- 日本企業(※1)の経営層の96%は新型コロナウイルスの感染拡大による世界経済への影響は深刻と認識
- 日本企業の経営層の半数は、景気回復は緩やかで2021年までかかると想定
- 日本企業は積極的にサプライチェーンを再構築中で、74%の経営層がサプライチェーン見直しのための措置を実施中と回答
- 経営層は新型コロナウイルス危機後の状況を見据えており、M&Aへの意欲は引き続き旺盛
「第22回EYグローバル・キャピタル・コンフィデンス調査(以下、CCB 22)」によると、日本を含むAsia-Pacificのビジネスリーダーは、新型コロナウイルスがもたらしたサプライチェーン、売上、収益等への様々な影響への対処に注力する一方で、新型コロナウイルス危機(以下、コロナ危機)後の状況を見据えて資本配分やM&A計画の再構築に取り組んでいます。
日本を含むAsia-Pacificにおける企業経営層900名を対象に行われたCCB22(グローバル全体では2,900名以上を対象に実施。調査実施期間:2020年2月4日~3月26日)において、日本を含むAPAC企業の回答者の圧倒的多数(日本企業96%、APAC全体94%)が、新型コロナウイルスは、サプライチェーンへのディスラプションや、消費の減少という形で、世界経済に深刻な影響をもたらすと予想しています。これは、Asia-Pacificの回答者が、グローバル企業(※2)全体の経営層(73%が影響は深刻と回答)よりも、悲観的であることを示しています。一方で、世界経済に対する危機感と比較すると回答割合はやや低かったものの、この調査期間において、Asia-Pacificの経営層の58%、日本企業の経営層では70%が、コロナ危機が自国の経済に大きな打撃を与えると回答をしています。
すべてのセクターが新型コロナウイルスの影響を直接的または間接的に受けており、グローバル全体およびAsia-Pacificの経営層の回答者のほぼ全員が、新型コロナウイルスが収益性の低下を引き起こすであろうと回答しています。日本企業の経営層の回答者の半数(50%)は、景気回復は緩やかで、2021年までかかると予想しています。
企業による経済成長予測については、日本企業の経営層の回答者93%が経済成長に明るい見通しを抱いていた1年前と比較して大きく変化しました。 2月上旬には明るい見通しを持つ回答者は23%まで著しく落ち込み、さらに3月末の調査終了時には13%にまで低下しました。世界経済、および自国経済に対する景況感は、2月中旬を境に大きく変化したと言えます。
EY トランザクション・アドバイザリー・サービス株式会社 代表取締役会長 ヴィンセント・スミスは次の様に述べています。
「企業経営層は、コロナ危機の影響に緊急に対処しなくてはならない状況ですが、それでも今、成長の将来展望を見直し、企業にとっての今後の"ニューノーマル(常識)"を考えていく必要があります。主に中国、東アジア、東南アジアなどのAsia-Pacific の国々が、危機収束の方向に徐々に動き出している中で、企業は俊敏性(アジリティ)、柔軟性(フレキシビリティ)、回復力(レジリエンス)を企業戦略に取り入れており、多くのセクターで企業が大規模なトランスフォーメーションを行うことが予想されます。これは日本企業にも大いに当てはまりますが、つい最近緊急事態宣言を発表した日本はまだ新型コロナウイルスの影響に対処するには初期段階にあります。」
企業経営層は、今回の危機へ対応するためにオペレーティングモデルの見直しを行っています。世界の多くの地域で企業活動の停止が相次いでいる中で、多くの企業でそのサプライチェーンの脆弱性が露見しています。67%のAsia-Pacificエリアおよび74%の日本企業の経営層が、既存のサプライチェーンの再構築に向けて動き出していると回答しています。
同時に、世界各国の政府は、新型コロナウイルスの影響を最小限に抑えていくために、積極的に景気対策を打ち出しています。日本を含むAsia-Pacific エリアの各国政府では、自国経済の強化を目指して、公的援助や事業支援を提供しており、これまでに、雇用の維持、個人や中小企業支援のための現金給付や納税猶予といった経済対策が発表されています。
次の段階に備える
企業経営層は、新型コロナウイルス感染拡大という、これまで経験したことのない、国際的な公衆衛生上の緊急事態への対応に注力していますが、また同時に、この危機が収束した後について考え始めています。日本企業の経営層は既にサプライチェーン見直し(74%)、デジタルトランスフォーメーション推進(28%)、オートメーション加速(50%)、従業員の管理体制強化(50%)といった行動を起こしています。
本調査の回答者によると、日本企業の多く(76%)は、売上目標や収益目標達成への期待に対応するため、大きなトランスフォーメーションに向けた施策実施に着手していました。コロナ危機以前から、変革は企業にとっての優先課題となっており、その最大の理由は、売上や収益といった各種目標の達成に対する圧力でした。日本の経済が成熟する中で、高い収益力を達成することへの圧力が特に複合型企業ほど高くなっています。現在の新型コロナウイルス感染拡大をめぐる状況と相まって、変革への意欲はかつてないほど強くなっています。
EYトランザクション・アドバイザリー・サービス株式会社 シニア・パートナー 日本マーケッツ統括の田村晃一は次のように述べています。
「日本企業は、グローバルで貿易を巡る緊張感が高まりつつあるという状況に対して自分たちのビジネスモデルを適応させることに焦点を置いてきました。コロナ危機に面してその必要性はさらに強まっています。ある日本企業の経営層は、"新型コロナウイルスのため、調達、製造、流通、販売といったあらゆる企業活動について、アジアの様々な地域における企業活動の停止を含むディスラプションの状態に対処する必要が生じ、その直後にはヨーロッパおよびアメリカの商流、サプライチェーンそして流通販売ネットワークについても影響は瞬く間に拡大した。これは前例を見ない危機で、今後のグローバルの商流やサプライチェーンを永続的に変えるもので、日本企業にとっても"ニューノーマル"にふさわしいビジネスモデルの構築が急務であると認識した。"と語っています。」
またスミスは次のように述べています。
「企業はコロナ危機が、一度きりの事象ではないと想定しています。多くの日本企業の経営層はすでに繰り返し起こるディスラプションこそが"ニューノーマル"な持続的ビジネス戦略ととらえており、優先事項と考えています。企業の経営層はこれからますます変革をもたらす戦略を徹底するようになるでしょう。」
危機が終息した後の、M&Aによるリカバリーポイント
回答者の大部分が中期的には経済が回復すると考えているなかで、日本企業の経営層の57%が、今後1〜2年以内に積極的にM&Aを行っていくと述べています。また、日本企業の経営層の80%が、今後1年間で買収競争が激化すること、そして、こうした競争の半分以上(67%)がかつてないほど豊富な投資資金を擁するPE(プライベートエクイティ)を含むプライベートキャピタルからのものだと予想しています。
「コロナ危機は短期的にはM&A活動に大きな打撃を与えていますが、今回のCCB調査から、中長期的には、依然として企業のトランスフォーメーションを行う上で、M&Aは重要な戦略であるということが分かりました。また最近のクライアントとの会話からも、M&Aを含む企業のトランスフォーメーション戦略遂行について、現在の状況を受けて遅れはあるものの、大きな変化はないということがはっきりしています。クライアントは、タイミングの問題はありますが、今回の新型コロナウイルス危機はM&Aを通じた更なる企業価値の創造機会をもたらす可能性があると考えています。」とスミスは述べています。