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EY新日本有限責任監査法人
公認会計士 久保 慎悟
2022年10月28日に、企業会計基準委員会(以下「ASBJ」という。)及び日本公認会計士協会(以下「JICPA」という。)より以下の会計基準等(以下、ASBJから公表された会計基準等を「ASBJ会計基準等」、日本公認会計士協会から公表された実務指針等を「JICPA実務指針等」という。)が公表されています。
ASBJは、2018年2月に企業会計基準第28号「『税効果会計に係る会計基準』の一部改正」等(以下「企業会計基準第28号等」という。)を公表し、日本公認会計士協会における税効果会計に関する実務指針のASBJへの移管を完了していましたが、その審議の過程で、次の2つの論点について、企業会計基準第28号等の公表後に改めて検討を行うこととしていました。
(1) 税金費用の計上区分(その他の包括利益に対する課税)
(2) グループ法人税制が適用される場合の子会社株式等(子会社株式又は関連会社株式)の売却に係る税効果
その後、2021年8月に実務対応報告第42号「グループ通算制度を適用する場合の会計処理及び開示に関する取扱い」が公表された後に、その他の包括利益に対して課税される場合の法人税等の計上区分及びグループ法人税制が適用される場合の子会社株式等の売却に係る税効果の取扱いについて検討が行われ、今般、ASBJ会計基準等が公表されました。
また、ASBJ会計基準等は、日本公認会計士協会の実務指針等にも影響するため、ASBJで検討の上、同協会に改正を依頼し、当該依頼を踏まえて、同協会より、JICPA実務指針等が公表されました。
例えば、グループ通算制度(従来の連結納税制度を含む。)の開始時又は加入時に、会計上、評価・換算差額等又はその他の包括利益累計額が計上されている資産又は負債に対して、税務上、時価評価が行われ、課税所得計算に含まれる場合など、その他の包括利益に計上された取引又は事象(以下「取引等」という。)が課税所得計算上の益金又は損金に算入され、法人税、住民税及び事業税等が課される場合があります。
2017年に公表された改正前の法人税等会計基準では、当事業年度の所得等に対する法人税、住民税及び事業税等は、法令に従い算定した額を損益に計上することとしているため、取引等についてはその他の包括利益に計上される一方で、これに対して課される法人税、住民税及び事業税等は損益に計上されることとなり、税引前当期純利益と税金費用の対応関係が図られていないのではないかとの意見が聞かれていました。
そこで、このようなその他の包括利益に対して課される法人税、住民税及び事業税等のほか、株主資本に対して課される法人税、住民税及び事業税等も含めて、所得に対する法人税、住民税及び事業税等の計上区分についての見直しを行うために、法人税等会計基準等の改正が行われました。
当事業年度の所得に対する法人税、住民税及び事業税等については、次の理由から、その発生源泉となる取引等に応じて、損益、株主資本及びその他の包括利益に区分して計上することとされました。
例えば、確定給付制度を採用している場合の退職給付に関する掛金等の額に対する課税に関して、会計上、掛金等の額は退職給付に係る負債の減額として扱われます。一方、当該退職給付に係る負債は連結財務諸表上、その他の包括利益として計上した未認識数理計算上の差異等が含まれます。
この点、掛金等の額は確定給付企業年金制度等に基づいて計算されますが、当該計算と会計上の退職給付計算は、その方法や基礎が異なることから、掛金等の額を数理計算上の差異等と紐づけることは困難であり、掛金等の額に数理計算上の差異等に対応する部分が含まれるか否かは一概には決定できず、そのような金額の算定は困難であると考えられるとされています。
したがって、例外的な定めとして、課税の対象となった取引等が、損益に加えて、株主資本又はその他の包括利益に関連しており、かつ、株主資本又はその他の包括利益に対して課された法人税、住民税及び事業税等の金額を算定することが困難である場合には、当該税額を損益に計上することができることとされました。
株主資本又はその他の包括利益の区分に計上する法人税、住民税及び事業税等は、複雑な計算を伴う場合の実務に配慮し、課税の対象となった取引等について、株主資本又はその他の包括利益に計上した金額に、課税の対象となる企業の対象期間における法定実効税率を乗じて算定することとされました。
また、課税所得が生じていないことなどから法令に従い算定した額がゼロとなる場合に株主資本又はその他の包括利益の区分に計上する法人税、住民税及び事業税等についてもゼロとするなど、他の合理的な計算方法により算定することができることとされました。
これまで我が国においては、その他の包括利益に計上された項目については、当期純利益に組替調整(リサイクリング)することを会計基準に係る基本的な考え方としています。
