2023年12月13日
経済安全保障対策の要である「リマニュファクチャリング」が日本企業に与えるインパクトとは? サプライチェーンをめぐる経営戦略のこれからを考える

経済安全保障対策の要である「リマニュファクチャリング」が日本企業に与えるインパクトとは? サプライチェーンをめぐる経営戦略のこれからを考える

執筆者 EY ストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社

複合的サービスを提供するプロフェッショナル・サービス・ファーム

EY Strategy and Consulting Co., Ltd.

2023年12月13日

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  • カーボンニュートラル社会の実現 エネルギービジネスの変革に向けたカウントダウン(PDF)

「経済安全保障対策としてのリマニュファクチャリングの活用~最新トレンドとビジネス戦略における論点~」(2023年7月27日開催)

要点

  • 米国と中国の関係に緊張が増す中、サプライチェーンの“脱中国化“やビジネスモデルの移行が加速
  • メーカーが製品だけでなく、サービスとして体験を提供する「サービタイゼーション」がリマニュファクチャリング導入時の課題を解決する糸口に
  • リマニュファクチャリングは日本にとってはネガティブな側面が大きい。ヨーロッパ・米国・中国にとっては非常にポジティブな戦略であるため、日本への影響など関係なく進む可能性がある

近年、地政学的リスクや経済安全保障の観点で「フレンドショアリング」や「循環型経済活動」を実現する動きが欧米で加速しており、これに対応すべく今後はリユース・リサイクルを超えた「リマニュファクチャリング」への対応が必須となります。

本セミナーでは、経済安全保障の最新トレンドを紹介しつつ、対策の一環としてリマニュファクチャリングの位置付けやバリューチェーン再編のインパクト、想定される会計上の論点についてEYストラテジー・アンド・コンサルティングの國分俊史らが解説しました。

リマニュファクチャリングとは…市場に出回っている製品を回収し、新品同様の品質で再度販売すること。リユースやリサイクルとは異なり、製品開発段階で再製造しやすいように設計し、使用済み製品を再生して新品として提供するバリューチェーンが特徴。

図:リマニファクチャリングのコンセプト
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講演①「経済安全保障対応の現状と今後の動向」

2022年10月7日の米国による半導体規制とそれに伴う日本政府による規制は、2020年時点で予見可能ではあったものの日本企業の間で驚きが広がりました。2023年5月のG7では「デカップリング」から「デリスキング」へと軌道修正がなされましたが、今後の米国の政策方針を読み解けている日本企業はほとんどありません。本講演では経済安全保障政策の第一人者である國分俊史が2023年4月末に渡米し、ホワイトハウス、シンクタンクで実施してきた討議に基づき、経営戦略の論点を紹介しました。

EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社 ストラテジック インパクト リーダー パートナー 國分 俊史

EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社
ストラテジック インパクト リーダー
パートナー 國分 俊史

米国による半導体規制などに代表されるように米国と中国の関係に緊張が増す中、世界各国では経済安全保障を確保するための取り組みが進められています。そのような環境下において、日本企業はどのようなことを想定して経営戦略を立てていけばよいのでしょうか。

この問いに対して國分は「『台湾海峡有事』を想定した対応の検討が重要になるだろう」と指摘します。2022年5月に米国のテレビ局NBCとシンクタンクCNAS、そして現職の民主党と共和党の両議員が参画して実施した台湾有事シミュレーションでは、中国が台湾を侵攻する場合、第一攻撃は横田・厚木・横須賀・岩国・佐世保・嘉手納の在日米軍基地へのミサイル攻撃、第二攻撃は三沢・小松・呉の在日米軍基地へのミサイル攻撃になるという予測を打ち出しました。

「日本ではよく沖縄が巻き込まれるか否かが争点となっていますが、このシミュレーションでは東京を含む本土の米軍基地へのミサイル攻撃が前提とされています。しかも両議員は本土の米軍基地への攻撃は当然のこととして驚きは一切なく、議論が展開されています。」と國分。続けて、各企業が直面し得る問題について次のように話します。

