EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
EY新日本有限責任監査法人 電力・ユーティリティセクター
公認会計士 川口 颯汰/黒川 壽明
電気事業は、電気という日常生活、産業活動に不可欠な生活インフラを供給する、公益事業の性格を有しています。ゆえに、一般送配電事業者の託送料金設定等に際して監督官庁への届出・認可が必要であったり、採算が取れない辺地に対しても法律によって電気の供給義務を負ったりするなど、事業活動に制約を受けます。
電気事業は、電気を供給するために発電設備や流通設備といった膨大な固定資産を必要とする、典型的な設備産業です。ゆえに、その建設や更新には多額の設備投資が必要となり、同時に、当該設備投資のため巨額の資金調達が必要となります。
電気は物理的に貯蔵することができません。近年、燃料電池などの研究も進められていますが、基本的に電気事業者が販売する電気は生産されると即時に消費されます。ゆえに、需要が少ない時に作りためておいた電気を、需要が多い時の供給に充てることはできません。
小売市場以外に様々な電力取引市場が整備されています。電力システム改革の目的等を事業者の経済合理的な行動を通じて、より効率的に達成する観点から、実際に発電された電気が取引される卸電力市場に加え、発電することができる能力が取引される容量市場、短時間で需給調整できる能力が取引される需給調整市場、非化石電源で発電された電気に付随する環境価値が取引される非化石価値取引市場があります。
出典:資源エネルギー庁「電源投資の確保(2020年10月)」3ページ
電気の供給を安定的かつ経済的に行うために、電気事業者は次のような種々の計画を総合的な観点から立案します。
販売製品である電気の需要予測は、後述する諸計画の基礎となります。電気事業における需要予測は、他の一般事業会社における需要予測のように特定の産業、商製品を対象とするものではなく、GDPなど経済全体を対象としたマクロ予測の性格を有する点に特徴があります。
想定した電力需要に対応して、どのように電気を供給するかを計画します。具体的には、需要を満たす供給を確保できる範囲で最も経済的な供給ができるよう、水力、火力、原子力などの最適な電源の組み合わせを計画したり、設備の補修をいつ実施するかを計画したりします。電気事業者においては、事業法の定めにより、毎年度、当該年度以降経済産業省令で定める期間について計画を作成し、当該年度の開始前に電力広域的運営推進機関※を経由して経済産業大臣に届出をすることが義務付けられています(事業法第29条第1項)。
※ 電力広域的運営推進機関
電力システム改革の第1弾として、2015年4月に発足した機関です。全国規模での平常時・緊急時の需給調整機能の強化、中長期的な安定供給の確保、電力系統の公平な利用環境の整備などの役割を担っています。また、2020年6月に成立した「強靱かつ持続可能な電気供給体制の確立を図るための電気事業法等の一部を改正する法律」(エネルギー供給強靭化法)により、再生可能エネルギーの固定価格買取制度(FIT制度)に関する交付金の交付などの役割が追加されています。
電力供給計画に基づいて、いつ・どこに・どのような形式の発電所を建設するかを計画します。電源は水力、火力、原子力など、おのおの特徴を有しています。
発電された電気は、送電・変電・配電というプロセスを経て需要家に到達します。電源から、どのように流通させるかを計画することも重要です。
多額の設備投資を行うためには、多額の資金を必要とするため、その資金調達計画も重要です。
発電方法は火力発電、原子力発電のほか、水力発電、太陽光発電などの再生可能エネルギーによる発電に分けられます。ここでは、火力発電に使用する燃料の調達について記載します。
熱量当たりの単価が化石燃料の中で最も安く、地政学的リスクが相対的に低く、貯蔵が容易です。豪州など海外から輸入したものを主に使用しています。埋蔵量が豊富で安価なため安定供給が見込めますが、他の化石燃料に比して二酸化炭素(CO2)の排出量が多く環境負荷が高いという課題があります。
発電用に限らずわが国の一次エネルギーとして重要な位置を占めています。石油資源に乏しいわが国は、中東など海外の産出国から輸入される石油を使用しています。地政学的リスクが大きく、燃料価格も高いですが、電力需要の変動に応じた出力変動が容易です。
火力発電の中で最も多くの電気を生み出しています。他の化石燃料に比して、環境負荷が低いエネルギーであり、かつ、調達先が世界各地に分散しているため安定供給源としても優れています。また、2000年代に採掘技術が確立し、主に北米において開発・生産が行われているシェールガスも利用されています。
