第1章
デジタルテクノロジーが、期待を実現させるための飛躍を支援
複雑な医療システムの中で、新たなテクノロジーの恩典を通常のビジネスとしてどのように実現するのか、に考え方を改めていく必要があります。
デジタルヘルス技術は、医療モデルを予防的、個人的、参加型に変化させ、医療提供をいつでもどこにいても可能にする、という2つの面でヘルスセクターの変化を加速させます。しかしこれまでのところ、デジタルヘルス技術の普及にはやや厄介な課題があり、特定の条件や運用・管理上の問題ばかりに焦点が当たっていました。
マーケットと政策立案者は、ヘルスケアの未来はデジタルにあると明確に予想しています。米国では、2018年に約81億米ドルのベンチャーキャピタル投資がデジタルヘルス業界のスタートアップ企業に向けられ、前年比で42%増加しました。オランダとエストニアはデジタル医療において大きな進歩を遂げています。また、英国と米国の政府機関もデジタルヘルス技術と医療提供システムの進展を、多額の投資を通じて奨励しています。
それでも、消費者と医師を対象にした4カ国のNextWave Health調査では、消費者がまだイノベーションの余地があると述べていることが明らかになりました。小売業や銀行など、デジタルに置き換わりつつある他の業界と比較して、健康・医療システムが革新的であると判断しているのはせいぜい4人に1人でした。さらに、消費者と医師の双方が、健康・医療システムはデジタルヘルス技術の導入に後れを取っていると考えています。
デジタルの力を開放し、ヘルスアウトカムを改善するために理解すべき5つのトレンドがあります。
- ヘルスエコシステム全体で、データがより良い形で接続され、統合され、共有される
- 業界全体に「デジタルバックボーン」が出現し、患者・消費者のエンド・ツー・エンドの体験が実現する
- (多くの場合、舞台裏で)バーチャルエージェントによってフェース・ツー・フェースの時間が広がり、患者と医療従事者の関わりが増加する
- デジタル技術によって在宅医療が推進される
- デジタルプラットフォームに基づく需要主導型のグローバル市場が、ネットワークの効果、価値、利益をもたらす
物事をより良く、よりスマートに、より速く許容できるコストで実行することで、どのように人々の健康ニーズを満たすのかという点に関心が高まっており、変革が求められていることは明白です。しかし、より戦術的な視点にシフトする必要があります。つまり、複雑な医療システムの中で、新たなテクノロジーの恩典を通常のビジネスとしてどのように実現するのかに、考え方を改めていく必要があります。
調査によれば、消費者と医師の双方が、今後10年以内に遠隔監視技術と人工知能技術がヘルスケアの中心になると考えています。慢性疾患や複雑な疾患の管理は、自宅に居ながらにして遠隔チームのケアを受けられるようにするデジタルテクノロジーによって支えられるようになるでしょう。
モバイル端末は、単独ではそのメリットに限りがありますが、プラットフォームを介して一連のサービスに接続したときに真の価値を提供します。消費者も医師も、スマートフォンがポータルになること、すなわちデータにアクセスし、情報に基づいた意思決定を行い、ヘルスケアシステムとやり取りするためのゲートウエーになることを期待しています。
障害となるのは何でしょうか
デジタルヘルステクノロジーがヘルスケアの質と企業の効率をどう効果的に改善できるかについて、明確な成功事例はいくつもありますが、こうしたテクノロジーを採用するには大きな障壁があります。
医療機関は、もともとデジタルネイティブではありません。通常、その強みは、デジタルノウハウと臨床、管理、医療システムの専門知識を組み合わせた新しいビジネスを構築することではありません。安全性や品質の確認を必要とする変化の大きい市場と政策環境には、必然的に、利用や拡散に対するさまざまな障壁が伴います。そうした制約のいくつかを紹介しましょう。
- デジタルヘルス技術の定義と規制に関する全体的な政策に関わる課題
- 証拠基準に関する多様な視点(ゴールドスタンダードである無作為化比較対照試験と、「早くたくさん失敗する」ことを是とする起業家のアプローチ)
- 原価と償還はもちろんのこと、必要となる資本投資のタイミングや規模