「日本企業は本土がミサイルで攻撃されたときに業務を止めるか続行するか、サプライチェーンを回し続けられるかについてのBCP(緊急事態時における事業継続計画)を策定しておかなければなりません。ロシアによるウクライナ情勢ではキーウに1日70発以上のミサイルが撃ち込まれましたが、マクドナルドはハンバーガーを販売し続けていました。もし、在日米軍基地にミサイルが落ちたからといって日本企業が事業を止めたとしたら、その損失を招いた経営陣の判断について株主代表訴訟による追及も十分にありうるでしょう。先進的な日本企業はすでに、ミサイルの着弾地点に応じたBCPの策定に着手しています」(國分)

有力な外交雑誌である『Foreign Affairs Report』1 は、習近平の戦争に関する発言を裏付けるように中国では侵攻に向けた動きが観測されていると指摘。「この動きはウクライナ情勢が始まったときとよく似ており、日本企業も先回りした対応が必要です。クライアントの中には、台湾海峡有事に備えて1年分の在庫を確保するためにすでに動き出している企業もあります。米国では、中国に依存している調達リスクを低減する目的から、新品の部品の利用量を削減できるリマニュファクチャリングが加速し始めています」と國分は話します。

リマニュファクチャリングとは、中古の部品を活用した新品の販売であり、メーカーは新品と同等もしくはそれ以上の性能を保証する点でリサイクルやリユースとは異なる概念です。米国では、2015年時点でコスト削減を目的にリマニュファクチャリングを法制化し、産業界は部品などの再利用手順の標準化を進めてきました2 。現在は経済安全保障とサプライチェーンの“脱中国化”を目的に、リマニュファクチャリングが進化し始めています。

「宣言はしてませんが、リマニュファクチャリングを水面下で進めている代表的な企業がAppleです。iPhone14はリマニュファクチャリングを前提に修理しやすいデザインと内部構造を追求しています3 。国防総省の軍事ヘリコプターもリマニュファクチャリングに移行していますね4 。スピーカーで有名なBOSEは、すでにリマニュファクチャリング製品の販売5 をスタートしており、他企業も追随すると考えられます。
この傾向は米国だけでなくEUでも進んでいて、2022年3月に発表されたエコデザイン規制の改正案と『修理する権利』の法制化によって、企業は可能な限り修理しやすい設計にするとともに、各部品がどのように使われたり修理されたりしてきたのかを全部トレースすることが求められるようになります」(國分)

さらに「修理する権利」の浸透によって「リマニュファクチャリングだけでなく、サブスクリプションへの移行も加速していく」と國分は予想します。

「修理する権利による新品の需要減は、メーカー側にこれまでの売り切り型のビジネスモデルの合理性を失わせるため、サブスクリプション化を志向させることが確実です。そして中古部品を再利用しやすい製品設計やビジネスモデルへとエコシステムが構造改革されていくはずです。

この動きは、経済的安全保障のためにサプライチェーンの中国依存を脱却し、同盟国や友好国など近しい国に限定したサプライチェーンを構築する『フレンドショアリング』の要求により、加速していくことが確実でしょう。新品の部品を最小化するリマニュファクチャリングによってサプライチェーンが再構築されてから、サーキュラーエコノミーを進めることが合理的です。この順番を間違えると経営戦略としては致命的な判断ミスになります。」(國分)

中国も2018年から戦略的にリマニュファクチャリングを推進しており、米国・ヨーロッパ・中国で今後もこのトレンドは続くと予想される中、日本企業にはどのような影響があるのでしょうか。

「部品のサプライヤーである日本企業は大きな打撃を受けるでしょう。リマニュファクチャリングが進んで部品の耐久性が仇となり、新品の部品の販売量が激減する経営リスクは非常に現実味があります。多くの産業において日本の部品は新品の性能の標準保証と比べ最低でも約3倍は長持ちするといわれていますから、市場規模は3分の1にまで縮小するかもしれません」と國分は警鐘を鳴らします。

「今後リマニュファクチャリングによって、①再利用部品の比率を最大化し、新品の部品比率を最小化するような設計コンセプトをつくる、②部品や新品の耐久品質基準を戦略的に見直す、③自社で部品を回収しやすいサブスクリプション型のビジネスモデルに移行するといった3つの事業戦略のシフトが起こると予想しています。この流れを踏まえた企業戦略の構築やサプライチェーンの改革を今後1、2年以内にできるかどうかが、経済安保時代の成長に大きく影響してくるはずです」(國分)

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講演②「リマニュファクチャリング活用に向けた新トレンドとビジネス上の論点」概説