2050年カーボンニュートラル達成に向け、CO2を排出しない燃料として注目を集めているのが、水素とアンモニアです。直ちに実用化という事は困難であるものの、今後の実用化へ向けた取組みが進められています。
2021年10月に閣議決定された第6次エネルギー基本計画において、将来における電源構成の在り方として図表2が示されています。
出典:資源エネルギー庁「2030年度におけるエネルギー需給の見通し(関連資料)」70ページ
再生可能エネルギーとは、非化石燃料に該当し温室効果ガスを排出せず、国内で生産できるエネルギーです。エネルギー源としては、太陽光、風力、地熱、水力、木質バイオマス等が挙げられます。これらのエネルギーは2050年カーボンニュートラル実現のための主力電源として期待されています。
再生可能エネルギーのうち、太陽光発電や風力発電等は天候によって発電量が左右されるため、発電量が低下した場合の調整力となる電源を確保することが必要になります。火力発電は調整力の1つの手段になります。
再生可能エネルギーによる発電方法は、以下のような種類があります。
燃料ウランなどの核燃料が核分裂する時に発生する熱を利用して、ボイラーで発生させた蒸気でタービンを回すことで、発電機を回転させて発電する方式です。
LNG、石炭、石油などの燃料を燃焼させて得られる熱エネルギーを利用する発電方法であり、次の三つに大別されます。
電気が流通する仕組みは図表3のとおりです。
出典:資源エネルギー庁「電力供給の仕組み」
発電所で発電された電気は、変電所へ運ばれます。この発電所と変電所、または変電所同士を結ぶ電線路を送電線といいます。送電線には、地上の鉄塔などを利用する送電容量が大きい架空送電線と、地中の共同溝などを利用して風雪の影響を受けない地中送電線があります。
発電所で発電された電気は高圧であるため、工場や一般家庭で使用できる電圧に変換する必要があります。この電圧変換のことを一般的に変電といい、これを行うところを変電所といいます。
一般的に変電所から需要家へ電気を供給することを配電といい、変電所と需要家を結ぶ電線を配電線といいます。
2016年4月から、低圧電力、電灯も含めた電気の小売全面自由化が開始され、全面的に電気料金について、各事業者が自由に設定できることとなりました。ただし、旧一般電気事業者の小売部門(みなし小売電気事業者)から特定需要部門(低圧電力、電灯の需要家)への電気料金については、環境激変を緩和し、需要家保護を図る観点から、経過措置として、少なくとも2020年までは自由化前と同様の規制料金メニューの提供が義務付けられ、2020年以降競争の進展状況を確認して解除されることになっていますが、現在のところいずれの供給区域においても解除されていません。また、一般送配電事業者が行う託送供給等は、電力の安定供給及び公共インフラとしての公平性の維持のため、引き続き料金規制がなされています。
自由化料金は、需要家と事業者との交渉により自由に決められる仕組みとなっています。現在は、例えば携帯電話とのセット割引がある料金メニューなど、さまざまな電気料金メニューを設定しており、需要家の選択肢が広がっています。
規制料金(みなし小売電気事業者の特定需要部門に対する電気料金及び一般送配電事業者が設定する託送料金等)は、事業法によって規制されており、その特徴は次のとおりです。
2012年7月から、再生可能エネルギーの普及促進を目的に「再生可能エネルギーの固定価格買取制度」(FIT制度)が開始されました。当該制度は、太陽光、風力、水力、地熱、バイオマスといった再生可能エネルギーで発電した電気を、電気事業者が一定価格で買い取ることを国が約束する制度です。また、2022年4月から、2050年のカーボンニュートラル達成に向けて、再生可能エネルギーを早期に主力電源化する目的で「フィードインプレミアム制度」(FIP制度)が開始されました。当該制度は、FIT制度のように固定価格で買い取るのではなく、卸市場などにおける売電価格に対して一定のプレミアム(補助額)を上乗せする制度です。これらの制度の買取費用については再生可能エネルギー発電促進賦課金(以下、「賦課金」とする)として、電力料金を通して全ての需要家に負担してもらう仕組みです。賦課金は、賦課金単価に使用電力量を乗じて算定され、毎月の電気料金に加算して徴収されます。なお、賦課金単価は、年度の再生可能エネルギー買取費用の見込額をもとに毎年、見直されます。
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