EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
EY新日本有限責任監査法人
公認会計士 前田 和哉
2023年1月31日に、金融庁から内閣府令第11号「企業内容等の開示に関する内閣府令及び特定有価証券の内容等の開示に関する内閣府令の一部を改正する内閣府令(以下「本改正」という。)が公表されました。本改正は、2022年6月に公表された金融審議会ディスクロージャーワーキング・グループ報告(以下「WG報告」という。)において、「サステナビリティに関する企業の取組みの開示」、「コーポレート・ガバナンスに関する開示」などに関して、制度整備を行うべきとの提言がなされたことを踏まえ、有価証券報告書及び有価証券届出書(以下「有価証券報告書等」という。)の記載事項について、以下の改正を行うものです。
有価証券報告書等に「サステナビリティに関する考え方及び取組」の記載欄が新設されました。
「サステナビリティに関する考え方及び取組」の記載欄には、「ガバナンス」(サステナビリティ関連のリスク及び機会を監視し、及び管理するためのガバナンスの過程、統制及び手続をいう。)及び「リスク管理」(サステナビリティ関連のリスク及び機会を識別し、評価し、及び管理するための過程をいう。)は必須の記載事項として記載することとされています。「戦略」(短期、中期及び長期にわたり連結会社の経営方針・経営戦略等に影響を与える可能性があるサステナビリティ関連のリスク及び機会に対処するための取組をいう。)及び「指標及び目標」(サステナビリティ関連のリスク及び機会に関する連結会社の実績を長期的に評価し、管理し、及び監視するために用いられる情報をいう。)は、重要なものについて記載することとされています(開示府令第二号様式(記載上の注意)(30-2)a及びb)。
サステナビリティ情報について、有価証券報告書等の他の箇所に含めて記載した場合には、「サステナビリティに関する考え方及び取組」の記載欄において、当該他の箇所の記載を参照できるとされています(開示府令第二号様式(記載上の注意)(30-2)本文)。
なお、サステナビリティ情報の開示では、「ガバナンス」、「リスク管理」、「戦略」、「指標と目標」の4つの構成要素に基づく開示が必要となりますが、具体的な記載方法は詳細に規定しておらず、現時点では、構成要素それぞれの項目立てをせずに、一体として記載することも考えられるとされています。この場合、投資家が理解しやすいように、4つの構成要素のどれについての記載なのかが分かるようにすることが有用とされています(開示府令(案)に対するパブリックコメントの概要及びコメントに対する金融庁の考え方(以下、「パブリックコメントに対する金融庁の考え方」という。)No. 83)。
サステナビリティ情報等における将来情報の記載について、一般的に合理的と考えられる範囲で具体的な説明が記載されている場合には、有価証券報告書等に記載した将来情報と実際に生じた結果が異なる場合であっても、直ちに虚偽記載等の責任を負うものではないこと、また、当該説明を記載するに当たっては、例えば、当該将来情報について社内で合理的な根拠に基づく適切な検討を経たものである場合には、その旨を、検討された内容(例えば、当該将来情報を記載するに当たり前提とされた事実、仮定及び推論過程)の概要とともに記載することが考えられること等が明確化されています。他方、経営者が、投資家の投資判断に影響を与える重要な将来情報を、提出日現在において認識しながら敢えて記載しなかった場合や、合理的な根拠に基づかずに重要と認識せず記載しなかった場合には、虚偽記載等の責任を負う可能性があることに留意が必要とされています(開示ガイドライン5-16-2)。
「一般的に合理的と考えられる範囲で具体的な説明が記載されている場合」の具体的な記載内容について、例えば、取締役会等の社内会議体等で合理的な根拠に基づく適切な検討を行った場合、その旨と、有価証券報告書等に記載した将来情報に関する検討過程として、前提とされた事実、仮定(例えば、○頃までに●●のような事象が起こる等)及びこれらを基に将来情報を導いた論理的な過程(推論過程)の概要について分かりやすく記載することを想定しているとされています(パブリックコメントに対する金融庁の考え方)No. 214からNo. 216)。
