2024年4月1日
サーキュラーエコノミー:グローバル最新動向

サーキュラーエコノミー:グローバル最新動向

執筆者 井出 陽一郎

EY新日本有限責任監査法人 CCaSS事業部 シニアマネージャー

サーキュラーエコノミー実現のために奮闘する日々。毎日富士山を見ては自分が大きな世界の一部であると再認識。

2024年4月1日

近年脚光を浴びるサーキュラーエコノミーについて、そのコンセプトを改めて整理し、グローバルにおける規制・政策、標準化、情報開示の動向を解説します。

要点
  • サーキュラーエコノミーは古くから存在する概念であったが、特に、2015年以降「環境問題」から「経済活動」にシフトしたことで一気に脚光を浴びるようになった。
  • 欧州を中心にさまざまな政策・法規制が敷かれているが、これらは経済活動を阻害するというよりも、新しい価値を創出するために施行されている。
  • こうした動向は大きな事業機会であり、企業は「大きな社会的課題を解決することによって、企業の収益として返ってくる」ということを、いかに実装するかが問われている。

1. サーキュラーエコノミーとは

「サーキュラーエコノミ―」は、古くて新しい概念です。日本では、すでに2000年には循環型社会形成推進基本法1が交付されていました。この法律の中で循環型社会は「製品等が廃棄物等となることが抑制され、並びに製品等が循環資源となった場合においてはこれについて適正に循環的な利用が行われることが促進され、及び循環的な利用が行われない循環資源については適正な処分が確保され、もって天然資源の消費を抑制し、環境への負荷ができる限り低減される社会」と定義されています。

エレンマッカーサー財団では、「物質が廃棄物にならず、自然が再生するシステム」と定義づけ、1) 廃棄物・汚染の排除、2) 製品・資材の循環(価値の最大化)、3) 自然の再生、というサーキュラーエコノミー3原則を掲げています2。そして、いわゆるバタフライダイアグラム3では、生物学的サイクルもスコープに入れており、かなり広い定義になっています。

このようにサーキュラーエコノミーは、国・組織・団体の定義によって、文言上の違い・スコープの違い・コンセプトの違いなど、異なる点が多数存在しており、厳密な定義がありません。Julian Kirchherrは、サーキュラーエコノミーの定義は114個も存在すると報告しています4。このようにさまざまな定義があるサーキュラーエコノミーですが、それらに一貫するのは「ループを閉じることによって、廃棄物問題と資源問題を解決する」という点にあります。

そして、もう1つの重要な視点は「経済モデルの転換」です。従来「環境問題」としてのみ語られてきたサーキュラーエコノミーでしたが、欧州でサーキュラーエコノミーパッケージ(2015)が発表されて以降、軸足が「環境問題」から「経済活動としての循環経済」へシフトし、一気に脚光を浴びるようになりました。2015年前後からGoogleにおける検索件数が一気に増加しています5

今の世界的な大きな動向を見てみると、例えばルノーやフィリップスなどでは、新しいサーキュラーエコノミーのビジネスが売り上げに具体的に貢献したり、あるいは潜在的売り上げが大きな金額で見積もられています。また、資金という観点では、ブラックロックやサーキュラーバイオエコノミーファンドなどに大きなお金が集まって運用されようとしています。

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このように、グローバルでは非常に大きな経済規模でのビジネスの胎動が具体的に始まっています。Circularity Gap Reporting Initiative(CGRi)は「世界の循環的経済はたったの7.2%6と警鐘を鳴らしていますが、この事実は、裏を返すと92%以上という非常に大きいビジネスチャンスが埋まっていることを意味しています。したがって、日本企業においても、環境問題から経済問題へのシフトチェンジをして、ビジネスのチャンスをどうやって収益に生かしていくかという探索をする必要があると言えます。

多数のサーキュラーエコノミーの定義が混在する中、その本質として重要なのは「大きな社会的課題を解決することによって、企業の収益として返ってくる」という点にあります。社会の変化が起きる今、いかにしてそれを自社の成長戦略として取り込んでゆくかが肝要です。