臨床的妥当性や患者との適合性などの人的要因が最も重要です。デジタルヘルス技術を採用するかしないかの決定に大きな影響を与える要素として、業務のやり方や専門職の役割、キャリアの軌跡を変えることに対する文化的な抵抗感(臨床的な有効性やその責任に関する懸念)、スタッフや患者のデジタルリテラシーなどがあります。
イノベーションと変化の課題を推し進める
調査では、ヘルスケアが比較的短期間のうちにデジタル主導型となることへの期待が明らかに見て取れます。消費者も医師も、デジタルテクノロジーの普及が便利で有益であると考えています。臨床上・運用上の肯定的な成果を示唆するエビデンスは増え続けています。
同時に、ヘルスケアシステムと消費者はまだ学びの途上にある一方で、仮想病院など、テクノロジーが主導する、これまでとは大きく異なる新しい治療モデルを受け入れ、認めつつあります。医療業界が取り組むべき将来の重要課題の1つは明らかに、デジタルイノベーションが提供する多くの利点をすべて吸収しながらも、医療が持つべき人間的なふれあいを維持できるか、ということです。
医療機関はイノベーションに向け、単なる戦略ではない取り組みを行う必要があります。テクノロジー要素をより頻繁に取り入れるためには、何が解決されているのか、そして成功の姿がどのようなものかを明確に示すことです。
進むべき道
カルチャーを変えることが大切です。医療機関はより機敏になり、組織をデジタル化の流れに乗せ、組織の目的と両立できるソリューションを構築・購入するか、そうしたソリューションに向け提携する必要があります。
変更を検討しているヘルスケア組織や医療システムは、これを達成するために必要となる、以下3つの条件を比較検討する必要があります。
1. デジタルトランスフォーメーションの包括的な戦略を作成する
新たなデジタルエコシステムでは、デジタル対応製品とサービスを軸に構築され、日常業務で日々効率的に使用される新しい運用モデルが必要となります。サービスと施設をコネクテッドからデジタル、さらにスマートへと移行させるテクノロジーとイノベーションシステムが必要です。
2. アジャイルなビジネストランスフォーメーションを通じて業務を最適化する
企業の業績、インテリジェントオートメーションによるフロント・バックオフィスのプロセスの業務支援、そして治療の提供に注力できるよう、設計、デジタル、データが連動して機能する必要があります。最高のサービスとソリューションを患者、消費者、住民に提供するエコシステムを構築するために、こうしたサービスやソリューションの構築、購入、提携が求められています。
3. 深く根付いた文化を変えてゆく
ユーザーエクスペリエンスに関わる戦略と人間中心の設計を通じて、顧客(ヘルスケアの消費者、医師、管理者といった利害関係者)を十分に理解する必要があります。信頼、リスク管理、サイバーセキュリティを初めから製品やサービスに組み込み、すべての消費者、スタッフ一人一人に、体験から得られるリターンを提供しなければなりません。
将来へと続く道は、すでに得られたものによって形作られています。人々はこれからも、ヘルスケアの存在理由の中核となり続け、またテクノロジーは改善を続けて新たな展望を開いてゆくことでしょう。新しい未来への転換を果たすには、期待を実現できる、基礎的でありながらも先進的なデジタルヘルス技術に向けた強固な基盤を確立する必要があります。
消費者は、常時接続されるデバイスがあれば、ヘルスシステムの変化を待つこともないし、その必要もありません。
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第2章
ヘルスケアにおける価値の再定義によって医療の提供方法はどう変わるのか
サービスベースの支払いモデルが減少する中、医療サービス提供者は、自身の収益源がますます価値ベースの指標へと移るとみています。
高齢化、高まる慢性疾患率、治療に対する需要増、コスト上昇が世界中の医療システムを圧迫しており、こうした課題の解決には割り切った効率化が必要であるという感覚も生まれています。しかし、ヘルスケア業界の利害関係者の多くはこれとは異なる考え方にシフトしています。すなわち、提供する治療の量ではなく質を高めることで提供者に報酬を与え償還を可能にする、価値ベースの医療の考え方です。
