2022年1月31日
IFRS財団による国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)の設立

IFRS財団による国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)の設立

IFRS財団評議員会は2021年11月「国際サステナビリティ基準審議会」(ISSB)の設立を公表しました。また同時に、二つの基準原案(プロトタイプ)や他の基準設定機関との統合も公表しました。本稿では、これらISSB設立の概要について解説します。

本稿の執筆者

EY新日本有限責任監査法人 サステナビリティ開示推進室/品質管理本部 IFRSデスク 公認会計士 江口智美

2008年入所以来、証券会社、メガバンクを含む大手金融機関の会計監査および内部統制監査に従事。14年から約1年半EYロンドンに出向し、現地金融機関の会計監査および内部統制監査に従事。18年よりIFRSデスクに所属し、IFRS導入支援業務、研修業務、執筆活動などに従事している。CFA協会認定証券アナリスト。当法人 シニアマネージャー。

要点
  • IFRS財団は、2021年11月開催のCOP26にて、国際的に統⼀し⽐較可能なサステナビリティ開示基準策定のため、国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)の設立を公表しました。
  • ISSBの設立と同時に、二つのプロトタイプ(基準原案)((i)サステナビリティ関連財務情報の開示項目に対する全般的な要求事項、(ii)気候関連開示要求事項)が公表されました。
  • 2022年6月末までに、バリュー・レポーティング財団(VRF)と気候変動開示基準委員会(CDSB)がISSBに統合され、ISSBはさまざまなグローバル機関と連携する予定です。

Ⅰ はじめに

IFRS財団(以下、財団)評議員会(以下、評議員会)は2021年11月3日、COP26(国連気候変動枠組条約第26回締約国会議)にて、国際サステナビリティ基準審議会(International Sustainability Standards Board:ISSB)の設立を公表しました。同時に、二つの基準原案(プロトタイプ)や他の基準設定機関との統合も公表しました。本稿では、ISSB設立の概要について解説します。なお、文中の意見にわたる部分は筆者の私見であることをあらかじめ申し添えます。

Ⅱ 背景

投資家のサステナビリティ情報を含む非財務情報へのニーズの高まりを受け、財団は20年9月及び21年4月にそれぞれ「サステナビリティ報告に関する協議ペーパー」と「IFRS財団定款の的を絞った修正案」を公表し、利害関係者からコメントを募集しました。結果、①国際的に一貫し、比較可能なサステナビリティ報告が緊急に必要であること、②IFRS財団が関連基準の設定において主導的な役割を果たすべきという幅広い要望があり迅速な行動が求められていること、が明確になり、財団はISSBの設立を決定しました。

Ⅲ ISSBの設立

ISSBは、評議員会の下部組織として、国際会計基準審議会(以下、IASB)と並列に位置付けられることになります(<図1>参照)。ISSBの議長、副議長ならびに最大14名の審議会メンバーは21年11月末の段階では未公表ですが、今後、順次選定及び公表される予定です。

図1 ISSBと各機関との関係図

また、基準の国際化を意識し、各地域に事務所を設けることとしています。フランクフルト及びモントリオールを中心拠点とし、サンフランシスコやロンドンにも事務所を設置する予定です。アジア・パシフィックの拠点として北京もしくは東京に事務所を設置することを検討しています(21年11月末現在)。

Ⅳ IFRSサステナビリティ開示基準の開発

ISSBが設定する基準はIFRSサステナビリティ開示基準(IFRS Sustainability Disclosure Standards)とされ、IASBの設定基準はIFRS会計基準(IFRS Accounting Standards)と呼ばれることになります。

財団は、新審議会の基盤作りのため、技術的準備ワーキング・グループ(以下、TRWG)※1(<図1>参照)を設立しています。TRWGは、これまでの活動成果として、以下二つの基準原案を公表しました。これらは、サステナビリティ情報の開示基準設定主体である5団体の共同文書※2を基に、金融安定理事会による気候関連財務情報開示に関するタスクフォース(以下、TCFD)やIFRS会計基準(IAS第1号「財務諸表の表示」等)の内容を考慮して作成されています。

