米国財務省規則案を公表「留保所得一括課税」

米国財務省規則案を公表「留保所得一括課税」

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EY 税理士法人

2018年8月2日

Japan tax alert 2018年8月2日号

米国財務省は2018年8月1日、昨年12月22日に成立した米国税制改正(「The Tax Cuts and Jobs Act(TCJA)」)に規定される「特定外国法人の留保所得一括課税」にかかわる財務省規則案(Proposed Regulations)を公表しました。当規則案はTCJAにかかわる財務省による初の規則案となります。2018年後半にかけて、個人事業主及び個人パートナーが認識する特定事業所得に対する20%所得控除、支払利息の損金算入制限、GILTIの算定法、BEATを含むクロスボーダー課税等に対するさらなる規則案の公表が予定されています。

留保所得一括課税は、対象となる特定外国法人の2017年12月31日以前に開始する直近の課税年度(「合算課税対象年度」)末を含む米国株主側の課税年度に、外国法人の1987年以降の留保所得を15.5%(現金相当額)又は8%(その他)の低税率で課税するというものです。留保所得一括課税に関しては、TCJA制定直後から複数のNoticeが公表されており、規則案はNoticeの内容の多くを踏襲し、更に追加措置を規定する形となっています。規則「案」には法的な拘束力はありませんが、財務省、IRSによる現時点での法文解釈が反映されており、取り扱い決定時の重要な指針となります。また、他のTCJAの規定内容と異なり、留保所得一括課税は2017年の申告に関係することから、2019年の早い時期には最終規則化されることが予想されています。

規則案は前文113ページ、主文136ページ、計249ページから構成される膨大なもので、詳細な規定内容の分析にはさらなる時間を要しますが、日本企業の米国子会社に関心が高いと思われる主たる規定は次の通りです。

留保所得算定法

  • 一括課税の対象となる留保所得は、各特定外国法人の2017年11月2日と12月31日の留保所得のいずれか大きい方の金額を取るため、11月3日以降12月31日以前に行われた特定外国法人間の取引額が重複して加味される、又は一度も加味されない事態が発生し得る。このような不都合を避けるため、50%超の資本関係にある特定外国法人グループ内の取引額は一度だけ加味されるような調整法を規定。ただし、当該調整はあくまでも50%超の資本関係にある特定外国法人間の取引のみに適用可。
  • 合算課税対象年度内に行われた特定外国法人間の分配は、分配側において留保所得減額が認められるのが原則だが、分配受け手側で一括課税対象となる留保所得増額が起こらない場合には分配側の減額は認められない。
  • 過去に特定外国法人がCFC合算課税対象となる所得(Subpart  F所得)を認識しており、かつ特定外国法人に米国外株主が存在するケースでは、米国外株主に帰属するSubpart F所得の金額も米国株主に対する取扱い同様に、課税済み留保所得として留保所得を減額。 
  • 一括課税の対象となる「プラス」留保所得算定時には、1987年以降の累積E&Pから米国事業関連所得(ECI)及び過去にSubpart F所得として合算され課税済みとなっている留保所得(PTI)を減額し、当該金額の2017年11月2日又は12月31日時点のいずれか大きい方を使用する。一方、「マイナス」留保所得算定時には、単純にE&Pがマイナスか否かを2017年11月2日時点のみの時点で判断する。このことから、場合によっては一つの特定外国法人がプラスとマイナス両方の留保所得を持つような結果があり得る。さらに、場合によっては留保所得がプラスでもマイナスでもない結果となることもあり得る。そのような混乱を避けるため、特定外国法人の留保所得算定法に関して次の追加ルールを規定。

・最初に特定外国法人に「プラス」留保所得があるかどうかを判断。プラス留保所得ありという結果が出た場合、「マイナス」留保所得有無の判断は行わず、「プラス」留保所得を持つ特定外国法人と認定。

・一方、「プラス」留保所得なしという結果が出た場合、次に「マイナス」留保所得を持つかどうかを判断。「マイナス」留保所得の基準を充たさない場合、特定外国法人は「プラス」留保所得も「マイナス」留保所得も持たない法人と認定。

  • 2017年11月2日時点の留保所得確定目的で、2017年10月31日の留保所得に、2日分の所得の調整を行う代替算定法の選択を規定。 
  • 一括課税対象となる留保所得は「外国法人税引後」の金額となるが、2017年11月2日時点の留保所得算定目的では、特定外国法人の年間の外国法人税額を11月2日時点の課税所得に基づき按分。
  • マイナス留保所得を持つ特定外国法人が、異なる複数のクラスの株式を有する場合、マイナス留保所得は普通株式を持つ株主に、普通株式の価値に基づいて配賦。 
  • 過去の外国法人間の適格組織再編で存続法人に継承された再編前のマイナス留保所得(Hovering Deficit)も一括課税対象の留保所得算定時に加味することを容認。
  • 2017年11月2日と12月31日の各特定外国法人の留保所得は特定外国法人の機能通貨ベースで比較。ただし、11月2日と12月31日の間に機能通貨の変更があった場合には、12月31日時点の機能通貨ベースで比較。その場合、11月2日の留保所得は11月2日のスポット為替レートで新機能通貨に換算。 
  • 一括課税対象の留保所得は2017年12月31日のスポット為替レートで米ドルに換算。

キャッシュポジション算定法

  • 複数の特定外国法人が異なる合算課税対象年度を持ち、米国株主側の一括課税処理が単年で終了しないケースで、15.5%の税率の対象となるキャッシュポジションを重複して加味しなくてもよいようにキャッシュポジションの算定優先順位を規定。

