5 分 2023年6月15日
洗車する父娘

保険業界の未来を形づくる9つの顧客タイプ

執筆者 Chris Raimondo

EY Americas Insurance Technology Leader

Passionate about building a better working world. Helping insurers modernize and solve complex business challenges through technology and innovation.

5 分 2023年6月15日

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  • 顧客を中心に据えた保険商品の提供が意味するものとは?(PDF)

変化する消費者ニーズを捉えることは、保険会社がさらなる成長を求めて変革を起こし、新たな競争上の脅威に先手を打つための指針となります。

要点
  • リアルタイムかつ高度にパーソナライズするというニーズに応えたリスク保護を提供するには、人工知能(AI)、機械学習、デジタルプラットフォームを広く導入する必要がある。
  • 保険業界では新たな気候リスクへの対応を続けており、ESGを重視した戦略と積極的なリスク管理が重要であるとの認識を強めている。
  • 個人と小規模事業者という2つの顧客タイプに焦点を絞ることで、成長とイノベーションの機会を手にすることができるであろう。

今後10年の間で保険業界が目指す方向は根本的に変わっていくでしょう。また、今まで重視されてきた保険商品、保険契約、保険金請求から、焦点はサービスやエクスペリエンス、価値創造へと移るでしょう。別の言い方をすれば、保険会社が販売したい商品やこれまで通常販売してきた商品ではなく、顧客が望み、必要としているものが、イノベーションと成長の主要ドライバーとなるということです。

保険会社においては顧客との関わり⽅や、販売とサービス提供に使⽤するチャネルも同様に、劇的に変化すると考えられます。多くの場合、保険における消費者との接点は、銀⾏、製造業者、医療提供者、そして、業界外の有名ブランドを含む、流通上のパートナー企業となるでしょう。

顧客に対する洞察を深めることが、商品、サービス、エクスペリエンスの改善につながることをより多くの⼤⼿保険会社が認識する傾向にあります。その意味では、消費者のニーズと期待の変化は、保険会社をイノベーションへと導くものであると同時に、変⾰プログラムの完成予想図を構築するものでもあります。

保険会社は、⾼まる消費者の要望に応えるとともに、新規顧客を引き付けながら既存の顧客を維持していかなければなりません。そのため、低い顧客満足度や、顧客ニーズに対応していない標準的な保険商品や従来型のチャネルを重視しているといった評判は、改善する必要があるでしょう。

EYの最新レポートであるNextWave Insurance: Consumers & Small Businesses(PDF)では、2030年までの期間に保険市場を定義付ける鍵となる9つの顧客タイプに焦点を当てています。これらの顧客のカテゴリーは、極めてダイナミックな市場で保険会社が直⾯する難しい課題とそれぞれの顧客タイプに固有のビジネスチャンスの双⽅を⽣み出しています。もちろん、それぞれの保険会社がこれら9つの顧客グループ全てに焦点を定めることはないでしょう。しかし、保障(補償)内容のカスタマイズやサービスのパーソナライズ、デジタル体験の向上が求められていることなど、各グループ共通するテーマがあり、これら全てが価値の向上につながります。9つのグループを以下に⽰します。

個人消費者

  • 1. 消費行動時に保険の付保を希望する顧客

    このグループは、日用品、ジュエリー、旅行やコンサートのチケットなど、自身が購入したものが購入した瞬間から補償されているという認識からくる安心感に価値を見いだしています。エンベデッドファイナンス(組み込み金融)や消費行動機会を捉えた保険販売市場などが意味しているのは、保険会社が今以上に顧客に対して自社の認知度を高め、保険の価値を示し、顧客との関係を深めることができることです。

  • 2. バーチャル空間の先駆者である顧客

    より多くの人がより多くの時間をメタバースで過ごすようになるにつれて、デジタル資産(暗号キー、仮想ID、仮想ブランドなど)を対象とする補償手段への需要が高まっています。保険会社は、ハッキング、侵害、盗難などを完全に防ぐ個人情報保護や仮想イベントが中断した際の補償や、「仮想空間保険」など、社会に大きな影響を与えるインフルエンサーの興味をそそるようなサービスを提供することによって、いわゆる「メタバースの住民」とつながることができます。

  • 3. ESG配慮を支持する顧客

    環境・社会・ガバナンス(ESG)を主たる規制関連事項と捉える企業もあるものの、より多くの消費者が、自分が価値のあると思うものにお金を使うようになっています。具体的には、消費者は環境や社会に貢献している企業との取引を望んでおり、グリーンウォッシングを行う企業は相手にしたくないと考えています。一方で、自分の価値観に合った商品やサービスに、より高い金額を支払うことをいといません。

  • 4. バブルプロテクター

    ライフスタイル全体のいわゆる「バブル」を対象とした、包括的でダイナミックな保障(補償)を求める消費者が増加しています。自動車、住宅、医療、副業、家電製品、旅行、身分証明に加え、新たに購入した物品までも全て保障(補償)範囲とするような、統合的な保険を設計するとなると難題かもしれません。一方で、保険会社がそれを適切に提供できれば、新たに多大な収益が得られると同時に顧客と強力な長期的関係を築くことができるでしょう。

