1. 全体像の「スキャン」を続ける
新型コロナウイルス感染症に関連する政策が廃止され、各国政府が歳入を確保するために新たな政策を導入する中、世界の税務政策は今後も目まぐるしく変化していくでしょう。そうした中、初めに導入された政策に税務部門の全精力を集中させるべきではありません。その先にはさらに5つの新たな政策が潜んでいる可能性があるからです。当面の課題として注目されているのは、税務調査の変革、企業の環境・持続可能性・ガバナンスへの取り組み、デジタル税務行政の大きな変化、ポストコロナのビジネスモデルの進化などです。
そこで必要となるのは、この状況を「スキャン」するということです。税務責任者は、次々に明らかになるコンプライアンスリスクにさらされている状況を分析するため、グローバルな全体像を十分に見極めなければなりませんが、新たな政策が発表されるたびに、その影響を正確に把握することは不可能でしょう。真の全体像は徐々に見えてくるため、それをいかに見極めるかが重要となります。
2. 敏しょう性と柔軟性を保つ
税務政策がどのように展開され、リスクに影響を与えるのかが明確でないため、税務部門は、変化に対応し税務係争を回避するための迅速な対応が取れるよう、敏しょう性と柔軟性を構築する必要があります。
パンデミック以前は、多くの税務部門が日常業務から抜け出せずにいました。現在の複雑な状況下では機動的な税務部門が求められており、新たな優先課題に迅速に対応し、グローバルに、デジタルに、そして持続的に、より幅広い戦略目標に沿ったコアスキルセットを持ち、企業に継続的に価値を付加することを要求されています。
そこで、社内で進める場合とコソーシングで進める場合の価値を分析し、相対的なメリットをバランスよく取ることが非常に有効であることが分かります。税務部門は、社内の人材が変化する重要なタスクにうまく対応できるモデルを確立するとともに、テクノロジーを活用することで敏しょう性を高める必要があります。
3. 人材争奪戦で優位に立つ
パンデミックによって、離職率はかつてない高い水準となっています。人々は、人生の選択について検討し、仕事に対して以前とは異なる要望を持ち、新たな挑戦を求めるようになりました。
同時に税務プロフェッショナル不足も深刻化しており、望まれるのは従来の税務専門知識と新たな税務専門知識をバランスよく持っており、将来の税務が求めるプロセス、テクノロジーおよびデータ分析のスキルを備えた人材です。そのため、優秀な人材を確保することが難しく、そのスキルは高く評価されるようになってきています。
しかし、人材獲得競争において優位性に立つ企業こそが、長期的に勝利を収めることになります。企業は、税務部門の将来を舵取りする知識とスキルを持った人材をどのように獲得・維持するかについて、説得力のある計画を立てる必要があります。つまり、報酬やキャリア開発から企業文化や価値観などに至るまで、あらゆるものを検証し、確約したことと実際の行動の間に矛盾がないようにしなければなりません。
4. テクノロジーとデータ戦略の見直し
税務当局が機械学習対応の強力なツールに切り替え、税務申告の厳格化、政府間の情報共有の改善、および歳入徴収の強化を図る中、税務コンプライアンスにおいてテクノロジーが果たす役割はますます大きくなっています。
そのため、税務部門は、税務データを収集、照合、把握および共有する最適なシステムを確保し、共同作業を可能にする最新のクラウドテクノロジーを搭載した複数管轄システムを採用し、組織全体の税務に関する全体像をどこからでも一目で把握できるようにする必要があります。
しかし、適切なテクノロジーには、まず明確なデータポリシーが必要です。税務部門がロボット的な日常業務のコストを削減し、従業員をより付加価値の高い業務に従事させることができるよう、高品質な税務データを迅速に収集する必要があります。これは、データに含まれる隠れた付加価値を引き出し、税務部門のビジネスにおける貢献度を高めるためにも重要です。
税務担当者は、最高情報責任者や財務担当役員を啓発することによって税務がより広範な財務改革プロジェクトの一部として認識され、税務の自動化への重要な投資がIT予算に含まれるよう確認する責任があります。税務当局は、実態以上に企業がこうした取り組みを進めていると認識していることが多く、取り組みが遅れている企業にとってはリスクが高まることになります。
しかし、テクノロジーへの投資は、社内であれ第三者を通してであれ、それだけでは不十分であることを忘れてはなりません。税務部門は、テクノロジーの知識が豊富な人材の採用を引き続き行う必要があります。
5. 意思決定支援を行う
新たな申告業務、スキルセットなどに振り回されがちですが、税務部門の中核的な役割は基本的に変わっていません。それは広範な事業戦略に対する意思決定を支援することです。
パンデミックをきっかけに、企業が成長し、新しい顧客市場にアクセスし、また、世界中のフットプリントやサプライチェーンを再考する機会は増えており、税務の役割の重要性はますます高まっています。
税務部門が採用する人材から構築するプロセスや導入するテクノロジーに至るビジネスの全てにおいて、まず真に効果的な意思決定が重要となります。