実務対応報告公開草案第67号「グローバル・ミニマム課税制度に係る法人税等の会計処理及び開示に関する取扱い(案)」等のポイント

EY新日本有限責任監査法人
公認会計士 山澤 伸吾、松葉 純一

企業会計基準委員会が2023年11月17日に公表

企業会計基準委員会(以下「ASBJ」という。)は、2023年11月17日に、実務対応報告公開草案第67号「グローバル・ミニマム課税制度に係る法人税等の会計処理及び開示に関する取扱い(案)」(以下「本公開草案」という。)等を公表しました。


本公開草案等のポイント

令和5年度税制改正において、国際的に合意されたグローバル・ミニマム課税のルールのうち所得合算ルール(IIR)に係る取扱いが2023年3月28日に成立した改正法人税法において定められ、2024年4月1日以後開始する事業年度から適用することとされています。

当該グローバル・ミニマム課税制度は、一定の要件を満たす多国籍企業グループ等を構成する会社等について、国別に算定された実効税率が基準税率(15%)を下回る場合、国別に集計された純所得(利益)に対する基準税率に至るまでの税額を、親会社等がその所在地国の税務当局に支払うものであることから、当該課税の源泉となる純所得(利益)が生じる企業と納税義務が生じる企業が相違する新たな税制であるとされています。

当該グローバル・ミニマム課税制度について、現行の会計基準等では法人税等(当期税金)及び当該法人税等に関する税効果会計をどのように取り扱うかが明らかでないとの意見が聞かれたことから、ASBJにおいて検討が行われ、税効果会計の取扱いについては、2023年3月に実務対応報告第44号「グローバル・ミニマム課税に対応する法人税法の改正に係る税効果会計の適用に関する当面の取扱い」が公表されています。

その後、グローバル・ミニマム課税制度に係る法人税等(当期税金)の会計処理及び開示に関する取扱いについてもASBJにおいて検討が行われ、本公開草案等が公表されました。

本公開草案等に対しては、2024年1月9日(火)までコメントが募集されています。


Ⅰ. 本公開草案の概要

1. 会計処理

(1) 連結財務諸表及び個別財務諸表における取扱い(本公開草案第6項及びBC5項からBC11項)

グローバル・ミニマム課税制度に係る法人税等については、計上時期を対象会計年度となる連結会計年度及び事業年度として、財務諸表作成時に入手可能な情報に基づき当該法人税等の合理的な金額を見積り計上することが提案されています。

また、財務諸表の作成時点において一部の情報の入手が困難な場合の見積りに関する次の考え方を結論の背景において示すことが提案されています。

① 対象会計年度となる連結会計年度及び事業年度において適時に情報を入手することが困難な場合においては、財務諸表の作成時点で入手可能な対象会計年度に関する情報に基づきグローバル・ミニマム課税制度に係る法人税等を見積ることとなる。

② 適用初年度の翌年度以降は、入手可能となる情報が増加し、さらに申告が行われた年度以降は当該体制の整備や実績値の把握等によって、より精緻な見積りが可能となると考えられる。

③ 企業が当事業年度の財務諸表作成時に入手可能な情報に基づき見積った金額と翌事業年度の見積金額又は確定額との間に差額が生じたとしても、各事業年度において財務諸表作成時に入手可能な情報に基づきグローバル・ミニマム課税制度に係る法人税等の合理的な金額を見積っている限り、当該差額は誤謬にはあたらず、当期の損益として処理することになると考えられる。また、会計上の見積りの変更にあたって、当該差額に重要性がある場合には、会計上の見積りの変更に関する注記を行うこととなると考えられる。

(2) 四半期連結財務諸表及び四半期個別財務諸表における取扱い(本公開草案第7項並びにBC12項及びBC13項)

四半期連結財務諸表及び四半期個別財務諸表(以下「四半期財務諸表」という。)においては、四半期財務諸表の作成にあたって入手している情報が年度に比して限定的な情報であると考えられる等の理由から、前記の提案の定めにかかわらず、当面の間、当四半期連結会計期間及び当四半期会計期間を含む対象会計年度に関するグローバル・ミニマム課税制度に係る法人税等を計上しないことができることが提案されています。

この「当面の間」について、その具体的な期間は、ASBJが追加的な検討を行い、当該取扱いを改正するまでの間であることを想定しているとされています。


2. 開示

(1) 貸借対照表における表示(本公開草案第8項並びにBC14項及びBC15項)

グローバル・ミニマム課税制度に係る未払法人税等のうち、貸借対照表日の翌日から起算して1年を超えて支払の期限が到来するものは、連結貸借対照表及び個別貸借対照表の固定負債の区分に長期未払法人税等などその内容を示す科目をもって表示することが提案されています。

(2) 連結損益計算書における表示(本公開草案第9項及びBC16項からBC19項)

連結損益計算書において、グローバル・ミニマム課税制度に係る法人税等は、税金等調整前当期純利益の次に、法人税、地方法人税、住民税及び事業税(所得割)を示す科目に表示することが提案されています。