  • 5. データ資本主義者

    消費者は自身の個人データの価値について認識を高めつつあり、それを共有する見返りとしてより多くを期待しています。保険会社は、ライフイベントによって保障(補償)内容が変化する商品や、リスク防止・保障(補償)管理に関する先見的な知見を提供することで、このセグメントへの関心を引き寄せることができます。とはいえ、最初のステップは、データ利用に関して完全な透明性を実現することと考えられます。

  • 6. ミニマリスト

    節約意識の高い消費者に初めての保険を契約してもらうには、手頃な価格で直感的なデジタルエクスペリエンスを通じて購入できる、シンプルで理解しやすい保険契約が必要です。最終的にはこうした顧客を長期的に引き付け、顧客の人生に生じるリスクの顕在化に伴い、関係を広げ、深めていくことを目標としています。保険の価値を示し、手頃な価格だと伝えることで、保険会社は事業を成長させ、十分なサービスを受けていない人々も保護することができます。

小規模事業者

  • 7. 仕事とプライベートを両立させたい顧客

    ギグワーカーや小規模の在宅ビジネス向けにカスタマイズされた保険を提供することで、保険会社は、現代の生活や働き方を反映したソリューションと自らとのつながりを高めることができます。このような保険は、変更が容易で価格も手頃であるべきです。特定のセクターや職種(例えば、宅配やグラフィックデザイン)のギグワーカー向けのソリューションは、広く普及する可能性があります。

  • 8. 有能な起業家

    今のところ、企業向け保険での選択肢は必ずしも中小企業の膨大な数と多様性を反映しているとは言えません。急拡大するリスクに対処する中小企業を支援するに当たっての優先事項は、サイバー事故やリスクにリアルタイムで対応するサイバー保険の提供です。それには、サイバー攻撃を検知し修復するサービスや、特定の業務に対しリアルタイムでダイナミックな、使用状況に対応した価格設定が必要となります。どの中小企業でも高く評価されるのは、24時間年中無休のデジタルサポートと、必要時に得られる専門家からのアドバイスでしょう。

  • 9. 意識の高い事業主

    個人消費者の区分で記載したESGの支持者と同様に、小規模事業者もサスティナビリティへの関心を高めています。こうした顧客が最も興味を引かれるのは、自身の事業の「グリーン化」をさらに進める上で役立つセクター固有の専門知識とサービスを備えた保険会社です。ESGへの真摯なコミットメントと、顧客が直面するリスクに対する極めて深い理解、そしてそれらのリスクに対するソリューションを携えたエコシステムにより、顧客の信頼とロイヤルティがさらに高まるでしょう。

全ての保険会社があらゆる顧客層にサービスを提供できるわけではないとしても、競争力を獲得するのは、顧客をビジネスの中核に据える保険会社です。加えて、以下に示す重要な諸機能の取得も必要となるでしょう。

  • リアルタイムでのリスク保護: 人工知能(AI)、機械学習、オートメーション、デジタルプラットフォーム、データ分析の活用により、顧客が家に居ても、車の運転中でも、場所を問わず、パーソナライズされた保護とサービスをリアルタイムに提供することができます。
  • エコシステムと企業連携: 業界間の境界が曖昧になり、参入障壁が低下するにつれて購入形態や業種を問わず、保険はユビキタス(誰もが、いつでもどこからでもアクセスできる状態)になります。 保険会社は、自社のエコシステムを調整し、他社が主導するエコシステムに組み込むこともできます。
  • 新たなリスクに対する新たな商品の必要性:ESG問題から個人データの所有権や仮想世界に至るまで、 社会規範や文化的価値の変革に伴い、 新たなリスクが生まれ、必要な保障(補償)を提供するイノベーションや市場でのリーダーシップの発揮が保険会社に求められています。

保険会社の経営層が問いかけてきたこと:これらのトレンドを読み解き、それに沿って進み成長を追求するには、どうすればよいのか。それには、まず、さまざまな顧客のニーズと期待に応える方法を考案する必要があります。インテリジェントな顧客属性のマイクロセグメンテーションとハイパー・パーソナライゼーション(個人ごとに最適化した情報の提供)の機能を開発し、提供商品、業務モデル、トランスフォーメーションへの投資を調整し、極めて競争の激しい環境で優位に立つことから始めます。

本レポートでは、活性化が進む市場において保険会社が成長機会を捉えることのできる具体的な行動を提言しています。適切な人材とスキルの活用、データの統合、テクノロジーの向上、プロセスの効率化により、保険会社はあらゆる機能のパフォーマンスを向上させることができます。とりわけ高い成果が得られるのは、効率の向上とエクスペリエンスの拡充を結び付けるという変革です。

本稿は主に、EY Americas Insurance Technology Leader、Chris Raimondoが執筆しました。


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EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社 保険ユニット

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サマリー

この数年間、高まり続ける消費者の期待を受け、保険業界では、顧客中心主義を緊急に推進する必要性がさらに増しています。業界が進化し、競争が激化するにつれ、顧客こそがこれからの指針となるでしょう。保険業界の次世代の波を形成し、その勝者となるのは、より幅広い顧客ニーズを満たし、カスタマイズされた商品と豊かなエクスペリエンスを通じて価値を届けるよう、巧みに考案された新しいソリューションを提供する企業でしょう。

この記事について

執筆者 Chris Raimondo

EY Americas Insurance Technology Leader

Passionate about building a better working world. Helping insurers modernize and solve complex business challenges through technology and innovation.

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