資産運用会社における高度化に向けた取り組みと課題
1. 運用力の強化に向けた資産運用会社との対話
- 「資産運用業高度化プログレスレポート2020」において、日本の資産運用会社が顧客本位の商品を提供し、中長期的に良好で持続可能な運用成果を上げることにより、顧客の資産形成に寄与するとともに、その信頼・支持を獲得することによって収益基盤を確立していくために、取り組みを進めるべき以下の4項目が提起されました。本事務年度で実施したこの4項目についての対話の結果がまとめられています。
(1)ガバナンス:パフォーマンス状況の把握
① アクティブファンドのシャープレシオ
- 公募アクティブファンドのシャープレシオは、ファンド数が少なく純資産総額の小さい社においては、徹底した企業調査に基づく投資判断等により良好なパフォーマンスを実現し、平均レシオが高い社が見られます。
一方、ファンド数が多く純資産総額の大きい社においては、インデックスファンドの平均レシオを下回るファンドが多い社が見られると指摘されています。
出典:金融庁「資産運用業高度化プログレスレポート2021」
(2021年6月、https://www.fsa.go.jp/news/r2/sonota/20210625_2/01.pdf、2021年10月4日アクセス、※当記事内で、以下同様)
② シャープレシオ、エクスペンスレシオの国際比較
- ファンドの国際比較においては、シャープ・エクスペンス両レシオとも米国籍ファンドが優位にあります(下図A)。
- パッシブファンドとアクティブファンドを比較すると、シャープレシオはいずれの国においても前者が後者を上回っています。エクスペンスレシオは、パッシブファンド、アクティブファンドとも米国が最も低くなっています(下表B)。
(2)経営体制
顧客利益を最優先し、長期視点での運用を重視する経営体制の実現を目指し、経営体制を見直す取り組みも見られる一方、資産運用会社のトップの在任年数が短い傾向にあることや、ダイバーシティを巡る取り組みが進んでいない社が見られると指摘されています。
(3)目指す姿・強み
プログレスレポート2020において、国内大手資産運用会社に顧客の多様なニーズに応える(B)「ソリューションプロバイダー」を目指す動きが見られることが指摘されていました。今事務年度の対話の中では、そのための具体的な不足領域を強化するための議論が進展している社が見られました。また、特色のある商品の開発・運用チームの整備等により、(D)「アルファショップ」の機能の強化を目指す社が見られました(下図参照)。
(4)業務運営体制:同一ベンチマークに連動するインデックスファンドの費用体系を巡る課題
- 同一のベンチマークに連動するインデックスファンドについて、販売チャネルが同じものの中でも信託報酬にばらつきがみられ、特に設定後の経過年数が長いほど信託報酬が高い傾向にあります(図表A、B)。
- 同一の販売会社、資産運用会社の中でも、信託報酬水準に差異が見られます。
- 販売会社との協議により職域向けファンド(ミリオン)の手数料を引き下げる方向で検討を始めている資産運用会社もあります。
2. クローゼット・トラッカーの問題(運用方針と実際の運用との乖離)
- アクティブ運用を行うとしながら実質的にはインデックス運用に近いファンド(クローゼット・トラッカー)の問題が指摘されています。これらのファンドは、超過収益の獲得を運用方針に掲げ、高めの信託報酬を徴収するにもかかわらず実際にはインデックスファンドと変わらないポートフォリオ運用に終始している可能性があると指摘しています。
3. 私募投資信託
- 私募投信は、2011年頃には30兆円程度の残高でしたが、2020年12月末時点で105.2兆円に増加しており、純資産総額でETF(上場投資信託)を除く公募投信を上回っています。背景には、国内金利が低下する中、一部大手金融機関や地域金融機関等が自社単独では取り組みの難しい海外債券等に対する投資において、私募投信を活用している点等が指摘されています。
- 公募投信と比較すると、私募投信の方が総じて信託報酬が低く、リターンのばらつきが少なくなっています。
4. 投資一任
- 投資一任業の契約資産残高は、増加傾向にあります。
- 個人向けの投資一任であるファンドラップは、近年増加傾向にありますが、ファンドラップの顧客が負担するコストは、ファンドラップ手数料の他、投資一任受任料、組み入れ対象ファンドの信託報酬があることから、コスト控除後の平均パフォーマンスはバランス型の投資信託の平均と比べて総じて劣後しています。
資産運用業を取り巻く環境と課題
1. グローバルな資産運用の潮流と国内の動向
- オルタナティブ運用は今後も拡大が見込まれています。資産運用会社の運用残高の10%を超え、運用収益では約半分を占めています。グローバルでは、プライベート・エクイティへの投資が拡大し、収益に占める割合も大きくなっています。
2. ESG・SDGs投資
- ESG(環境、社会、ガバナンス)関連ファンドの銘柄選定基準は、個々のファンドによって大きく異なり、基準が明確でないとの指摘があります(図表A、B)。ESGの取り組みに対する評価方法の詳細は一般に目論見書等では非公表となっています。
3. 資産運用ビジネスを支えるサービサーに関する論点
- 海外市場では、グローバルカストディアンが各資産運用会社のニーズに応じて、フロント~バックのサービスを組み合わせて統合的に提供するようなプラットフォーム化が進展しています。日本では、カストディの前提となる運用資産残高の伸びは限定的となっていることに加え、日本独自のサービスが求められること等からグローバルカストディアンの本格的な参入は見られていません。
- こうした状況のもと、日本では、大手資産運用会社が人件費削減等の目的でシステムのアウトソースを行う一方で、システムのアウトソース経費の高さが新興運用会社の参入障壁となっている、との指摘があります。
対応の方向性
資産運用会社等との対話の継続と今後の施策
- 日本の公募投信市場の純資産残高(ETF除く)は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行を受けた相場の下落により一時落ち込みましたが、その後の相場回復や家計における投資への関心の高まりから、足元では増加傾向にあります。
- 資産運用会社においては、こうした動きが着実に広まり、投資家の成功体験につながるよう、家計の安定的な資産形成に資する取り組みの継続が期待されます。
サマリー
2020年度のプログレスレポートに比べて、より個別具体的な課題が指摘されており、特に、資産運用ビジネスを支えるサービサーに関する論点(日本の資産運用市場の特殊性や経費の高さ)が2021年度から追加されたことは注目に値します。引き続き、資産運用会社には、顧客本位の商品提供の徹底および運用力の強化が期待されています。