OECDが国際コンプライアンス保証プログラム試験導入を開始

OECDが国際コンプライアンス保証プログラム試験導入を開始

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EY 税理士法人

2018年2月8日
カテゴリー BEPS

Japan tax alert 2018年2月8日号

エグゼクティブサマリー

2018年1月23日、経済協力開発機構(OECD)は、国際コンプライアンス保証プログラム(ICAP)試験導入の開始を発表しました1。今回の試験導入は、OECD税務長官会議(FTA)が主導し、多国籍企業のリスク評価を行い、多国籍企業(MNE)グループの税務上の取扱いを保証することに重点を置いています。ワシントンDCで試験導入開始に際してイベントが開かれ、同プログラムに参加するMNEグループ及び税務当局が出席しました。

ICAPへの参加を通じて、MNEグループは国別報告書(CbCR)やその他の納税者が提供する情報等をもとに、税務当局との間において、税務リスクについて公開された透明性の高い方法により協議を行うことができます。税務上のリスクが低いと合意がなされた場合、その旨が記載されている結果通知書が作成され、一定期間(検討対象期間及びそれに続く2課税年度)に重大な変更がない限り、その期間内において、対象となる税務当局はこれ以上のコンプライアンスに関する指摘を行わないという保証がMNEグループに与えられます。

ICAPの合意に至らず、さらに検討が必要とされる問題は、事前確認(APA)や(状況によっては)税務調査など他のプロセスを通じて対応することになります。

ICAP試験導入はリスクの低い納税者に焦点を当てていますが、将来的に、OECDはリスクがより高いと考えられる納税者もICAPプログラムに参加することを期待しています。イベントの終了に際して、OECDはプログラムの詳細を提供するICAPハンドブック(ハンドブック)2を公表しました。

試験導入には、オーストラリア、カナダ、イタリア、日本、オランダ、スペイン、英国及び米国の8カ国が参加しています。参加するMNEグループの数は不明ですが、それぞれが本拠を置いている国の税務当局からの招請を受けたものです。将来のICAP参加者には具体的な資格要件が設けられ、MNEグループには申請手続きが必要となります。

試験導入における各MNEグループの個別の国際税務リスクに関する多国間の評価は、2018年上半期に開始されます。各国が異なる財務年度を有するため、すべてのリスク評価が終了するためには18カ月を要すると見込まれていますが、早いものでは6カ月以内に完了する評価もあると見られています。ICAPは、MNEグループに法的な確実性を提供するものではありませんが、プログラムに参加する税務当局によって税務上のリスクが低いとみなされる場合、一定の保証を得ることができます。

詳細解説

試験導入ハンドブック

ICAPハンドブックには、ICAPプログラムと試験導入の手順に関する説明が記載されています。このハンドブックは、試験導入の結果に基づいて改訂され、今後ICAPプログラムに適用される予定のプロセスを詳細に説明する運用マニュアルの土台となる予定です。

ハンドブックは4つのセクションからなり、最初のセクションでは試験導入プロセスを要約しています。ICAPプロセスは、まず参加する8カ国に本拠を置く、MNEグループの数を特定することから始まります。次に、試験導入に参加するように招請されたMNEグループは、ハンドブック附属書Ⅰに記載されている内容の文書パッケージを提出する必要があります。対象となる税務当局(8カ国におけるすべての税務当局が、ICAPリスク評価に参加しているとは限りません)は、文書パッケージ及び税務当局が保持するその他の情報(マスターファイルなど)に記載されている情報に基づいて、MNEグループによって提起された移転価格及び恒久的施設リスクに関する評価を実施します。税務当局は、既存の国内プロセスを用いてリスクを評価します。

リスク評価プロセスの終了時(以下に詳述)には、国内の要件とプロセスに応じて、各税務当局がMNEグループに結果通知書を発行します。結果通知書には、税務当局が保証を与えたリスクや、その他リスクとして識別された事項が記載されています。

セクション2では、試験導入の対象範囲について説明しています。試験導入プログラムの対象となる国際税務リスクは、移転価格及び恒久的施設のリスクです。しかしながら、将来のICAPリスク評価では、MNEグループと税務当局間で合意がなされるのであれば、その他の関連する、もしくは重要な国際税務リスク(ハイブリッド事業体やハイブリッド金融商品、源泉税、関連する租税条約の適用等)も対象とすることができます。

試験導入プログラムの対象となる税務申告期間は、2016年1月1日以降に開始するMNEグループのCbCRの報告年度に対応する事業年度です。12月末に事業年度の終了するMNEグループの場合、試験導入の対象期間は2016年1月1日及び2017年1月1日に開始する事業年度となります。税務当局によるICAPリスク評価の決定については、MNEグループと税務当局との間で協議して合意すべきものですが、その際には各国におけるMNEグループの活動レベル、認識されるリスクレベル及びICAPリスク評価を支援するために必要であるリソース等の要素を考慮する必要があります。

ハンドブックでは、後述するリスク評価プロセスの説明がなされ、各税務当局の上級代表者らが参加するICAP運営グループの役割が強調されています。運営グループは、ICAPプログラムを運営していく上での管理上の意思決定と戦略的な監視を行い、ICAP及び試験導入では各税務当局の内部統制手続を順守するようにします。

