平成27年度税制改正後の「法人住民税均等割の税率区分の基準となる額」 ~減資による欠損てん補をしたときの影響等~

公認会計士 太田 達也

法人住民税均等割の税率区分の基準となる額

平成27年度税制改正前は、法人住民税均等割の税率区分の基準となる「資本金等の額」は、法人税法2条16号に規定する資本金等の額とされていました(旧地方税法23条1項4号の5)。法人税申告書の別表5(1)の「資本金等の額の計算に関する明細書」の合計額(差引翌期首現在資本金等の額)をそのまま基準としていたわけです。

 

加減算規定の創設

平成27年度税制改正による地方税法の改正により、法人住民税均等割の税率区分の基準となる額は、法人税法2条16号に規定する資本金等の額に対して、次の①の額を加算し、②および③の額を減算するとされました(地方税法23条1項4号の5イ)。結果として、外形標準課税の資本割の課税標準と同様の規定になりました。


① 平成22年4月1日以後に、会社法446条に規定する剰余金(同法447条または448条の規定により資本金の額または資本準備金の額を減少し、剰余金として計上したものを除き、総務省令で定めるものに限る)を同法450条の規定により資本金とし、または同法448条1項2号の規定により利益準備金の額の全部もしくは一部を資本金とした金額

② 平成13年4月1日から平成18年4月30日までの間に、資本または出資の減少(金銭その他の資産を交付したものを除く)による資本の欠損のてん補に充てた金額

③ 平成18年5月1日以後に、会社法446条に規定する剰余金(同法447条または448条の規定により資本金の額または資本準備金の額を減少し、剰余金として計上したもので総務省令で定めるものに限る※1 )を同法452条の規定により総務省令で定める損失のてん補に充てた金額


上記①の加算規定により、無償増資により利益剰余金または利益準備金を資本金の額に組み入れた場合は、法人税法上の資本金等の額は変動しませんが※2、その額を加算しなければなりません。均等割の負担が増加する可能性を生じさせます。

また、上記の②の減算規定により、平成13年4月1日以後に旧商法の規定に基づいて無償減資による欠損てん補をした(資本金の額を減少し、未処理損失のてん補に充てた)場合は、法人税法上の資本金等の額は変動しませんが、その額を減算します。

同様に、上記の③の減算規定により、平成18年5月1日以後に会社法の規定に基づいて、資本金の額または資本準備金の額の減少により生じたその他資本剰余金を欠損てん補に充てた場合、法人税法上の資本金等の額は変動しませんが、その額を減算します。

新たに②および③の規定が置かれたことにより、均等割の負担が減少する可能性を生じさせます。

 

会社法上の資本金、資本準備金の額との関係

同じ平成27年度税制改正により、法人住民税均等割の税率区分の基準である資本金等の額が、資本金と資本準備金の合計額を下回る場合、法人住民税均等割の税率区分の基準を資本金と資本準備金の合計額とする改正が行われました(地方税法52条4項)。

外形標準課税の資本割の課税標準となる資本金等の額についても、同様の改正が行われました(地方税法72条の21第2項)。

会社法上の資本金、資本準備金の額との関係 図

自己株式を取得した場合、資本金等の額の減算と利益積立金額の減算が生じます(法法24条1項4号、法令8条1項17号、9条1項12号)。一方、会社法上の資本金の額と資本準備金の額は変わりません。典型的に上記の状況が生じるケースといえます※3。その場合は、「資本金の額+資本準備金の額」を税率区分の基準となる額としなければなりませんので、法人住民税均等割の税率区分がランクアップし、増税となる法人も生じ得ます。

 

減資等によって生じたその他の資本剰余金を欠損てん補に充てる場合

資本金の額または資本準備金の額の減少により生じたその他の資本剰余金を欠損てん補(利益剰余金のマイナスに充当)した場合、先の二つの改正を踏まえた結果、どういう影響が生じるのかが問題となります。その点について具体例で説明します。

もともと法人住民税の税率区分の基準となる額と資本金の額+資本準備金の額が同額であったものと仮定します。

減資等によって生じたその他の資本剰余金を欠損てん補に充てる場合 図1

資本金の額または資本準備金の額の減少によりその他資本剰余金が生じた場合、株主に対する払戻しがない限り、法人税法上の資本金等の額は変わりません。しかし、会社法上の資本金の額または資本準備金の額は減少しているわけです。次のように、先ほどと逆の符号になります。

減資等によって生じたその他の資本剰余金を欠損てん補に充てる場合 図2

次に、発生したその他資本剰余金を欠損てん補に充当します。この場合も、法人税法上の資本金等の額は変わりません。ただし、先ほど説明しました③の減算規定により、減算されます。「法人住民税均等割の税率区分の基準である資本金等の額」が下がることになります。その結果、均等割の負担が下がる可能性を生じさせます。

また、「法人住民税均等割の税率区分の基準である資本金等の額」が③の減算規定により減少しても、資本金の額または資本準備金の額の減少額と③の減算額(その他資本剰余金による欠損てん補額)が同じ額であった場合は、(最初の状態と同じ)次の状態になります。従って、資本金の額+資本準備金の額の方が多くなるような状態も生じないことになります。③の減算規定により、単純に税率区分の基準となる額が減少するということになります。

減資等によって生じたその他の資本剰余金を欠損てん補に充てる場合 図3

※1 外形標準課税の資本割については、平成22年度税制改正により同様の規定がすでに置かれています。資本金の額を減少したときはそこで増加したその他資本剰余金の額、資本準備金の額を減少したときはそこで増加したその他資本剰余金の額です。また、その他資本剰余金として計上してから1年以内に欠損てん補に充てた金額に限ると規定されています(地方税法施行規則1条の9の2第2項、3項)。

※2 法人税法上の資本金等の額は、株主からの払込みまたは株主に対する払戻しがないときは、原則として変動しません。

※3 上場会社等が市場取引により自己株式を取得する場合は、利益積立金額は減少せず、払戻額全額について資本金等の額を減算すべきものと規定されています(法令8条1項18号)。上場企業が自己株式を市場から取得するケースが多いですが、本改正は税負担の増加につながることになると考えられます。


当コラムの意見にわたる部分は個人的な見解であり、EY新日本有限責任監査法人の公式見解ではないことをお断り申し上げます。



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