100%子法人の解散・清算における子法人株式の有税評価損に係る処理

公認会計士 太田 達也


子法人株式の評価損が損金算入されない場合

法人税法上、内国法人が当該内国法人との間に完全支配関係がある他の内国法人の株式を有する場合において、他の内国法人が①清算中である場合、②解散(合併による解散を除く)をすることが見込まれる場合または③完全支配関係がある他の内国法人との間で適格合併を行うことが見込まれるものである場合、以上の3つのいずれかに該当する場合には、その株式について評価損の損金算入はしないと規定されています(法法33条5項、法令68条の3)。

平成22年度税制改正により、完全支配関係がある他の内国法人が解散・清算し、残余財産が確定した場合、その清算法人の未処理欠損金額を完全支配関係がある株主法人に引き継ぐものとされたため(法法57条2項)、評価損の損金算入と未処理欠損金額の引継ぎという二重の税務メリットが生じないように手当てされたものです。もちろん完全支配関係がある子法人の残余財産がないことが確定したときの親法人における子法人株式の消却損も損金不算入とされます(法法61条の2第17項)。
 

子法人が解散をすることが見込まれない段階での子法人株式の減損処理

完全支配関係がある子法人が解散をすることが見込まれない段階で迎える親法人の決算期において、会計上、子法人株式の減損処理を行ったものとします。子法人株式の減損について損金算入が認められるケースは相当限定されます。「近い将来その価額の回復が見込まれないこと」を疎明することは難しいからです(法基通9-1-9、9-1-11)。税務上損金不算入と判断された場合には、親法人の別表4で加算(留保)の調整をすることになります。

また、完全支配関係がある子法人の残余財産の分配を受けないことが確定した場合においては、子法人株式の帳簿価額の全額について親法人において資本金等の額の加減算処理を行うことになります(法法61条の2第17項、法令8条1項22号)。

以下、設例により解説します。
 

設例 有税の子法人株式評価損否認金と別表調整

前提条件

100%子法人が解散をすることが見込まれない段階での親法人の決算期(X1期)において、会計上、子法人株式の帳簿価額300について全額を減損処理しました。税務上、損金算入要件を満たしていないと判断されたため、親法人の別表4で加算(留保)の調整を行いました。

また、X4期に、子法人の解散を行うことが決定され、株主総会の承認決議も行われました。

さらに、X5期に、子法人の清算手続も終了し、子法人の残余財産がないことが確定したため、子法人の未処理欠損金額が親法人に引き継がれたものとします。

1. X1期

別表四 所得の金額の計算に関する明細書

別表四 所得の金額の計算に関する明細書

別表五(一) 利益積立金額および資本金等の額の計算に関する明細書

別表五(一) 利益積立金額および資本金等の額の計算に関する明細書

別表五(一)の調整は、子法人株式の会計上の帳簿価額がゼロになったのに対して税務上の帳簿価額は300のままであることを意味します。この差異は、税効果会計における将来減算一時差異に該当します。子法人株式の評価損を計上した時点において子法人が解散をすることは見込まれないため、繰延税金資産の回収可能性を判断し、回収可能であると判断されるときは、法定実効税率を乗じた額について繰延税金資産を計上します。

繰延税金資産の回収可能性はあるものとし、法定実効税率を30%と仮定します。


仕訳表1

2. X4期

子法人が解散をすることが見込まれることとなったため、上記の子法人株式評価損否認金は、翌期以降に損金算入されることが見込まれないことになりました。繰延税金資産の取崩を行います。


仕訳表2

3. X5期

子法人の残余財産がないことが確定したため、税務上、子法人株式の帳簿価額相当額について、資本金等の額の減算を行います。
 

(会計上)

仕訳なし

なお、子法人から未処理欠損金額を引き継いだため、引き継いだ未処理欠損金額について繰延税金資産の回収可能性を判断し、回収可能性があると判断されるときは繰延税金資産を計上します。
 

(税務上)


仕訳表3

なお、別表には次のように記載することが考えられます。

別表五(一) 利益積立金額および資本金等の額の計算に関する明細書

別表五(一) 利益積立金額および資本金等の額の計算に関する明細書
Ⅱ 資本金等の額の計算に関する明細書

「利益積立金額の計算に関する明細書」と「資本金等の額の計算に関する明細書」との間で、プラス・マイナス300の調整(振替調整)を入れることにより、利益積立金額は変動なし、資本金等の額は300減少という税務上の正しい数字になります。

X5期の別表五(一)の「利益積立金額の計算に関する明細書」の期末金額に300、「資本金等の額の計算に関する明細書」の期末金額にマイナス300の調整が残っていますが、会計と税務のルールの差異(会計は損益取引、税務は資本等取引)に起因して生じた差異であり、永久に解消しない差異であると考えられるため、税効果会計の対象にはならないと考えられます。


当コラムの意見にわたる部分は個人的な見解であり、EY新日本有限責任監査法人の公式見解ではないことをお断り申し上げます。



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