バイオ医薬品企業は、2024年以降、間違いなくこの蓄えられたファイヤーパワー(企業のM&A実行能力を貸借対照表の健全性に基づいて測定したEY独自の指標)を投入するでしょう。というのも、この業界には今、懸念される「パテントクリフ(医薬品の特許切れに伴う売上の急減)」が迫っているためです。特許の存続期間が終了する主力製品が続出すると、収益が急激に減少します。主要なバイオ医薬品企業にとっての課題は、直近の成長のギャップを埋めるために、どのアセットをターゲットにすべきかということです。
M&A取引の担い手にとっての問題は、米国のインフレ抑制法(IRA)やその他の規制の進展と並んで、世界の企業を取り巻く経営環境に広く見られるボラティリティがあります。このような状況の中、バイオ医薬品企業はどのようにすれば、適切なディールを行い価値を確保できるのでしょうか。
どのディールが最高のリターンをもたらすかについて、結局のところ万能の答えはありませんが、企業が将来にわたり価値を維持する機会を提供する特定の戦略は存在します:
- より焦点を絞ったビジネスモデルを構築する:
ライフサイエンス業界を取り巻く環境は複雑化が進み、すべてのビジネスモデルで抜きんでている企業はありません。このことを認識した企業は近年、「投資のための売却」を始めています。つまり、周辺事業や部門を切り離して、中核となる価値の提供に集中するのです。
- 付加価値を生み出すことのできる疾患領域を特定する:
特定の疾患領域の戦略的重要性を検討する企業が増え始めています。2028年までに、世界のバイオ医薬品市場全体が4,190億米ドルの成長を遂げるという予測がありますが、このうち1,420億米ドル(34%)は、がん治療の分野が占めるとされています。がん治療市場の大きな成長可能性は、過去5年間にこの分野に重点的に投資された、企業のM&A投資額に表れています。また、規制環境の変化により希少疾病にも注目が集まっています。IRAのような法律が希少疾病用医薬品の価格設定に影響を与える可能性は低いため、最大のM&Aターゲットの1つとなっています。
バイオ医薬品市場の成長をけん引すると予想される主な疾患領域(TA)2022~2028年見込み