4 分 2020年9月18日
研究室の科学者

新型コロナウイルス感染症を機にライフサイエンス企業が進めるサプライチェーンの⾒直しとは

執筆者 EY Global

Ernst & Young Global Ltd.

EY Japanの窓口

EY ストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社 医薬・医療セクターコンサルティングリーダー パートナー

長年の海外での就業経験からグローバル案件を得意領域とする。信条は「誠実」「信頼」「共感」「コミットメント」。

4 分 2020年9月18日

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パンデミックは、ライフサイエンスのサプライチェーンの長所と短所を明らかにしました。将来のレジリエンスを構築するため、企業は今こそ変革を行う必要があります。

Local Perspective IconEY Japanの視点

従前から安定供給を前提としてサプライチェーンを整備・構築してきた日本国内のライフサイエンス企業各社にとっても、今回の新型コロナウイルス感染症のパンデミックのような予測困難な事象が発生した際の対応柔軟性とリスク許容度を改めて見直す契機となり、その取り組みの土台となるサプライチェーン全体のリスク可視化の必要性が高まりました。

特に、原薬製造から製剤、包装などのサプライチェーンプロセスにおいて、日本国外各国・各地域にまたがり展開している企業は、各プロセス機能でのリスク対応状況を適切に把握する必要があり、現地サプライヤーとの連携強化とパートナーシップ再整備が重要となっています。

 

EY Japan の窓口

佐野 徹朗
EY ストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社 医薬・医療セクターコンサルティングリーダー パートナー
要点
  • ライフサイエンス企業はエコシステム全体のコラボレーションを改善し、サプライチェーンの課題に対処する必要がある
  • 政府などの関係者の間で、サプライチェーンのレジリエンスの重要性に関する認識が高まっている
  • サプライチェーン管理の主要なニーズとして浮上したエンド・ツー・エンドの可視性は、デジタルテクノロジーやデータテクノロジーで対応できる可能性がある


2020年、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は製造拠点を閉鎖に追い込み、臨床試験の遅れや国際貿易物流の障害を引き起こしました。EYがライフサイエンス企業4社の重役と会談し、この点を含めてライフサイエンス企業が2020年に直⾯したサプライチェーンの課題について討論を実施したところ、今回の危機を受けて、業界では以下のような重要課題が浮かび上がりました。

  • 同僚を守り、リモートワークを可能にするデジタルソリューションの導入を急ぐと同時に、現場にいる従業員の保護を図ることに重点を置く
  • 在庫の監視と管理の際は、アナリティクスを使⽤して需要予測と競合する物流ニーズの優先順位付けを⾏う
  • 輸出禁止や出荷停止措置など、行動様式の変化に対応するために政府に協力する
  • サプライチェーン全体でエンド・ツー・エンドの可視性を構築する

こうした課題の中には、即時の対応が必要なものもあれば、今後の6~18カ月を特徴付けると予想される「ニューノーマル」もあります。

迅速に対応することが必要とされており、変化を加速させることで結果的に業界を強化しているとも言えます。参加者の1人は、過去数カ月に見られたリモートワークやリモートマネジメントを可能にする製品の迅速な発売や導入は、感染拡大前は予測できなかったと述べています。危機の中での従業員による「目を見張る献身」にも言及がなされました。

政府や規制当局との連携と、企業同士の連携

規制当局のリソース、対応能⼒、関⼼の⼤部分が新型コロナウイルス感染症危機に向けられ、製品承認などの意思決定プロセスに遅延が発⽣したため、その影響はサプライチェーンにも波及しました。規制当局との協⼒は将来的に重要ですが、企業は政府や政策決定機関とも協⼒する必要があります。また、今後、商取引がこれまで以上に管理される点を想定し、政治家や政府の「理解の多⼤なる⽋如」に対処する必要もあります。新型コロナウイルス感染症によるパンデミックは、業界に教育のプラットフォームを与えることとなりました。

危機への対策として⼀部の政府によりサプライチェーンの現地化が提案されましたが、今では単なる現地化よりも、在庫管理や冗⻑性を持たせることについて議論されることが多くなっています。また、感染症が広がる状況下では、より緊密な連携が必要だという点で参加者たちの意⾒は⼀致しています。通常とは異なる形で今、企業にはケイパビリティとキャパシティを分け合う⾃由があります。グローバルな協⼒に境界を引いて制限を設けるのではなく、これを活⽤して危機に対処すべきです。

未来に向けたレジリエンスの向上

業界のサプライチェーン計画では今後、調達戦略だけでなく疫学的シナリオも考慮する必要があります。企業は新型コロナウイルス感染症の危機以前に策定していた継続性計画のうち、効果的だった点と失敗した点を⾒定めなければなりません。

今回の危機では、サプライチェーンに関して良い意味で教訓が得られました。全体的に見ると、危機の間もオペレーションには「かなりの回復力」があり、この業界には短期間で規模を調整する能力があることが明らかになっています。また、危機以前よりもオペレーションが強化されている感が強く、対応の速さも広く認識されています。

さらに今、サプライチェーン計画の戦略的必要性が認識され始めており、サプライチェーンへの長期的な投資がレジリエンスを実現するとの理解が広がりつつあります。サプライチェーンの保護については、現在「議論の俎上に載せられている」段階です。

エンド・ツー・エンドの可視性を構築

課題としては、サプライチェーン内の「可視性のギャップ」が浮上しており、この点で参加者たちの意⾒は⼀致しています。従来、医薬品業界はコネクティビティという点で特に先進的ではなく、企業は通常、展開するサプライチェーンで製品がどのように流通するかは把握していません。⼀⽅で、例えば⾃動⾞業界ではベンダーによる在庫管理が当たり前のようになっていますが、医薬品業界は現在そうした状況には達していません。

透明性を高めるために業界全体でエンド・ツー・エンドのパートナーシップを強化することについて、検討する必要性を主張した参加者もいます。サプライヤーと交流する機会を設けたところ、危機下においてサプライヤーは非常にオープンであり、協力的であることが判明したためです。

デジタルとデータを利用してサプライチェーンの脆弱性に対処

デジタルとデータは、サプライチェーンという観点からも、医療提供モデルを大きく変える可能性があります。データが提供するリアルタイムの情報は、在庫管理や、現地とグローバルでのオペレーションの間に見られるギャップの軽減に役立ち、レジリエンスを高めます。

危機に対処するために設置したデジタルシステムの⼀部は、今後も残るでしょう。この数カ⽉で、欧州や⽶国で遠隔医療を本格導入する動きに⼤きな障壁がないことが分かりました。⽬下のところ、従来の卸売・流通モデルは宅配には対応していませんが、これは今後の成⻑モデルであり、サプライチェーンは適応していかなければなりません。

サマリー

2020年、新型コロナウイルス感染症はライフサイエンス企業のサプライチェーンのオペレーションに大きな課題を突き付けました。EYは4社の重役と会談し、こうした課題や、業界がどのように適応したか、そして将来のレジリエンス向上のために何ができるかについて討論を実施しました。

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