各国政府の経済安全保障政策に伴う輸出入に対する規制は、日本企業のサプライチェーンに大きな影響を及ぼしており、各企業はリマニュファクチャリングを活用したサプライチェーンへの変革が求められています。当パートでは、リマニュファクチャリングが企業のバリューチェーンに与えるインパクトを会計視点も踏まえて概説。変革の進め方についても言及しました。

(1)バリューチェーンへのインパクト

企業戦略を考える上で、リマニュファクチャリングをどう捉えるべきかについてサプライチェーン&オペレーションズユニットの伊藤は次のように説明します。

「リマニュファクチャリングは単なる循環経済のための取り組みではなく、経済安全保障対策の1つとして友好国同士のクローズドな経済活動の構築が優先されるという点がポイントです。グローバルで自由に調達や販売を行えた従来とは異なり、友好国同士のクローズドなサプライチェーンの中で活動することになります。各企業はこのフレンドショアリングの考え方と、限られた資源を有効活用する循環経済(サーキュラーエコノミー)を考慮に入れながら、競争力のある製品・サービスを提供する戦略を立てなければなりません」(伊藤)

EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社 サプライチェーン&オペレーションズユニット アソシエートパートナー 伊藤 亮

EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社
サプライチェーン&オペレーションズユニット
アソシエートパートナー 伊藤 亮

経済安全保障上、安定的な供給の確保が必要とされる特定重要物資として日本政府が認めているものには、モーターの原動力などに使われる永久磁石や、半導体などがあり、不足した場合の影響は非常に広範囲に及ぶと考えられます。

「特に半導体については2023年7月23日に輸出規制対象となり、すでに影響が出始めているのは周知の通りです。特定重要物資に挙げられているような製品を取り扱う企業は、リマニュファクチャリングの推進に伴い、サプライチェーンの変革が求められます」と伊藤も補足します。

続けて、企業がリマニュファクチャリングを進める際に想定される課題について、①製品を回収するための追加コストがかかる、②再製造は新品をつくるよりも複雑でコストがかかる、③顧客やユーザーは新品と同レベルの品質・性能を備えているとは考えていないという3点を挙げ、解決策についての見解を示しました。
「そもそも製造業では多くの製品分野でコモディティ化が進んでおり、各企業は競争力の強化に向けて取り組んでいるところだと思います。かつてのように製品をつくって売ればそれでおしまいというわけにはいかず、ユーザーにサービスとして体験を提供する『サービタイゼーション(Servitization)』にフォーカスする企業が増えてきました。そして企業の中で検討が進んでいるこの『サービタイゼーション』こそが、リマニュファクチャリングの課題を解決する糸口になるのではないかとわれわれは考えています。

①の課題に対しては、製品を販売するのではなく製造者が所有権を持ったままサービスとして提供することで製品の回収が容易になるでしょう。②の課題に対しては、製品の状態を管理しやすくなるので再製造のための労働・在庫コストを最適化できます。③については、製品そのものではなくサービス機能がフォーカスされるため、ユーザーは新製品と再製造品の区別を重要視しなくなると考えています」(伊藤)

ただしリマニュファクチャリングを新たに事業化するには「部材管理や顧客との関係性構築について考えていく必要がある」と伊藤は指摘します。部材管理については、サービス全体の耐久期間を短縮し、製造の簡素化や部品の調達のしやすさを追求しなければならず、また顧客との関係性構築については、カスタマーサポートを強化するといった戦略が必要だと述べました。

最後に、日本企業におけるリマニュファクチャリングの現状について伊藤は、「実は以前から国内においても、回収製品の部品を分解・再整備して新品同様の製品にし、市場に再投入する取り組みが行われています。リマニュファクチャリングは全く新しい試みではなく、すでに始まっているアクションなのです」と説明。ただし、その進捗はあまり芳しくないと言います。
「例えば、日本国内のPCのリサイクル率は依然として低い水準にあるように、情報漏えいへの危機感やCO2削減効果につながらないなどの理由からリマニュファクチャリングはあまり進んでいません。にもかかわらず、経済安全保障という要素が加わり、より範囲を広げて対応しなければならなくなりました。今後部材調達が厳しくなると想定すると、リマニュファクチャリングを調達手段の1つとして、メーカーもユーザー企業も検討していく必要があります」(伊藤)