このため、その他の包括利益累計額に計上された法人税、住民税及び事業税等については、当該法人税、住民税及び事業税等が課される原因となる取引等が損益に計上された時点で、これに対応する税額を損益(法人税、住民税及び事業税)に計上することとされました。
ASBJ会計基準等における法人税等の計上区分についての原則では、株主資本に対して課税される場合には、法人税、住民税及び事業税等を株主資本の区分に計上することになります。
したがって、親会社の持分変動による差額に係る連結財務諸表固有の一時差異について、資本剰余金を相手勘定として繰延税金資産又は繰延税金負債を計上していた場合で、当該子会社に対する投資を売却し、一時差異が解消した際の繰延税金資産又は繰延税金負債の取崩しについては、資本剰余金を相手勘定として取り崩すこととされました。
また、親会社の持分変動による差額に係る連結財務諸表固有の一時差異について、資本剰余金を相手勘定として繰延税金資産又は繰延税金負債を計上していた場合で、税法の改正に伴い税率が変更されたこと等により繰延税金資産及び繰延税金負債の額が修正されたときは、修正差額を当該税率が変更された年度において、資本剰余金を相手勘定として計上することされました。
ASBJ会計基準等における法人税等の計上区分についての原則に従ってその他の包括利益に計上される法人税、住民税及び事業税等についても、その他の包括利益に関する税金に係る項目であるという点は税効果と同様であるとされています。
このため、その他の包括利益の各項目について、従来、繰延税金資産又は繰延税金負債に対応する額を控除した金額を計上することとしていましたが、これに加えて、各項目に対して課税された法人税等の額を控除した金額を計上することとされました。
グループ法人税制が適用される場合の子会社株式等の売却に係る税効果の取扱いについて、現行の税効果適用指針第39項では、当該子会社株式等を売却した企業の個別財務諸表において、当該売却損益に係る一時差異に対して繰延税金資産又は繰延税金負債が計上されているときは、連結決算手続上、当該一時差異に係る繰延税金資産又は繰延税金負債の額は修正しないこととされています。
しかしながら、税引前当期純利益と税金費用を合理的に対応させることが税効果会計の目的とされている中で、改正前の税効果適用指針での取扱いは、連結決算手続上、消去される取引に対して税金費用を計上するものであり、税引前当期純利益と税金費用が必ずしも適切に対応していないとの意見が聞かれていました。こうした意見を踏まえ、ASBJにおいて検討を行い、改正前の税効果適用指針での取扱いを見直すこととされました。
連結会社間における子会社株式等の売却に伴い生じた売却損益について、税務上の要件を満たし課税所得計算において当該売却損益を繰り延べる場合(法人税法第 61条の 11)、当該売却に係る連結財務諸表上の税引前当期純利益と税金費用との対応関係の改善を図る観点から、連結財務諸表において以下の処理を行うこととされました。
連結会社間における子会社株式等の売却に伴い生じた売却損益について、税務上の要件を満たし課税所得計算において当該売却損益を繰り延べる場合(法人税法第 61条の 11)において、当該子会社株式等の売却により将来加算一時差異が生じているにもかかわらず繰延税金負債を計上しないとする取扱いは、一部の場合を除き、一律に繰延税金負債を計上する税効果適用指針の取扱いに対する例外的な取扱いとなることから、その適用範囲を限定することが考えられるとされています。また、個別財務諸表においては、連結財務諸表とは異なり、売却損益が消去されないことから、税金費用を計上しないこととした場合には税引前当期純利益と税金費用との対応関係が図られないこととなると考えられるとされています。
したがって、当該子会社株式等を売却した企業の個別財務諸表における処理については、改正前の税効果適用指針第 17 項の取扱い(当該売却損益に係る一時差異について、税効果適用指針第8 項及び第 9 項に従って繰延税金資産又は繰延税金負債を計上する。)を見直さないこととされました。
適用時期については、2024 年 4 月 1 日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用することとし、また、2023 年 4 月 1 日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から早期適用することができるとされています。 具体的な、原則適用及び早期適用の時期の関係は、以下のとおりです。
法人税等の計上区分については、会計方針の変更による累積的影響額を適用初年度の期首の利益剰余金に加減するとともに、対応する金額を資本剰余金、評価・換算差額等又はその他の包括利益累計額のうち、適切な区分に加減し、当該期首から新たな会計方針を適用することができることとする経過的な取扱いが定められています。
ASBJ会計基準等の対象となる取引は、売却元企業の税務申告書に譲渡損益調整勘定等として記載されているため、過去の期間における対象取引の把握は可能と考えられるとされています。また、会計処理については、購入側の企業における再売却等についての意思の有無により判断することになりますが、この点についても、過去の連結財務諸表における子会社等に対する投資に係る一時差異への税効果会計の適用において、一定の判断がなされていたと考えられるとされています。
