8 分 2022年9月13日
山頂にたたずむ親子

税務部門がポストコロナの未来を見据えて着目すべき5つの領域

執筆者
James Hunter

EY Global Compliance & Reporting Leader

Passionate about diversity and our 11,600 professionals. Tennis fanatic. Father.

Ben Smith

EY Global Deputy Compliance and Reporting Leader

Leading engagements across borders. Focused on efficiency and new ways of working. Champion of EY Global Delivery Services. Sponsor of our homegrown talent. Cricket fan. Father of three boys.

EY Japanの窓口

EY Japan Tax グローバル・コンプライアンス・アンド・レポーティング部リーダー、大阪事務所長

20年以上の経験を有する税務プロフェッショナル。コミュニケーションスキルに長ける。温泉とバスケットボール、特にNBAを愛する。

8 分 2022年9月13日
関連トピック 税務

パンデミックと度重なる政策変更により、税務環境は大きく変わりました。今、税務リーダーたちは、最善の道を進むための舵取りをする必要があります。

要点
  • 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の発生以前から、税務部門は既存の税務業務モデルを圧迫する、変化の激しい税務環境に対応する必要があった。
  • パンデミックは、税務部門とビジネス全体の双方において、予測不可能なさまざまな税務関連の課題を生み出した。
  • 世界は今も新型コロナウイルス感染症への対応に追われているが、税務部門はパンデミックの影響と広範な税務政策の変更を比較検討し、進むべき道を描く必要がある。


新型コロナウイルス感染症のパンデミックが無防備な世界に与えた影響は短時間で強大なものでしたが、回復や収束へは、はるかに長時間を要することが分かっています。現在、各国はロックダウンや規制の混乱から脱しつつありますが、時期もペースも一律ではありません。 

また、オミクロン株の発生により再びロックダウンを実施した地域もあり、世界が本当の意味でパンデミックから脱却するには、まだ時間がかかることを示唆しています。

税務部門も今や、完全に元通りになるとは期待していないでしょう。しかし、今後数カ月先、数年先に向けてどのような計画を立て、どのような課題に直面することになるのでしょうか?

パンデミックによって急速な税務政策の変更を余儀なくされ、ビジネスの多くの側面で混乱と税務リスクが生じ、すでに進行していたプロセスにも影響を及ぼしました。その他さまざまな圧力やさらなる税務政策の変更という移り変わりの激しい状況の中で、今、全ての税務部門が一層の努力をしければならないことは明らかです。

こうした圧力は、多くが明白かつ直接的なものでした。パンデミック初期の頃は、税務部門は予測不可能な業務量と、リモートワークへの迅速な対応に追われていました。また、家族との再会のため人々が世界中を移動すると、移住先で課税対象となるなど、新たな税務リスクが生じました。

税制や金融の「優遇措置」も問題となっており、猶予期間によって規則的なサイクルが崩れています。現在、事業活動の回復に伴い日々の税務業務がすでに増加していますが、ボトルネックによってさらに複雑化しています。

また、税務業務の負荷自体も変化しています。激動の時期に費やした数十億もの金額を回収しようと躍起になっている政府は、抜け穴をふさぎ、税金対策を抑制し、デジタル技術を駆使して、直接税、間接税、従業員および事業に関する税を含む全ての収入源で歳入を強化することに躍起になっています。

そのような政府の多くは、つい最近まで法人税率の引き下げを競い合っていました。現在では、世界水準として法人税は最低でも15%以上とすることがG20で合意され、経済協力開発機構(OECD)の包摂的枠組みでは、加盟国の90%以上から支持されています。また、EUの国別報告書や新しいデジタル課税、サステナビリティ課税であれ、新しい税務政策が導入されるたびに、申告義務は拡大しています。

パンデミックはさらに、サプライチェーンを混乱させ、移転価格や実体経済にも影響を及ぼしました。また、コスト削減の圧力、適切なテクノロジーの導入の必要性、そして、企業がすでに才能とスキルのある人材争奪戦に直面する中、現代の税務プロフェッショナルに求められるスキルセットの進化など、長期的な課題も加速させ、加えて、多くの市場においてインフレを促進しました。

外国口座税務コンプライアンス法(FATCA)や共通報告基準(CRS)など、パンデミック以前の法人税の申告に関する変更などを加味すると、税務部門を取り巻く圧力は無限に見えます。このように混迷した要求を前にして、税務リーダーたちがストレスを感じるのは当然のことでしょう。

そこで、パンデミックの先を見据えた最初の重要なステップとして、質問をいくつか用意しました。

  • 税務部門が短・中期的将来において対処すべきことを全て把握した上で、どの領域に優先的に取り組みたいか?
  • 3年後のその日に対応するためには、何が必要なのか?
  • こうした需要の変化に対応するには、どのような技術やスキルが必要で、それをどのように獲得できるのか?
  • どのビジネスプロセスが、価値が高く、社内で維持する必要があり、どれをコソーシングやアウトソーシングでパートナーに任せることができるのか? その線引きをどうするかによって、以下に提示した多くのポイントが決定される。

変化する需要に先手を打つために、税務リーダーたちが取るべき5つのステップを紹介します。

1. 全体像の「スキャン」を続ける

新型コロナウイルス感染症に関連する政策が廃止され、各国政府が歳入を確保するために新たな政策を導入する中、世界の税務政策は今後も目まぐるしく変化していくでしょう。そうした中、初めに導入された政策に税務部門の全精力を集中させるべきではありません。その先にはさらに5つの新たな政策が潜んでいる可能性があるからです。当面の課題として注目されているのは、税務調査の変革、企業の環境・持続可能性・ガバナンスへの取り組み、デジタル税務行政の大きな変化、ポストコロナのビジネスモデルの進化などです。