サステナビリティ情報や取締役会等の活動状況の記載については、有価証券報告書等に記載すべき重要な事項を記載した上で、その詳細な情報について、提出企業が公表した他の書類を参照することも可能です。また、参照先の書類に虚偽の表示又は誤解を生ずるような表示があっても、当該書類に明らかに重要な虚偽の表示又は誤解を生ずるような表示があることを知りながら参照していた場合等当該書類を参照する旨を記載したこと自体が有価証券報告書等の虚偽記載等になり得る場合を除き、直ちに有価証券報告書等に係る虚偽記載等の責任を負うものではないとされています(開示ガイドライン5-16-4)。参照可能な書類は、任意に公表した書類のほか、他の法令や上場規則等に基づき公表された書類も含まれ得るとされています(パブリックコメントに対する金融庁の考え方No.234からNo. 237)。
参照可能な書類は、前年度の情報が記載された書類や将来公表予定の任意開示書類を参照することも考えられるとされており、将来公表予定の書類を参照する際は、公表予定時期や公表方法、記載予定の内容等も併せて記載することが望まれるとされています。また、投資家の投資判断上、重要であると判断した事項については、有価証券報告書等に記載する必要がありますが、その記載に当たって、情報の集約・開示が間に合わない箇所がある場合等には、概算値や前年度の情報を記載することも考えられるとされています。この場合、概算値であることや前年度のデータであることを記載し、また、概算値を記載した場合であって、後日、実際の集計結果が概算値から大きく異なる等、投資家の投資判断に重要な影響を及ぼす場合には、有価証券報告書の訂正を行うことが考えられるとされています(パブリックコメントに対する金融庁の考え方No. 238)。
なお、ウェブサイトを参照することも考えられるとされていますが、ウェブサイトを参照する場合には、更新される可能性がある場合はその旨及び予定時期を有価証券報告書等に記載した上で、更新した場合には、更新個所及び更新日時をウェブサイトにおいて明記することや、有価証券報告書等の公衆縦覧期間中は、継続して閲覧可能とするなど、投資家に誤解を生じさせないような措置を講じることが考えられるとされています(パブリックコメントに対する金融庁の考え方No. 257からNo. 261)。
人的資本(人材の多様性を含む。)に関する戦略並びに指標及び目標については、「戦略」において、人材の多様性の確保を含む人材の育成に関する方針及び社内環境整備に関する方針(例えば、人材の採用及び維持並びに従業員の安全及び健康に関する方針等)を記載し、「戦略」に記載した方針に関する指標の内容並びに当該指標を用いた目標及び実績を「指標及び目標」に記載するとされています(開示府令第二号様式(記載上の注意)(30-2)c)。
提出会社やその連結子会社が女性活躍推進法等に基づき、「女性管理職比率」、「男性の育児休業取得率」及び「男女間賃金格差」を公表する場合、これらの指標について、有価証券報告書等の【従業員の状況】においても記載が求められています(開示府令第二号様式(記載上の注意)(29)d、e及びf)。女性活躍推進法等により当事業年度における女性管理職比率等の公表を行わなければならない会社に該当する場合は、女性活躍推進法等に基づく当該指標の公表が行われる前であっても、有価証券報告書等では開示が求められるとされています(パブリックコメントに対する金融庁の考え方 No. 7からNo. 10)。また、2022年12月28日に公表された厚生労働省の通達(雇均発1228第1号)と同様、労働人員数について労働時間を基に換算している事業主については、その旨を記載すべきとされています(開示ガイドライン5-16-3)。
これらの指標の記載は、企業の判断により、主要な連結子会社のみに係る女性管理職比率等を記載し、それ以外の連結子会社に係る女性管理職比率は有価証券報告書等の「その他の参考情報」に記載することが可能とされています(開示府令第二号様式(記載上の注意)(29)g)。
