5 分 2018年12月10日
工場の女性

Advanced Manufacturing業界の2018年度第3四半期決算、注目テーマに表れる成長期待

執筆者 Jerry Gootee

EY Global and Americas Industrial Products Leader

Advisory leader with nearly 30 years of experience. Passionate about developing people, building relationships and serving clients. Guitarist and vocalist. Golfer and Cleveland sports enthusiast.

5 分 2018年12月10日

関連資料を表示

メーカーの市場シェア確保は、これまで以上にイノベーション頼み。顧客重視が競争優位性のカギ。

最近行われた2018年度第3四半期 の決算報告から明らかなように、Advanced Manufacturing(AM)業界の経営トップたちは、楽観的な成長見通しを持っています。原材料価格の高騰が逆風となるなか、経営トップたちは貿易戦争や新たな関税、より広範な地政学的環境を注意深く見守っています。その一方で、あらゆるサブセクターの経営トップが最も急成長している地域としてアジア太平洋を挙げ、この地域に可能性を見いだしているほか、欧州とラテンアメリカでの売上高も上昇しています。

この記事では、Advanced Manufacturing業界の上場企業20社による2018年度第3四半期決算報告から、私たちが選んだ注目の上位10テーマをご紹介します。 

1. 運転資本およびキャッシュフロー管理:改善の兆し

生産性プログラムやコスト管理プログラムなどを通じ、運転資本の引き締めを最優先にした結果、各社のキャッシュフローは改善が続いています。一部の企業では、年金拠出額の増加がキャッシュフローの足を引っ張っています。また、数社が顧客需要に対応するため在庫水準を引き上げました。

一方、 化学品および工業品製造企業の経営トップたちは、「高い在庫水準は予想外であり、運転資本管理にとって課題だ」と指摘しています。

2. 地政学的環境:貿易政策に対する懸念

貿易政策 の衝突と新たな関税の進展が、工業市場に継続的な不確実性をもたらしています。一部の経営トップは、金利が上昇した場合に最終市場、特に自動車市場で需要が減少するなど、二次的影響が生じることを懸念しています。各社の対応としては、グローバル製造拠点の活用を通じた関税リスクの低減、主要原材料にかかる関税の免税申請、それに価格引き上げなどが挙げられました。 

航空宇宙・防衛(A&D)企業の 一部は、米国の2019会計年度の新国防予算について、軍事支出の増大を支持するものになる可能性が高いと楽観視しています。その一方で、米国のA&D企業の中には、米国とサウジアラビアの間で高まる緊張が主要な最終市場に対する制約になりかねないと見る向きもあります。

3. 競争環境:コスト上昇が課題に

全ての サブセクターの企業が、原材料コストの高騰と関税の影響に対応するために価格を引き上げています。革新的な技術を駆使した高級製品は、価格を引き上げても市場シェアを維持する上で最も有利な状況にあります。製造コストの上昇を受け、生産性向上の取り組みを刷新した企業もあります。 

提供する サービスの幅を広げ、購入後のメンテナンス契約や事業コンサルティングなどに乗り出した企業は、顧客関係の深化や将来的な収入源の確保につながる手段を得ています。また、ある工業品製造企業は、経済的不確実性などの影響で、顧客が大規模プロジェクトへの投資に慎重になっていると報告しています。

4. 地域的動向:楽観の根拠

あらゆる サブセクターの経営トップが、引き続きアジア太平洋を最も急成長している地域に挙げています。相変わらず多くの製品で中国が需要の伸びをけん引しています。ただし、特に中国の自動車セクターと太陽光発電で成長が鈍化していると数社が指摘しています。 

一部の企業 では、2018年度第2四半期から続く傾向として、欧州とラテンアメリカでの売上高が増加しています。研究開発投資は、中国、中東、欧州を中心とする特定地域の市場で、現地顧客のニーズに対応するために行われています。

5. 最終市場の動向:幅広い需要の拡大

工業市場全体で 、成長に裏打ちされた楽観が見られます。航空交通量の堅調な増加と高い搭乗率が、引き続き民間航空機の需要を押し上げています。多くの国で防衛予算が拡大するなか、軍用機器に対する需要が増加を続けています。先端材料や特殊化学品に対しては、コンシューマーエレクトロニクス、農業、食品製造業の顧客からの需要が高まっています。