こうした考え方の移行には、医療提供の新たなアプロ―チと新たなビジネスモデルが必要です。提供される医療の量に基づいて支払額が決定されるサービスベースの報酬モデルでは、消費者とペイヤーは、良好な結果が得られそうな治療要素を決定するのに苦労します。一方、医師は患者のニーズに応えたいという願望と、医療システムを稼働させ続ける収益重視のポリシー順守とのバランスを取る苦しみを経験しがちです。
サービスベースの報酬モデルがすっかり定着している文化的背景を考えると、新しいアプローチの導入と採用には時間がかかることが予想されます。現状と、価値に重きを置く将来像とのギャップをどう埋めるのか ── ペイヤーのリスクを軽減しながら、より低コストで患者のアウトカムを改善するために、医療提供者に何が必要か? 以下はその答えとなる4つの分野です。
医療の質
34%Health Care Payment Learning and Action Networkによれば、価値に基づく医療に対する米国の医療費支払額割合は、2015年の23%から2017年の34%へと増加しました。
1. 患者と医療提供者を見失ってはならない
世界中の国々が、医療提供の価値ベースの手法を導入し始めています。スウェーデンや英国などいくつかの国では、「価値」が持つ広範な定義を用いて自国の医療ニーズに最適な形へとその概念を調整している一方、オランダやドイツなどはより狭義のコストに注力しています。
しかし、コストのみに焦点を合わせると落とし穴が生じる恐れがあり、組織にとって「価値」が何を意味するかを定義することの重要性が浮き彫りになります。米国オハイオ州クリーブランドにある大学病院のSystem High Reliability and Safety OfficerであるAbi Sundaramoorthy博士は、コスト削減に力を入れ過ぎることは、ある時点で患者体験とヘルスアウトカムが低下し始めることからサステナブルではない、と語っています。博士は、医師の燃え尽き症候群(バーンアウト)に及ぼされる影響についても言及しています。
Sundaramoorthy博士は「この20年間で、とりわけ研修医の作業負荷は減少しましたが、燃え尽き症候群の割合は以前よりも高くなっています」とし、続けて次のように述べました。「収益が重視される環境下での業務と、患者さんに対する心からの気遣いとの間で生じる葛藤が、こうした疲弊状態を作り出しているのだと思います」
道徳的負傷(道徳的または倫理的な規範に反するとの認識から生じる心理的苦痛)を引き起こす恐れのある障壁を取り除き、医師とその患者にとって重要と考えられる活動を支援することで価値が向上します。また、現状細分化されているヘルスケアシステムは、患者の視点が考慮されている場合にのみ、「バリューベース・ヘルスケア」(VBHC、価値に基づく医療)の恩恵を受けることができます。患者を中心としたバリューベース・ヘルスケアの定義は、コスト削減に焦点を絞りすぎないようにするための重要な暫定措置といえるでしょう。
2. チーム化、インセンティブを再考する
運用レベルでは、サイロ化された単一の提供者による医療から、調整されたチームベースの医療への移行が、バリューベース・ヘルスケアのアプローチの鍵となります。
Sundaramoorthy博士は次のように述べています。「歴史的に、医師は一人で業務をこなし、個人的な医療行為の成果しか見ないという傾向が多く見られます。集団的なアプローチは、医師が医療を提供する方法が自然に変化するかどうかが分かるよい機会となるでしょう」
「こうした洞察により、正当な理由のない医療、つまり、コストの増加や結果に悪影響を与える可能性のある医療を排除し、最も効果的な方法を特定することができます。組織が品質改善に向けて一致団結することで、当然ながらコスト削減へとつながってゆくことでしょう」
Iora Health社の医療チームには、医師、看護師に加え、患者と医療チームとの関係を構築するヘルスコーチがいます。ほとんどのケースで、同社は各患者について月額一律の支払額を受け取り、会社が全体の医療費を節約できた場合には、節約した額の一部を受け取ります。
サービスベースの償還モデルが減少する中、医療サービスの提供者は、自身の収益源がますます価値ベースの指標へと移るとみています。米国では、医療提供者と支払人との関係に着目し、高品質のアウトカムに報いながら節約を実現する支払いモデルとインセンティブを開発する動きもあり、費用と品質の適切なバランスを模索しています。他方、人口の健康指標と個々のインセンティブに基づいてインセンティブを追加した企業もあります。
