米国、「FDII・GILTI控除」財務省規則草案公表

米国、「FDII・GILTI控除」財務省規則草案公表


Japan tax alert 2019年3月11日号

2019年3月4日、米国財務省はGlobal Intangible Low-Taxed Income (「GILTI」)控除およびForeign Derived Intangible Income (「FDII」)控除の双方を規定する内国歳入法第250条に係わる財務省規則草案を公表しました。177ページに上る規則草案は、多くのページをFDII控除対象となる米国外取引の定義に割いています。

GILTIに関しては、2018年9月13日にGILTI「合算」計算、また同11月28日にはGILTIバスケットを含む外国税額控除に係わる規則草案がそれぞれ公表されており、今回のGILTI控除に係わる規則草案の公表をもって、合算、控除、外国税額控除で構成されるGILTIの全ステップに係わる規則草案が出そろったことになります。

250条は、米国法人について、GILTI合算および外国税額控除目的で当該GILTIとグロスアップされる外国法人税の総額に対する50%の所得控除(2026年からは37.5%)、米国外の販売、ライセンス、役務提供に基づく国外取引から生じるFDIIに対する37.5%の所得控除(2026年からは21.875%)について規定しています。

今回公表された財務省規則草案の主たる規定は、次のとおりです。

250条控除額

250条控除はREIT、RIC、S法人以外の米国法人(US Corporation)に認められる。GILTI「合算」は法人以外の米国株主にも適用がある一方、250条控除は米国法人のみに適用。ただし、CFCの米国株主が個人の場合、962条に基づき法人としての課税を選択することで250条控除のうちGILTI控除部分の恩典を受けることができる。

250条控除額は、課税所得を上限とし、250条控除額が課税所得上限額を超過する場合には、超過額はGILTI控除とFDII控除に按分され、それぞれの控除額の対象となる金額を減額させる。

上限額となる課税所得は、支払利息の損金算入制限を規定する163条(j)や繰越欠損金を含むすべての規定を加味する一方、250条控除を加味する前の課税所得となる。163条(j)に基づき過年度からの繰越支払利息を使用する場合も、当額控除を加味した後の課税所得が上限額となる。

163条(j)の財務省規則案では、支払利息の損金算入制限を算定する際の修正課税所得(ATI)は250条控除を加味して算定すると規定されているが、その際に使用する250条控除は課税所得上限を加味しない暫定金額を使用する。

163条(j)、繰越欠損金および250条控除の算定順序は次のとおりです。

  1. 163条(j)、繰越欠損金および250条控除の算定順序は次のとおりです。163条(j)、繰越欠損金および課税所得制限を加味しない暫定FDIIに基づく暫定250条控除額(「暫定250条控除」)を算定。
  2. 暫定250条控除を加味したATIに基づき163条(j)支払利息損金算入制限額を算定。 
  3. ステップ2に基づき損金算入が認められる支払利息を加味した課税所得をもとに、繰越欠損金の使用可能額を算定。80%制限の対象となる繰越欠損金を使用する年度は、当ステップ3で80%上限額を算定。
  4. ステップ2とステップ3で算定された支払利息および繰越欠損金の損金算入可能額を使用して最終FDII額を算定。
  5. ステップ2とステップ3で算定された支払利息および繰越欠損金の損金算入可能額を使用して250条控除に対する課税所得上限額を算定・適用し、FDII額、GILTI合算(および外国法人税グロスアップ)を基に最終250条控除額算定。
FDII算定法

FDII は、米国法人が米国外顧客に対する販売、ライセンス、役務提供から認識する超過所得に想定控除を認めることで低税率を適用する制度であるが、機械的な計算ステップに基づき、みなし超過所得の外国%をFDIIとみなす。

FDII = 「みなし超過所得」× 「外国派生%」

みなし超過所得 = 「適格課税所得」マイナス「みなしルーティン所得」(マイナスの場合はゼロ)

みなしルーティン所得 = 「有形償却資産ネット簿価(Qualified Business Asset Investment「QBAI」)」×10%

外国派生% = 「外国派生適格課税所得/適格課税所得」

適格課税所得は、次の所得とそれに関連する控除を除外して算定する課税所得

  • CFC合算所得(Subpart F所得)
  • GILTI合算所得
  • 金融サービス所得
  • CFCからの配当所得(みなし配当含む)
  • 国内オイル・ガス所得
  • 米国外支店所得

外国派生適格課税所得は、外国派生売上および当売上に関連する控除のみで算定する適格課税所得。

適格課税所得および外国派生適格課税所得の算定時に、各々に関連する控除額は、外国税額控除および内国製造活動控除(2017年まで存在した199条控除)目的等で規定されていた従来の税法に基づく配賦法を適用して算定。

パートナーシップに投資する米国法人は、パートナーシップから配賦される項目を加味してFDIIを算定。

パートナーシップから配賦される所得が米国法人パートナー側のFDII控除算定に影響を与える場合でも、当該影響額をもってパートナーのパートナーシップ持分税務簿価の調整は行わない。

