重要な契約の開示に関する「企業内容等の開示に関する内閣府令」等の改正のポイント

EY新日本有限責任監査法人
公認会計士 松葉 純一

<内閣府令第57号が2023年12月22日に公布>

2023年12月22日に令和5年内閣府令第57号「財務計算に関する書類その他の情報の適正性を確保するための体制に関する内閣府令の一部を改正する内閣府令」が公布され、「企業内容等の開示に関する内閣府令」等が改正されました(以下「本改正」という。)。本改正は、2022年6月に公表された「金融審議会ディスクロージャーワーキング・グループ報告」において、個別分野における「重要な契約」について、開示すべき契約の類型や求められる開示内容を具体的に明らかにすることで、適切な開示を促すことが考えられるとの提言を踏まえ、以下の開示府令等の改正を行うものです。


1. 改正された府令等
 

  • 企業内容等の開示に関する内閣府令(開示府令)
  • 企業内容等の開示に関する留意事項について
  • 特定有価証券の内容等の開示に関する内閣府令

2. 本改正の概要

本改正により、有価証券報告書の開示項目である「経営上の重要な契約等」が「重要な契約等」に変更されるとともに、重要な契約について新たに以下の開示が求められることになります。

本改正を含む重要な契約についての法令上の開示の要請は、当事者間の合意による秘密保持義務に優先することから、個別の契約において秘密保持条項が設けられていたとしても、法令の定めに基づき当該契約の内容を開示することは、秘密保持義務違反には当たらないと考えられるとされています(「企業内容等の開示に関する内閣府令の一部を改正する内閣府令(案)に対するパブリックコメントの概要及びコメントに対する金融庁の考え方」(以下「パブリックコメントに対する金融庁の考え方」という。)No.21、No.22)。

なお、記載すべき事項の全部又は一部を同一開示書類の他の箇所(例えば、財務諸表の注記等)に記載した場合には、その旨を記載することによって、当該他の箇所において記載した事項の記載を省略することができることとされています(パブリックコメントに対する金融庁の考え方No.23)。ただし、有価証券報告書等の記載内容を補完する詳細な情報については、任意開示書類等を参照することも可能である一方、法令上有価証券報告書に記載すべき事項について、これを有価証券報告書に記載することなく任意開示書類を参照することは認められないとされています。

また、企業と株主との間で締結された提出会社のガバナンス等に関する合意や株主保有株式の処分等に関する合意を含む契約のうち、「重要性が乏しいもの」については開示の対象から除かれることとされています(パブリックコメントに対する金融庁の考え方No.13)。一定の合意を含む契約が「重要性の乏しいもの」に該当するか否かは、当該合意が提出会社等のガバナンスや支配権、市場等に与える影響を踏まえ、個別事案ごとに実態に即して判断すべきであるとされているものの、合意の相手方以外の株主が特定かつ少数で、かつ全株主が合意の内容を把握しているなど、少数株主保護の必要性が乏しいものや、事前承諾権を定めた合意のうち、契約が通常の事業過程で締結されたものであり、かつ、事前承諾の対象となる行為が一部に限定されているものなど、ガバナンスに対する影響が限定的であるものについては、「重要性の乏しいもの」に該当するものと考えられるとされています。
 

(1)企業・株主間のガバナンスに関する合意

有価証券報告書等の提出会社(提出会社が持株会社の場合には、その子会社を含む。)が、提出会社の株主との間で、以下のガバナンスに影響を及ぼし得る合意を含む契約(重要性の乏しいものを除く。)を締結している場合、当該契約の概要や合意の目的及びガバナンスへの影響等の開示を求めることとされています(開示府令第二号様式(記載上の注意)(33)f本文)。

① 役員候補者指名権の合意
② 議決権行使内容を拘束する合意
③ 事前承諾事項等に関する合意
 

(2)企業・株主間の株主保有株式の処分・買増し等に関する合意

有価証券報告書等の提出会社が、提出会社の株主(大量保有報告書を提出した株主その他の重要な株主)との間で、以下の株主保有株式の処分等に関する合意を含む契約(重要性の乏しいものを除く。)を締結している場合、当該契約の概要や合意の目的等の開示を求めることとされています(開示府令第二号様式(記載上の注意)(33)g本文)。

① 保有株式の譲渡等の禁止・制限の合意
② 保有株式の買増しの禁止に関する合意
③ 株式の保有比率の維持の合意
④ 契約解消時の保有株式の売渡請求の合意
 

(3)ローン契約と社債に付される財務上の特約

有価証券報告書等の提出会社が、財務上の特約その他当該提出会社の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況に重要な影響を及ぼす可能性のある特約が付されたローン契約の締結又は社債の発行をしている場合であって、その残高が連結純資産額の10%以上である場合(同種の契約・社債はその負債の額を合算する)、当該契約又は社債の概要及び財務上の特約の内容の開示を求めることとされています(開示府令第二号様式(記載上の注意)(33)h本文)。

ここで、開示の対象となる「財務上の特約」とは、当該提出会社の財務指標があらかじめ定めた基準を維持することができないことを条件として当該提出会社が期限の利益を喪失する旨の特約のことをいうとされており、開示の対象となる「財務上の特約」が付された金銭消費貸借契約や社債について、純資産額に占める割合が10%以上のものを対象とすることとされています(パブリックコメントに対する金融庁の考え方No.58、No.72)。なお、このときの金銭消費貸借契約や社債は、同種の特約が付された金銭消費貸借契約や社債を合算した残高となります。また、「重要な影響を及ぼす可能性のある特約」とは、基準となる指標や抵触の際の効果、特約に定める事由が発生する蓋然性等を踏まえ、財政状態等に重要な影響を及ぼす可能性があるものを指すとされています(パブリックコメントに対する金融庁の考え方No.64、No.65)。



3. 適用時期

2024年4月1日から施行され、2025年3月31日以後に終了する事業年度に係る有価証券報告書等から適用されます。ただし、施行日前に締結された契約については、2026年3月31日以後に終了する事業年度に係る有価証券報告書等から記載が求められることになりますが、それまでは記載を省略することができるとする経過措置が設けられています。



なお、本稿は本改正の概要を記述したものであり、詳細については本文をご参照ください。

本改正の全文はこちら(金融庁ウェブサイト)



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