「会社分類2」におけるスケジューリング不能な一時差異の取扱い

公認会計士 太田 達也

「繰延税金資産の回収可能性に関する適用指針(案)」における「会社分類2」の取扱い

企業会計基準委員会から公表された「繰延税金資産の回収可能性に関する適用指針(案)」(以下、「公開草案」)については、確定版の公表に向けて審議が行われています。その中で、「会社分類2」の取扱いについて取り上げたいと思います。

「(分類2)に該当する企業においては、一時差異等のスケジューリングの結果、繰延税金資産を見積る場合、当該繰延税金資産は回収可能性があるものとする。」(公開草案20項)と記述されています。この取扱いは、現行と実質同じです。一時差異等加減算前課税所得の見積りについての期間制限なしに、一時差異等のスケジューリングに基づいて繰延税金資産の回収可能性を判断します。

一方、スケジューリング不能な将来減算一時差異について、現行と異なる取扱いが追加されています。「(分類2)に該当する企業においては、原則として、スケジューリング不能な将来減算一時差異に係る繰延税金資産について、回収可能性がないものとする。ただし、スケジューリング不能な将来減算一時差異のうち、税務上の損金算入時期が個別に特定できないが将来のいずれかの時点で損金算入される可能性が高いと見込まれるものについて、当該将来のいずれかの時点で回収できることを合理的に説明できる場合、当該スケジューリング不能な将来減算一時差異に係る繰延税金資産は回収可能性があるものとする。」とされており(公開草案21項)、このただし書きの部分が新たに追加されている部分です。

現行の取扱いでは、(分類2)の企業の場合、スケジューリング不能な将来減算一時差異に係る繰延税金資産の回収可能性は一律なしとされていますが、例外が新たに追加されることにより、実務に影響が生じ得ます。

 

スケジューリング不能な将来減算一時差異に係る繰延税金資産の回収可能性がある場合とは

税務上の損金算入時期が個別に特定できないということは、スケジューリング不能ということですが、将来のいずれかの時点で損金算入される可能性が高いと見込まれるものについて、当該将来のいずれかの時点で回収できることを合理的に説明できる場合は、当該スケジューリング不能な将来減算一時差異に係る繰延税金資産は回収可能性があるものとするとされています。

公開草案74項では、政策保有株式の例示が示されています。すなわち、業務上の関係を有する企業の株式(いわゆる政策保有株式)のうち上場株式について、当期末において、株式の売却時期の意思決定は行っていませんが、市場環境、保有目的、処分方針等を勘案すると将来のいずれかの時点で売却する可能性が高いと見込む場合、当該上場株式の減損に係る将来減算一時差異は、期末時点では当該上場株式の売却時期の意思決定又は実施計画等が存在していないことから、スケジューリング不能な一時差異になりますが、将来の税務上の損金算入時点における課税所得(当該上場株式の減損に係る将来減算一時差異以外の将来減算(加算)一時差異の解消額を減算(加算)した後の課税所得)が当該スケジューリング不能な将来減算一時差異の額を上回る見込みが高いことにより、繰延税金資産が回収可能であることを合理的に説明できる場合、当該スケジューリング不能な将来減算一時差異に係る繰延税金資産は回収可能性があるものとする旨が説明されています。

 

その他の考えられる例

私見ですが、政策保有株式以外に考えられる例を以下検討します。例えば、役員退職慰労引当金は、役員の退任に伴う役員退職慰労金の債務確定という事実に基づいて税務上認容されることで解消する将来減算一時差異です。個々の役員の退任時期を合理的に見積もることは通常は困難と考えられますので、(分類2)の企業であっても、スケジューリング不能な一時差異として、繰延税金資産の回収可能性はないものとして取り扱っているケースは多いと思われます。

仮に公開草案21項ただし書きの取扱いが適用される場合に、どのように判断するかが問題となります。個々の役員の退任時期を合理的に見積もることはできないとしても、役員定年制が置かれており、定年までの期間において当該将来減算一時差異が解消することが確実である場合には、解消時の課税所得(当該役員退職慰労引当金に係る将来減算一時差異以外の将来減算(加算)一時差異の解消額を減算(加算)した後の課税所得)が当該役員退職慰労引当金に係る将来減算一時差異の額を上回る見込みが高いことにより、繰延税金資産が回収可能であることを合理的に説明できる場合はあると考えられます。

また、遊休資産について減損損失を計上し、その遊休資産について売却処分の方針を定めている場合、売却時期までは特定されていませんが、近い将来において売却処分される可能性が高く、その時点で税務上損金算入される可能性が高いのであれば、その税務上の損金算入時点における課税所得(当該減損損失に係る将来減算一時差異以外の将来減算(加算)一時差異の解消額を減算(加算)した後の課税所得)が当該減損損失に係る将来減算一時差異の額を上回る見込みが高いことにより、繰延税金資産が回収可能であることを合理的に説明できる場合はあると考えられます。

このように、(分類2)の企業の実務に、一定の影響が生じるものと考えられます。

(注) あくまでも公開草案の内容に基づいた解説ですので、今後の確定された内容に基づいて再度確認してください。


当コラムの意見にわたる部分は個人的な見解であり、EY新日本有限責任監査法人の公式見解ではないことをお断り申し上げます。



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