化・省時間化措置の恩恵を受けることができる認定課税事業者(CTP)の概念が導入されています。これは、EU域内で国境を超える事業活動を行う企業の取引の促進及び簡素化を図るための新たな概念です。一定の基準を満たす事業者が認定を受けることができ、EU全域でVAT上信頼性のある納税者とみなされます。一度認定を受ければ、CTPだけでなくCTPと取引をするすべての企業が、クロスボーダー取引に係るVATの申告及び納付において、多くの簡素化手続きを利用することが可能となります。CTPステータスは、すべてのEU加盟国により相互に認められます。

最終的なVAT制度

現在の提案は、クロスボーダー取引におけるVAT課税が、仕向地国の税率で行われることを目的としています。VATは供給地国の税務当局により徴収され、物品やサービスが最終的に消費される加盟国へ移転されます。例えば、フランスの企業がポーランドの顧客への販売を行う場合、ポーランドのVATが適用されます。最終的なVAT制度において、当初は資産の譲渡取引に重点が置かれます。

「ワンストップ・ショップ」

国境を超える資産の譲渡取引を行う事業者による複数国での潜在的なVAT登録義務の回避策として、当該取引に係る申告、納付及び控除を、すでに電子サービスの供給に関して導入されているシステムと同様のオンライン上の単一のポータルサイトより行うことが可能となります。当該ポータルサイトの利用により、資産の譲渡が行われた国(供給地国)でVATを徴収のうえ、消費された国(仕向地国)へ移転させることが可能となります。

短期的な応急措置

最終的なVAT制度に関する提案に加えて、当該制度が完全に合意・実施されるまでの間に行われるVAT制度改善のための短期的措置が複数提案されています。

これらの短期的措置は、企業や加盟国から明示的に要請のあった問題に対する対応策です。

  • ある加盟国の事業者が、他の加盟国にその国の顧客に直接販売される資産を保管している場合(コールオフ・ストック)におけるVAT制度の簡素化措置。この簡素化措置はCTPにのみ適用されるもので、他の加盟国に資産を保管する場合に、当該国でのVAT登録及び納付が不要になります。
  • 資産の物理的な移動を伴わないチェーン取引におけるVAT制度の簡素化措置。例として、資産が複数の業者を介して譲渡される一方で、物理的な資産の引渡しは最初の販売者と最終顧客間で行われる場合が挙げられます。当該簡素化措置もCTPにのみ適用されます。
  • 加盟国から他の加盟国への資産の輸送に係る証明を容易にする、統一された新ルール。当該簡素化措置もCTPにのみ適用されます。
  • 現行制度における国境を超える取引における免税適用において、輸送の証明に加え、EU VAT番号検証システム(VIES)に登録されている取引相手のVAT番号が必要である点の明確化。

次のステップ

当改正案は欧州議会の審議に付された後、閣僚理事会で採択されます。改正案が施行されるには、理事会に参加するすべての加盟国の合意が必要となります。

VAT指令全体の見直しを目的とした第2の指令が提案され、その中で現行の暫定的条項が置換又は削除されます。

当該制度の適切な運用には、税務当局間の執行協力ルールの更なる変更やITの大規模な開発が必要となることが想定されます。

当該指令の採択は現在のところ2018年に予定されており、最終的なVAT制度の適用は2022年となる予定です。

本件に係る通知及び提案の全文は、下記リンク先(英語のみ)でご覧になれます。  

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