証券業 第5回:委託売買(ブローカー)業務について

2011年4月15日
カテゴリー 業種別会計

証券業研究会
木村嘉浩/本間正彦

5. 委託売買(ブローカー)業務について

ここからは、前述の委託売買(ブローカー)業務における取引の流れ、内部統制の特徴および会計処理について説明します。

(1) 取引の発生から財務報告までの流れ

委託売買業務は、一般に有価証券関連業の主要業務と位置付けられます。顧客からの注文方法は、営業店窓口での対面取引、電話またはインターネットによる方法がありますが、その処理については多くがシステム化されている点が特徴です。顧客の口座開設から財務報告までの流れの例を単純化して表すと以下のようになります。

委託売買取引の流れの例

委託売買取引の流れの例

委託売買取引については、例えば以下のような財務報告に係るリスクと統制活動が考えられます。

委託売買取引における財務報告に係るリスクと統制活動の例

プロセスの例 財務報告に係るリスクの例 統制活動の例
口座開設 誤登録、架空登録など
  • 口座開設時の本人確認手続
  • 口座開設時の登録原票の承認手続
  • 口座開設処理実行の役席承認入力、など
売買約定 誤入力、入力漏れ、二重/架空入力など
  • 注文伝票と注文システム入力内容の照合
  • 注文システムと取引所システム間の自動転送・自動照合
  • 顧客への出来通知、取引報告書の送付、など
委託手数料計上 誤計算、誤記帳、記帳漏れ、二重/架空記帳など
  • システムによる手数料の自動計算
  • 会計システムへの自動転送・自動記帳
  • 委託手数料計上額の支店長等によるレビュー、など
証券保管 誤記帳、記帳漏れ、二重/架空記帳など
  • 決済系システムと顧客システム間の自動転送
  • 保管機関との残高照合
  • 顧客への取引報告書・取引残高報告書の送付、など

(2) 委託手数料の会計処理

委託手数料は、「統一経理基準」においてその計上時期が具体的に定められています。

金融商品取引所における約定日(信用取引に係る委託手数料については、新規建玉または反対売買の約定日に各々計上する。)、またはこれに準じる日。

ただし、受入手数料および支払手数料の認識については、ブローカー業務を主たる業務とする会員においては、業務内容の変更があった場合を除き、継続的に適用することを要件に、受渡基準に基づき経理処理することができる。

<委託手数料の会計処理>

取引所における約定日

取引所における約定日

受渡日

受渡日

(3) 信用取引

顧客は、証券会社から信用供与を受けて株式の売買を行うこともできます。これを「信用取引」といい、顧客は例えば手元に株式買付代金がない場合でも株式の売買を行うことができるため、信用取引制度により株式の公正な価格形成と流通の円滑化が図られています。各証券会社の株式売買高に占める信用取引売買高の割合は、その規模、営業方針等によってかなりの差はあるものの、総体的にみると各証券会社の経営および貸借対照表の中で重要な位置を占めていると言われています。

また、証券会社が信用取引を行うにあたっては、証券金融会社が重要な役割を担っています。証券金融会社とは、証券会社に対して信用取引の決済に必要な金銭や有価証券の貸付業務を行うこと(貸借取引)を主要業務とする金融機関です。

顧客は信用取引を行うに当たり、証券会社に保証金を差し入れる必要があります。現金の代わりに有価証券で代用することもできますが、その場合には会計処理は生じません。

なお、信用取引により発生する金融収益および金融費用は、原則として日割り計算により期間損益が計算されます。

<信用取引に関する保証金の会計処理>

顧客から保証金を受け入れた場合

顧客から保証金を受け入れた場合

① 信用取引による顧客の買付け

顧客が信用取引によって有価証券を買い付ける場合、証券会社にとっては顧客に対して資金の貸付を行うことになります。資金の貸付により、証券会社は顧客から利息を受け取ります。

自己融資を行った場合

自己融資を行った場合

この場合、顧客の買付株券については、顧客から貸付金の返済を受けるまでの間は証券会社に担保として差し入れられることになります(本担保株券と呼ばれます)。

なお、顧客が信用取引により株式の買付けを行う場合、証券会社は証券金融会社から当該買付代金相当額の融資を受けることがあります。この融資額は、顧客の信用取引に係る有価証券の買付代金に充当されることになります。融資を受けることにより、証券会社は証券金融会社に対して利息を支払います。

証券金融会社から借り入れた場合

証券金融会社から借り入れた場合

② 信用取引による顧客の売付け

顧客が信用取引によって有価証券を売り付ける場合、証券会社は顧客に該当有価証券を貸し付ける一方、それと同時に顧客は借り入れた有価証券を売却し、売却代金を証券会社へ貸株の担保金として差し入れることになります。つまり、証券会社から見た場合、顧客に対して株式を貸付け、担保金を受け取ったことになります。その結果、証券会社は顧客から品貸料を受け取り、担保金に対する金利を支払います。

自己貸株を行った場合

自己貸株を行った場合

なお、顧客が信用取引により株式の売付けを行う場合、証券会社は証券金融会社から当該売付け銘柄の貸株を受けることがあります。この借入株式は、顧客の信用取引に係る有価証券の売付けに充当されることになります。つまり、証券会社から見た場合、証券金融会社から貸株を受け、信用売りを行った顧客から受け入れた担保金相当額を、担保金として証券金融会社に差し入れたことになります。その結果、証券会社は証券金融会社に対して品借料を支払い、担保金に対する金利を受け取ります。

証券金融会社から株式を借り入れた場合

証券金融会社から株式を借り入れた場合

(週刊 経営財務 平成22年11月1日 No.2989 掲載)