EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
公認会計士 山岸聡
連結手続において、在外子会社の取扱いは在外支店とは異なり複雑なものとなっており、項目ごとに整理する必要があります。
今回は、在外子会社等の財務諸表の円換算から連結手続について、実務上必要と思われるポイントを整理していきます。
連結財務諸表の作成または持分法の適用に当たり、外国にある子会社または関連会社の外国通貨で表示されている財務諸表項目の換算は、次の方法によります。
なお、損益計算書、株主資本等変動計算書、貸借対照表の流れで換算を進めると、容易に理解が進むため、同様の流れで解説を記載しています。
収益および費用
収益および費用については、原則として期中平均相場による円換算額を付します。
ただし、決算時の為替相場による円換算額を付することを妨げないとされています。
なお、親会社との取引による収益および費用の換算については、親会社が換算に用いる為替相場によります。この場合に生じた差額は当期の為替差損益として処理します。
(円換算後の在外子会社個別損益計算書イメージ)
損益計算書 |
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親会社との取引 |
用語 |
定義 |
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期中平均相場 |
収益および費用の換算に用いる期中平均相場には、当該収益および費用が帰属する月または半期等を算定期間とする平均相場を用いることができます(会計基準注解12)。 |
下記の項目ごとに換算していきます。
a. 親会社による株式の取得時における資本に属する項目
親会社による株式の取得時における資本に属する項目については、株式取得時の為替相場による円換算額を付します。
b. 親会社による株式の取得後に生じた資本に属する項目
親会社による株式の取得後に生じた資本に属する項目については、当該項目の発生時の為替相場による円換算額を付します。
なお、利益剰余金における当期純利益(または損失)については、損益計算書上において計上された円換算額を計上します。
c. 親会社による株式の取得後に生じた在外子会社等の支払配当金
親会社による株式の取得後に生じた在外子会社の支払配当金について、配当決議日に現地通貨により記録されている場合には、財務諸表の項目の換算に際し、支払配当金は当該配当決議日の為替相場により円換算します(実務指針44項)。
d. 親会社による株式の取得後に生じた評価・換算差額等
親会社による株式の取得後に生じた有価証券等の評価・換算差額に属する項目については、決算時の為替相場による円換算額を付します(実務指針36項)。
項目 |
主な例 |
換算方法 |
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a. 親会社による株式の取得時における資本に属する項目 |
株式取得時の資本金、資本準備金、評価差額等 |
株式取得時の為替相場による円換算額 |
b. 親会社による株式の取得後に生じた資本に属する項目 |
利益剰余金等 |
発生時の為替相場による円換算額 なお、当期純利益(または損失)については損益計算書において計上された円換算額を計上する。 |
c. 親会社による株式の取得後に生じた在外子会社等の支払配当金 |
支配獲得後において実施された支払配当金 |
配当決議日の為替相場による円換算 |
d. 親会社による株式の取得後に生じた評価・換算差額等 |
支配獲得後において購入した有価証券の評価差額金等 |
決算時の為替相場による円換算額 |
下記の項目ごとに換算していきます。
a. 資産および負債
資産および負債については、決算時の為替相場による円換算額を付します。
b. 在外子会社の簿価修正に伴う資産、負債と繰延税金資産、負債
資本連結手続上、在外子会社の資産および負債の時価評価によって生じた簿価修正額とそれに対応して計上した繰延税金資産および繰延税金負債は、在外子会社の個別財務諸表上の他の資産および負債と同様に、毎期決算時の為替相場により円換算します(実務指針37項)。