3. 連続した医療全体の可視性を実現
より良い医療を調整することは、アウトカムをより良好にし、ヘルスケア業界の消費者をより幸せにします。ここで大きな役割を果たすのがテクノロジーです。
Royal Philips社が行ったFuture Health Index(FHI)の調査によれば、高度なデータ収集と分析は新たな医療の提供モデルで重要な役割を果たし、バリューベース・ヘルスケアの普及を早めます。世界16カ国で実施された同レポートによると、デジタルテクノロジーを使用している国ではバリューベース・ヘルスケアがより浸透しています。
消費者の関与、医師とのコミュニケーション、遠隔監視の改善はすべて、電子医療記録を通じた円滑化以上に不可欠となっています。
総合的なデータ戦略、これに組み込まれるテクノロジーにより、連続した医療全体の可視化が可能になります。これらは共に、ペイヤーと医療提供者に対し、患者への医療を正しく調整し、正当な理由のない変動や無駄、過誤を減らすための適切なツールとなることでしょう。
4. より広範な要因を検討する
健康システムが価値ベースモデルを採用するにつれて、経済的・感情的・教育的・環境的要因を含む健康の社会的決定要因(SDH)がヘルスアウトカムに果たす役割がより明確となってきました。米国国立バイオテクノロジー情報センターが発行した調査では、より多くのリソースを社会的サービスに割り当てることで、ヘルスアウトカムが大幅に改善されることが示されています。
政策立案者、医療システム、社会起業家は、健康と社会サービスを統合するため、そしてその取り組みに資金供給する新たな方法を見つけるためにさらなる活動を続けています。健康の社会的決定要因(SDH)が示す、医療を受け、治療計画に従う上での障壁を取り除くことは、価値に基づく多数の医療戦略の中核となっています。
患者の視点を念頭に置いてフレキシブルに患者を巻き込むスタイルを採用することは、バリューベース・ヘルスケアの広範な定義の中でも重要な部分です。患者はみな、複雑な感情的・心理的要因による相互作用を起こしています(さらにこれは周囲の環境によっても影響されます)。従って医師は、自身の法令順守とコンプライアンスを全うするアプローチにおいてフレキシブルであり、また共感的であることが求められます。
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第3章
プライベートエクイティ(PE)がヘルスケア業界にどのように影響するか
患者満足度の追跡、主要人材の確保、コンプライアンスの向上がもたらされるでしょう。しかし、課題は残ります。
PE投資家がヘルスケアセクターへ向ける強い関心の高まりは、収まる兆候がほとんどありません。現実はまったく逆です。潜在的な市場のボラティリティと魅力的なリターンの機会が認識される中、ヘルスセクターの回復力に魅力を感じる投資家からPEの資金が流れ込み続けています。
2018年はヘルスケアセクターのPEにとって最高の年であり、米国において647件で329億米ドル、つまり2014年の2倍の金額が投資されました。米国以外では2018年だけでも279件の取引に107億米ドルが投資されたのです。さらに、PE企業7社のうち1社が、2018年に少なくとも1件のヘルスケア投資を行いました。
無駄が多くサイロ化・細分化されている医療の現場は元来、非効率性を排除し、運用モデルを改善し、市場を統合することで価値を高めるというPEの伝統的な手法と調和します。そして将来の機会が拡大することが期待されます。ヘルスケアは引き続き、重要な経済主体であるだけでなく、継続するディスラプションの影響を受け続けることでしょう。
ただし、PEとヘルスケアは組み合わせとしてうまくいかないかもしれません。利益相反の可能性を含む、PE投資の潜在的な影響について懸念が示されています。PEは多くの場合、臨床医の行動、臨床結果、患者の満足度に対して限られた影響しか及ぼさない勢力だと見なされています。
ヘルスケア市場の認識を測るため、私たちは、この事業へのPE投資を経験してきた創業者と幹部のグループに注目しました。
投資金額
4,270億米ドルAmerican Investment Councilによる2018年3月現在のPEのドライパウダー(投資待機資金)の量
PE投資の経験者による見通しはおおむね良好
