電力・公益事業会社の経営層は、今後数年間で同業界は劇的に変化すると予想しています。EYの最新調査「EY Power & Utilities Digital Transformation and the Workforce Survey (電力・公益事業セクターのDX状況及びその推進人材に関する調査)」(以下、「本調査」)によると、ほぼ全回答者(94%)がテクノロジーと人材分野への直接的な投資の必要性を認識しています。そして、90%近くが、DXの推進を阻む要因として適切なスキルを備えた人材の不足を指摘しています。しかし、多くの企業ではまだ十分な対応策が講じられていないのが実情です。
本調査は、世界中の電力・公益事業会社159社の経営層を対象に実施しました。EYでは、その調査レポートを通じて、気候危機対応に対する社会的要請の高まりや低炭素エネルギーシステムへの世界的移行を踏まえた独自のインサイトを提供しています。電力・公益事業セクターは再生可能な分散型エネルギーを主力電源とする経済の構築と脱炭素化に向けて大規模な電力変革を迫られていますが、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行拡大により、その必要性は加速的に高まったと言えるでしょう。そして、こうした進化にはデジタル技術に精通した人材の育成が不可欠です。
EYグローバル及び米州地域のピープル・アドバイザリー・サービス(エネルギー&リソース分野)リーダーである Cyntressa Dickeyは、次のように述べています。
「低炭素エネルギーへの転換に伴い、新たな職務が必要になります。その職務に従事する人材は今までになかった全く新しいスキルや既存スキルの強化が求められます。企業側も未知の変化に俊敏に適応し、対応する能力がこれまで以上に重要になるでしょう。破壊的な脅威は増加の一途をたどっています。非従来型の競合他社も増え続けています。テクノロジーもかつてないほど速いスピードで進化しています。こうした状況を踏まえると、適切なスキルを備えた人材によるサポートなしにデジタル技術を採用し投資しても、企業は期待通りのベネフィットやリターンを得ることはできないでしょう」
新しいエネルギー社会の構築に求められる新たなスキル
本調査により、電力・公益事業会社が直面する難しい課題が浮き彫りになりました。デジタル技術の進歩は目覚ましく、その採用をサポートする人材に求められるスキルは同業界がこれまで重要と位置付けてきたスキルとは次元が異なります。本調査に参加した経営層の10人中9人が、今後数年間でエネルギー源の組み合わせを見直し(91%)、クリーンなエネルギーを主電源とする経済に対する消費者の期待に適応していく(93%)ことを想定していますが、こうした変化を遂げるためには新たなケイパビリティの強化が不可欠です。回答企業も半数以上(55%)が、先端技術の採用をDXの取り組みに最も有益な影響をもたらす3つの主要ドライバーの一つとして最重要視しています。
本調査に参加した公益企業の経営層は、組織内で既存のスキルの再教育あるいは強化が必要な人材は60%近くに上ると推測しています。しかし、現段階でスキル面のサポートの対象となっている人材はわずか41%で、企業は平均で一人当たり4,650米ドル、7.5カ月間の研修を提供する予定でいます。スキルの再教育と強化の必要性は高まる一方ですが、たとえ研修が必要でもその対象外となっている人材は36%に上ります。こうした現状について回答企業は、競合する優先事項や変化に対する社内の抵抗感、市場の圧力などさまざまな理由を挙げています。
スキルギャップを埋める
スキルギャップの解消やデジタル技術の効果的な導入を実現できない企業の先行きは厳しいものになるでしょう。しかし、こうした課題への対応に対する経営層の回答にはばらつきが見られます。例えば、85%の経営層が、「DXを成功させるためには今後3年以内に既存人材のスキルを再教育することが不可欠である」と感じている一方、実際に同期間にスキルの再教育を実施するために強固な計画を策定している企業はわずか57%で、米州の回答企業に限ってはその割合は48%まで下がっています。
さらに、経営層はスキルギャップがどこにあるのか必ずしも把握できているとは限りません。人材定着(リテンション)に関する課題にも直面しています。こうした状況は、この問題をさらに複雑にしています。本調査によると、回答企業の3分の1は既存スキルと企業が必要とするスキルのギャップを特定できていません。そして、回答企業の3分の2は企業が求めるスキルを備えた人材の維持・確保に苦慮しています。
Ernst & Young LLPのプリンシパルでEY米国東部のエネルギー・ピープル・アドバイザリー・サービス・リーダーであるRyan Levineは、次のように述べています。
「電力・公益事業会社は今後、脱炭素経済の実現の要としての役割を担っていくでしょう。しかしそれは、各企業がデジタル化に向けて実効性のある戦略を策定・実行できるかどうか、それをサポートする人材を育成できるかどうかにかかっています。もし失敗すれば、市場シェアの喪失もあり得ます。ディスラプションの真っ先のターゲットになる可能性もあります。こうした事態を招かないためにも、電力・公益事業会社は今後、人を中心とするアプローチを取り入れて組織全体にわたりデジタルマインドセットを醸成し、テクノロジーを集約してより効率的に顧客にサービスを提供できるようにすることが求められます」
EYストラテジー・アンド・コンサルティングのエネルギーセクターリーダーである石黒泰時は以下のように述べています。
「多くの経営者の皆さまが語るように、これからの事業の発展を支える”先端技術”、”再生エネルギーの進歩”ならびに”脱炭素化対応”は、まさにこれまでと異なるパラダイムへのシフトを意味しており、それを支える人材の重要性がますます高まっていることに他なりません。EYは皆様と一緒にこのパラダイムシフトへチャレンジしていきます」
EYアジアパシフィックピープルアドバイザリーサービス日本地域代表の鵜澤慎一郎は以下のように述べています。
「日本市場でも特に伝統的な重厚長大産業を中心にDX推進の障害として、組織・人材面の問題が深刻化しています。我々は電力・公益事業の専門コンサルティングチームと組織・人材コンサルティングチームの連携を通じて、業界特有のデジタルトランスフォーメーション、デジタルタレントに関する課題解決を推進して参ります」
「EY Power & Utilities Digital Transformation and the Workforce Survey」について:
本調査は、電力・公益事業セクターにおけるデジタル技術とスキル人材の活用の実態の把握を目的として、再生可能エネルギー、電気、天然ガス、水道などを含む世界中の公益事業会社の経営層159名を対象に実施しました。回答者の所属部門はIT、人事、オペレーション、戦略、デジタルなど多岐にわたります。調査の実施期間は、2021年1月12日から同年2月8日までです。
本調査結果および例示は、「EY Power & Utilities Digital Transformation and the Workforce Survey」をご覧ください。