ハンドブックには2つの附属書が含まれており、付属書Ⅰは試験導入の文書パッケージに関する説明、付属書IIはICAPリスク評価のスケジュール目標を示しています。

ICAPリスク評価プロセス

ICAPプロセスには、2つの重要なフェーズがあり、対象となるグループの税務上のリスクを評価し、容認可能と判断された場合に保証が与えられます。特定されたリスクのレベルに応じて、2つのフェーズが連続する場合もあります。

リスク評価レベル1

リスク評価レベル1では、ICAPモデルアプローチによる税務当局のICAPリスク評価及び保証が行われます。税務当局は情報の収集や納税者が提出したICAP文書を確認し、協調的なリスク評価を通じてそれぞれのリスクの評価を判断します。ICAP試験導入の一環として、この段階では、税務当局間の事前ワークショップと(そのおよそ1週間後に開催される)税務当局とMNEグループとの間で重要な国際税務リスクについて協議するワークショップが行われます。

試験導入に参加するMNEグループが提出するICAP文書パッケージには、そのグループの税務当局(グループが本拠を置く国の税務当局)によって作成が求められているCbCR、マスターファイルの他に、対象期間の監査済み連結財務諸表、試験導入に参加する国に所在するすべてのグループ企業の監査済み財務諸表、恒久的施設に関連する文書及びバリューチェーン分析が含まれます。      

レベル1完了までの想定期間は8週間ですが、試験導入ではワークショップの時間を確保するために10週間に延長されています。ハンドブックは、この期間にMNEグループは税務当局に対して、質問に回答するなどの協力をする必要があるとされています。      

また、MNEグループの申告に特定の調整が行われるのであれば、リスクが低い又はリスクがないとして、税務当局がリスク評価を行なわずに保証することができるとされています。その場合、「リスク保証」フェーズへの移行が可能となり、税務当局とMNEグループが協力して、どのような税務上の調整が必要であるか(又は不要であるか)について合意します。このリスク保証フェーズの目標期間は3週間以内とされていますが、MNEグループと税務当局の合意により延長することができます。期間内に合意に達した場合には直接的に税務上の保証が与えられ、ICAPリスク評価は終了します。合意に達しない場合、プロセスはリスク評価レベル2へと進みます。

MNEグループがレベル2へ進むことを望まず、税務当局もそれに合意した場合には、MNEグループに対して各税務当局が審査結果を確認する結果通知書を発行することで、リスク評価が終了します。この段階は3週間と想定されています。より詳細なリスク評価が必要な場合には、確認は行われずリスク評価レベル2へと移行します。

リスク評価レベル2

リスク評価レベル2では、税務当局がリスクを評価するための追加手続きとより長い評価期間が設けられています。この段階は、税務申告の状況に確定的な判断が下される前に、さらに検討や明確化が必要な場合においてのみ実施されます。レベル2の期間はそれぞれの状況に応じて異なりますが、OECDは5カ月ほどで実施されることを想定しています。税務上の調整への合意や、税務当局間の意見の相違を解決するリスク保証手続きに想定される期間は、必要に応じてさらに3週間程度かかることになります。

レベル2の最終段階として、MNEグループと税務当局との会議(電話会議を含みます)が開かれ、各税務当局のリスク評価、勧告及び結論についての協議を行います。当該協議は、リスクの低い税務ポジションであることを確実なものとするために、MNEグループの税務申告にどのような変更を加えるべきかについて、合意を目指すことを含みます。協議がまとまり、MNEグループが変更を行う意思がある場合にはリスク評価レベル2は終了し、主要税務国がその結果を文書化します。各税務当局が結果通知書をMNEグループに発行し、事案は確定となります。

次のステップ

試験導入開始に伴い、参加するMNEグループは、ハンドブック附属書Ⅰに定義されているICAP文書パッケージを提出するように要請されます。文書パッケージが提出されてから6週間後、MNEグループと全ての税務当局との間で会議が開催されます。リスク評価レベル1ですべてのリスクの保証がなされ、追加の期間や資料が必要とされない場合には、ICAPリスク評価をわずか17週間で完了することができ、すべての試験導入の対象についてのリスク評価プロセスを18カ月で終了するとされています。また、MNEグループは、試験導入のどの段階においても、ペナルティなしにICAPを終了することができます。

今後の影響

納税の確実性を確保するための仕組みはすでに存在しますが、ICAPは納税者と各国の税務当局が一度に相互協議できる点において、際立った制度となっています。したがって、ICAPは税務行政のより多国間的なアプローチの潮流を汲み、すべての納税者が利用できる他の手続き(二国間及び多国間APA等)をサポートし普及させることに貢献すると予想されます。したがって、今回ICAPの試験導入が開始されたたことは、国際税務における重要な節目と考えられています。

ICAPへの参加は任意とされていますが、今後の参加可能性を探るために、2018年には各国税務当局がMNEグループにアプローチして来るものと考えられます。そのため、MNEグループにとって、ICAPに参加するに際しての潜在的な課題と利益と同様に、その仕組みを理解することが重要となると考えられます。

※本アラートの詳細は、下記PDFからご覧ください。

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