(3) 個別損益計算書における表示(本公開草案第10項並びにBC20項及びBC21項)

個別損益計算書において、グローバル・ミニマム課税制度に係る法人税等は、納税義務が生じる親会社等の所得(利益)に対する税には直接的には該当しないが、連結損益計算書における表示区分と合わせ、税引前当期純利益の次に表示することが提案されています。

また、親会社等の所得(利益)に対する税とは区分することが適切であると考えられたため、重要性が乏しい場合を除き、次のいずれかの方法により表示することが提案されています。

  • 法人税、地方法人税、住民税及び事業税(所得割)を表示した科目の次にその内容を示す科目をもって区分して表示する
  • 法人税、地方法人税、住民税及び事業税(所得割)に含めて表示し、当該金額を注記する

(4) 四半期連結財務諸表及び四半期個別財務諸表における注記(本公開草案第11項及びBC22項)

次の場合において、四半期財務諸表における当面の取扱い(前記1.(2))を適用するときは、適用している旨を企業(集団)の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況を適切に判断するために重要なその他の事項として四半期財務諸表に注記することが提案されています。

  • 前連結会計年度及び前事業年度において、グローバル・ミニマム課税制度に係る法人税等を計上し、かつ、
  • 当四半期連結会計期間及び当四半期会計期間において、当連結会計年度及び当事業年度におけるグローバル・ミニマム課税制度に係る法人税等が重要であることが合理的に見込まれる場合※

※ 重要であることが合理的に見込まれる場合に該当するかどうかは、前連結会計年度及び前事業年度に入手した情報並びに四半期財務諸表の作成時に入手可能な情報に基づき判断することになると考えられる旨が結論の背景で示されています。
 

3. 適用時期等(本公開草案第12項及び第13項並びにBC23項及びBC24項)

本公開草案の定めは、グローバル・ミニマム課税制度の適用時期に合わせて、2024年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用することが提案されています。

ただし、四半期財務諸表における注記の定め(前記2.(4))に関しては、適用初年度については前連結会計年度及び前事業年度においてグローバル・ミニマム課税制度に係る法人税等を計上していないことから、2025年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用することが提案されています。


Ⅱ. 本公開草案に対するコメント

本公開草案に対するコメント募集に際し、以下の個別の質問が示されています。

[質問1]連結財務諸表及び個別財務諸表における取扱いに関する提案に同意するか否か
[質問2]四半期連結財務諸表及び四半期個別財務諸表における取扱いに関する提案に同意するか否か
[質問3]連結損益計算書における表示に関する提案に同意するか否か
[質問4]個別損益計算書における表示に関する提案に同意するか否か
[質問5]四半期連結財務諸表及び四半期個別財務諸表における注記に関する提案に同意するか否か
[質問6]適用時期等に関する提案に同意するか否か
[質問7]その他


Ⅲ. 補足文書(案)の概要及び質問項目

ASBJは、実際に適用する場合の実務に資するための情報を提供することを目的として、補足文書「グローバル・ミニマム課税制度に係る法人税等に関する適用初年度の見積りについて」(以下「補足文書」という。)を公表することを予定しており、補足文書(案)を本公開草案と同時に公表しました。

適用初年度におけるグローバル・ミニマム課税制度に係る法人税等の見積りについて、その困難さから具体的な指針を求める意見が聞かれたとされています。検討の結果、企業の状況により入手可能な情報とそれに基づく見積りは異なると考えられるため、見積りに関する具体的な指針を示さず、適用初年度において情報の入手が困難な場合に考えられる次の見積りの一例を補足文書として示すことを予定しているとされています。

(1) 対象範囲の判定において、従来の連結財務諸表の作成にあたって入手していない国別報告事項に関する情報や恒久的施設等及び特殊な会社等からの情報を適時に入手することができない場合には、従来の連結財務諸表の作成にあたって入手している子会社等の情報のみに基づき国別実効税率を算定する等の方法により対象範囲の判定を行う。

(2) 子会社等におけるグローバル・ミニマム課税制度に係る法人税等の算定に際して、個別計算所得等の金額、調整後対象租税額並びに給与適用除外額及び有形資産適用除外額の算定において必要な情報について、従来の連結財務諸表の作成にあたって入手しておらず対象会計年度となる連結会計年度及び事業年度の決算時において適時に入手することができない場合には、従来の連結財務諸表の作成にあたって入手している子会社等の会計数値に基づき当該金額を見積る。

なお、本補足文書は、企業会計基準、企業会計基準適用指針及び実務対応報告(以下「企業会計基準等」という。)を追加又は変更するものではなく、企業会計基準等の適用にあたって参考となる文書であるとされています。

本補足文書(案)についても個別の質問が示され、意見が求められています([質問8])。


本稿は本公開草案等の概要を記述したものであり、詳細については本文をご参照ください。

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