ヘルスケア企業の創設者、医師診療管理会社へのPE投資を直接した経験のある幹部など80人以上と面談して調査を行いました。調査対象者の90%が、PEが自社に関与することにはおおむね賛成であると回答。80%以上の調査対象者は将来的にPEの投資を検討する可能性が高いという良い結果が出ています。
PEは、ヘルスケア業界全体に有益な影響を与えるだけでなく、品質や臨床サービスへと注力する上でもプラスの影響を与えると考えられます。
PE投資家は、資本へのアクセス強化に加えて、特に管理、臨床指標、コンプライアンスシステムの改善に関し、投資ポートフォリオに企業からの先進的なプラクティスを導入したことで評価されています。
ただし、PEに対する不安は依然として残ります。在宅医療会社のあるCEOは次のように述べています。「PEは薄くしか広がっていないものもあり、臨床ケアの個性が生かせていないように思います。ヘルスケアにおいては、些細な問題が業績低下につながる場合があります。しかしPE経営者は問題を適切に認識する前に変革してしまいます」
今後に向けた展望
PE取引を始める時点では、投資家・事業主間の潜在的な対立を予測してこれに直面し、これを解決することによって関係性を機能させる方法を見いだすことをまず考えなくてはならない、ということがまだ浸透していないのかもしれません。適切にハンドリングされれば、PEとヘルスケア企業とのパートナーシップが大きな成功を生み出せることは明らかです。
PE取引の締結を検討している経営者や事業主、PE投資家は、準備が整った資金源の必要性を検討するだけでなく、次のことも考慮する必要があります。
双方にとって価値となるものは何か
価値創造は、会社を変革し、ビジネスの改善による長期的な成果を生み出すという期待をもたらします。こうした価値を実現するための道筋は、デジタルトランスフォーメーション、資産の再構成、新しい市場に参入するためのリポジショニングなど、さまざまです。
しかし要は、潜在的な投資パートナーが適切な起業家、経営者の才能を持ち込み、オーナードメインの専門知識を補完し、会社を活気づけてその潜在能力を最大限に引き出せるかどうかにかかっています。アラインメントには以下が含まれます。
- 価値を解放する検証済みビジネス基盤に同意する
- 関係とガバナンスの維持(将来にも関連性を維持するための、絶え間ない改革の旅に協力するオープン性を含む)
- ヘルスケアにおいて、価値の創造には長期的な投資が必要であることを理解する。市場セグメントと新技術とでは成長速度が異なるため、市場、製品、タイミングの最適な調整を達成するのにどの分野に投資するのかを考慮する
双方のリスクが考慮されているか
商業、運用、IT、人的資本、サイバーの各分野で両者がデューデリジェンスを行う必要があります。従来の財務、運営、税務上の注意に加えて、環境、社会、ガバナンスに関してもデューデリジェンスの対象とすべきです。ビジネスパートナーを以下のように巻き込むことが不可欠です。
- リスクと報酬への期待と要件を調整する
- ビジネス関係の強固な基盤を確立するために欠かせない、目に見えにくい文化的要因や組織の調整に注意を払う
- 事業の継続性とリスクを管理し、複数の地理的領域または市場セグメントにわたって事業を拡大する難しさを正確に評価する
業界に精通していることが必要か
ヘルスケアへの投資の難しさ(科学、規制要因、支払いメカニズムの複雑さなど)から、この分野を専門とするPE企業には優位性があります。調査結果からは、ヘルスケア業界を最もよく知っている人ほど、それをより上手にナビゲートできていることが示唆されています。ヘルスケア業界の理解とは以下のことが含まれます。
- 高度に規制された環境で、深い業界知識と高度に快適性のある取り扱いを習得する
- ヘルスケア業界は人に関するビジネスであることを理解する。患者の良好なアウトカムを達成することは業界内の開業医にモチベーションを与えることから、投資家にとっても重要な関心事となる
- 市場動向、ターゲット企業の業績、企業とその所有者の両方にとっての新たな機会拡大に関する作業上の仮説に挑戦し、仮説を検証する
臨床プロセス管理が複雑となり、関連機関の動きが停滞することも考えられます。セクターが持つ制約を理解し、互いのビジネスの複雑さを理解する意欲があれば、ヘルスケア企業の健全性にプラスの影響を与えるPEとの永続的な関係につながる可能性があります。