そこで必要となるのは、この状況を「スキャン」するということです。税務責任者は、次々に明らかになるコンプライアンスリスクにさらされている状況を分析するため、グローバルな全体像を十分に見極めなければなりませんが、新たな政策が発表されるたびに、その影響を正確に把握することは不可能でしょう。真の全体像は徐々に見えてくるため、それをいかに見極めるかが重要となります。

2. 敏しょう性と柔軟性を保つ

税務政策がどのように展開され、リスクに影響を与えるのかが明確でないため、税務部門は、変化に対応し税務係争を回避するための迅速な対応が取れるよう、敏しょう性と柔軟性を構築する必要があります。

パンデミック以前は、多くの税務部門が日常業務から抜け出せずにいました。現在の複雑な状況下では機動的な税務部門が求められており、新たな優先課題に迅速に対応し、グローバルに、デジタルに、そして持続的に、より幅広い戦略目標に沿ったコアスキルセットを持ち、企業に継続的に価値を付加することを要求されています。

そこで、社内で進める場合とコソーシングで進める場合の価値を分析し、相対的なメリットをバランスよく取ることが非常に有効であることが分かります。税務部門は、社内の人材が変化する重要なタスクにうまく対応できるモデルを確立するとともに、テクノロジーを活用することで敏しょう性を高める必要があります。

3. 人材争奪戦で優位に立つ

パンデミックによって、離職率はかつてない高い水準となっています。人々は、人生の選択について検討し、仕事に対して以前とは異なる要望を持ち、新たな挑戦を求めるようになりました。

同時に税務プロフェッショナル不足も深刻化しており、望まれるのは従来の税務専門知識と新たな税務専門知識をバランスよく持っており、将来の税務が求めるプロセス、テクノロジーおよびデータ分析のスキルを備えた人材です。そのため、優秀な人材を確保することが難しく、そのスキルは高く評価されるようになってきています。

しかし、人材獲得競争において優位性に立つ企業こそが、長期的に勝利を収めることになります。企業は、税務部門の将来を舵取りする知識とスキルを持った人材をどのように獲得・維持するかについて、説得力のある計画を立てる必要があります。つまり、報酬やキャリア開発から企業文化や価値観などに至るまで、あらゆるものを検証し、確約したことと実際の行動の間に矛盾がないようにしなければなりません。

4. テクノロジーとデータ戦略の見直し

税務当局が機械学習対応の強力なツールに切り替え、税務申告の厳格化、政府間の情報共有の改善、および歳入徴収の強化を図る中、税務コンプライアンスにおいてテクノロジーが果たす役割はますます大きくなっています。

そのため、税務部門は、税務データを収集、照合、把握および共有する最適なシステムを確保し、共同作業を可能にする最新のクラウドテクノロジーを搭載した複数管轄システムを採用し、組織全体の税務に関する全体像をどこからでも一目で把握できるようにする必要があります。

しかし、適切なテクノロジーには、まず明確なデータポリシーが必要です。税務部門がロボット的な日常業務のコストを削減し、従業員をより付加価値の高い業務に従事させることができるよう、高品質な税務データを迅速に収集する必要があります。これは、データに含まれる隠れた付加価値を引き出し、税務部門のビジネスにおける貢献度を高めるためにも重要です。

税務担当者は、最高情報責任者や財務担当役員を啓発することによって税務がより広範な財務改革プロジェクトの一部として認識され、税務の自動化への重要な投資がIT予算に含まれるよう確認する責任があります。税務当局は、実態以上に企業がこうした取り組みを進めていると認識していることが多く、取り組みが遅れている企業にとってはリスクが高まることになります。

しかし、テクノロジーへの投資は、社内であれ第三者を通してであれ、それだけでは不十分であることを忘れてはなりません。税務部門は、テクノロジーの知識が豊富な人材の採用を引き続き行う必要があります。

5. 意思決定支援を行う

新たな申告業務、スキルセットなどに振り回されがちですが、税務部門の中核的な役割は基本的に変わっていません。それは広範な事業戦略に対する意思決定を支援することです。

パンデミックをきっかけに、企業が成長し、新しい顧客市場にアクセスし、また、世界中のフットプリントやサプライチェーンを再考する機会は増えており、税務の役割の重要性はますます高まっています。

税務部門が採用する人材から構築するプロセスや導入するテクノロジーに至るビジネスの全てにおいて、まず真に効果的な意思決定が重要となります。

結論

2020年初頭に新型コロナウイルス感染症のパンデミックが発生して以来、税務部門は驚異的な激変の局面を迎えています。パンデミックは、多くの税務政策やより広範なビジネスへの影響を引き起こしただけでなく、長期的な変革の威力を著しく加速させました。そして、税務部門はこれらの課題を理解し、克服しようと奮闘しつつ、未来を見据え、さらなる税務政策の変更や圧力に備えなければなりません。

この激動がどのように展開されるか、このまま黙って見守るわけにはいきません。状況が非常に不確実であっても、企業は変革への道において大胆な一歩を踏み出し、このような状況下におけるコンプライアンスと申告義務に適切に備える必要があります。

サマリー

税務リーダーたちにとって、パンデミックの先を見据えることは、人材、プロセスおよびテクノロジーに関して新たなアプローチを採用し、環境の変化に対応できる敏しょう性と柔軟性を備えた税務部門を構築することを意味します。

積極的なアプローチをとることで、税務部門はますます激化する人材獲得競争に打ち勝つことができ、そのプロセスを将来にわたって維持し、本来のコア業務である重要なビジネスでの意思決定を支援する体制を整えることができるでしょう。 

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