c. 純資産の部における資本等の金額
株主資本等変動計算書における円換算額を計上します。
d. 換算差額の処理
(換算差額の表示)
在外子会社の貸借対照表上の換算においては、過年度の為替相場等を含めた複数の換算方法により換算されますが、損益計算書および株主資本等変動計算書では異なる換算を実施することから、貸借対照表の換算後貸借に換算差額が生じます。この換算によって生じた換算差額については、為替換算調整勘定として貸借対照表の純資産の部に記載します。
(税効果会計の適用)
純資産の部に計上された為替換算調整勘定は、親会社の将来減算一時差異または将来加算一時差異に該当するため税効果会計の対象となりますが、為替換算調整勘定による税金への効果実現は、子会社等の株式を売却したときなどに限定されます。
このため、税効果の適用は子会社等の売却の意思が明確な場合に限定されます(実務指針43項、連結財務諸表における税効果会計に関する実務指針38項-2)。
(円換算、換算差額処理後の在外子会社個別貸借対照表イメージ)
資産 |
負債 |
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資産項目 |
負債項目 純資産 株主資本等変動計算書における期末残高 為替換算調整勘定※ |
※ 子会社等の売却の意思が明確な場合等には税効果会計が適用されます。
非支配株主持分は、為替換算調整勘定を含む資本のうち非支配株主持分割合相当額を非支配株主持分に振り替えます。この結果、非支配株主持分は全面時価評価法による評価差額を含む在外子会社の現地通貨による資本のうち、非支配株主の持分割合相当額を決算時の為替相場により換算した額と一致することになります(実務指針39項)。
(非支配株主持分の按分イメージ)
※1 子会社等の売却の意思が明確な場合には税効果会計が適用されます。
※2 連結手続上において生じたのれんの換算で発生した為替換算調整勘定については、親会社持分に係るものであることから、非支配株主持分には振り替えません。
のれんまたは負ののれんは、親会社が在外子会社(財務諸表項目が外国通貨表示)を連結する場合に、原則として支配獲得時(みなし取得日を用いる場合には子会社の決算日(みなし取得日))に当該外国通貨で把握します(実務指針40項)。
a. のれん
外国通貨で把握されたのれんの期末残高については決算時の為替相場により換算し、のれんの当期償却額については、原則として在外子会社の会計期間に基づく期中平均相場により他の費用と同様に換算します(実務指針40項)。
また、当該換算により為替換算調整勘定が生じますが、親会社持分に係るものであるため、非支配株主持分には振り替えません。
(のれんの平成20年改正の改正点)
従来、在外子会社の取得により生じたのれんについては、親会社の通貨である取得時の円貨額で固定されているとの考えに基づき、取得時の円貨額で把握され、その後の為替変動による影響を受けないとされていました。
しかし、平成20年改正では、以下の理由によりのれんは外国通貨で把握し、決算日の為替相場で換算することとされました。
b. 負ののれん
負ののれんは取得時または発生時の為替相場で換算し、負ののれんが生じた事業年度の利益として処理します(実務指針40項)。
また、負ののれんは、生じた事業年度の利益として処理するため、為替換算調整勘定は発生しません。
在外子会社等の決算日が連結決算日と異なる場合、在外子会社等の貸借対照表項目の換算は、在外子会社等の決算日における為替相場を用いて換算します(実務指針33項)。
なお、連結決算日との差異期間内において為替相場に重要な変動があった場合には、在外子会社等は連結決算日に正規の決算に準ずる合理的な手続による決算を行い、当該決算に基づく貸借対照表項目を連結決算日の為替相場で換算する必要があることに留意が必要です。
在外子会社等の決算日が連結決算日と異なる場合、在外子会社等の損益計算書項目の換算に適用される期中平均相場は、当該在外子会社等の会計期間に基づく期中平均相場になります(実務指針34項)。
ヘッジ会計の要件と満たした場合、子会社に対する持分への投資をヘッジ対象としたヘッジ手段から生じた為替換算差額について、為替換算調整勘定に含めて処理する方法を採用することができます(会計処理基注解13)。
