2022年の第3四半期では、インフレ、中央銀行の政策に対する期待、世界的なマクロ経済環境の悪化が注目を集めました。
明確な下落傾向の下、今期9月の終わりには、ブレント原油とWTI(ウェスト・テキサス・インターミディエイト)原油はそれぞれ1バレル当たり85米ドルと79米ドルで取引されました。第3四半期の初めには、それらの契約はそれぞれ1バレル当たり120米ドルと108米ドルで取引されていました。このような傾向、複数の短期的な逆風、エネルギーの脱炭素化に関する長期的な不確実性にもかかわらず、原油ベンチマークの価格は、2014年から2015年の景気後退や新型コロナウイルス感染症の世界的な流行の際に見られた水準を上回り続けています。
こうした原油価格への圧力の多くは、他の大規模な石油消費国の通貨と比較して米ドルの価値が高いことが原因であると考えられます。当四半期の初めからは米ドルに対しての価値がユーロは10%、ポンドは約17%の割合で下落しています。このような傾向がいつまで続くのかは予測がつきません。
英国およびEU諸国は、ウクライナ情勢による景気後退とエネルギー価格の高騰に引き続き苦慮しています。また、国有化へのイニシアチブとエネルギー消費者への直接支援は、既にひっ迫している予算に対してさらなる負担をかけることとなり、今後これらの財政赤字を解決するために圧力がかかることが予想されます。
当四半期のテーマは「懸念」です。9月に、米国の連邦準備制度理事会は3回目となる0.75%の利上げを発表しました。その後、2年物国債の利回りは2008年の金融危機以来の最高水準に達し、2年物国債と10年物国債の金利差(逆イールド)は1980年代初め以降、初めてマイナス0.5%を上回りました。株式市場は景気後退の可能性も織り込み始めており、過去の実績からすると石油市場への影響は深刻化する恐れがあります。
過去2回の景気後退でWTI価格は50%以上下落しましたが、景気後退はまだ確実なものではありません。雇用データは引き続き好調を示しており、世界経済が縮小した場合、2014年から2015年の景気後退以降、石油バリューチェーンの全てに対する構造的な投資不足が、大幅な供給過剰の妨げになる可能性があります。
OPEC(石油輸出国機構)の加盟諸国はここ数カ月、生産量が見積もりを下回っており、最近では減産も発表しています。今年後半に開始されたEU諸国のロシア産原油に対する経済制裁と、それに伴うロシア産原油の輸出量減少の可能性は、低迷する需要に対する少しばかりの対抗策となるでしょう。
欧州においては、天然ガスの不足と前例のないエネルギーの価格高騰に終わりが見えない状況となっています。ウクライナ情勢の深刻化によるガスの供給差し止めは、欧州の世論に影響を与えるためのロシアの戦略の柱となっています。
政府の危機への対策である価格上限設定や超過利得税の設定、エネルギー企業の国有化はほとんどがその場しのぎのものであり、金融市場の反応によって通貨の下落やインフレの進行、継続的な経済問題がもたらされています。米国のガス市場では、価格は新規投資の支えになっていますが、主要なLNG(液化天然ガス)輸出プロジェクトは引き取り契約がないため保留になっています。
2022年第4四半期には、次の4つのトレンドが見られます。
- マクロ経済の不確実性
米国の中央銀行がインフレ率をパンデミック前の水準に戻すための決断について市場が持っていた疑念は全てなくなりました。話題の中心は景気後退への懸念となりつつあり、石油およびガス市場のリスクが高まっています。
- 製品市場への圧力の緩和
ロシアの精製能力の喪失に合わせて原料と製品の組み合わせが調整されたため、ガソリン、灯油、原油の価格差は記録的な水準に達しました。また、貿易の流れは調整し続けられているため、製品市場への圧力は緩和されていると考えられます。
- 欧州のエネルギー危機の継続
ロシアからのガス供給の中断は危機というよりは必然的なものであったと見なされてきています。ガスの不足、価格の高騰および政府の対応は経済の見通しに影響を及ぼすに違いありません。
- インフレ削減法による情勢の変化
米国のバイデン大統領は2022年8月、インフレ削減法案に署名しました。これは3,000億米ドル以上をエネルギー移行と気候変動対策に割り当てる法案です。法案の中には、直接空気回収(DAC:Direct Air Capture)に貢献した企業を対象とする税額控除において大幅な増加が含まれます。