第4章
消費者中心のケアで、現在、将来、さらにその先のヘルステクノロジーを構築する
すでに技術はあります。しかし、利害関係者を結び付け、簡単で許可に基づく情報の流れをサポートするインフラが必要です。
医療従事者は、治療だけでは健康とウェルビーイングに十分な貢献ができないということを長きにわたって認めてきました。しかし、人間が長生きするようになり、慢性疾患が広がるにつれて、医療はより複雑になり、家庭や地域社会から離れ、診断と治療を処理できる専門施設へと移動しています。
この流れは驚くべき結果をもたらしましたが、コストはほぼ圧倒的に病気の治療に費やされており、これを続けてゆくことは不可能です。
これまで見てきた通り、ヘルスケアセクターはますます、消費者中心、参加型、アウトカム重視で、効率的なものになりつつあります。そして今では、コネクテッドで健康志向なヘルスエコシステムにいつでもどこにいても私たちを導いてくれるテクノロジーが利用できます。
ただし、コネクテッドなヘルスエコシステムにとって重要な機能が欠けています。それは、すべての利害関係者をつなぎ、簡単で許可に基づく情報の流れをサポートする情報技術(IT)インフラです。このインフラは(アプリケーションプログラミングインターフェースを超える)一般的なデータモデルや臨床データモデルと共に、参加型ヘルスケア(PDF、英語版のみ)の重要なモデルとなるのです。
いつでもどこにいても受けられる医療というビジョンには、利害関係者間での摩擦がない、許可に基づいたデータ共有が必要です。これは、データの所有者としての認知が高まる消費者であっても、データを取り込むツールを提供する企業であっても同じです。次に、データ共有には主要な機能を備えたヘルスITプラットフォームが必要です。データは、それを生成するアプリケーションとは独立している必要があります。また、さまざまなインターフェースからデータにアクセスできることも必要です。
デジタルを生かす
人工知能(AI)、ロボティック・プロセス・オートメーション、ブロックチェーンなど、今日存在するテクノロジーは、健康への注力を真に実現するために必要です。ただし、正確、あるいは最適な結果を提供するには、十分な規模、品質、データ種類を持つデータセットが欠かせません。これらツールを効果的に使用するには、消費者、プロバイダー、ペイヤー、ヘルスケア業界への新規参入企業によって生成された構造化データと非構造化データとを統合するプラットフォームが必要です。
これら技術の多くはすでに提供医療の一部となっています。自然言語の解析や処理が可能な自動化やアルゴリズムは、すでに健康・医療現場での記録の記入に使用されています。医用画像処理技術は機械学習アルゴリズムの使用へと変革されています。問題のない画像が特定され、トリアージされることで、放射線科医は最も難しい症例に集中する機会を得ています。医療は間違いなく、医師の意思決定プロセスを強化できるのに十分なほど「スマート」になってゆくことでしょう。
AIが診断と治療に使用される機会はますます増えます。たとえば、IDxが独自に開発したアルゴリズムIDx-DRは、糖尿病性網膜症を診断するための新しいツールです。この製品は2017年1月、ArterysのMRI心臓イメージングの解釈でFDA承認を獲得して以降、AIベースのアルゴリズムとしては13番目の承認事案です。ただしIDx-DRは、人間による事後解釈を必要とせずにスクリーニング決定を行うのが初めてであるという点で、以前に承認されたアルゴリズムとは異なっています。必要とされるより高いレベルのエビデンスをも証明するこの製品は、前向き臨床試験に基づいて承認される最初のアルゴリズムでもあります。
データプラットフォームで動作するデジタルツールを使用して、消費者と医師の経験を活用することが不可欠です。そうすることで、消費者は自身の健康に関心を持ち続けることができ、医療提供者も仕事の満足度を高めながら、求められる日常的な作業の負荷を減らすことができます。インターフェース、ヘルスナッジ、治療計画のカスタマイズを実現するには、ヘルスケアセクターは現状よりもさらに深く、個人(およびその環境)について理解しなければなりません。
