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EY新日本有限責任監査法人 消費財セクター
公認会計士 大和田 慎介
化粧品・トイレタリー業界で取り扱われている製品の多くは、百貨店、ドラッグストア、コンビニエンスストアなど、皆さんが日常生活でよく足を運ぶ場所で目にすることが出来ます。本稿では、シリーズの狙いに沿って、化粧品・トイレタリー業界のビジネス、流通システムや取引慣行などの特徴を説明するとともに、それらに関する会計上の論点について3回に分けて連載します。
第1回:化粧品・トイレタリー業界の範囲と各種流通システムの解説
第2回:化粧品・トイレタリー業界の取引慣行及び会計処理の特徴
第3回:その他の取引慣行及び会計処理の特徴
第1回の今回は
について解説します。なお、文中の意見に関する部分は私見であることをお断り申し上げます。
経済産業省の生産動態統計調査規則別表では「化粧品」を香水・オーデコロン、頭髪用化粧品、皮膚用化粧品、仕上用化粧品及び特殊用途化粧品の5つに区分して開示しており、一般的に化粧品業界とされる範囲もこれとほぼ同義となっています。また、大半は薬事法上の「化粧品」に該当しますが、薬用化粧品と呼ばれる特定の予防効果が認められるものなど、薬事法上の「医薬部外品」に該当するものもあります。
一方で「トイレタリー用品」についての明確な定義は存在せず、業界や文献によってその意味するところは異なっています。本稿では「トイレタリー用品」の定義に石けん、洗顔・ボディ用身体洗浄剤、合成洗剤、柔軟仕上げ剤、漂白剤、酸・アルカリ洗浄剤、クレンザー及び界面活性剤といった同別表で「油脂製品、石けん・合成洗剤等及び界面活性剤」の区分に開示されている品目のほか、生理用品や紙おむつといったサニタリー用品や芳香剤、消臭剤、除湿剤などの日用品も含めるものとします。これらの中には、薬事法上の「医薬部外品」に該当するものもあれば、薬事法の対象外のものもあります。
経済産業省の生産動態統計によると2022年の化粧品国内出荷額は1兆2,654億円であり、1兆7,000億円超となった2019年から3年連続で減少しています。また、矢野経済研究所の調べによると、2022年度の国内トイレタリーの市場規模(メーカー出荷ベース)は2兆1,196百万円であり、前年を上回りました。
化粧品・トイレタリー業界に参入している企業は「化粧品」、「トイレタリー用品」の双方を扱っていることも多く、また流通システムの面でも共通する論点が多く存在します。よって本稿では、上記の製品を扱う業界を「化粧品・トイレタリー業界」として会計上の論点を解説します。
化粧品・トイレタリー業界には特徴的な流通システムが複数存在します。以下では、流通システム別に、その概要を説明します。
代表的なものとしては、化粧品業界の特徴的な流通システムである「制度品流通」がこれに該当します。「制度品」とは店頭での美容部員によるカウンセリング販売を必要とする化粧品で、比較的高価格帯のものが該当します。卸売業者を介在せずにメーカーと小売業者(百貨店、化粧品専門店など)が直接契約し、メーカーから派遣された美容部員が直接きめ細かな販売活動を行うことが特徴です。また、さまざまな陳列ケースや什器類、販促物などをメーカーから小売業者に対し無償又は有償にて提供することなども特徴です。
日本百貨店協会の調査によると、2022年の全国百貨店売上高のうちの「化粧品」の売上高は3,795億円でした。
【① 直接メーカーから小売業者に販売する流通システム】
比較的低価格帯の化粧品や大半のトイレタリー用品の流通システムは、これに該当します。メーカーから一般の卸売業者を経由して小売業者(量販店、ドラッグストア、コンビニエンスストアなど)へと製品が流通し、最終的に消費者へと販売されます。このような小売業者は全国に多数存在するため、卸売業者が持つ全国の販売網を経由することでメーカーの製品を消費者に効率的に届けることが出来ます。
【② 卸売業者を経由した流通システム】
通信販売流通は、消費者がメーカーや通販業者に直接商品を注文することで、商品が直接消費者の手元に届けられる流通システムです。経済産業省の資料によれば、化粧品、医薬品の通信販売市場規模は、消費行動におけるインターネット活用の広まりを受け、2022年に9,191億円、EC化比率は8.24%といずれも過去から継続して増加してきています。また、トイレタリー業界の主要な企業も通信販売流通を採用していますが、トイレタリー業界の主要な流通システムと言えるほどの規模ではないのが現状です。
通信販売流通には、メーカーが自ら運営するウェブサイトやカタログなどで販売が行われる方式もあれば、通販専門企業が各社の製品を販売する方式などもあります。
【③ 通信販売流通】
訪問販売流通は、メーカーが販売員を消費者の家庭や職場などに派遣し、直接販売活動を行う流通システムです。社団法人日本訪問販売協会の資料によると訪問販売業界の小売価格ベースの売上高は1996年(3兆3400億円)をピークに2022年(1兆4,934億円)まで下降し続けているものの、売上高順位は化粧品が過去から継続して1位(2022年度2,766億円)を維持しており、化粧品がこの流通システムで主要な位置づけとなっていることがわかります(2022年度順位の参考:2位健康食品、3位清掃用具)。一方でトイレタリー用品についても訪問販売の形で販売活動が行われることはありますが、通信販売流通と同様に業界における主要な流通システムと言えるほどの規模ではないのが現状です。
訪問販売流通には、メーカーとの雇用関係がある販売員が販売活動を行う方式もあれば、メーカーとの雇用関係が無い、いわゆるディストリビューターが販売活動を行う方式もあります。
【④ 訪問販売流通】
化粧品・トイレタリー業界の流通システムには、それぞれ特徴的な収益認識に係る取引慣行が存在します。詳述は第2回で行いますが、以下ではその概要を説明します。
直接メーカーから小売業者に販売する流通システムにおける化粧品専門店との取引や、卸売業者を経由した流通システム全般においては、一般的にリベートの商慣行が存在します。
化粧品・トイレタリー業界では新製品と既存製品の入れ替えが多いこともあり、一般的に小売業者や卸売業者との取引において返品慣行が存在します。また、クーリングオフ制度の対象となる訪問販売流通や、原則として同制度の対象とならないものの、業界団体において自主的に返品に関するガイドライン等を設けている通信販売流通においても、消費者との取引において返品慣行が存在します。
化粧品のカウンセリング販売や、訪問販売及び通信販売などの消費者とメーカーが直接取引する流通システムにおいては、メーカー側が独自のポイント制度を運営しているケースがあります。
上記の他、第3回においては化粧品・トイレタリー業界における特徴的な論点であるブランド会計などの無形資産に関する事項、店頭陳列棚や金型などの有形固定資産に関する事項及びカタログやサンプル品などの各種宣伝物に関する事項について詳述します。
化粧品・トイレタリー業界