1. サステナビリティ関連財務情報の開示項目に対する全般的な要求事項

この一般原則は、主要な利用者(投資者、融資者やその他債権者)の企業価値評価に影響を与える重要な(material)サステナビリティ関連財務情報の開示を企業に要求することを目的としています。また、サステナビリティ関連財務情報を企業の一般目的財務報告の一部として開示することを前提とし、一般目的財務報告における情報間の結合性(connectivity)※3の向上を目指しています。主な特徴として、以下の4点を規定しています。

① 完全、中立かつ正確な企業の重要なサステナビリティに関連するリスク及び機会についての説明の開示

② 重要性(materiality)の定義(IFRS会計基準の概念フレームワークと整合し、企業価値にフォーカス)

③ TCFDが推奨する四つの開示項目(ガバナンス、戦略、リスク管理及び指標と目標)に基づく重要なサステナビリティに関連するリスク及び機会の情報開示を求める整合的なアプローチ

④ 比較可能かつ結合した(connected)※3情報提供のための追加の要求事項やガイダンス

2. 気候関連開示要求事項

全般的な開示要求事項と同様に、TCFDが推奨する四つの開示項目を中心に構成されています。経営者は、多様な気候変動関連シナリオに基づく分析を行い、企業戦略のレジリエンスについて説明する必要があります。また、気候変動に関連したリスク及び機会の財務への影響について、可能な範囲で定量的に開示することが求められています。さらに、付録では、11セクターの68の業種について、業種別の開示要求事項及び指標が定められています。

今後、ISSBはこの二つの基準原案に基づいて公開草案を策定し、22年第1四半期(1月〜3月)までに公開することとしています。また、最終基準の公表は、22年下半期(7月〜12月)としています。
なお、TRWGはテーマ別及び業種別開示要求事項の策定をISSBに提案しています。気候変動以外の優先すべきテーマは今後コンサルテーションによって決定される予定です(<図2>参照)。

図2 IFRSサステナビリティ開示基準の体系(案)

V グローバル機関との連携

ISSBは、基準の開発や適用を迅速に進めるため、さまざまなグローバル機関と連携することとしています。

1. VRF及びCDSBとの統合

TRWGメンバーの構成組織であるバリュー・レポーティング財団(VRF)※4と気候変動開示基準委員会(CDSB)が22年6月までにISSBに統合される予定です。

2. IASBとの連携

ISSBは、IASBと緊密に連携し、IFRS会計基準とIFRSサステナビリティ開示基準との結び付き及び比較可能性を確実なものにすることとしています。

3. その他のグローバル機関との連携

証券監督者国際機構(IOSCO)は、財団のモニタリング・ボードにおける議長として、基準設定活動を独立して監視していくほか、IFRSサステナビリティ開示基準の基準草案を詳細に評価し、各国の規制当局が基準の批准をスムーズに実施するための基盤作りを担うと考えられます。

VI おわりに

ISSBの設立は、国際的に公正妥当と認められるサステナビリティ開示基準開発の重要な一歩といえます。
サステナビリティ関連財務情報は財務諸表よりも広範囲にわたり、その内容は各企業のビジネスモデルや戦略を反映した多岐にわたるものとなります。IFRSサステナビリティ開示基準の適用に当たっては、各企業のサステナビリティへの対応状況が忠実に表現されることが求められ、ボイラープレートの開示にならないよう留意する必要があります。そのためにも、企業は、財務・非財務を考慮した統合視点の下、ビジネスモデルや戦略を改めて検討することが必要と考えられます。

※1 金融安定理事会による気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)、バリュー・レポーティング財団(VRF)、気候変動開示基準委員会(CDSB)、世界経済フォーラム(WEF)、国際会計基準審議会(IASB)のメンバーによって構成されている。

※2 Reporting on enterprise value Illustrated with a prototype climate-related financial disclosure standard(co-authored by CDP、CDSB、GRI、IIRC、SASB)

※3 基準原案では、結合性(connectivity)を主要な利用者が情報間の結び付き、相互依存性やトレードオフを理解できること、と定義されている。

※4 国際統合報告評議会(IIRC)とサステナビリティ会計基準審議会(SASB)の統合後組織

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サマリー

IFRS財団評議員会は2021年11月「国際サステナビリティ基準審議会」(ISSB)の設立を公表しました。また同時に、二つの基準原案(プロトタイプ)や他の基準設定機関との統合も公表しました。本稿では、これらISSB設立の概要について解説します。

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この記事について

執筆者 EY 新日本有限責任監査法人

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