EY新日本有限責任監査法人 メディア・エンターテインメントセクター
公認会計士 齊藤寛幸
1. 事業の特徴
(1) 広告業界におけるキープレーヤー
広告事業において、広告枠の買い手である広告出稿主と広告枠の売り手である広告媒体(メディア)との間に、広告代理店等の事業者が関与することが一般的です。広告代理店はさまざまなメディアとの取引関係を有しており、単に仲介としての役割を果たすだけでなく、広告出稿主にとって最適な広告戦略の立案や広告制作に係ることもあります。
広告代理店の形態については、<図表1>のようになっており、そのうち、総合広告代理店の業務については、<図表2>でまとめています。また、近年、業務が拡大しているインターネット広告については、<図表3>で説明を追加しています。
<図表1> 広告代理店の形態
業務 | 内容 |
---|---|
総合広告代理店 | 広告の企画段階から制作・出稿までのすべての工程を総合的に担う広告代理店で、テレビ、新聞、雑誌、インターネット等のあらゆる広告媒体を取り扱います。業務内容の詳細は<図表2>をご参照ください。 |
専門広告代理店 | 特定のメディアに特化して広告サービスを提供している広告代理店であり、その分野に専門的なノウハウを有します。 |
メディアレップ | インターネット上における広告の掲載、広告枠の売買等を行う広告代理店であり、自社が保有しているインターネット上の広告枠や広告商品の管理、広告枠の販売を行っています。 |
ハウスエージェンシー | 特定のクライアントだけを担当する専属の広告代理店であり、規模は大きくありませんが、クライアントに特化し、ビジネスを熟知しています。 |
<図表2> 総合広告代理店の業務
業務 | 内容 |
---|---|
広告枠の販売 | 媒体社(テレビ局、新聞社等)より媒体枠を仕入れ、広告主へ販売します。なお、インターネット広告については、<図表3>で説明します。 |
メディアプランニング | 広告主がターゲットとする顧客層に、広告主のメッセージを効果的・効率的に伝えるためには、どの媒体をどのように活用するかを計画立案します。 |
クリエイティブ | コマーシャルフィルムや、新聞や雑誌に掲載する広告等、広告そのものを制作します。 |
マーケティング | 市場調査や広告効果の調査を実施します。 |
セールスプロモーション | イベントやキャンペーンの計画、運営を受託します。 |
その他 | PR業務、映画等コンテンツ制作への投資、放送権等の販売等を行います。 |
<図表3> インターネット広告の主な類型
類型 | 内容 |
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ディスプレイ広告 (純広告、バナー広告等) |
サイト内で決定された枠を一定期間買い取り、テキストや画像、動画等で表示される広告であり、料金形態としては、期間保証型やインプレッション保証型(指定されたインプレッション数の保証)等があります。 |
ネイティブ広告 | SNSやニュースサイト等で記事やフィードに交じり自然な形で表示される広告であり、料金形態としては、掲載課金型が代表的です。 |
リスティング広告 | 検索エンジンにおける検索結果ページやサイトの記事等に連動して表示される広告であり、料金形態としては、クリック保証型、クリック課金型等があります。 |
アフィリエイト広告 | ウェブサイトやブログ等に広告主サイトへのリンクを張り、広告主が設定した成果が発生した場合に、広告主から報酬を受ける広告であり、料金形態としては、成果報酬型が代表的です。 |
動画広告 | 動画共有サイトに動画コンテンツを投稿する広告であり、料金形態としては、視聴課金型が代表的です。 |
SNS広告 | LINEやTwitter、Facebook等のSNSを通じソーシャルメディアへ情報を広める広告であり、料金形態としては、クリック課金型が代表的です。 |
2. 会計処理の特徴
広告代理店の業務は、大きく①メディアへの広告出稿に関する業務と②広告制作や各種サービス(プロモーション等)提供に関する業務に分けられます。2021年4月1日以後開始事業年度の期首から原則適用となった「収益認識に関する会計基準」に照らした場合に、広告代理店における主な収益認識時点や本人・代理人判定のポイントについて説明します。
(1) どのタイミングで収益を認識すべきか
企業(広告代理店)は、財又はサービスを顧客(広告出稿主)に移転することにより、履行義務を充足した時又は充足するにつれて収益を認識します(「収益認識に関する会計基準」第35項)。