なお、任意で追加的な情報を記載することが可能であることや(開示ガイドライン5-16-3)、「サステナビリティに関する考え方及び取組」の記載欄における人的資本に関する「指標及び目標」の実績値について、女性管理職比率、男性の育児休業取得率及び男女間賃金格差を【従業員の状況】に記載している場合は、その旨を記載して参照することによって省略することができるとされています(開示ガイドライン5-16-5)。
WG報告で提言されたサステナビリティ情報の開示についての期待等を踏まえて、サステナビリティ情報の開示における考え方及び望ましい開示に向けた取組みを取りまとめています。内容は以下のとおりです。
女性管理職比率等の多様性に関する指標の連結ベースの開示とは、各社単体ではなく、連結会社及び連結子会社において集約した1つの数値で、当該指標を開示することが想定されています(パブリックコメントに対する金融庁の考え方No. 19)。
なお、サステナビリティ情報については、現在、国内外において、開示の基準策定やその活用の動きが急速に進んでいる状況であるため、サステナビリティ情報の開示における「重要性(マテリアリティ)」の考え方を含めて、今後、国内外の動向も踏まえつつ、本原則の改訂を行うことを予定しているとされています。
最近事業年度における提出会社の取締役会、指名委員会等設置会社における指名委員会及び報酬委員会並びに企業統治に関し提出会社が任意に設置する委員会その他これに類するものの活動状況(開催頻度、具体的な検討内容、個々の取締役又は委員の出席状況等)を記載することとされています。ただし、企業統治に関して提出会社が任意に設置する委員会その他これに類するもののうち、指名委員会等設置会社における指名委員会又は報酬委員会に相当するもの以外のものについては、記載を省略することができるとされています(開示府令第二号様式(記載上の注意)(54)i)。
監査役及び監査役会の活動状況では、従来、主な検討事項の記載が求められていましたが、本改正では、具体的な検討内容を記載することとされています(開示府令第二号様式(記載上の注意)(56)a(b))。また、内部監査部門が代表取締役のみならず、取締役会や監査役及び監査役会に対しても直接報告を行う仕組み(デュアルレポーティング)の有無等、内部監査の実効性を確保するための取組みについても記載することとされています(開示府令第二号様式(記載上の注意)(56)b(c))。
「主な検討事項」から「具体的な検討内容」への用語の見直しは、単に規定された検討事項ではなく、実際に取締役会又は監査役会において検討された内容の開示を求める趣旨を明確化するものであり、開示事項を実質的に変更するものではないとされています(パブリックコメントに対する金融庁の考え方No. 299)。また、内部監査の実効性を確保するための取組みの開示の一環として、例えば、内部監査部門の独立性の確保の有無についての記載や、内部監査人の選任基準、職歴、平均経験年数、資格等の取得状況などの事項も企業の取組みの状況に応じて記載することが考えられるとされています(パブリックコメントに対する金融庁の考え方No. 306、No. 316)。
政策保有株式(保有目的が純投資目的以外の上場株式)については、保有目的が提出会社と当該株式の発行者との間の営業上の取引、業務上の提携その他これらに類する事項を目的とするものである場合には、当該事項の概要を新たに記載することとされています(開示府令第二号様式(記載上の注意)(58)d(e))。
EDINETが稼働しなくなった際の臨時的な措置として代替方法による開示書類の提出を認めるため、「開示用電子情報処理組織による手続の特例等に関する内閣府令」の改正が併せて行うこととされています。
公布日(2023年1月31日)から施行され、2023年3月31日以後に終了する事業年度に係る有価証券報告書等から適用されます。なお、2023年3月30日以前に終了する事業年度に係る有価証券報告書等については、従前の開示府令等が適用されます。ただし、施行日以後に提出される有価証券報告書等について適用することができます。