ブロックチェーンやクラウドといったソリューションは、利害関係者の信頼を築きつつ流動性のある許可に基づいたデータ共有を可能にする、ある種の保障措置、データセキュリティを提供します。企業内全体にわたって安全な(検証可能な)ストレージやデータ送信が可能になります。こうしたアプローチによって、運用やビジネスプロセスの合理化、サイバーセキュリティの脅威に対する保護強化が確実に得られることとなります。
明日への架け橋を築く
プラットフォームを活用する企業は、消費者にデータを共有・統合し、これら新しいツールを使用してウェルネスや病気の予防に焦点を当てたソリューションを提供するインセンティブを与えることでしょう。こうした取り組みで、消費者の日常生活へと守備範囲を広げることができます。また、病気になる前の健康な消費者と協働することにより、バリューチェーンの早い段階で収益を獲得することになります。
既存企業であっても新規参入企業でも、ヘルスケア企業は最高品質のケアに対応し、競争力を高め、収益を生み出せるようなプラットフォームベースのヘルスエコシステムに適応してゆく方法を知る必要があります。
以下は、このような転換をどのように運用するかを検討する際に、ヘルスケア企業が留意すべきいくつかのポイントです。
1. 変革志向の戦略立案から始める
より広範なヘルスエコシステムにどう関与してゆけばよいのでしょうか?今現在のビジネスを最適化するだけでなく、明日のビジネスを革新・成長させる変革アジェンダを設定しましょう。何層にもわたり現状を打破するサービスを市場に繰り返し導入し、個人に焦点を当てます。全社を包括する目的を構築し、その目的に向けた一貫した前進を続けるために、変更管理と運用の再設計からベストプラクティスを使用します。
2. コアを縮小してアジリティを高める
今後に向け必要なのは、ITインフラをすでに有しているコア機能を維持し(ヘルスケア企業ではエンタープライズシステム環境にERPとEMRの両方が含まれる)、コネクテッドなエコシステムに対応した適応可能なインフラに投資することです。
ヘルスケア企業は、オープンアーキテクチャーとブロックチェーン対応ソリューションに移行し、ベンダー中立プラットフォーム内に構築された顧客重視のヘルスケアアプリケーションを開発しながら、レガシーシステムの最適化を図ることができます。
新たに始める、ということは、正しい方法を新規に構築するための機会でもあるのです。次のようなヘルスITシステムを作成しましょう。
- 摩擦のない、許可ベースのデータ共有に対応している
- データを、収集、編集、表示するアプリケーションとは別に保存できる
- 特定のユーザーとユースケース向けに設計されたインターフェースを持っている
- いつでもどこにいてもアクセスできる
3. インテリジェントオートメーションを構築する
インテリジェントオートメーションは、多様な最先端テクノロジーにおける複数コンポーネントを利用し、統合した業務の自動化です。ヘルスケア企業では、これには、バックオフィスとフロントオフィス(患者対応)の両方についてのロボットによるプロセス自動化、認知分析、モノのインターネット(IoT)などのテクノロジーによって可能になる他のデジタル自動化ツール、および手術とケアの提供の両方に対応する健康AIソリューションのポートフォリオが含まれます。
4. 信頼のための設計
リスクを最適化するという考え方を浸透させ、次のようにしてサービスと製品に初めから信頼を埋め込みます。
- 組織全体のデータフローをマッピング
- リスクに対するビジネスプロセスを分析
- 導入する前に、新製品や新サービスを慎重に評価
- 各プロジェクトの管理に統制を組み込む
このような取り組みは、企業が適切な戦略的意思決定を行い、求めている成長や将来の成功を得るための力となります。医療業界では、医療機器やウエアラブル端末を対象とするサイバーセキュリティソリューション、分析によって可能になる従来のリスクサービスが好例として挙げられます。
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サマリー
私たちは皆、医療業界における可能性の再考から、コネクテッドなヘルスエコシステムという新しいビジョンの実行へ、という進化に挑戦しています。そのためには、「つながる」ということに焦点を当てることが重要です。特にヘルスケア企業がつながることで、消費者のより完全な全体像を見ることができ、生涯にわたる健康のために一人一人に合った最適なケアを提供できます。