パートナーシップが顧客の場合、販売、ライセンスが米国外の顧客に対する米国外使用に係わる取引か否かの判断は、パートナーシップ自体を取引先として取り扱うことから、米国パートナーシップに対する取引は、対象となる資産が米国外で使用される場合でも、FDII控除の対象外となる。

米国外顧客・米国外使用

FDII算定時の外国派生適格課税所得の定義は、取引が「販売・ライセンス」か「役務提供」かにより異なる。

  •  「販売・ライセンス」に関しては、顧客が「外国人顧客」でかつ資産が「米国外使用」であること。
  • 「役務提供」に関しては「米国外所在の顧客」に対して、または「米国外に所在する資産」に関して提供される役務であること。
  • 一つの取引が販売・ライセンスと役務提供の双方の要素を含む場合、総合的に取引の性格を支配していると考えられるいずれか一方の取引として取り扱う。
販売・ライセンスと外国人顧客

販売・ライセンスに係わる顧客を外国人として取り扱うためには次の証明義務に準拠する必要がある。

  • 顧客が外国人であるかどうかの判断は、顧客から入手する外国人証明書をもとに行う。証明書はFDII申告日(FDII控除を含む課税年度の延長後申告期限日)以前、取引の一年前以内に入手されている必要がある。 
  • 証明書の入手に加え、販売者が顧客が実は米国顧客であるという認識がない、またはそうような認識をするべき立場になかった必要がある。
  •  前年の売上が1,000万米ドル未満、または特定の顧客に対する当課税年度の売上が5,000米ドル未満の場合は、外国人証明書の入手義務は免除され、仕向地住所に基づく外国人か否かの判断が認められる。
  •  外国派生課税所得を生み出す特定の取引が損失を計上する場合、当該取引に関して敢えて外国人証明書を入手せずに外国派生課税所得から除外(損失が除外されるので外国派生課税所得総額が増額)することは認められず、販売者が顧客は米国外顧客である、または米国外使用である、という事実を知っている、または知るべき立場にあった損失取引は、米国外証明書の有無にかかわらず外国派生課税所得とする。
販売・ライセンスと米国外使用

販売・ライセンスの対象資産が米国外使用されているかを判断する際には、資産が「一般資産」または「無形資産」であるかを区別する必要がある。一般資産は、無形資産、債券、コモディティを除く全ての資産を意味する。

販売・ライセンスの対象となる資産を「米国外使用」として取り扱うには、次の要件を充足する必要がある。

  • 対象資産が債券・コモディティでないこと(債券・コモディティは「米国外使用」となることはない)。
  •  一般資産に関しては、資産譲渡から3年以内に米国内使用されないこと、または米国内使用前に米国外で製造、組立、その他の加工をされること。ただし、マイナーな加工、梱包、レーベル貼り等は加工に当たらない。
  • 無形資産に関しては、米国外で活用(Exploitation)されること。一般資産と異なり「部分的」に米国外使用されることがあり得る。また、無形資産をライセンスではなく一括譲渡する場合は、想定ライセンスに基づく米国内外からのロイヤリティ収入の現在価値で米国外使用部分を決定する。無形資産が商品の開発、製造、販売のために使用される場合、当該商品の販売先となる最終消費者の所在地で活用されているものとして取り扱われる。
役務提供

役務提供は、「米国外に所在する者」に対して、または「米国外に所在する資産」に関して提供される場合にFDDI控除適格となる。判定法は役務のタイプにより異なる。これら2つの基準を同時に充足する必要はなく、いずれか一方の充足でFDII控除対象となる。

役務提供は、タイプ別に次の判断基準で米国内外の判定を行う。

  • 役務提供者と役務の受益者が物理的に近距離にある役務(「近距離役務」)に関しては役務提供場所
  • 有形資産に係わる役務(「有形資産役務」)に関しては資産の所在地
  • 旅客や貨物の運送に係わる役務(「運輸役務」)は発着点。発着点双方が米国外の場合には100%米国外、発着点のいずれかのみが米国外の場合は50%が米国外
  • その他の役務(「一般役務」)に関しては、役務の受益者の所在地。一般役務は更に個人消費者向けとビジネス向けに分類され、前者は消費者の居住地、後者はサービスの受益者(または恩典を享受する関連者)の事業の所在地
米国内中間業者

販売・ライセンスおよび役務提供を米国内の非関連中間業者に対して行う場合、その先の商流が米国外となる場合も、特別な緩和規定はなく、通常の規定を適用して非関連中間業者との取引内容を基にFDII控除対象となるかどうかを判断。米国内の「関連者」が中間業者として機能する場合も同様の考え方を適用するが、連結納税グループ法人間の内部取引に関しては例外あり。

米国外関連者

米国外関連者に対する販売・ライセンスおよび役務提供でも条件を充足すれば、FDII控除対象となり得るが、一般資産販売および一般役務提供に関しては次の追加要件が規定される。ここで言う関連者は50%超の資本関係にあるグローバルグループ内の者(法人に限定されない)。