2. 国際動向

サーキュラーエコノミーに関する国際動向

サーキュラーエコノミーに関する国際動向

(1) 欧州政策・法規制

サーキュラーエコノミーにおける欧州政策の大きな動きとしてはエコデザイン規則(ESPR)が挙げられます。2022年3月に欧州委員会により規則案が発表され、2023年12月には欧州理事会と欧州議会の間で暫定的な政治的合意に達したと発表されました。エコデザインについては従来Directive(指令)案として検討されてきましたが、Regulation(規則)案に格上げされて、その要求事項が大きく様変わりしました。特に注目すべきはデジタルプロダクトパスポート(DPP)です。これは、資源採取~販売までの情報だけではなく、使用時の耐久性、修理可能性や使用後の再使用の可能性なども含めた全サプライチェーンの情報を収集・登録し、規制当局や顧客に提供するという仕組みです。事業者は、耐久性・信頼性、リサイクル率、カーボンフットプリント、環境フットプリントなど17項目の情報を登録する必要があるとしています。従来型の「環境ラベル」は最終製品の環境性能評価という視点で整理されてきましたが、DPPはサプライチェーンすべてのデータをデジタルで管理して可視化するという、まったく新しい考え方です。デジタルで管理することによるメリットとしては、1)サプライチェーン内でのデータが参照できることによってビジネスが活発化する、2)監督省庁がデータを閲覧できる、3)消費者がサプライチェーン情報にアクセスできるようになる、などがうたわれています。特に、3)により消費者と産業界の情報の非対称性を解消することで、サーキュラーエコノミーのストーリーが消費者に伝わって、新しい価値(エシカル価値)が創出され、経済が活性化することが期待できます。

DPPなき製品は医療品など一部の例外を除いてEU域内で販売できないことになり、日本からの製品についてもEUのDPP取得が要求されると考えられます。そのような意味では、欧州と対等に交渉して調和していくために、日本として、こうしたデジタルの仕組みを整えてゆく必要があると言えるでしょう。

また、欧州では上記DPPのようなデジタルの包括的な規制に加えて、業界ごとの規制・戦略の策定も進んでいます。例えば「包装材と包装廃棄物に関する規則案」において、再生品含有率の数値目標を使い捨てのプラ製品ボトルであれば2030年30%、2040年65%、包装材については2030年35%、2040年65%と具体的に定めています。繊維業界においては、廃棄した商品の数量とその理由を毎年報告しなければならず、加えて、ESPR施行2年後からは、売れ残った衣料品、衣料用付属品、履物を対象に未使用製品の廃棄が禁止されます。アパレル業界にとって、ビジネスモデルの根本的な見直しを迫られる大きな変革であると考えられます。また、自動車業界ではELV指令によって再生プラスチック比率が25%、さらにそのうち自動車由来が25%と、非常に厳しい規制値が設定されています。さらに2023年8月には新バッテリー規則が施行され、カーボンフットプリント(宣言書の作成・添付)、バッテリーの仕様・要件、バッテリーデューデリジェンス、使用済みバッテリーの管理などが求められるようになります。特にバッテリーデューデリジェンスは多岐にわたるサプライチェーン管理項目が求められており、単なるデューデリジェンス実務の実施以前に、それを管理・統括するための組織づくり・体制づくりが極めて重要です。

一般に、規制の強化は経済活動を制限する方向に働きますが、サーキュラーエコノミーにおいてはむしろ反対で、こうした規制による変革で新たなビジネスチャンスが生まれる可能性があると考えられます。従来コスト目的で導入されていた再生プラスチックが量的規制によって奪い合いになり新たな経済価値を持つようになる可能性があります。また、繊維製品の大量廃棄が禁止されることにより、リコマースや国際循環などさまざまな新しいビジネスモデルを生み出す可能性があります。

こうした規制の動きは、EUだけにとどまるものではなく、中国、北米、ASEANなどでも同様の方向に進んでいます。日本企業はこうしたグローバルの動きを近い将来の日本の鏡であると理解して、ビジネスチャンスを探索していく必要があると考えられます。


(2) 循環性指標

サーキュラーエコノミーを推進するにあたって、もう1つの課題が「定量化」です。大企業におけるさまざまな取り組みを評価・管理したり、スタートアップの新しい事業への投融資を判断するためには、循環性を評価する指標の確立が急務です。カーボンニュートラルでは、地球温暖化ガス発生量という共通の物差しで定量的にさまざまな取り組みを比較することができます。しかしながら、サーキュラーエコノミーではそれに該当する指標が存在していません。

エレンマッカーサー財団は2020年に循環型経済のパフォーマンスを測定するツールとして「Circulytics」7を公開し、2,000社を超える多数の企業の登録を得ていました。このツールは欧州金融機関などでも活用され、有力な循環性の指標と見なされてきました。しかしながら、2023年8月にクローズされ、現在はESRS E5(後述)へ誘導されています。

その他の2024年2月現在で公開されているサーキュラーエコノミー指標としては、World Business Council for Sustainable Development (WBCSD)「Circular Transition Indicators(CTI)」8、CIRCLE ECONOMY FOUNDATION「 Circularity Assessment」9、Cradle to Cradle Products Innovation Institute「Cradle to Cradle」10認証などが挙げられます。WBCSDの加盟企業30社が考案したCTIでは、サーキュラリティ評価、改善目標設定およびモニタリングという考え方に基づき、「ループ化」「ループ最適化」「ループ評価」「ループ効果」に関係した定量方法を示しています。上記に加えて、ISO TC323 WG3において循環経済-循環性の測定および評価の検討が進められておりISO 5902011として2024年に国際規格化予定です。