ただし、ヘッジ手段から発生する換算差額が、ヘッジ対象となる子会社に対する持分から発生する為替換算調整勘定を上回った場合には、その超過額を当期の損益として処理することになります(なお、税効果控除後の換算差額をもって為替換算調整勘定をヘッジする方法によっている場合には、税引後の換算差額と為替換算調整勘定とを比較して超過額を算定します。)(実務指針35項)。
この場合のヘッジ会計の要件は、金融商品会計に関する実務指針に準拠することになります。その際に、ヘッジ対象とヘッジ手段が同一通貨の場合には、要件の一つである有効性に関するテストを省略することができます(実務指針35項)。
持分法適用会社に対する持分への投資についてヘッジ取引を行っている場合にも同様な経済的効果が認められるため、在外子会社の場合と同様に取り扱うとされています。
持分変動により親会社の持分比率が減少し、連結子会社の支配を喪失した場合、連結貸借対照表に計上されている為替換算調整勘定は持分比率の減少割合相当額が実現したこととなるため、その額を株式売却損益として連結損益計算書に計上します。これは、連結貸借対照表の純資産の部に計上された為替換算調整勘定は、在外子会社等に対する投資持分から発生した未実現の為替差損益としての性格を有すると考えられるためです(実務指針42,42-2項)。
具体的には、個別損益計算書に計上された株式売却損益に含まれる為替差損益相当額を連結損益計算書においてもそのまま計上するために、連結貸借対照表に計上されている為替換算調整勘定のうち売却持分相当額の取崩処理を行います。
持分変動によっても支配関係が継続される場合、連結財務諸表上、株式売却損益は生じず、売却持分に相当する為替換算調整勘定を取り崩しの上、資本剰余金に振り替えます。
具体的には、親会社の持分比率の減少割合部分(=売却した持分割合)に対応する為替差損益相当額(個別損益計算書に計上された株式売却損益に含まれる)を資本剰余金に振り替え、連結貸借対照表に計上されている為替換算調整勘定のうち持分比率の減少割合相当額を取り崩し、非支配株主持分に振り替えます。(実務指針42-3項)。
連結会社間の棚卸資産の売買およびその他の取引に係る未実現損益は、売却日に売却元から生じることから、取得時または発生時の為替相場で換算します(実務指針45項)。
ただし、取得時または発生時の為替相場に代えて、実務上原則的な方法により難い場合には、合理的な為替相場を使用して未実現損益を計算することができるとされています。
原則 |
例外 |
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国内会社から在外子会社等に売却した場合※ |
売却元(国内会社)の売却価格×売却元の利益率 |
購入先における外貨建資産残高×売却元の利益率×決算時の為替相場(または購入先での資産保有期間に基づいて計算した平均相場) |
在外子会社等から国内会社に売却した場合 |
売却元の売却価格(外貨額)×売却元の利益率×取引時の為替相場 |
購入先における円貨建ての棚卸資産残高×売却元の利益率 |
※ なお、未実現損益を消去した後に、棚卸資産の売却や固定資産の減価償却等を通じて実現した未実現損益を戻入処理する必要がありますが、未実現損益の円貨額は売却年度で確定しており、その後に為替変動の影響は受けないとされています。このため、在外子会社等の外貨による売上原価や減価償却費自体の円換算は決算ごとの為替相場によりますが、未実現損益の戻入金額は売却年度の円貨額で固定され、固定資産等の減価償却性資産に係る未実現損益については減価償却方法および耐用年数等に基づき規則的に戻し入れることになります(実務指針45項①)。
在外持分法適用会社の財務諸表項目の換算は、在外子会社の財務諸表項目の換算と同様の処理を行い、損益計算書上の当期純損益の持分相当額を持分法による投資損益として連結損益計算書上の営業外損益の区分に計上するとともに、取得後の利益剰余金の持分相当額について投資勘定と利益剰余金の修正を行います。
在外持分法適用会社の財務諸表項目の換算から生じた為替換算調整勘定の持分相当額は、連結上の為替換算調整勘定として純資産の部に計上します(実務指針46項)。
外貨建取引