一般資産販売と米国外関連者

一般資産販売に関しては、米国外関連者が当該一般資産または当該一般資産を使用して製造した資産を実際に米国外非関連者に販売し、当該販売が通常の米国外使用基準を充足する必要があり、米国外関連者に販売された後、米国外非関連者に米国外使用目的で再販されるまでFDII控除対象とはならない。

FDII申告日以降に再販が行われ、当該再販実績を基にFDII控除を計上する場合には、再販が実際に行われた時点以降、通常の時効成立前に修正申告書を提出する必要がある。

米国外関連者が取得する一般資産が、他の資産の製造目的や役務提供目的に使用される場合、FDII申告日に、当該一般資産の使用に基づく取引から発生する将来の所得の80%超がFDII控除適格となると合理的に推定される場合に、米国外関連者に対する一般資産販売がFDII適格となる。

無形資産と米国外関連者

無形資産の譲渡・ライセンスに関しては、関連者・非関連者向けを問わず無形資産の活用が米国外の利益を生み出している範囲でのみ米国外使用と取り扱われることから、米国外関連者に対する無形資産販売・ライセンスにかかわる追加要件は規定されない。

一般役務と米国外関連者

米国外関連者に対する一般役務提供は、米国外関連者が「実質的に同様」な役務を米国内非関連者に提供している場合、迂回取引となりFDII控除の対象とはならない。

米国外関連者が米国内非関連者に提供する役務(「非関連者間役務」)は、「恩典テスト」または「価格テスト」のどちらかに抵触する場合、米国法人が米国外関連者に提供する役務(「関連者間役務」)と実質的に同様と取り扱われる。

恩典テストは関連者間役務から生じる恩典の60%以上が米国内非関連者に帰する場合に充足される。恩典テストは、関連者間役務から生じる恩典そのものがその先の非関連者間役務を通じて米国内に提供されている割合を参照して算定されることから、非関連者が付加する恩典は加味されない。例えば、米国外関連者が付加価値の高い役務をバンドルする形で米国内非関連者に役務提供する場合も、付加価値部分は算定に加味されないため、関連者間役務との比較で恩典テストを充足する限り、非関連者間役務は実質的に同様と取り扱われ、結果としてFDII控除適格とはならない。

価格テストは非関連者役務から生じる役務提供対価の60%以上が関連者間役務に帰する場合に充足される。価格テストは米国内非関連者に提供される役務の価値に占める関連者間役務の価値を基に算定されるため、関連者間役務の40%超の恩典が米国外非関連者に提供されていることから恩典テストでは実質的に同様と取り扱われない関連者間役務提供も、米国内非関連者に提供されている役務価格のみを参照し、当該価格に占める関連者間役務の価格が60%以上の場合には、価格テストに基づき、実質的に同様な役務となり、結果としてFDII控除の対象とはならない。ただし、関連者間役務に対する報酬の全額が非適格となる訳ではなく、国外非関連者に対する部分はFDIIの対象となる。

濫用防止規定

有形償却資産(QBAI)圧縮目的で関連者に有形償却資産を譲渡、譲渡の前後1年(計2年)以内にリースバックする場合には、譲渡はなかったものとしてQBAIを算定。リースバックは必ずしも同じ資産ではなくても、同様の資産をリースする取引を含む。6カ月以内の譲渡・リースバックは自動的に圧縮目的と認定。

連結納税グループ

250条控除は連結納税グループ単位で決定。連結納税グループ法人の適格課税所得、外国派生適格課税所得、みなしルーティン所得、およびGILTI合算課税額を合計し、連結納税グループの250条控除額を算定。連結納税グループの250条控除は、FDII控除に関しては外国派生適格所得、GILTI控除に関してはGILTI合算課税額のグループ合計額に占める各法人の当該金額%で個々の法人に配賦。

連結納税グループ法人間の内部取引は、従来から存在する内部取引に関する規則に基づき、FDII控除対象取引か否かを判断。例えば、連結納税グループ法人間の資産譲渡の後、グループ外の外国人顧客に米国外使用目的で資産を販売する場合、最初のグループ法人間での資産譲渡から発生する所得も外国派生適格所得を構成する。

QBAI(みなしルーティン所得を算定する際の有形償却資産簿価)算定目的では、連結納税グループ法人間の内部取引による資産の税務簿価の増減は加味しない。

報告義務

250条控除を計上する米国法人(および法人扱いを選択する個人)はForm 8993で必要情報を報告する。

CFCまたは外国パートナーシップを保有する米国株主、外国株主に保有される米国法人が従来から提出しているForm 5471、Form 8655、Form 5472に250条関連の開示義務を追加。

パートナーシップから配賦される金額がパートナー側の250条控除計算に影響がある場合、Form K-1に必要情報の開示義務を追加。

※本アラートの詳細は、下記PDFからご覧ください。


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