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会社/事業の分割を成功させる戦略とは

カーブアウトのような会社分割戦略は複雑ですが、変革と成長のきっかけとなり得ます。

世界金融危機を受け、企業は過去10年間「(規模が)大きいことは良いことだ」という考え方の下にポートフォリオの多様化を図り、超大型合併を続けました。そのため、今日の企業の事業ポートフォリオは複雑を極めており、S&P500企業を見ると、およそ3分の2は、3つ以上の事業分野で年間収益が5億ドルを超えています。

ところが、昨今の運用環境の悪化や高金利を伴う金融市場の不確実性が、企業にポートフォリオの再評価を迫り、成功に向けた会社/事業の分割を追求させています。市場は「シュリンク・トゥ・グロー」を重視するようになり、コアビジネスに焦点を当てる企業を評価する傾向が高まっています。分離活動の増加は業界を問わず顕著ですが、特に活発なのは製造業とヘルスケア分野です。

  • 画像の説明

    • 図表1には、S&P500企業の66%は10年間に及ぶ超大型合併などにより、3つ以上の事業分野で年間収益が5億米ドル以上であることを示しています。
    • 図表2は、2018年から2022年までの間に発表されたM&Aの件数を表す棒グラフです。2022年は対象期間中で最も件数が多く、30%でした。
    • 図表3は、M&A全体に会社/事業の分割が占める割合を示す円グラフです。この割合は米国が69%、米国以外が31%でした。
    • 図表4には、分割を実施した企業の超過リターンがセクター指数を6%強上回っていることを示しています。

会社/事業の分割を成功させる戦略とは

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会社/事業の分割を行うという決断は、会社を長期間にわたる繁栄のために下します。ウィークリンク(信用力を低下させるようなつながり)を断ち切るためにスピンオフをする経営者もいますが、私は絶対にそれはしません。新会社には業界で最高の企業になってほしいと願っています。好きなように大暴れするチャンスを提供したいのです。
Ed Breen氏
Executive Chairman and Chief Executive Officer, DuPont
  • 調査方法

    この分野をリードするアドバイザリー企業として、ゴールドマン・サックスとEYは共同で会社/事業の分割に関する包括的なインサイトをまとめました。テーマとした問いは「会社/事業の分割とは」「企業はなぜ分割を検討するのか」「分割を実施する最適なタイミングとは」、そして最も重要となる「会社/事業の分割で価値を最大限高めるにはどうすればいいか」です。今回の調査では、2012年から2022年の間に世界各国・地域で実施された160件を超える会社/事業の分割(分割された企業の時価総額が10億ドル超の案件が対象)の定量分析と、会社/事業の分割の経験がある世界有数の企業の経営幹部数名から直接話を聞くインタビュー調査を組み合わせました。

会社/事業の分割は複雑ですが、大きな株主価値を生むことができ、また多くの場合、市場平均を上回る業績を達成できます。会社/事業分割の成否の評価基準とするのは、分割によって生まれるRemainCo(存続会社)とNewCo(新会社)の株主総利回りです。分析結果から、会社/事業の分割が順調に実施されると、発表から取引完了後2年間までの超過リターンの加重平均が、それぞれのセクター指数をおよそ6%上回る可能性があることが明らかになりました。

ベンチマークを上回る業績を長期的に維持できるという保証はありません。このため、経営幹部が分割前に戦略的なビジョンを定め、戦略面の決定を下しておくことが極めて重要になります。できるだけ大きな長期的価値を株主にもたらすために、企業が今後、全力を注いでおくべき取り組みが5つあります。

  • 1. 分割の実施期間を利用して、NewCoとRemainCoの両方を再編する

    会社/事業の分割をきっかけとしてNewCoとRemainCo両方の業務改革を実施すべきです。急場しのぎで最善とは言い難い「クローン・アンド・ゴー(既成のものを複製する)」アプローチをとるのではなく、変革の取り組みを着実に実行していくことです。高い価値をもたらす、補完的で小規模な変革を推し進めることで、成長と利益率の向上に効果を及ぼすことができます。

  • 2. 経営陣の焦点を絞り、そのメリットを引き出す

    会社/事業の分割は、特定事業の優先課題に経営幹部がフォーカスするチャンスとなります。NewCoの場合は特にそうです。分割プロセスの早い段階でNewCoの経営幹部を発表し、上場企業が負う責務について、親会社の経営幹部を間近に見て学ぶに十分な時間を設ける必要があります。これを実行することで、NewCoの経営幹部は上場デビューへの準備を整える中、会社をリードし、戦略を効果的に伝える能力を磨くことができます。

  • 3. 独自の資産プロファイルに合わせて資本配分の優先順位を調整する

    会社/事業の分割により、新会社の両社はそれぞれが独自に資金調達をし、資本配分の優先順位に関わる戦略を練ることができるようになります。NewCoとRemainCoでは一般的に財務プロファイルと運営段階が異なることを考えると、通常、RemainCoは分割後の利益率改善に重点を置き、NewCoは収益成長率に重点を置きます。RemainCoが分割後の資本収益率の増加に注力する傾向にあるのに対して、NewCoはM&Aなどオーガニックおよびインオーガニックな事業機会への投資配分を増やしています。分離後の業績が市場の平均を上回るNewCoを見ると、業績が市場の平均を下回るNewCoに比べ、資本支出全体に占める成長投資額の割合が大きくなっています。

  • 4. 分割に関わる諸問題に対処する

    どの大規模な事業計画にも言えることですが、会社/事業の分割には時間とコストがかかるものです。に実施したトランザクションの分析結果では、全体の60%超が発表から完了まで9カ月以上かかっており、またNewCoにいては株式価値の1~6%程度の一時的なコストを伴うケースも見られました。なお、今回の分析からは、発表から完了までの期間と分割後の業績の間に有意な相関は見られませんでした。企業は、分割後の価値創造の源泉である改善の実施に要する時間をNewCoに提供しながらも、スケジュール上のコミットメントとコストのバランスを取ることが重要です。

  • 5. ステークホルダーとコミュニケーションをとる

    会社/事業の分割を実施する際には、一定の不確実性が生じます。そのため、株主、従業員、顧客やサプライヤーの全てと、透明性の高い、定期的なコミュニケーションを図り、分割計画に対する理解と信頼を得ることが欠かせません。さらに、RemainCoとNewCoの双方のエクイティストーリーを主要なステークホルダーに伝えることは、NewCoにとっては新規上場会社になる上でのサポートを得るために不可欠であり、RemainCoにとっては自社をリブランドした上で既存および潜在的な投資家の両方と面談するに当たり、やはり必須です。

概して、会社/事業の分割は業界を問わず価値を解き放つ優れた手段として、人気が続いています。近年のこうしたディールの増加は、昨今の会社/事業の分割により誕生した会社が好業績を収めていること、ならびに買い手と市場を取り巻く混乱を回避するのに有効な手段であると認められてのことです。会社/事業の分割について必要な時間とコストを把握でき、戦略的ビジョンとの間に調和のビジョンを描ける経営幹部は、すぐにでも分割に向けた作業に着手できるといえます。

サマリー

カーブアウトのような会社分割戦略をきっかけとして変革を実現することで、企業は長期的価値を創出し、市場平均を上回る業績を達成する可能性を大幅に高めることができます。レポート全文をダウンロードし、なぜ市場が「シュリンク・トゥ・グロー(Shrink to Grow:成長のための縮小)」モデルを高く評価しているかをご覧ください。

会社/事業の分割が増加

今回のポッドキャストには、EYのSharath Sharmaとゴールドマン・サックスのDavid Dubner氏が出演しています。

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