その他有価証券の減損とその後の決算期における税効果

公認会計士 太田 達也

投資有価証券の減損とその後の時価の回復

最近では、過去に減損した投資有価証券の時価が回復している例が多いかと思われます。過去の減損により取得原価が切り下げられていますので、その後の時価の回復に伴い、プラスのその他有価証券評価差額金が貸借対照表の純資産の部に計上されます。その場合の税効果会計の取扱いに特に注意が必要です。

 

繰延税金資産の回収可能性についての4つのパターン

投資有価証券を減損した決算期における繰延税金資産の回収可能性の有無と、その後の時価が回復して迎えた決算期における繰延税金資産の回収可能性の有無によって、次のように全部で4つのパターンに類型立てられます。

繰延税金資産の回収可能性についての4つのパターン 図表

以下、4つのパターンごとの税効果について、具体的な設例により解説します。

 

具体例

前提条件

X1期末において、取得価額1,000の投資有価証券(その他有価証券)について、時価が400まで下落したため、投資有価証券評価損を600計上しました。税務上は、損金不算入と判断し申告加算しており、この600は将来減算一時差異に該当します。

X3期末を迎えましたが、時価が900まで回復しており、評価差益が500発生しております。このときの税効果を含めた会計処理を示してください。なお、法定実効税率を30%と仮定します。

解答

税効果については、先に説明したパターン1からパターン4に分けて、それぞれ取扱いが異なります。それぞれの会計処理を次に示します。

1. パターン1の場合

(1) X1期の会計処理

(1)  X1期の会計処理

(2) X3期の会計処理

(2)  X3期の会計処理

上記のように、評価差益500の発生は、新たな将来加算一時差異の発生ではなく、評価損に係る将来減算一時差異の一部戻入れと考えられますので、繰延税金負債を計上するのではなく、繰延税金資産の一部取崩しを行います。

2. パターン2の場合

(1) X1期の会計処理

(1)  X1期の会計処理

(2) X3期の会計処理

(2)  X3期の会計処理

X3期において、繰延税金資産の回収可能性がないと判断されたため、計上していた繰延税金資産を全額取り崩します。(X3期末の直前まで繰延税金資産を計上していたものと仮定しています。)

3. パターン3の場合

(1) X1期の会計処理

(1)  X1期の会計処理

(2) X3期の会計処理

(2)  X3期の会計処理

X3期において、繰延税金資産の回収可能性があると判断されたため、繰延税金資産を計上しますが、X3期末における将来減算一時差異100(注)に対して30%を乗じた30を計上します。その他有価証券評価差額金は、新たな将来加算一時差異の発生ではありませんので、繰延税金負債を計上することはありません。

(注)X3期末における会計上の帳簿価額900に対して、税務上の帳簿価額1,000であり、将来減算一時差異は100です。
 

4. パターン4の場合

(1) X1期の会計処理

(1)  X1期の会計処理

(2) X3期の会計処理

(2)  X3期の会計処理

法人税申告書別表5(1)との関係

法人税申告書別表5(1)においては、投資有価証券評価損に係る調整と、その他有価証券評価差額金に係る調整が別行でされていることが考えられます。例えば、先の設例を前提した場合、次のように調整が入っていることが想定されます。

別表五(一) 利益積立金額および資本金等の額の計算に関する明細書

別表五(一) 利益積立金額および資本金等の額の計算に関する明細書
(注)繰延税金資産に係る調整は省略しています。

上記の別表5(1)における期末金額(差引翌期首現在利益積立金額)の箇所ですが、将来減算一時差異600と将来加算一時差異500とみるのは誤りであり、両者を相殺した100を将来減算一時差異とみることになります。将来減算一時差異の額が別表上の数字と直接対応しない点に留意する必要があります。


当コラムの意見にわたる部分は個人的な見解であり、EY新日本有限責任監査法人の公式見解ではないことをお断り申し上げます。



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