(2)会計上の論点

続いてファイナンスユニットの三宅が登壇し、会計に与えるインパクトが大きいリマニュファクチャリングについて、①価格設定、②有償支給、③原価計算、④在庫評価、⑤排出権取引の5つの論点をベースに解説しました。

EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社 ファイナンスユニット パートナー 三宅 明央

EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社
ファイナンスユニット パートナー 三宅 明央

「論点の1つ目は『価格設定』について。リマニュファクチャリングをビジネスとして成立させるためにも、対象部品の買取価格とリマニュファクチャリング製品の販売価格を検討する必要があります。

2つ目の『有償支給』については、回収した部材などを修理会社に対して「有償支給」として提供し、その際に期ズレが発生した場合、売上の計上に関して会計上の処理と税務上の処理が異なるため損益管理が必要になります。

3つ目の論点は『原価計算』です。企業は対象部品回収時の取得原価を配分する方法とリマニュファクチャリング製品・部品の原価計算方法について検討しなければなりません。取得原価を配分する方法については、1万円で複数の部品を購入した場合などにどのようなロジックで取得原価を配分するかという問題が生じます。リマニュファクチャリング製品・部品の原価計算方法については、新品製品と同じく実際原価や標準原価の適用について決める必要があります。

4つ目の『在庫評価』に関しては、リマニュファクチャリング製品・部品が滞留在庫となった場合などの減損会計ルールが必要です。未使用の新品と同じ処理をするのかといったことも論点となります。
最後の『排出権取引』については少し将来的な話になりますが、リマニュファクチャリングによる温室効果ガス排出の抑制を想定して、排出クレジットを取引市場で販売した場合の会計方針をあらかじめ策定しておくことが大切です」(三宅)

これらの会計上の論点について、「スムーズに会計処理を進めるには、関係者を早めに巻き込んで検討することが重要」と三宅が言うように、リマニュファクチャリングに関する固有の会計方針などはオープンにされておらず情報が限られるため、検討の際は監査人との事前協議が必要になります。

「製品回収のためのサプライチェーンを構築したり、回収した製品を保管する設備などをつくったりすると新たなコストが発生するため、追加発生したコストを回収するためのスキームや価格設定といったビジネスモデルを検討しなければなりません。その際、会計方針を踏まえた業務プロセスやシステム対応についても一緒に考えていただければと思います」(三宅)

(3)実際のプロジェクトの進め方例

最後にファイナンスユニットの山森が登壇。リマニュファクチャリングのプロジェクトの進め方について、大きく4つのステップに分けて紹介しました。

「私たちがプロジェクトを支援するときの典型的なアプローチには、①経済安全保障政策の影響把握、②バリューチェーンへのアセスメント、③製品設計・サプライチェーン・情報システムの見直し、④ロードマップの策定の4ステップがあります。

ステップ①では、非公開情報も含めた各国の経済安全保障政策の状況や今後の動向を踏まえて、自社のビジネスへのインパクトを調査します。ステップ②では、上流から下流までバリューチェーンの各機能におけるリスクに対応できているかを確認し、変革すべきポイントを分析します。ステップ③では、製品設計・サプライチェーン・情報システムのそれぞれを見直し、具体的な改善点を洗い出していきます。最後のステップであるロードマップの策定では、プロジェクトのスケジュールやどういった体制で推進するかなど、プロジェクトの大まかな計画を立てます」(山森)

EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社 ファイナンスユニット ディレクター 山森 慎也

EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社
ファイナンスユニット ディレクター
山森 慎也

EYでは國分が率いるストラテジックインパクトが経済安全保障の動向把握やバリューチェーンのアセスメントを担当。同時にサプライチェーンの専門家や、カスタマーエクスペリエンスの専門家、ファイナンスの専門家チームがプロジェクトの上流から入り、必要な変革とそれによる会計的なインパクトに対する備えについて議論を重ねていきます。

「プロジェクトに応じて最適なチームを形成するとともに、グローバルファームのメンバーからも海外の先進的な事例・知見などを随時取り入れながら進めていくのがEYの特徴です。プロジェクトの範囲にもよりますが3カ月から4カ月ほどの期間でロードマップへと落とし込んでいきます」(山森)