(3) 情報開示

こうしたサーキュラーエコノミーの活発化に伴い、近年各社への情報開示の重要性がますます上がってきています。各社で実施している取り組みを、投資家、顧客、最終消費者などステークホルダに効果的に発信することにより企業価値の向上が見込めます。

そのような中、サステナビリティ開示に関する法令CSRDが2022年11月欧州議会にて最終採択がなされました。在欧州の適用対象企業・グループは、欧州サステナビリティ報告基準(ESRS)に準拠して、マネジメントレポートにて開示する必要があります。そして、こうした開示規制としては初めてサーキュラーエコノミーが報告カテゴリーに加えられました(ESRS E5)。

CSRD不順守による具体的な罰則などは、加盟国で国内法制化されてから決まりますが、1)個別企業に対する金融制裁などの罰則、2)投資家のポートフォリオからの除外、3)評判の失墜、などのリスクが想定されます。

2028年以降は欧州に拠点を持つ第三国企業にも開示が義務化されるため、日本企業としても早期に対応準備に着手しておく必要があるでしょう。

3. まとめ

本稿ではサーキュラーエコノミーのコンセプト、欧州政策、循環性の指標、そして情報開示について、解説しました。

サーキュラーエコノミーは環境問題から経済問題にシフトした2015年ごろから一気に脚光を浴び、各国で精力的に取り組まれるようになりました。欧州では経済戦略として、さまざまな政策・法規制による新しい価値を創出しようとしています。こうした動向は大きな事業機会であり、「大きな社会的課題を解決することによって、企業の収益として返ってくる」ということを、いかに実装するかが問われています。社会の変化が起きる今、サーキュラーエコノミーを自社の成長戦略として取り込んでゆくことが日本企業の課題であると言えます。

EYでは成長戦略としてのサーキュラーエコノミー推進を、法対応・開示・戦略立案および実行までご支援いたします。法対応では、欧州当局の求めるドキュメントを漏れや抜けなく提出するのは日本企業にとって容易なことではなく、欧州の法律の専門家のバックアップが必須と言えます。EYでは、グローバルEYのサステナビリティと法律の専門家がサポートいたします。また、CSRDをはじめとする開示について、国内・海外の専門家が一気通貫でご支援することが可能です。さらに、EYのグローバルな情報収集能力・分析力と高いサーキュラーエコノミーの見識によって、戦略領域を特定し、目標設定、打ち手創出から実装までサポートいたします。

1 環境省「循環型社会形成推進基本法」 、www.env.go.jp/recycle/circul/recycle.html(2024年3月12日アクセス)

2 "Circular economy introduction",Ellen MacArthur Foundation, www.ellenmacarthurfoundation.org/topics/circular-economy-introduction/overview#:~:text=The%20circular%20economy,of%20finite%20resources(2024年3月12日アクセス)

3 "The butterfly diagram: visualising the circular economy", Ellen MacArthur Foundation, www.ellenmacarthurfoundation.org/circular-economy-diagram(2024年3月12日アクセス)

4 "Conceptualizing the circular economy: An analysis of 114 definitions", Julian Kirchherr et al., doi.org/10.1016/j.resconrec.2017.09.005(2024年3月12日アクセス)

5 "Decision Support Concept for Improvement of Sustainability-Related Competences", Andreja Abina et al., doi.org/10.3390/su14148539(2024年3月12日アクセス)

6 "The Circularity Gap Report 2023", CGRi, www.circularity-gap.world/2023(2024年3月12日アクセス)

7 "About Circulytics", Ellen MacArthur Foundation, www.ellenmacarthurfoundation.org/resources/circulytics/overview(2024年3月12日アクセス)

8 "Circular Transition Indicators (CTI)", WBCSD, www.wbcsd.org/Programs/Circular-Economy/Metrics-Measurement/Circular-transition-indicators(2024年3月12日アクセス)

9 "Circularity Assessment", CIRCLE ECONOMY FOUNDATION, cat.ganbatte.world/(2024年3月12日アクセス)

10 "Cradle to Cradle Certified®", Cradle to Cradle Products Innovation Institute, c2ccertified.org/the-standard(2024年3月12日アクセス)

11 "ISO/FDIS 59020", International Organization for Standardization, www.iso.org/standard/80650.html(2024年3月12日アクセス)

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※ 2023年10月17日に開催しましたセミナー資料より一部変更しております。

サマリー

サーキュラーエコノミーは2015年以降「環境問題」から「経済活動」にシフトしたことで一気に脚光を浴びるようになりました。欧州を中心にさまざまな政策・法規制が敷かれていますが、これによって新しい価値を創出しようとしています。企業は成長戦略としていかに実装するかが問われています。

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