・米国株主が一括課税処理を行う最初の課税年度におけるキャッシュポジションは当該年度の一括課税対象留保所得を上限とし、次年度に加味されるキャッシュポジションは初年度にすでに使用された金額で減額する。 

  • 複数の特定外国法人が異なる合算課税対象年度を持ち、米国株主側の一括課税処理が単年で終了しないケースで、2017年申告書の延長後の提出期限までに特定外国法人の少なくとも1社に関して2017年12月31日以前に開始する合算課税対象年度末が到来しておらず(例 2018年11月30日決算)、結果としてその時点でのキャッシュポジションの確定が不可能なケースでは、当該時点のキャッシュポジションはゼロとみなす。

・結果として、米国株主の2017年度の申告目的で、そのような状態にある特定外国法人のキャッシュポジションは、前年度の期首期末平均キャッシュポジション額となる。

・後日、2017年12月31日以前に開始する合算課税対象年度末のキャッシュポジションの方がより多額であることが判明し、結果として15.5%対象となる留保所得額が圧縮されていたケースは、修正申告書を提出して不足額を申告。その際に利息およびペナルティーは課せられない。

  • キャッシュポジション算定時に、特定外国法人間に債権債務が存在する場合、キャッシュポジションが実質重複して加味されないよう、50%超の資本関係にあるグループ内の特定外国法人間の債権・債務は無視する形でキャッシュポジションを算定。 
  • キャッシュポジション算定時に、想定元本契約、オプション、先渡契約、先物契約、債券・ショートポジション等の金融派生商品の時価をキャッシュポジションに加味。ただし、正当なヘッジ目的が認められる金融派生商品は除外。
  • キャッシュポジションに含まれる売掛金は、通常業務下での棚卸資産販売又は役務提供から発生する債権と規定。
  • キャッシュポジションに含まれる売掛金、買掛金は1年未満で精算されるものに限定。 
  • キャッシュポジションに含まれる短期受取債権は返済期限が1年以内又は要求払いの債権だが、売掛金に含まれるものは除外。 
  • キャッシュポジションは各判定日(合算課税対象年度末、前年期首期末)のスポット為替レートで米ドルに為替換算。 
  • 特定外国法人の組織変更、米国株主による持分譲渡、等の取引が発生した場合のキャッシュポジション判定日は次の通り。判定日に特定外国法人が存在し、かつ判定日に特定外国法人の米国株主の立場にある者が、その日のキャッシュポジションを加味(「最終判定日」又は「(第1判定日x 50%)+(第2判定日x 50%)」のいずれか高い金額がキャッシュポジションとなる)。

・2017年12月31日以前に開始し、2017年11月2日以降に終了する直近の課税年度最終日(最終判定日) 

・2016年11月2日以降、2017年11月1日以前に終了する直近の課税年度最終日(第2判定日)

・2015年11月2日以降、2016年11月1日以前に終了する直近の課税年度最終日(第1判定日)

外国税額控除

  • 留保所得一括課税で課税済み留保所得となった金額を原資とした分配を後日米国株主が受け取る際に米国外で課せられる源泉税は税額控除の対象とするが、対象外国税額は一括課税時に税額控除対象となる法人税を減額したパーセンテージを同様に適用して減額処理。

租税回避防止規定

  • 次の3つの条件を同時に満たす取引を租税回避取引と認定し、一括課税算定時に加味することを禁止。

・取引の全体又は一部が2017年11月3日以降に発生

・米国株主側の一括課税の減額を主たる目的に実行

・租税回避防止規定の存在がなければ、一括課税額が減少した取引

  • 一括課税額の減少は次の結果認められる(反証可能)。

・いずれかの特定外国法人にかかわる一括課税の対象となる留保所得の圧縮

・キャッシュポジションの圧縮

・税額控除の対象となる外国法人税の増額

その他

  • 合算課税対象年度に発生する特定の取引に基づく課税関係決定のため、取扱い優先順位を次の通り規定。

・留保所得一括課税以外のSubpart F所得 

・2017年12月31日以前に行われる特定外国法人間の分配 

・留保所得一括課税

・特定外国法人間以外の分配(Subpart F所得及び一括課税額に関して留保所得はすでに課税済みとなっている状態)

・CFCによる米国投資みなし配当規定(Section  956)

  • 留保所得一括課税目的で、連結納税グループは単一納税者扱い。
  • 留保所得一括課税で課税済み留保所得となった金額を原資として行われる将来の分配時の為替差損益は、一括課税に適用される低税率(8%又は15.5%)の影響を加味して非課税部分の割合を乗じて為替差損益を減額。
  • 留保所得一括課税で課税済み留保所得となった金額を原資とした分配を米国株主が受け取る際に、受取額が株式簿価を超過してみなし譲渡益となる場合、譲渡益は一括課税対象留保所得額の範囲で免税。当該規定は下層の特定外国法人から上層の特定外国法人を経由して分配されるケースにも適用。また、上層の特定外国法人が下層の特定外国法人に対して持つ株式に対しても同様に適用。
  • 外国法人が、一括課税対象となる特定外国法人(CFC又は米国法人が1社でも10%以上の持分を有する株主として存在する外国法人)か否かの判断時に、「Downward Attribution」の適用を一部緩和。持分が5%未満のパートナーが所有する株式持分は、パートナーシップ側にみなし持分を認定しない緩和措置を規定。 
  • 米国株主側で留保所得一括課税を算定する際、繰越(又は繰戻)欠損金に加え、当該年度に発生する欠損金も、留保所得と相殺しない選択を規定。
  • 留保所得一括課税にかかわる税負担は、予定納税延滞ペナルティーの対象外とする緩和措置を規定。