まず、①の「メディアへの広告出稿に関する業務」においては、取引基本契約等により、広告出稿にいて、放送又は掲載の事実があったときに納入が完了したものとされることが多いことから、広告代理店が媒体社に対して広告出稿を手配し、メディアに広告出稿がなされた時点で、当該サービスに対する支配が広告出稿主に移転し、履行義務が充足されると考えられます。そのため、メディアに広告出稿がなされたタイミングで収益を認識することになります。
なお、リスティング広告やアフィリエイト広告においては、運営企業やASP(アフィリエイト・サービス・プロバイダ)からの報告に基づいて収益を認識することとなり、収益の認識に当たって第三者からの報告が必要となるため、特に決算月や四半期決算月においては、タイムリーに報告書の入手ができる体制を構築しておくことが必要となります。
一方、②の「広告制作や各種サービス提供に関する業務」においては、主に制作物の納品又は役務提供により当該財又はサービスに対する支配が広告出稿主に移転し、履行義務が充足されると考えられます。そのため、制作物の納品又はサービスの役務提供のタイミングで収益を認識することになります。
広告代理店においては、<図表2>の通り、さまざまな業務を実施しており、それぞれの業務の契約内容等に応じて、「収益認識に関する会計基準」第38項の三つの要件((ⅰ) 企業が義務を履行するにつれて、顧客が便益を享受するか、(ⅱ) 企業が義務を履行するにつれて、新たな資産又は資産の増価が生じ、当該新たな資産又は資産の増価を顧客が支配するか、(ⅲ) 企業が義務を履行するにより、別に転用できない資産が生じ、完了した部分については対価を強制的に収受する権利を有しているか)に照らし、履行義務が一定期間にわたり充足されるものか一時点で充足されるものかを判断することになります。そのため、マーケティングやプロモーションのような業務については、前述要件を満たすケースも多く、サービスの役務提供の一定の期間にわたって履行義務を充足し、収益を認識することになると考えられます。
(2) 収益は総額で認識すべきか、純額で認識すべきか
広告代理店においては、収益認識に関する会計基準の導入に伴い、広告出稿主に対して広告枠又は広告関連サービス(財又はサービス)を「自ら提供する履行義務」があると判断される場合には、「本人」に該当するものとされ、収益を総額(グロス)で表示します。
一方、広告代理店においては、広告出稿主に対して財又はサービスを「他の企業によって提供されるように手配する履行義務」があると判断される場合には、「代理人」に該当するものとされ、収益を純額(ネット)で表示します(「収益認識に関する会計基準の適用指針」第39項、第42項)。
広告代理店が約束した履行義務が「本人」に該当するものなのか、「代理人」に該当するものなのかは、次の手順で決定します。
手順1 | 顧客に提供する財又はサービスを識別する |
手順2 | 手順1で識別された財又はサービスが、顧客(広告出稿主)に提供される前に、企業(広告代理店)が支配しているかどうかを評価する |
手順2において、企業(広告代理店)が財又はサービスを顧客(広告出稿主)に提供する前に支配しているかどうかを判定するに当たっては、次の三つの指標が「収益認識に関する会計基準の適用指針」第47項で例示されています。
(ⅰ)企業が顧客に対する契約の履行について、主たる責任を有している
(ⅱ)企業が在庫リスクを有している
(ⅲ)企業が財又はサービスの価格の設定において、裁量権を有している
支配に関して説得力のある根拠を提供する指標は、企業が顧客に提供する財又はサービスの性質及び契約条件により異なる可能性があります。また、これら三つの指標は例示であり、単独で支配の評価が行われるものでもないことに留意が必要です。
広告業界において、①の「メディアへの広告出稿に関する業務」については、実務上、上記の三つの指標を照らすと、広告主に対して広告枠を提供するのは媒体社が直接実施している点、買い切り取引のケースを除き、広告主からの要望に応じて、広告枠を確保している点、また、価格については、広告代理店は代理手数料という形態になっており、3者間における金額の取り決めにおいて、価格設定に高い裁量をもっているものではない点等の実態を総合的に踏まえて、代理人に該当すると判断される取引が多く、純額表示で開示している実例が多数あります。
一方で、②の「広告制作や各種サービス提供に関する業務」については、前述2(1)に記載した通り、多種多様な業務を実施していることからも、個々の財又はサービスの性質及び契約条件を判断して、個々の業務ごとに前述の三つの指標に照らして、「本人」と「代理人」を判断していく必要があると考えられます。