したがって、遡及適用が困難となる可能性は低いと考えられるため、ASBJ会計基準等を適用することによりこれまでの会計処理と異なることとなる場合、特段の経過的な取扱いを定めず、会計基準等の改正に伴う会計方針の変更として取り扱い、新たな会計方針を過去の期間のすべてに遡及適用することとされました。
法人税等会計基準案等では、法人税等の計上区分(その他の包括利益に対する課税)について、当事業年度の所得に対する法人税、住民税及び事業税等を、その発生源泉となる取引等に応じて、損益(税引前当期純利益から控除)、株主資本及びその他の包括利益の各区分に計上することとされました。
このため、株主資本及びその他の包括利益の各項目(評価差額及び繰延ヘッジ損益等)について、従来、繰延税金資産又は繰延税金負債に対応する額を控除した金額を計上することとされていましたが、これに加えて、各項目に対して課税された法人税等の額についても控除した金額を計上することとされました。
税効果適用指針では、グループ法人税制が適用される場合の子会社株式等の売却に係る税効果の取扱いについて、連結財務諸表上のみ、売却時に税金費用を計上しないようにすることとされました。
これに伴い、子会社に対する投資に係る連結財務諸表固有の一時差異について、予測可能な将来の期間に子会社株式の売却(売却損益を繰り延べる場合)を行う意思決定又は実施計画が存在しても、当該一時差異に係る繰延税金資産又は繰延税金負債を計上しないこととされています(Ⅰ. 2.(2)①参照)。 このため、持分法適用会社における留保利益、のれんの償却額、負ののれんの処理額及び欠損金について、税務上の要件を満たし、課税所得計算において売却損益を繰り延べる場合に該当する当該持分法適用会社の株式売却の意思決定を行った場合には、税効果を認識しないこととされました。
法人税等会計基準等を適用する連結会計年度及び事業年度から適用することとされています。
親会社の持分変動による差額に係る連結財務諸表固有の一時差異について、資本剰余金を相手勘定として繰延税金資産又は繰延税金負債を計上していた場合において、税法の改正に伴い税率が変更されたこと等により繰延税金資産及び繰延税金負債の額が修正されたときは、修正差額を当該税率が変更された年度において資本剰余金を相手勘定として計上することが明確化されました。
更正等による追徴又は還付に伴い繰延税金資産又は繰延税金負債に影響が生じる場合、当該影響額は、法人税等の追徴税額及び還付税額を損益計算書に計上した年度の法人税等調整額に含めて処理するとされています。この定めに関して、純資産の部の評価・換算差額等、その他の包括利益及び資本剰余金を相手勘定として計上している繰延税金資産又は繰延税金負債については、更正等による追徴又は還付に伴い生じた影響額は、同様の区分を相手勘定として計上すすることが明確化されました。
グループ通算制度における通算税効果額については法人税及び地方法人税に準ずるものとして取り扱うこととされていることから、当該通算税効果額について、損益に計上する場合には法人税及び地方法人税を示す科目に含めて個別財務諸表における損益計算書に表示し、株主資本又は評価・換算差額等に計上する場合には貸借対照表の純資産の部の対応する内訳項目から控除して表示することが明確化されました。
親会社の持分変動による差額に係る連結財務諸表固有の一時差異について、資本剰余金を相手勘定として繰延税金資産又は繰延税金負債を計上していた場合において、税法の改正に伴い税率が変更されたこと等により繰延税金資産及び繰延税金負債の額が修正されたときは、修正差額を当該税率が変更された年度において資本剰余金を相手勘定として計上することが明確化されました。
更正等による追徴又は還付に伴い繰延税金資産又は繰延税金負債に影響が生じる場合、当該影響額は、法人税等の追徴税額及び還付税額を損益計算書に計上した年度の法人税等調整額に含めて処理するとされています。この定めに関して、純資産の部の評価・換算差額等、その他の包括利益及び資本剰余金を相手勘定として計上している繰延税金資産又は繰延税金負債については、更正等による追徴又は還付に伴い生じた影響額は、同様の区分を相手勘定として計上すすることが明確化されました。
グループ通算制度における通算税効果額については法人税及び地方法人税に準ずるものとして取り扱うこととされていることから、当該通算税効果額について、損益に計上する場合には法人税及び地方法人税を示す科目に含めて個別財務諸表における損益計算書に表示し、株主資本又は評価・換算差額等に計上する場合には貸借対照表の純資産の部の対応する内訳項目から控除して表示することが明確化されました。
なお、本稿はASBJ会計基準等及びJICPA実務指針等の概要を記述したものであり、詳細については本文をご参照ください。
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