MC:サプライチェーン&オペレーションズユニット シニアマネージャー 田島 広和

MC:サプライチェーン&オペレーションズユニット
シニアマネージャー 田島 広和

クロージング

最後に國分が経済安全保障対策としてのマニュファクチャリングの活用に向けたポイントを次のよう総括し、セミナーを締めくくりました。

「これまで各企業では新規の部品を調達する際、人権デュー・ディリジェンスなどに基づき、さかのぼって調べるなど相当対策をしてきたかと思いますが、その労力やリスクを軽減できるのもリマニュファクチャリングの特徴です。またリマニュファクチャリングは、製品を全部シュレッダーにかけてボロボロにし、そこから金属などを溶かして取り出すリサイクルよりも、よほどエコでCO2の削減に貢献します。みなさまにはぜひこのリマニュファクチャリングの観点からサプライチェーンの再構築を進め、経済安全保障と環境対策のクロスを実現していただければと思います。

残念ながら、これらの視点について米国や欧州の政策の世界ではすでに議論されているのに対して、相変わらず日本は遅れているのが実情です。日本企業のみなさまには、日本の政策を待つのではなく能動的に情報を取得し、会社の戦略につなげていただきたいと強く願っています。

また、会計ルールの面でも日本が置かれている状況は芳しくありません。先ほど会計上の論点について紹介したように、今はまだ具体的な会計ルールが確立されていない状況です。おそらくですが、リマニュファクチャリングを前提としたもうかる仕組みを米国が確立した上で、彼らが国際会計基準の形成をリードしていくのではないかと推測できます。そうなれば日本企業の利益は減る形になってしまうでしょう。

加えて、日本には完成品をつくっている産業がほとんどないというのも懸念材料です。いわゆるサプライヤーがメインですから、いったん売り切ったパーツの回収能力が日本企業にはありません。もし売り切ったパーツがリマニュファクチャリングによって再利用され、新規のパーツが求められなくなったとき、突然自分たちの売り上げが急激に、例えば半分くらい減るようなことが起こり得ます。このリスクスクインパクトを事業戦略上で評価して、どのようにシフトしていくかという構想をあらかじめ立てておく必要があるのです。

おそらくこの流れは経済安全保障という経済合理性をないがしろにしたパワーで、川下で進むでしょう。自分たちの戦略シナリオを持っておかないとあっという間につぶされてしまいます。マニュファクチャリングは経済安全保障や環境対策に加えて、会計基準などさまざまなルールの絡み合いの中で進んでいく事象であり、日本にとっては極めてマイナスな政策ですが、ヨーロッパ・米国・中国にとっては非常にプラスに働くため、日本の利益など関係なく進んでいくという認識を持って、グローバル戦略の再構築を推進していただければと思います」

脚注
  1. 2023年5月号
  2. 日本経済新聞「スマホ「修理する権利」、米で保護法メーカー独占に風穴」、www.nikkei.com/article/DGXZQOGN16D2M0W3A610C2000000/(2023年7月19日アクセス)
  3. 日経XTEC「がらりと変わったiPhone 14の内部構造、『修理する権利』を意識か」、xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/02203/091600002/(2023年7月19日アクセス)、
    ITmedia「『iPhone 14』をiFixitが分解『数年に1度の大改善』と高評価」、www.itmedia.co.jp/news/articles/2209/20/news082.html(2023年7月19日アクセス)
  4. "Boeing, Army to remanufacture 117 helicopters" Aerospace Manufacturing and Design website, www.aerospacemanufacturinganddesign.com/news/boeing-army-remanufacture-apache-helicopters-041516/(2023年7月19日アクセス)"Boeing to remanufacture 38 Apache helicopters for UK" UK defense Journal website, ukdefencejournal.org.uk/boeing-remanufacture-38-apache-helicopters-uk/(2023年7月19日アクセス)
  5. BOSEのウェブサイト「工場再生品が選ばれる6つの理由」www.bose.co.jp/ja_jp/better_with_bose/why-buy-refurbished.html(2023年11月8日アクセス)


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サマリー

経済的安全保障の確保や、修理する権利の浸透などにより、米国・ヨーロッパ・中国でリマニュファクチャリングが加速しています。
このリマニュファクチャリングにより、設計コンセプトの変更・耐久品質基準の改定・サブスクリプション型へのシフトという3つの事業戦略シフトが起こるでしょう。
特に部品のサプライヤーである日本企業は大きな打撃を受けると予測されるため、事業戦略の再構築やサプライチェーンの改革の検討が求められます。

この記事について

執筆者 EY ストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社

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