一部の市場で自動車業界の顧客からの需要が減速しているものの、電気自動車には成長が見られると複数の企業が報告しています。建設資材については、複数の企業が「軟調」と指摘しました。エネルギーセクターでは、従来型の発電業界の顧客に比べ、再生可能エネルギー業界の顧客からの受注がより急速に伸びています。

6. 業績見通しの変化:全般的に自信が見られる

2018年度第2四半期に、 半数の企業が同年度下期の売上高および1株当たり利益(EPS)の見通しを引き上げました。これに続き、2018年度第3四半期には、化学品および工業品製造企業の大半がその見通しを維持するか、M&Aなどの状況を踏まえ微調整しています。 

A&D業界の複数の 経営トップも引き続き、2018年度終盤から2019年度にかけて売上高が上昇すると自信を見せています。また複数の企業が、継続中の生産性プログラムの成功により利益率の改善が続き、EPSを押し上げると予想しています。一方で、数社が原材料価格の高騰や非中核事業の業績不振、リストラを理由に見通しを下方修正しています。

7. 通貨の影響、為替の変動:強いドルの波及的影響

約 半数の企業が通貨の影響について具体的にコメントしました。米国に本拠を置く企業にとっては、米ドル高が海外市場での売上高にとって逆風になっています。為替の変動が最も多く言及されたのは、ブラジル、アルゼンチン、トルコでの売上高についてでした。 

ある 化学品企業は、2019年度にかけてユーロと中国人民元が逆風になる可能性があるとも述べています。また、ある工業品製造企業は、社内の二重ITシステム環境が企業間の資金移動に支障をもたらし、課題が増えたと指摘しました。

8. 財務面での取り組み:各社が配当を重視

複数の 企業が、自社株買いプログラムの開始または過去のプログラムの拡大を発表しました。最近の自社株買いに関する最新情報を示した企業もあり、2018年度に10億米ドル以上に達したケースもありました。配当性向の引き上げ計画など、配当重視の姿勢は全てのサブセクターの企業に共通しています。 

ある 工業品製造企業は、年度内に買収を完了させる計画について説明しましたが、ふさわしいターゲットを見つけるには価格が決め手になるとしています。

9. 関税が影響力を持つ

関税の 影響を含む原材料価格の高騰が逆風となっています。 

A&D各社は、エンジンや機体など主要パーツの確保に引き続き課題を抱えており、航空機の納入が予定より遅れるリスクが出てきています。

一部の化学品企業は、主要原料を調達するための社内部門や合弁事業を立ち上げ、市場価格の変動に対する防護策を講じています。工業品製造企業各社は、サプライチェーンや調達システムでコスト低減機会を模索しています。

10. 事業再編、リストラ

各社は 、より焦点を絞った企業構造を目指し、部門の分離・独立、買収および会社分割を通じた組織再編を続けています。複数の企業で、継続中の生産性プログラムが成果を挙げ、組織構造の簡素化や複雑性の低減を実現しています。 

化学品業界では 、各社が中核的能力を重視するようになり、過去数年に見られた大型取引は下火になっています。化学品企業の専門性を深化させるような取引が増えています。

  • 分析の対象範囲、制限、および手法

    この分析は、航空宇宙・防衛、工業品製造、および化学品セクターを含むAM業界の上場グローバル企業20社による2018年度第3四半期の決算報告から、主なテーマを選び、考察したものです。上位10テーマは、2018年10月17日から11月9日に行われた決算報告の検討のみに基づき選択されました。私たちは、これらのテーマは重要な事柄を普遍的に評価するというより、むしろ端的に捉え、当四半期におけるAM業界の経営トップとアナリストの両者の考えを浮き彫りにするものだと考えています。

サマリー

地政学的な問題により不確実性が高まるなか、Advanced Manufacturing(AM)業界の企業は、価格戦略やグローバル製造拠点の柔軟な活用を通じ、売上高と利益率を維持しています。各社は株主への資金還元に力を入れており、買収機会に依然として高い関心を示しています。市場シェアを獲得するには、イノベーションと顧客関係の深化が最優先課題となります。

この記事について

執筆者 Jerry Gootee

EY Global and Americas Industrial Products Leader

Advisory leader with nearly 30 years of experience. Passionate about developing people, building relationships and serving clients. Guitarist and vocalist. Golfer and Cleveland sports enthusiast.

  • Facebook
  • LinkedIn
  • X (formerly Twitter)